第1話
少年の死は、少年の死後、加速した。
「ここだ! 急げ!! こじ開けろぉおおおおおおお!」
技術班の到着を待てなかった俺は、体当たりで扉を壊した。
「…………先輩」
「くそ! また、また……間に合わなかった…………」
部屋に入って一番にこの目に飛び込んできたのは、少年の死。まるで、大蛇の様に太くおぞましいロープが、少年のか細い首に巻きついていた。少年は口から泡を吹き、絶望の顔で死んでいた。
そんな少年の死と、悲劇の後に送れてやってきたまぬけな刑事の姿は、静かに鎮座するカメラによって、インターネットへ配信されていた。
【おせーよ バーカw】
【また無能な警察が悲劇の後にやって来た。滑稽♪滑稽♪】
【どうして、誰も争いをやめようとしないの?】
【いくら少年が死んでも、やっぱり世界は変わらないの?】
【命の尊厳? アホ草。人がいくら死んだって、奇跡は起きない。それなら、人の命に価値なんかない】
【首吊りグロ!】
少年の死を見たネットの世界の住人は、こぞって書き込みをした。誹謗中傷や、真剣な意見が飛び交った。そのどれもが、陳腐に見えた。少年一人が死んでいるのに、ネットの世界でのうのうと、こんなのんきな議論を交わしている。いや、もはや議論ではなく、ただ自分の意見をぶつけているだけ。これを”陳腐”以外の言葉でどうあらわせというのだろうか?
少年の震えは伝わらない。
そして、少年の死では世界は変わらない。少なくとも、”一人”の死では。
「先輩、これで”15人目”ですね」
「……うるせぇ」
俺は心底イラついていた。また、助けられなかった。
「この調子じゃ16人目も直ぐに……」
「うるせぇっつってんだろうが!! 黙ってろボゲェ!!」
俺は後輩である高柳の言葉が許せなくて、思わず怒鳴った。
……なんだよ”16人目”って。高柳は自分がいつのまにか、”少年の数”にばかり着目していることに、気付いていない。
本当に大切なのは、少年が”何人死んだか?”じゃないだろう! ”少年の死”でくくってしまえば、10人死のうが、100人死のうが、同じ”意味”になってしまう。……そうじゃねぇだろ、バカヤロウ。少年一人一人の死に、それぞれ違う意味があるんだよ。違う葛藤があるんだよ。それを一色単にするんじゃねぇよ……コンチクショウ。
俺はそんな気持ちを口に出すことなく、タバコの煙と共に飲み込んだ。
「ふぅー……」
吐き出す煙は、まるで俺の心情を表すかのように、ゆらゆらと震えていた。
「きっと、この震えは誰にも伝わらねぇんだろうなぁ……」
「え? 先輩今何か言いましたか?」
「何も言ってねぇよ、バカヤロウ」
気付いたら、煙は空気に混じって、消えていた。
”ほらな、やっぱり届かない”
そんなことを思いながら、俺はタバコをしまった。