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4 真実を知って

 光に飲み込まれた後、気がつけば俺達は見たこともない場所に立っていた。

 俺の目に映っているのは、先程の建物や信号が立ち並ぶ交差点と大きく異なり、赤や黄色、そして緑が目立つ花々が咲き誇っていた。

 その間に軽車両が横に二台並べるくらいの広さの道があり、道の先には、時計塔のようなものが目立つ、西洋風の大きな建物が建っていた。

 って、風景に驚いてる場合じゃねえだろ。

「ここどこだよ。今まで交差点にいたよな?」

「私だって聞きたいよ。見たこと無い場所に来てるのはわかるけど……」

 そういえば桐崎は、さっき異世界に行くとか言ってたよな。

 もしかしてここがそうなのか?

 俺がその疑問を口に出す前に、美咲によって代弁された。

「……ここが、異世界なの?」

「その通り、ここが異世界フィージアだ。結構綺麗だろ?」

 桐崎は一服しながらさらりと言う。

 驚かなきゃいけないことなんだろうが、現実味が無いせいか呆然とすることしかできない。

 桐崎はそんな俺達を他所に、加えていたタバコを指先に挟み目の前の建物を指す。

「そしてあれがローグス魔法学校。お前らが合格したら入学できる学校だ」

 あの建物は学校だったのかよ。

 でも大きすぎやしないか。俺達の学校の倍の大きさはあると思うんだが。

「それにしてもさっきの光はなんだったの? 魔法なのは、間違いないとは思うけど」

「魔法っていうか、法具の一種だな。あれは転移石てんいせきって言って、使い捨てだがゲートを開いて望んだ場所に飛べる様になってる」

 法具? 法具って俺と美咲が身につけてるこのアクセサリーだろ。

 見た目はただのアクセサリーだけど、魔法が使えるようになる道具。

 確か術式とか詠唱を簡略化する、と説明があったと思う。

でも、場所を移動する能力なんか無いはずだろ。

「一度言っただろ。特殊な能力を持つ法具もあるってな。こいつは転移魔法の術式を組み込んで、即時発動できるようにしたものだ」

 術式なんてのはよくわからないけどな。

 まあ、転移石が便利だってのは大体わかった。

「転移石とお前らの身につけてる法具とでは作りが根本的に違うからな。これ以上は今聞いてもわからないだろうから、後々の楽しみにでもしとけ」

 楽しみとかいらないから。早急に帰りたいですから。

 俺はそう突っ込もうとした。

 だが、自分の言おうとした言葉に不安を覚える。

 それは元の世界に帰れるのか、ということだ。

 ……これって重要な問題じゃねえか? 

 美咲はまだ気がついてないようだが、遅かれ早かれ気づくことにはなるだろう。

 もしも、俺達が元の世界に帰れなかったら?

 俺は悪い考えばかりして、聞くのを一瞬躊躇する。

 だけど、問題を先延ばしにしていいことあるのか?

 きっと俺が今聞かなくとも、美咲が後で聞くに違いない。

 だったら今聞いておくべきだ。

「なあ桐崎、俺達は元の世界に帰れるのか?」

 桐崎は俺の質問を聞くと、少し間を置いて答えた。

 どうも嫌な予感しかしない。

「帰れる。とは言い切れない」

 その答えに、俺達は愕然とする。

 予想はしていたが、実際に言われると結構くるものだ。

 どうも俺は不幸に恵まれているのか、悪い予感だけは当たる。

 狼狽えつつも、美咲が桐崎に食いつく。

「な、なんでよ? 来れたのなら帰ることだって可能でしょ?」

「そう簡単じゃないんだよ。魔法ってもんは万能じゃないからな」

 それなら最初から確認取って連れてくるべきじゃないのかよ。

 でも試験を途中棄権できるわけもないだろうし、どっちみち連れて来られただろう。

 だがこのままじゃ、一生帰れないこともあり得る。

 俺は混乱した頭で、なんとか答えを見出そうと思考を巡らす。

「そういえば、さっきゲートを開くとか言ってたな。なんなんだよ、ゲートって」

「ゲートは、A地点からB地点までを繋ぐトンネルみたいなもんだ。転移石は、そのゲートを開くための法具だ」

 それじゃあ、転移石を使えば万事解決じゃないか。

 ゲートを開きさえすれば、また元の世界に戻れるはずだろ。

 しかし桐崎は首を横に振る。

「ゲートはA級魔法士ソーサラーっていう階級以上にならないと開かない仕組みになってる。そいつらが開いたゲートでも、その階級に達していないと通れないようになってる」

「でも私達はここに連れて来られた。それじゃあ矛盾するんじゃないの?」

 確かに。俺達はそんな称号みたいなのは聞いたこともなかった。

 だから今の話では、俺達がここに来ることすら不可能じゃないのか?

 もしかして俺達に嘘をついているのだろうか?

 そう訝しんでいるが、桐崎の表情からは真偽が伺えなかった。

「あっちから来るのは問題ない。問題なのは、このフィージアからお前達の世界に戻る場合だ。向こうの世界には転移石そのものが無いから、飛ぶ制限を付けてない。だけどフィージアはそうはいかない。だからこっちから行く場合には色々と規則が存在するんだ」

 理解は出来たが、納得がいかない。

 なんだよそれ。それじゃあ帰ることなんて不可能だろうが。

 そんな理不尽ってあるのかよ。

 思わず詰め寄ろうとしたが、なんとか踏みとどまり、変わりに拳を強く握り締める。

 俺を見て桐崎は、肩をすくめつつ言い放つ。

「帰る方法ならあるだろうが。A級魔法士ソーサラー以上になっちまえばいい」

 さっきからなんだよ、ソーサラーって。

 専門用語使われて理解できるわけ無いだろうが。

「つまり、あの学校に入学して好成績を納めればいいってことだよ。生徒達は力に見合った階級を与えられ、それぞれ格付けされてる。その上位に位置するのがA級だ。試験中に俺たち試験官が見極め、格付けを決める。どっちみち試験受けるんだ。目的はあったほうがいいだろ」

「……なるほど、そういう事ね。結局あなた達は、私達に魔法学校の試験を合格したいと思えるようにしたいってわけでしょ」

 確信をついた様な一言でも、桐崎は特に変わった様子を見せなかった。

 なかなか掴めない性格だとは思っていたが、予想以上にわからない男だと思った。

 そして、美咲は今まで見たことがないような真剣な面持ちで問い詰める。

「まだ聞いてなかたけど、試験に落ちた場合はどうなるの? 落ちたら私達の世界にかえしてくれるの?」

 俺はその質問で、自分達が落ちた場合の事を聞いていなかった事を思い出した。

 流石に返してくれる、というのは期待するだけ無駄だろうな。

 もしかして、魔法の口封じの為に処刑とか言わないよな?

「そいつは秘密だ。言ったらお前らの戦意を殺ぐことになるからな。ただ、良いことは無いって思ったほうがいいぞ」

 聞いた所でわからずじまいかよ。

 それに良いことは無いって言うが、この試験を受けた時からだけどな。

 美咲は不満そうながらも、これ以上聞いてもわかるまいと悟ったのか、その有耶無耶な答えに納得し確認を取る。

「A級とやらになれば本当に帰れるのよね?」

「ああ、それは保証する。そこまでの道のりは、俺が最低限は手を貸してやる。なんせお前らの担当になっちまったからな」

 やや面倒そうに言うが、桐崎の表情は緩んでいた。

 美咲はそれを聞いて、覚悟を決めたように「よしっ」と声を上げる。

「泣いても喚いても変わらないし、帰る手段があるなら頑張ってやろうじゃないの」

 そう言いつつ、美咲は自分の顔を叩き気合を入れた。

 その後、なんの脈絡無く俺の背中を思いっきり叩きやがった。

 倒れはしないものの、綺麗に決まったため叫び声を上げて飛び上がった。

「痛ってえな!! 急に何しやがるんだ! 俺怪我してんだよ!」

 俺はヒリヒリと痛む背中を抑えつつ、美咲に向かって怒鳴る。

 しかし対する美咲は悪びれた様子が一切ない。むしろ偉そうだ。

元気なのはいいことだけど、俺に暴力振るうのだけはやめてくれ。

「気合注入だよ。これで直人も頑張れるでしょ?」

 笑顔で言われても嬉しくねえよ。

やるならやるって言ってからだな……、まあ言われてもやらせないけど。

 ……しかし、長い間家に帰れないとなると母さんが心配だ。

「俺らが消息不明と知ったら、母さんどうするんだろうな」

 母さんの性格考えると、心配もするだろうが怒り狂って暴れそうだ。

 帰ったら手足の一本は覚悟したほうがいいかもしれないな。

「ありえるかもね。ま、その時は直人よろしく!」

「何がよろしくだ。お前も道連れに決まってんだろうが」

 俺が突っ込むと美咲はいつもの調子を取り戻したのか、イタズラっぽい笑みを浮かべる。

 それにつられて、俺は呆れつつも微笑した。

 破天荒な性格はともかく、この切り替えの速さは見習いたいものだ。

「それじゃ、準備万端だな。俺について来い」

 桐崎はそれだけ言うと、広い道へと足を向けた。

 俺達も置いていかれないよう、後ろから後を追った。

 


◇◇◇



「ここが、魔法学校か」

 俺達は道なりに進んで、魔法学校の玄関扉までたどり着いた。

 しかし近くで見ると、より迫力があるな。

 赤茶色の扉に、白い壁。俺達の頭より遥かに高い位置には、あの大きな時計があった。

「本当立派な学校だね。ここまで来ると中を見るのが楽しみになってくるなー」

 美咲が目を輝かせているのを見て、桐崎は面白そうな目で見る。

 桐崎は短くなったタバコを、小さめのレーザーで消すと、魔法学校の扉を開ける。

 そして開け放たれた扉の中は、まさしく豪邸そのものだった。

 そこは玄関というよりも、広間と言ったほうが正しいと思えた程だ。

 綺羅びやかに辺りを照らすシャンデリア。実物を見たのは初めてだ。

 床には赤いカーペットが敷かれていて、左右には長い廊下、中央には横幅の広い階段がある。

 階段の踊り場には、見たこともない絵が飾られ、高級感を醸し出していた。

「意外と綺麗になってるだろ。一応そういうとこには気を使ってるんだ」

 綺麗は綺麗なんだが、次元が違うよな。まあ世界が違うんだけども。

 こんなの漫画の世界ぐらいでしか見たこと無いぞ。

「凄いな。まるで豪邸みたいだ。これが本当に学校だっていうのかよ」

「これくらいで驚いてたら今後も驚きっぱなしだろうな。ちなみに教えておくが、一応この学校は座学あるからな。魔法学校でも、魔法だけ学ぶ場所じゃないんだ」

 なん、だと……。

 俺はちょっと期待していたのに、あっさりと裏切られた。

「もしかして直人は勉強無いとか思ってたの?」

「いや、ソンナコトハナイヨ」

「図星だったんだ……」

 美咲は呆れたように嘆息する。

 ダメだこいつ、と言わんばかりである。

 だってそうだろう。ここまで来たら少しくらい期待しちゃうでしょうが。

「直人が高校の勉強についていけるか、私は心配だよ。馬鹿だし」

 おいおい、最後の完璧悪口だったろ。

 心配してくれるのまではいいけど、馬鹿と言われるのは理不尽だ。

「でも本当でしょ。中学時代、連立方程式を私に教えてもらったのに、テストで赤点ギリギリセーフだったくらいには馬鹿だから」

 ぐっ、痛いとこつきやがって。

 大体あの時は教えるっていうか、ひたすら俺に暴言吐いてばっかじゃなかったか?

 ええと、あの時は……。

『これくらいもわからないの? 授業で何聞いてたのさ』

『だーかーらー、ここは代入するんだってば。同じ事言わせないでよね』

 と、いう感じだった気がする。

……確かにあの時は俺が悪かった。

しかし、今更掘り返されて馬鹿にされたのでは、言い返さない訳にもいかない。

「一々うるさいんだよ破天荒娘。少しは御淑やかに出来ねえのか」

「元々そんなキャラじゃないよ。それくらいわかってよね唐変木。こんなんだから女子にもモテ無いんだよ!」

 一応は女子に人気あったっての。

 バレンタインのチョコだって貰ってたぞ。小学校高学年くらいまではな。

 やべえ、思い出したらちょっと悲しくなってきやがった。

「よ、余計なお世話だ。テメエこそ、そんなんじゃ男も寄ってこねえよ」

「直人には関係無いでしょ! ていうか、昔から告白くらい普通にされてましたっ!」

 何気にムカツクが、それは真実だ。

 美咲は性格こそあれだが、見た目は普通に可愛いので結構男子にモテていた。

 しかし結果は、告白した男子は一人残らず撃沈したらしい。

 それを傍から見ていた俺は、振られて灰のようになる男子たちを見て、同じ男子としては居た堪れなかったのを覚えている。

「結局は告白止まりじゃねえか。そういう偉そうな口は付き合ってから言えよ」

「別にいいでしょ! 付きあう付き合わないは私の勝手なんだから!」

 そんな俺達の不毛な言い合いに桐崎は見かねたのか、呆れた声を掛けてきた。

「あのな、お前ら。言い合うのもいいが、先に怪我を治すから医務室に行くぞ。そのままだと、次の試験に影響出るだろ?」

 意外な言葉に一瞬目を丸くする。

 桐崎は面倒がる性格だと思ってたが、実は面倒見がいいやつだったのか?

 俺の中で桐崎の信頼レベルを少し上げた。ちなみに今までは信頼レベルは最低だった。

 桐崎に言われて広間から左の廊下を進むと、ある扉の前で足を止めた。

 ここが桐崎の言っていた医務室なのだろう。

 桐崎はドアノブを回し、扉を開ける。

 その部屋にはベッドが三つ並び、純白のカーテンで仕切られていた。

 中でも、一番に気になったのは事務机で眠っている白衣を着た女性だった。

 女性はスースーと寝息を立てて、気持ち良さそうに寝ている。

 大人の女性(母さんは除く)の寝顔は初めて見るので、思わずドキリとしてしまう。

 ボサボサな亜麻色の髪の毛を除いて見れば、グラマラスな体型含めなかなかに美人だと感じた。

 しかし寝る時まで眼鏡をつけたまま、ということは、仕事中に眠ってしまったという所だろうか。

 そう考えると、意外にだらしない性格なのかもしれない。

 そんな彼女を見た桐崎は、嘆息した後声をかけた。

「おい、癒香ゆか起きろ。患者だ」

 桐崎は癒香と呼んだ女性を揺すると、僅かながらに頭を上げる。

すると、眠そうな目が眼鏡のレンズ越しに俺達を捉えた。

 暫く目があって硬直状態が続いていたと思えば、また寝てしまった。

 その光景を見て、桐崎はため息をつく。

「いい加減起きろ。患者だって言ってんだろうが」

 桐崎がさっきよりも強く揺すると、癒香という女性は今度こそ目を覚ましたようだ。

 欠伸をした後、腕を上げ体を伸ばす。その運動で豊かな胸も上下してしまうため、思わず目が言ってしまう。

 それに気がついた美咲に睨まえるが、これは男としての本能だから仕方ないだろう。

「んー……。あ、漸次じゃないか」

と、大人っぽい落ち着いた声が彼女から放たれた。

「まったく。お前は仕事中に限らず寝過ぎなんだよ。少しは働く俺を見習え」

「君を見習ったら、私はきっとダメ人間になってしまうからね。それだけは勘弁してくれ。……それで、そこの男の子と女の子は誰なんだい?」

 桐崎の言葉を軽くあしらって、彼女は俺達の方へ目線を向ける。

「今年の別世界からの受験生だよ。職員会議で話したろ? 俺が担当した生徒候補だ。男子の方は城嶋直人、女子の方は近江美咲」

 桐崎が紹介すると、俺と美咲はやや緊張気味に軽く挨拶をする。

 すると癒香と呼ばれた女性は、興味ありげに俺達を観察し、自己紹介を始めた。

「私はこの学校の保健医の翡翠癒香ひすいゆかだ。以後は翡翠先生、とでも呼んでくれ。よろしく頼むよ。城嶋君、近江ちゃん」

「よろしく、お願いします」

 軽く会釈した俺に、「そうかしこまる事はないよ」と言われて、俺は息をつく。

「んで、早速だが城嶋の怪我を治してやってくれ。試験中にちょっと派手な怪我したもんでな」

「派手な、か。なるほどね」

 偉そうに言うが、俺の怪我の原因は桐崎である。

 今は美咲のお陰で止血出来ているが、怪我そのものが治ったわけではない。

 動かしてない時はそこまで痛くない。

しかし、少し動かしただけで激痛がするし、ましてや殴られると腕が吹き飛ぶんじゃないかと思う程だ。一回経験したからわかる。

「じゃあ城嶋君はそこの椅子に腰掛けてくれるか。立ったままだと治療がやり難いからね」

 俺は翡翠先生の言葉に従い、翡翠先生の横にあるキャスターの付いた椅子に座った。

 でも治療ってどうやるのだろうか?

 見たところ手術器具は見当たらない。あったのはせいぜいガーゼと包帯くらいだ。

 すると、翡翠先生は俺の怪我した肩に手を当てる。

 肩に張られた氷に触れ、眼鏡を外し目を凝らしている。

 それは無機物でも見ているような、一切の感情が含まれていないような目だった。

 思わず息を呑んでしまうくらい、どこまでも冷徹に見える。

「この氷は……、君のじゃないね。近江ちゃん、固有魔法を解いてくれるかい?」

「え? あ、はい」

 自分の固有魔法だと何故わかったのか、という様な不思議そうな顔で美咲は魔法を解いた。

 氷は粒子状になってバラけると、血が凝固し、文字通り穴が開いているのが見える。

 なかなかグロテスクな傷だが、それを意に介さず観察を続けている。

「漸次、この傷は君のせいだな? 全く、君は相変わらず手を煩わせてくれるね」

「試験だから仕方ないだろ。それより、黙っといてくれ」

「安心しろ、告げ口はしない。……早速、治療を始めよう。なに、緊張しなくていいよ。痛みもなくすぐ終わるさ」

 翡翠先生は自分の両手を俺の肩にそえる。

 次の瞬間、彼女の手からライトグリーンの光が放たれる。

 その光が発せられてから、手を添えられた辺りに温かさを感じた時だった。

目に見えるように、傷口が塞がっていったのだ。

 最終的には桐崎に攻撃される前の状態に戻り、試しに軽く動かしてみるが、痛みもすっかり無くなっていた。

 続いて体中にある切り傷も治してもらい、俺はすっかり元通りになった。

 そして治療を終えると翡翠先生は、何事もなかったかのように背もたれに寄りかかりながら話す。

「これで治療は終わりだ。これから怪我をした時は、遠慮無く頼ってくれて構わない」

「あ、ありがとうございます」

 しかし、こうも簡単に治るってありえないな。

 もう一度肩を確かめるが、傷も痛みも違和感もない。

 全く普通の状態に戻っている。

 俺が困惑したのに気がついたのか、桐崎が解説をしてくれた。

「癒香のバーストは、相手の傷を癒す能力でな。対象が死者でない限り、どんな傷でも治せるんだ」

「大袈裟だぞ漸次。私にだって治せないものの一つや二つはあるさ」

「逆に言えば、一つや二つしか無いんだろ。それに医者としての観察眼も馬鹿に出来ないしな」

 桐崎はふざけた調子でいうが、確かに観察眼という点では納得できた。

 俺の傷を治すとき、止血していた氷は美咲のバーストだと見破った。

 俺にはもはや、そっちの方が魔法なんじゃないかと思ったほどだ。

 しかし褒め言葉を聞いた翡翠先生は、嬉しくなさそうに、むしろ迷惑そうに見えた。

「もういいだろう。それ以上喋るとこの事を口外するぞ」

「言わないから勘弁してくれ。減給とかされたら笑えない」

 何やら言われてまずいことがあるのか、桐崎は大人しく口を閉じた。

 対して翡翠先生は手をひらひらと動かし、さっさと出て行けとジャスチャーする。

「さあ行った行った。私は忙しい。これ以上構ってる時間はない」

「お前また寝るつもりじゃ無いだろうな? 真面目に仕事しろよ」

「君に言われたくはない。どちらかと言えば、私の方がマシだ。それに、睡眠というのは体を休めるのにとても効率的で、僅かな時間でもリラックスできるという素晴らしい利点がある」

「お前の場合は僅かな時間じゃない時が多いけどな」

 桐崎の言葉に、翡翠先生は欠伸をして返す。

 なんかまた寝てしまいそうな雰囲気だと思いつつ、俺達は医務室を後にした。

 医務室から出ると、美咲が俺にしか聞こえないボリュームで話しかけてきた。

「ねえねえ、翡翠先生と桐崎ってどんな関係だと思う? 妙に親しげじゃない?」

 何が言いたいんだ美咲は。

 桐崎と翡翠先生が彼氏彼女的な関係だとでも言うのだろうか。

 女子はこういう恋愛関係の話には敏感だから、ある意味怖いよな。

「桐崎は、翡翠先生と同じ職員なのか?」

「なんで俺だけ呼び捨てだ。俺も一応ここの先生だから」

 いや、最初にそう呼んでたから慣れてしまったというか。

 まあ試験に受かって生徒になったらさん付けくらいはするけど。

 まあいいと、桐崎は話を進める。

「俺もあいつも、ここの教師をやってる。あいつはさっき聞いた通り、ここの保健医。俺は生徒に格闘術とかを教えてる。ちなみに俺達は同期だ」

 なるほど。やっぱり仕事上での関係か。

 美咲は面白くなさそうに桐崎を見ているが、俺としてはどっちでもいい。

 しかしまた格闘術とは。この魔法学校ってやっぱ普通の学校じゃないんだな。

「よし、怪我も治ったことだ。次は―――と、丁度いいな」

 桐崎が丁度いいと言った意味がわからず、思わずあいつの視線の先に目を配る。

 最初に居た広間に戻ってきた俺達と同じくして、見知らぬ少女が階段を下りて現れた。

 少女の見た目は俺らと同級生くらいだろう。

 俺らの世界ではまず居ないであろう、長い銀髪を携え、左右で三つ編みにしている。

 華奢な体は、藍色のローブに包まれている。

 そして少女は、俺達を薄い緑色の双眸で一目見ると小さな口を開いた。

「あなた達が、桐崎先生の担当されている試験生ですね。城嶋直人さん、近江美咲さん」

 名前を呼ばれ、俺達はやっと体を動かした。

「は、はい。そうです、けど」

 美咲が狼狽えつつも、なんとか答えを口に出す。

 それにしても、なんで人の名前知ってるんだよ。異世界の情報網どんだけ広いんだよ。

 銀髪の少女は、そのまま階段を下りて俺達の目の前に立った。

「これから面接があるので、私に付いて来て下さい」

彼女は俺達を一瞥すると右側にある廊下を進んでいく。

 面接って、あの面接か?

 なにがどうなってんだ? てか誰なの?

「どういうことだよ桐崎。まさかこれが二次試験なのか?」

「察しがいいな。でも、今回は戦闘じゃなく面接だ。そう考えれば、前の試験よりはずっとマシだろ」

 桐崎はそれだけ言うと、銀髪の少女の後を追う。

 俺達はさらにそれに付いて行く形になった。

 しかし、面接とはまた面倒な。

 一度高校入試の時にやったが、あれは一種のいじめだと思うよ俺は。

 3人の大人相手に俺一人で対応するとか、どんな地獄だよ。俺のコミュニケーション能力はそんなに高くないから。

 俺は過去の事を思い出しつつ、気を引き締める。

そして俺達は長い廊下を進んでいくと、一番奥の扉の前で止まる。

 その部屋の扉は、ここに来る間に見た部屋のドアよりも上等そうに見える。

 ここまで案内してきた銀髪の少女は、躊躇うこと無くドアを開ける。

 部屋の中は、先ほどいた玄関より高級感のある応接室の様な作りだった。

 長机が一つ置かれ、それを挟むようにソファーが並べられている。

 そして扉の向かいには、書斎において有りそうな机と椅子が置いてある。

 俺達は銀髪の少女に促され、恐る恐るソファーに腰掛ける。

「面接か。どんなこと聞かれるんだろうね」

 俺が知るかって。

 美咲はどうせ何聞かれても普通に返せるし大丈夫だろ。

「さあな。まずは簡単に長所とか短所とか性格を聞かれるんじゃねえの?」

「じゃあ私は合格だね」

「なぜそうなる!? 俺が試験官だったら間違いなくお前を落とすぞ」

「そして直人は不合格だね」

「それお前の好き勝手に決めてるだけだろ!?」

 銀髪の少女の小さな笑い声に、俺はハッとする。

 しまった、面接前に騒いじまった。

 さっきの行為に軽く後悔していると、銀髪の少女は部屋の戸棚からカップを取り出しながら聞いてくる。

「皆さんコーヒーでいいですか?」

「え? あ、はい」

 異世界にもコーヒーってあるんだな。

 じゃなく、なんで面接に飲み物が出されるんだ? 

「面接だと桐崎先生から聞いたと思いますが、雑談と変わりませんよ」

 雑談と変わらない面接なんてあるのかよ。それにこれ二次試験なんだろ? いいのかよ。

 でもそれはそれで、緊張しなくて済むしありがたいかも。

 そして銀髪の少女は、合計4つのカップが用意して、カップ以外にも棚から取り出していた。

「砂糖とミルクはどうします?」

「私はミルクと砂糖2つ」

「俺は砂糖2つだけで」

ブラックも飲めるのだが、正直あれは美味しくない。あれを美味しいって言うのは、真のコーヒー好きか、格好付けたくて飲んでる奴だろう。

最近の中学、高校生の大半が後者に当てはまると俺は思ってる。まあ俺の憶測だけど。

 俺達二人が答えると、桐崎先生は? と銀髪の少女が問う。

「俺っすか? 俺はブラックでいいですよ」

 と、部屋の壁に背を当てて立っている桐崎はそっけなく答える。

 俺はその桐崎の返答に違和感を感じた。美咲もその違和感を感じ取ったようだ。

 それはなぜ少女に敬語を使ったのかということだ。

 俺は首を傾げていると、銀髪の少女が丁寧にコーヒーを一人一人の前に置く。

 出されたコーヒーを手に取り、ゆっくりと口に運ぶと、コーヒー特有の苦味と、ミルクの甘さが微かにした。

「美味しいです。わざわざコーヒーまで出してくれて、ありがとうございます」

 美咲が礼を言うと、少女は微笑んだ。

 少女はそのまま、俺達のソファーに腰掛けた。

「では、面接を始めましょうか。先程も言いましたが、雑談のようなものなので楽にしていいですよ」

 あれ、この子が面接するのか? 

 てっきり大人相手だと思ってたんだが……。異世界も変わってるな。

 少女がそう切り出し、衝撃の言葉を放った。

「まず自己紹介を。私はこのローグス魔法学校の校長で、セレス・クラネルと申します。みんなからは、セレス校長とよく呼ばれています」

「えっ……」

 校長? 校長ってあの学校の偉い人物のことだよな?

 それを、こんな女の子がやってるのか?

「あの、あなたみたいな子供でも校長ってなれるものなんですか?」

 美咲が聞くと、銀髪の少女―――セレス校長はさぞ面白そうな物を見るような笑みを浮かべる。

 それは横に居る桐崎も同じだった。

 何かおかしい質問だったのか?

 俺達が困惑していると、銀髪の少女が笑顔でその答えを言った。

「私は桐崎先生よりも年上の女性ですよ」

「「ええっ!?」」

 同級生くらいだと思ってたのに、桐崎よりも年上だと?

 余裕で高校生ですと言い張れる外見してるぞ。

 美咲なんか軽くショックを受けて体を震わせてるし。

 俺の母さんも若いと言われるが、身内だからそこまで驚きは無い。というか、そういう若いとかの次元じゃない気がする。

「桐崎はちなみに何歳なんだ?」

 目算では二十代後半と見た。

 その俺の質問に、桐崎はコーヒーを飲んでから、気だるげに答えた。

「俺は今年で二十七だ。って言っても、校長の正確な年齢は誰も知らないからな」

 よし、予想的中。……じゃなくって。

 誰も知らないって、それはまたなんでなんだ?

 魔法学校の校長のプロフィールくらい、関係者なら知ってそうなんだが。

 うーむ。考えるのも面倒だし、また聞いてみるか。

「じゃあ、セレス校長はいくつなんですか?」

「それは――秘密です。それに女性に年齢を聞くなんて男性としてダメですよ」

 という、まさに予想外の答えがウインクと同時に返ってきた。

 見た目が美少女だから、ウインクに男を殺すための殺傷能力&魅了能力が追加されてる。

 危ない危ない。危うくときめいてしまう所だった。

 普通の男子高校生なら確実にノックアウトだろ。音凪で美少女体勢つけといて良かったー。

 そこで一喜一憂している俺を、なぜか美咲は横目で睨んでいるのを俺は視界に捉えていたが、気づかないふりをした。

「こういう風に、校長は秘密主義者なんだ」

 なるほど。魔性の女ってやつか。

 色々気になるところだが、今聞くほど興味があるわけでもない。

「でも茶目っ気があって良くないですか? ほら、不思議な女性に男性は惹かれると言いますし」

「いや、どうでもいいんでさっさと話進めてくださいよ」

 桐崎はため息をつくと、セレス校長に面倒そうに言う。

 それに対して、セレス校長は不服なのか頬を小さく膨らませる。

 おいおい、それは大人の女性が取る態度なのか? さらに年齢の誤解を招く要因になるだけだろ。

 ましてや学校の責任者の取る行動じゃないだろうに。

 桐崎よりも年上って言うのは、どこかの噂話に過ぎないのでないか、と俺は思った。

 セレス校長は気を取り直し、コホンと咳払いをする。

「まあこの話はここまでにして。なにか聞きたいことはありませんか?」

「あ、はい。ありますあります」

 コーヒーを飲んでいた美咲は、その手を止めて片手を上にあげて言う。

 まるで学校の先生に質問する時のようだ。

 だが、至ってその顔にふざけた様子は見られず、真剣そのものだった。

「私達が試験に選ばれたのって、なんでなんですか?」

 この質問は、さっきまでの軽い雰囲気を変えるには十分なものだった。

 セレス校長も、程までの明るい態度と変わって真剣な顔をしている。

 いかにも、面接って感じになっちまったな。

「私が選別したんです。あなた方の世界、私たちはリィースと呼んでいますが、そこからより優秀な生徒を得るために、あなた方の居た世界の人を魔法学校に入学させようと考えたんです」

 それはまた、随分勝手な話だな。

 俺達はこの世界、というか、この学校の事情で連れて来られただけじゃねえか。

 そんな俺の心の中を、美咲が口にする。

「納得できません。別の世界の事情に、私達を巻き込まれても困ります」

 美咲も理不尽さに不満が込み上げてきたのか、言葉に熱がこもる。

 俺は視線をカップに落としたまま、黙って様子を見ていた。

「そうでしょうね。でも、わかって欲しいんです。この世界は少なからず脅威が迫っています。だから、より強い力が必要だったんです。あなた達を巻き込んだことに関しては、言い訳をするつもりもありません。本当に、ごめんなさい」

 そう言って校長は深く頭を下げた。

 俺達はそれを見て狼狽え、頭を上げてくれと頼んだ。

 全く、卑怯だよな。そうやって謝られたら俺達が悪いみたいだ。

 そんな空気がどうも嫌で、俺は話を戻す。

「それで、この世界の脅威ってなんなんですか?」

「文字通り、怪物と表現するしか無いですね。それも世界を崩壊させてしまうほどに、凶悪なものです」

「怪物? そんなものが本当にいるんですか?」

 世界を崩壊させる? スケールが大きくて創造はつかない。

 だけど、もしそれが本当だとしたら、俺達はどうなる?

 いや、どうしなきゃいけなくなる。

「ええ。この世界に現れ、人々に害をなす生き物。私達はそれをノアと呼んでいます」

「ノア? そいつらが、世界の崩壊を引き起こすって言うんですか?」

「信じ難いでしょうが、本当なんです。ノアはこの世界に現れる異形のもの。しかも、ノアには魔法意外は通用しません。そして、その脅威はこの世界だけでなく、あなた方の世界まで侵食しようとしています」

 この世界だけじゃない。

 それって、俺達の世界にそのノアがやってくるってことかよ。

「この学校はそのノアに対抗するための、魔法士ソーサラーを養成する学校。もう、わかりますね・・・・・・? 」

 校長の言いたいことは、もうわかってしまった。

 つまり俺達は、この学校に入学した場合、少なからずそいつらと戦わされる事になるわけだ。

 次から次に問題ってモノはのしかかりやがって。

 これじゃあ帰るどころか、生きていけるかどうかさえ怪しいじゃねえか。

「そのことを踏まえた上で、あなた達は入試を続けますか? この真実がわかったうえで尚、この学校に入学しますか? ……今ならまだ、入試を取り消すことができます」

 入試を取り消すだって?

 そんなことが出来るのか? いや、責任者であるなら出来るのもおかしくはないか。

 俺は思わず、セレス校長に聞き返した。

「取り消すってことは、帰れるんですか?」

「いいえ、元の世界には帰れません。それは桐崎先生から既に聞いていると思います。それでも入試を断るのならば、身の安全は私が保証しましょう」

 なんだよそれ。元の世界に帰れないんじゃ、それこそどうしようも無いじゃねえか。

 身の安全は保証するって言っても、結局は帰れない。

 とすれば、一生をこの世界で過ごすことになる。

 それだけは、絶対に嫌だ。

 俺は未知の恐怖に少し怯えていたが、それを払拭するように拳を強く握った。

「……俺は、入試を続けます。ノアっていうやつがどれほどのものかわからない。だけど、帰るためには死に物狂いでやります。それに、俺達の世界にも関係あるなら尚更です」

「私も、直人と同じです。そのノアっていうのがどれだけ悍ましいものなのかは知りません。でも、少なくとも私達には対抗する力があるんですから」

 俺達の返事を聞いたセレス校長は、少しだけ嬉しそうな顔をした。

 それがどんな意味を含めた笑みなのかはわからないが、少なくとも嫌な感じではなかった。

「では、今後も頑張って下さい。あなた方が入学出来るのを、私は期待していますよ。それと」

 セレス校長は会った時のような明るい表情に戻り、それこそ俺達と同じ年くらいの少女のような笑顔だった。

「一次試験で二人共優秀でしたし、心配はいらないでしょうけどね」

「え? 俺達の試験見てたんですか?」

「ええ、ちゃんと一部始終見てましたよ。あの法具で」

 といって、校長は机に置いてあった大きめの水晶を手に取る。

「これは遠くを視る水晶で、桐崎先生の行動を視てました。あなた方の世界の人間を選別する時も使いましたが、一次試験も視ていたんです。とても興味深かったですよ」 

 なるほど。俺たちの情報はこれで調べてたわけか。

 それなら名前とか知ってるのも納得がいく。

俺が頷いている横で、桐崎が多量の冷や汗を流していることに気がつく。

「お、俺外でタバコ吸ってきます」

「き・り・さ・き・先生」

「……はい」

 セレス校長は、どこか禍々しい笑みを放ち桐崎も見据える。

 それを直視出来なかったのか、桐崎は目を逸らす。

「はぁ……。言いましたよね、受験生には試験官は固有魔法を使ってはいけないと。特に先生には堅く言い聞かせたはずです」

「いや、その、バイオレンスな方がこいつらの実力が見れるかなー、と。実際固有魔法を扱えたわけですし、俺を倒しましたし」

 会話の内容から察するに、俺達はどうやら、本来あるべきでない戦闘を繰り広げていたらしい。

 一次試験の内容こそは間違っていなかったものの、試験官は人払いの結界と汎用魔法以外の魔法は禁止されていたとか。

 俺を最初に医務室に言って治療させたのは、セレス校長にバレないためだったのか。

 通りで、翡翠先生が桐崎に意味ありげな言葉を言ってたわけだ。

「全く。今後はこのようなことがないようにお願いしますよ」

「了解しました、校長殿」

 全く反省してないだろこいつ。

 せめて謝るくらいはするべきだと思うよ、大人として。

 そんな態度の桐崎を見てセレス校長はため息をつくと、俺達に申し訳なかったと謝った。

「その状況で合格出来たあなた方は、本当に素晴らしいと思います。ある意味では間違いでは無かったかもしれませんね」

 確かにその通りなんだが、不平等を感じるのは気のせいか?

「あの、今更なんですがけどなんで言葉が通じてるんですか? 異世界も日本語って事はありえないと思うし、なにかあるんですか?」

 美咲は不思議そうに言う。至極当然の疑問だった。

 だけど、当たり前過ぎて気が付かなかったな。

 異世界は異世界の言語があると思ったんだが、どうなのだろうか?

「あなた方の身に着けている法具。それが言語、文字を自分たちのわかるものへと変換しているんです。だから、法具がある限り意思の疎通は誰とでも可能なんですよ。人間限定ですけどね」

 そんな超便利機能がこれにあったのかよ。

 俺はブレスレットを凝視するが、やはりただのアクセサリーにしかみえない。

 魔法も使えるし、言葉も通じるし、まさに一石二鳥じゃねえか。

「さて、面接は以上にしましょう。二人共合格です」

「「え?」」

 突然の合格という言葉に、俺と美咲は揃って首を傾げた。

 確かにこれが試験で、合否はあると聞いていたがどこで判断したんだ?

「入試を辞退するか、否か。それで面接は終わってました。入試を続ける意志があるのならば、落とす理由はありませんから」

 入試を辞退するか、か。

 あの時そう言っていたら、俺達はどうなっていたのか。

 ……考えるだけ無駄か。結局は試験を受ける道を選んだんだ。今更どうしようもない。

「では、今度は試験に受かった時に会いましょう」

「そういうことだ、お前ら。次の試験も頑張れよ」

 桐崎は他人ごとのように言う。実際他人ごとだけど。

 ……ちょっと待て。

「今次の試験とか言った?」

「ああ。次が最終試験。それに受かれば晴れてローグス魔法学校の生徒だ」

 マジかよ。まだあるのか。最終試験って言うからには結構ヘビーなやつが待っている気がする。

 そう思うとなんだか気が重い。

「大丈夫ですよ。あなた方は、きっとこの先の困難にも負けないでしょう。……では、また会えるのを楽しみにしていますよ」

 まるで聖母のような優しい笑みを浮かべて、俺達を応援してくれた。

 そう励まされると、どんな性格でも許容できてしまいそうで怖い。

「じゃあ、俺達はこれで」

「ありがとうございました」

 俺達は席を立ち、小さく一礼すると部屋を後にした。



 ◯



「しかし、良かったんですかね」

 直人と美咲がいなくなった部屋で、残った桐崎はセレスに話しかける。

 そのセレスは未だに温かいコーヒーを啜り、その問には答えなかった。

 それを見た桐崎は、彼らが出て行った扉を眺めながら再度言葉を放つ。



「本当は、落ちた奴らは魔法や異世界の記憶を消して元の世界に返すって、あいつら後で聞いたら怒りますよ?」



「……承知の上です。でも、必要な力は今のうちに鍛えなければいけません」

 そう、桐崎が直人たちに語ったことは、実は嘘が混じっていた。

 転移石の効果は事実、クラスによる縛りも同じく事実。

 だが、まだ方法はあるのだ。

 魔法学校の最高責任者、詰まるところ、このローグス魔法学校の校長であるセレス・クラネルならば、そのルールを無視してゲートを開く事ができる。

 そのゲートならば、他の人間を通すことも可能だ。

 この点が、直人たちに話した事と違っていた。

 だが、あえて桐崎は真実を語らなかった。

(あんまり嘘ってのも得意じゃないんだけどな)

 桐崎は内心そう思いつつも、この入試に否定的ではなかった。

 元々セレスが提案した、別世界から生徒を補充するなど考えも及ばないもので、他の教師陣からの否定的な声も上がった。

 しかし、桐崎漸次を含めた一部の教師は賛成した。

 そう考えれば、自分も同罪かと桐崎は自嘲する。

「でも、面接でフィージアの生徒が落ちないのは明白でしょう。むしろ、自分から進んでここに入ってくるやつがほとんどですよ」

「そうでしょけど、本心を聞かないことにはこれから先の試験を乗り越えても、辛いだけですから」

 セレスはきっぱりと言い、桐崎は嘆息する。

「だったら、ここからが正念場ですね。あいつら生徒が、何人合格できる事になるのやら」

 桐崎はそれだけ言い残し、部屋から姿を消す。

 そして残ったセレスは、部屋の窓からそとを眺める。

 その目は、どこか遠い場所を見つめているような、儚さを纏っていた。

「わかっています。決して許されないということは」

 そんな彼女の声は、誰に聞こえることもなかった。





 入試情報途中経過まとめ



 受験者数


 フィージア 500名

 リィース  100名 

 計     600名



 一次試験合格者 


 フィージア 448名

 リィース   54名

 計     502名



 二次試験合格者


 フィージア 448名

 リィース   46名

 計     494名


 報告は以上。後に追記する。

 

 ローグス魔法学校教員 桐崎漸次


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