3 テスト
力を見せろやらテストやらと、訳のわからないことを淡々と喋る桐崎。
俺と美咲はそれに面食らって、暫く沈黙が続く。
それを破ったのは、緊張した面持ちをした美咲だった。
「力を見せろってどういうこと? あんまりふざけたことやると、警察呼ぶわよ」
「別に呼んでも構わんぞ。まあもう電話すら出来ないだろうがな」
その言葉を聞いた美咲は、すぐに制服のポケットから携帯を取り出して確認する。
そして、驚きの表情を浮かべた。
「……こんな街中で、どうして圏外なの?」
俺も急いで自分の携帯を確認する。
するとそこには虚しく、圏外と出ていた。
おいおい、こんな時に故障か? いや二人揃って故障なんてありえないか。
とすると、考えられる犯人は一人しか居ない。
「おい、あんた一体なにしたんだ? さっきの攻撃にしろ、普通じゃ無いのは嫌でもわかる」
「言ったろ? テストだって。それと、俺はただ単に人払いの結界を張っただけだ」
人払いの結界? そう言えば出合い頭にそんなこと言ってたな。
それもこいつの言う魔法の類なんだろうか?
「人払いの結界っていうのは、ざっくり言えばこの場所を結界外の人間に認識できなくするものだ。そして外からの干渉は不可能。中からも術者以外は干渉できない」
つまり、俺らはこの場所に閉じ込められちまったってことか?
外に連絡もできない、脱出も出来ないとなると、こいつの言うテストを受けないとどうにもならないのか。
「……んで、そのテストはどうすればいいんだよ?」
「やっとその気になった用だな」
「受けたくて受けるわけじゃねえよ。ここから出るにはそれしか無いんだろ」
そのテストの内容についてはわからないけど、下手に動いて危険な目に遭うよりは大人しく従った方がいいと俺は判断した。
すると、桐崎はわざとらしい咳払いをして、かつ面倒そうに説明を始めた。
「最初に言っておくが、今からやるのはペーパーテストじゃない。魔法を使った試験だ」
俺は思わず首を傾げる。美咲も同じような反応だった。
さっき見せられたのが魔法だって言うのは、ここまで来たら信じるしか無いんだが、その言い方だと俺達も魔法を使わなきゃいけなくないか?
大体、ついさっきまでゲームとか漫画とかにしか存在しないと思ってた代物だぞ。
そんな簡単に習得できるものなのか?
「安心しろ。魔法はお前らの考えてるより数倍簡単だ。息をするくらいにな」
そんなに簡単だと逆に胡散臭いんだが。まあ、そもそも魔法の存在自体がそうだけど。
「さっき渡したアクセサリー、俺らは法具って呼んでるんだが、それは魔法を使うための術式と詠唱を簡略化させる道具だ。まあ特殊な能力を持つ法具もあるんだが、今は省略する。つまり、それさえあれば誰でも使えるわけだ。魔力の制限があるが」
俺は右手につけた銀のブレスレットに、美咲は青い宝石が埋め込まれているネックレスに目を向ける。
しかし、見たこと無い文字が彫られている以外は、どこから見ても普通のアクセサリーだろ、これ。
美咲のは高価そうに見えるが、俺のなんて変な文字が掘ってあるくらいで、どこぞのアクセサリーショップで売ってありそうなデザインだぞ。
こんなの本当に使えるのかよ。
「そういえば、さっき言ってた魔力ってなんだ?」
「魔力は各々に備わる魔法を使うためのエネルギーだ。それは無限じゃないから気をつけろ。まあ時間が経てば回復するけどな。加えて言えば、魔法って言っても一括りじゃなく、固有魔法と汎用魔法の2種類がある」
「その固有魔法と汎用魔法ってのは、どう違うんだ?」
「固有魔法は個々人が持つ、言わばオリジナルの魔法のことだ」
オリジナルってことは、人によって使う魔法が異なるってことか。
それに魔力が無限じゃないってことは、それを使う魔法も無限には使えない、と。
しかし取り敢えず、魔法を使えなきゃ意味ないんだけど。
「まあ言うだけじゃ伝わらないだろうし、実際に使えばいい」
「使うって、どうやればいいんだ?」
今の話で使えというのは無理があるだろうが。
その魔法については色々わかったが、使い方についてはこれっぽっちも教えてもらって無い。
俺がそういうと、桐崎は思案顔をして、思いついたように発言した。
「それじゃあ、お前ら自分で好きな武器を選べ。剣でも銃でも弓でもいい。で、その武器をイメージしつつ『アームズ』って言ってみろ。それと、イメージは出来るだけ細かくな」
「何させる気だよ。そんなのイメージした所で何も出来ないだろうが」
「やればわかる。ほら、さっさとやれ」
意味不明なのだが、ここで反抗しても仕方がないか。
俺達はそれに渋々ながら、従うことにした。
さっき桐崎の言った通りに、俺は武器をイメージした。
まずは武器を何にするかだが、俺は悩むまでもなく刀を選んだ。
俺は言われたとおり刀の細かにイメージをして、それが自分の手に握られているように考えて桐崎の言った言葉を唱えた。
「アームズ」
その俺より少し遅れて、美咲も唱えた。
瞬間、身につけた法具が白く淡い光を放ち初め、同時に俺の手に黒い柄と鍔、そして銀の刃を持つ刀が現れた。
それも、俺が想像した通りで寸分違わない物だ。
「マジかよ……」
思わず驚嘆の声を漏らしてしまう。それほどまでに、俺はこの現象に驚いていた。
これが桐崎の言ってた魔法なのか?
しかし、あいつは武器ではなくレーザーを撃ち出していた。
それと比べると随分見劣りするよな。なんか平凡って感じがするな。
俺はその疑問は後回しで、美咲の方を見る。
その美咲の手には、身の丈よりも長い銀槍を手に持っていた。
「今のはアームズって言って固有魔法とは違う。さっき言った誰でも等しく使える魔法、汎用魔法の一つだ。アームズは自分のイメージした武器を具現化する。そして、一度武器をイメージすれば法具に登録されるから、アームズって唱えるだけでいい。ここまでで何か質問有るか?」
そう聞かれて、美咲が真っ先に質問をした。
「その汎用魔法は、これ以外にも種類があったりするの?」
「有りはするが、お前らにあまり情報を与えて試験を有利にしちゃいけないから話せないんだ」
そうか、汎用魔法はさっき俺達が使った通り比較的簡単に使えた。
となると、それ以外の汎用魔法を教えると俺達が使えるから規制がかかっているのか。
「補足で説明すると、固有魔法はそれぞれ系統で細かく分類される。これは自分の好みなどに合わせられるものじゃなく、生まれ持ったものだから進化はしても変化はしない」
自分で決められないっていうのは少し残念だが、今はそんなこと言ってられないか。
今大事なのは、自分の固有魔法が何なのかということだ。
「なあ、系統ってのはいくつくらい有るんだ?」
「赤系統、青系統、黄系統、緑系統、紫系統、黒系統、白系統の7つだ。一つ一つ説明すんのは面倒だから、合格した後にでもじっくり覚えろ。別に今知らなくても問題ないしな。それと、固有魔法は自分で掴むしか無いものだ。難しいと思うかもしれないが、自ずとわかってくるだろうさ」
その内容が大事なんだけどな。自ずとわかる、って言っても今のところはピンと来ない。
魔法もさっき汎用魔法を使っただけの初心者。
そんな俺達が固有魔法を自分で見つけるというのは、とてもハードルと高いことに感じる。
俺は嘆息すると、頭のスイッチを切り替えることにした。
そして色々あって考えすぎた頭を、深呼吸してクールダウンさせる。
あまり考え過ぎても、今ある情報じゃ答えに辿りつけない。
だったら考えるのは後回しだ。
「というか、これでやり合うのか? 武器は持ってるけど、固有魔法はまだ使えてないし」
「それは問題ない。お前たちは気づいてないだろうが、今法具はお前たちの魔力から探って、固有魔法を探している。個人差はあるだろうが、そう時間のかからない内に術式を割り出して使えるようになるさ」
色々と理解には苦しむけど、取り敢えず固有魔法を使うにはしばらく時間がかかるってことか。
それまで待ってくれる、わけはないか。
だったらその間の時間は武器だけで凌ぐしかない。
それと、相手は得物を持ってないからと言って油断はできない。全力でぶつかる!
「いい面構えだ。試験内容は、俺が首に下げているこの赤い石を取ればいい。頼むからこんだけ説明させて不合格とかは止してくれよな」
「それなら心配ご無用よ。期待に答えて合格してあげるわ。後質問なんだけど、二人一緒にかかっていいの?」
「勿論だ。これを取れば二人共合格になるから、どっちが取っても構わない」
「なるほどね。それとまだ聞いてないけど、この試験に合格したらどうなるの?」
「そいつは合格した後のお楽しみだ」
そんな風に含みのある笑みを浮かべている桐崎だが、武器を出す気配はない。
考えられるのは、武器を出さずにパワーバランスを取っているのか、もしくは単純に徒手空拳が得意なだけか。
まあどちらでも構いやしない。しかしそれを差し引いたとしても、最初に見たあの魔法は脅威だ。
逆に言えばあれさえ防げれば勝機は俺達にあるはず。
それに、あの首に下げられた赤い石を取る事が出来ればいいんだ。
「美咲、先に言っておくけど――」
「俺が危険な目に遭っても気にするな。いざとなったら俺を見捨てても構わない、なんて無神経な言葉を私に言うつもりなら、この槍で風穴開けてあげるわよ」
美咲はそう言って微笑む。
俺の予想してた言葉を言い当てるとは、流石幼馴染といった所だろうか。
しかし相変わらず俺の幼馴染には毎度毎度驚かされる。
「言うわけねえだろうが。……絶対合格するぞ」
「当たり前よ。テストではいつもいい成績とってたんだし、今回も好成績で終わらせるわ」
勢い良く答えた美咲に、俺は頷く。
桐崎は飄々した態度は崩さないが、目つきが変わった。
「じゃあ――――行くぞ」
その言葉を合図に、試験が開始された。
先に動いたのは桐崎。奴の手元から俺と美咲の間にレーザーが放たれ、見事に分断された。
そのレーザーの勢いに圧倒され、桐崎を視界から外してしまったことを俺は後悔した。
この一瞬とも言える隙を突き、桐崎はいつの間にか目の前に走り込んでおり、俺のがら空きの腹に掌底を繰り出す。
それをほぼ反射的に刀で受け止めるが、衝撃はほとんど殺しきれなかった。
「っ!!」
思わず顔を顰めてしまうほどの威力。防御には成功したが、防いだ右腕が痺れている。
相手は素手だって言うのになんて馬鹿力だ!
その威力に思わず苦悶の表情を浮かべる。
そして、俺が次の行動に移る前に、桐崎は数秒も間を開けず、腕が痺れて動かないことを好機と捉えて鋭い蹴りを放ってきた。
これは流石に防御は出来ない。精一杯の抵抗として、蹴りの動きに合わせて軽く横に跳ぶ。
その直後、俺の横っ腹に重い一撃が直撃した。
すると俺の体は意図も簡単に、数メートル横に飛ばされる。
「が、あっ!!」
そして、ろくに受け身も取れずにアスファルトの上を転げて体を打ちつけた。
その痛みに耐えるように、力強く刀を握りしめる。
俺は出来るだけ機敏に立ち上がり、桐崎を視界に収める。
次に痺れが取れ、腕が動くことを確認すると、刀を握り直して正眼の構えを取る。
「なかなか動きがいい。さっきは一撃目で決めるつもりだったんだがな。それに蹴りの動きに合わせて体を動かした対応の速さからするに、何か武術でも習ってるのか?」
「……まあちょっと剣道を嗜んでる程度だよ。先生がスパルタなだけに、結構上達はしてるとは思うけど」
「なるほど、その反応速度も道理だな。刀を選んだのもそれが理由か」
その通り。何しろ手に馴染んだ物だから、一番相性が良いと思ったわけだ。
ちなみにだが、そのスパルタな先生というのは俺の母さん。
実は母さんの父、つまり俺の祖父が剣道道場の師範代をしていて、その祖父に鍛えられた母さんは高校時代にインターハイにも出た程の腕前を持っている。
そして、その母さんは今でも、主婦業の合間にその祖父の道場で剣道の先生もしている。
無論その息子である俺も剣道をしており、春休み中もほぼ毎日道場に通っていた。
「でもまさか、強くなる為に始めた剣道がここで役立つとは思ってもいなかったけどな」
「世の中役に立たないことの方が珍しい。それに、強くなりたいっていう気持ちは結構だ」
「そりゃどうも」
俺は余裕そうな桐崎に一太刀浴びせようと刀を振るうも、簡単にいなされる。
だが俺は防御は考えず、攻めることに重点を置くことにした。
相手が自分より格上ならば尚更、攻めに行かなければ勝てやしない。
しかし立て続けに振るう刀は、桐崎が生み出すレーザーに尽く防がれる。
俺はさらに追撃するために足を踏み出すが、俺目がけて1つのレーザーが撃ちだされていた。
しかし、この至近距離だと避けるのは無理だ。
こうなったら避けるんじゃなく、勝負するしか無いだろ!
思考を切り替え、俺は飛んできたレーザー刀の側面を利用して弾く。
するとレーザーは見事俺ではなく、足元のアスファルトを貫通して煙を上げている。
嫌な汗をかきつつも、成功したことに安堵していた。
「これが魔法で出来てるなら、なんとか防げるんじゃないかと思ったんだ。ただの金属だったら終わってたな」
「それ以前に、攻撃を受けるという考えを実行するとは思ってなかったけどな」
そう言いつつも、以前として余裕の表情の桐崎。
俺は横薙ぎに刀を払うが、あっさりと桐崎の腕に備えられたレーザーによって阻まれ、刀身がバチバチと火花を散らした。
だけどまあ、これも想定通りではある。
不意に、桐崎のいた場所に銀槍が放たれていた。だが、それにも冷静さを欠くことなく、桐崎は回避した。
その槍による一撃は、様子を見て接近していた美咲によるものだった。
「私を忘れるんじゃないっての!」
美咲は突き出した槍を器用に手元で操り、一度構え直す。
すると、桐崎に連撃を放ち容赦の無い攻撃を仕掛けた。
桐崎は躱すよりも受けたほうが楽だと感じたのか、レーザーで防御する。
だが美咲も、このレーザーを前にしては分が悪く大人しく引き下がった。
やっぱり俺たちは決め手に欠ける。単なる武器だけじゃ魔法を使う桐崎に勝つなんてことはほぼ不可能だ。
そう思っていた俺だからこそ、美咲が笑みを浮かべていた事に驚いた。
それは恰も策があるといったように。
「やっぱり、武器だけじゃ勝ち目は薄いかもね。だったら――」
途端、美咲の首に下げたネックレスが強い蒼い光を放ち、同時にまだ春の昼下がりだというのに、とても冷たい冷気が周りに漂ったのを俺の肌は感じ取った。
「こっちも固有魔法使うしか無いでしょ! 零下氷雪!」
美咲がそう発言した後、足元のアスファルトが急速に凍り始め、それが桐崎の足元まで伝わった。
「こいつは、参ったな」
桐崎は目を細め、自分の現状を確かめていた。
何故ならば、その氷の影響で、桐崎の膝から下は氷によって固められ身動きを封じられたからだ。
それと同時に桐崎は、美咲が固有魔法を使ったことに驚いたのか、関心したように頷いていた。
「既に自分の固有魔法の解析が済んでたのか。してやられたな」
「あなたと直人が戦っている間に、法具が教えてくれたからね。大分サポートしてくれたから結構簡単だったの」
「これはアドバイスする相手を間違えたかもな」
「今更、遅いわよ」
身動きがとれない桐崎に、美咲は遠慮もなく突っ込む。
それに反撃するために桐崎がレーザーを打ち出すが、それをことごとく銀槍を振り回して振り払っていった。
「せやっ! やあっ!」
美咲が至近距離まで桐崎に迫り、とうとう手を伸ばせば石に手が届く位置まで来た時、苦し紛れにレーザーを撃っていた桐崎が動いた。
「考えは悪くない。だけど少し詰めが甘いな」
そう言って、桐崎は両手を自分の足元へ向けて打ち出し、氷を破壊したのだ。
その自由になった足で、伸ばされた手を蹴りあげて軌道を変えた。
これには美咲も驚きを隠せないが、しかしそこで止まるほど、美咲も軟ではなかった。
「ま、だ!!」
蹴り上げられた威力を利用して、そのまま体を回転させ、振り上げた足を桐崎の顎にぶつけた。
言わばサマーソルトキック。
まさに、あいつの運動神経ならではの技だ。到底真似できる気がしない。
桐崎もこれには対応出来なかったのか、顎に強烈な蹴りを食らって体が宙に浮く。
その隙を見逃さず、美咲は倒れかかる桐崎の首元に再度手を伸ばす。
だが、そこで桐崎が勝ちを譲るほど甘くないということを忘れていた。
「なっ!?」
突然、美咲が立っている真下のアスファルトから、レーザーが飛び出して行く手を阻んだ。
なぜそんな所からレーザーが飛び出してきたのか、それは桐崎足元に空く穴を見れば見ればわかった。
「痛って、今のは流石に効いた。ちょっと冷やっとしたな」
顎をさすりながら、桐崎は立ち上がる。
恐らくだが、桐崎は美咲に蹴り飛ばされた瞬間、魔法を発動させて自分の足元へ放ったのだろう。
それを操作して、美咲が詰め寄った瞬間にレーザーを飛び出させた、と考えれば辻褄が合う。
なんて使い方しやがるんだ。ここまで応用が効くとは思ってもみなかった。
「いい加減、その飄々とした態度ムカついてきた」
「いい意気だ。なら、俺も20%くらい力を出させて貰おうか」
そう言うと桐崎の両手から発せられるレーザーが、まるで鉤爪のような形をする。
鉤爪の長さは30センチ程で、左右合わせて10本だ。
「これが俺の固有魔法、熱光烈爪だ」
今まで俺達に撃ってきたレーザーは、あくまでこの力の劣化版だったってことかよ。
これで20%って、嫌になってくるな、まったく。
それにしてもやばい、あの桐崎からはさっきまでと違う雰囲気を感じる。
そのギラつくような目を俺たちに向けつつ、強い戦意と対比するようにさっきまでのような緩い声で語りかけてきた。
「固有魔法を使う上でのコツ、応用編。それは魔法の名前だ。名前を言うだけでイメージがより固まって魔法の威力も増すようになる。『アームズ』もイメージを補助するために発言したろ? そして、魔法の名前だけでなく技も名前をつけるだけで威力が変わる」
そういえば、そうだったな。
イメージの補助をするには名前を言うことか。確かに重要なことだよな、名前は。
物や人を呼ぶ時、その名前から形を連想したりする。そう考えれば納得がいく。
だけど、取り敢えず俺は固有魔法を扱えるようになってからだけどな。
「それにしても、どうやらさっきみたいには行かないみたいだな。……美咲、無理はするなよ」
「うん、直人もね」
互いに集中し、桐崎の行動に備える。
近づいたらすぐ八つ裂きにされそうな恐怖が俺を襲うが、なんとか抑えこむ。
怖気づいたら負けだ。ここは怖くても前に出る!
俺は緊張して固まっていた体を動かし、一気に距離を詰め寄った。
そして刀で一閃するも、またも軽く後ろにステップを踏まれ躱されてしまう。
「相手に気圧されずに前に出る。これはなかなか称賛に値する行動だな」
桐崎はそう言いつつ、素早く両手の爪で俺の首を掻こうとする。
俺はそれに危機感を感じ、大きく後退。
そして入れ替わるように、今度は美咲が前に出た。
「てやあぁぁ!!」
氷の槍で桐崎を突こうとするが、奴のレーザーで受け止められる。
そしてそれで終わらず、桐崎は次の行動に出た。
「乱咲き」
奴がそう呟いた瞬間、鉤爪が長さを増し、鞭のような動きで氷の槍を文字通り粉々にした。
その光景を見た俺は、桐崎の爪が美咲に襲いかかる前に、美咲の腕を掴んで後ろに引いた。
お陰で、桐崎の爪は美咲の肌に触れることは無く宙を裂いた。
まさに間一髪。
美咲は手短に俺に礼を言うと、銀槍を構えて桐崎へと向き直る。
「……そんな必殺技持ってるとか卑怯じゃない?」
「これが必殺技だと思ったんなら、お前らの不合格は目に見える」
「勝手に決めつけてんじゃ、無いわよっ!!」
美咲は後退して桐崎との距離を稼ぐと、同時にその手を空に向けて掲げる。
すると、桐崎の頭上に巨大な氷塊が出来上がり、押し潰さんと落下した。
「この短時間で固有魔法を使いこなせているのは良いことだ。だが、物量が大きいだけで勝てると思ったら大間違いだ」
桐崎は右手で指鉄砲を作ると、その指先からレーザーが撃ちだされて、氷柱を破壊した。
しかし、自分の攻撃が止められたのにも関わらず、美咲は笑みを崩さなかった。
「かかったわね。砕けた氷も私の制御下にある。つまり、あんたは私に攻撃のチャンスを与えたってことよ!」
その巨大な氷塊の破片は、一つ一つが尖った小さな氷柱に形を変えた。
そうか、元々美咲は氷柱を破壊させるために投げつけたのか。
「確かにこれを食らったら危ないか。それじゃ、もう一つ披露するか。―――連葬」
閃光が走ったと思えば、桐崎の目の前で幾つものレーザーが撃ちだされ、氷柱を一つ残らず綺麗に撃ち落とした。
俺達はその光景を、ただ呆然と見ることしか出来なかった。
「この作戦は失敗だな。無駄に大きな氷塊を作ったことによって、魔力を大量に消費する。魔法素人じゃもう魔力切れってところか」
「なんの……こと、かな」
美咲は強気で返すが、荒い息をしている。
俺が駆け寄った瞬間、力が抜けたように倒れこむ。
「おい美咲! 大丈夫か!?」
「……なんか……力が入ら、ない」
美咲の手に持って槍が光の粒子状になり、空へ散る。
この様子はほぼ間違いない。桐崎の言った通り魔力を消失し過ぎたのか。
馬鹿野郎が、後先考えずに突っ走り過ぎだ。
「美咲、少し休んでろ。後は俺がなんとかするから」
俺は美咲を担いで、近くの建物を背もたれ代わりに座らせる。
その場を離れようと立ち上がるが、制服の袖を掴まれる。
「……私も戦う、よ」
「何言ってんだよ、自分で立てないのに戦えるわけ無いだろうが。お前が無理しても何の意味もない。後は俺に任せとけ」
「直人……」
それでもまだ何か言おうとしたが、これ以上言っても俺を説得できないとわかったのか口を閉ざした。
実際俺一人で戦うより、二人で戦ったほうが勝率も上がるんだろうが……。
いや、男のプライドとして、弱った女の子を戦わせるなんてこと出来るわけがない。
そう決心して俺は袖を掴む手を振り解く。そして、美咲は脂汗を滲ませつつも、再度口を開いた。
「合格しなきゃ、許さないから」
「ああ、知ってるよ」
そして、俺は桐崎の前に立つ。
攻撃せずに律儀待っててくれたのは、一応試験という建前上の理由だろう。
「話は終わったか?」
「まだ終わっちゃいないから後で話すさ。このテストに合格した後にでもな」
「俺は期待してるんだ。失望させんなよ」
「勝手に期待して失望するのは結構だけどな」
刀を再び構え、桐崎を見据える。
此処から先は美咲のサポートは無しだ。自分の力だけでどうにかするしかない。
だけど美咲と約束もしたし、合格しないわけにはいかないよな。大体死ぬ気とかさらさら無いから。
しかし、桐崎に勝つには、この武器だけじゃダメだ。美咲みたいに、固有魔法を使わなければ勝機はないだろう。
まだ法具が解析とやらを終えていないのか、未だに固有魔法は使えない。
だったら、固有魔法の解析が終わるまでなんとしても足掻いてみせる。
「おおおおおおおお!!」
俺は駆け出し、刀を桐崎の左腕を狙って振るう。
しかし、このまま行けば防がれるのは大体予想がつく。
だから俺は敢えて、腕を狙った。
俺は左腕に向けて振るおうとしていた刀を、胴に向けた。
簡単なフェイント。だが、今までフェイントを使っていないのが功を奏したのか、桐崎は明らかに驚愕していた。
だが、流石桐崎としか言いようがない。振るった刀は、桐崎の脇腹をかすめただけで、決定打にはならなかった。
桐崎は脇腹を片手で抑えるも、「やるな」と言うように薄く笑っていた。
「突然フェイントを使うから驚いたな。油断していたのもあったが、まあいい。今度は俺の番だ」
そう言いつつ、桐崎は両腕の鉤爪を構え、一足で俺の眼前に詰め寄る。
速いッ!?
これまでと違う速度に、なんとか俺は食らい付く。
まず一撃目の左からくる爪を防ぎ、刀と爪が鍔競り合いのような状態になる。
しかし、桐崎はその状態を良しとせず、左手で俺の空いている腕を狙って鉤爪が唸りを上げた。
そこで俺は、右手の爪を受け流して、素早く左手の爪を弾く。
そこからは、斬って斬っての連続。
もはや一呼吸すら隙を許さないほど、桐崎は手を緩めなかった。
左右上下から繰り出される爪は、虎を連想させるように荒々しかった。
対する俺は防戦一方。桐崎に狩られるのも時間の問題だと、俺でもわかった。
「どうした! そんなもんかお前の力は!!」
俺は為す術もなく徐々に押されて、手足や胴に幾つもの切り傷が出来上がっていく。
そして俺が防御に耐えかねつつあった隙を狙い、桐崎は大きく腕を引き、突き出すように放った。
俺はそれを受け止めるも、疲弊した体で受けきるには重すぎる一撃だった。
そのまま、勢いを殺す事はできずに後方へ押し飛ばされ倒れこむ。
「がっ、あぐ……」
体中限界が近づいてきているのがわかる。だけど、退けない。
俺は荒い息を吐きながら、刀を杖代わりにして立ち上がる。
こっちが疲弊する一方、あれだけの手数で攻めていた桐崎は未だに涼しげにしていた。むしろ、まだ足りないと言わんばかりの様子だった。
「はっ、はっ、はっ」
俺は呼吸が整う前に構えるも、刀を持ち上げる腕が震えていた。
自分でもわかる。桐崎に勝つなんていうのは、簡単なことじゃない。ましてや、俺は自分の固有魔法もまだわかっていない。
「けど、そう簡単に、諦められるかよっ!」
桐崎へ刀を突き出す。だが桐崎の肩から数センチずれた所で、桐崎の固有魔法に阻まれる。
再びレーザーの爪と刀は拮抗し、金属を削るような高い音が鳴り響く。
だが、ここで押し負けてたまるか!
「ッ!!」
突如その俺の思いに呼応したように、刀が赤色の淡い光を放ち始めて、拮抗していた桐崎の固有魔法を徐々に押し始める。
「おお、らあっ!!」
そして、とうとうレーザーを裂いた。
この出来事を桐崎は予想していなかったのか、すぐに体勢は立て直せなかった。
そこに狙いを澄ませた俺の突きが飛び出した。狙いは胸の石。
しかし、その狙いは浅はかだったことに俺は気がついた。
「残念、隙だらけだ」
桐崎は俺の突進をわかっていた上で、レーザーを鉤爪の形から鞭のような形状に変えて、それは滑らかに波打った。
そのレーザーは俺へと一直線に向かってくる。
これを刀で一度払うが、触手のような形状のため完全に払いきれなかった。
回避しようにも間に合わず、レーザーが矢のごとく左肩を貫いた。
「ぐ、ああッ!!」
まるで腕が燃えるような熱と、内側から針で刺されるような痛みが俺を襲い、膝をつく。
桐崎が刺したレーザーを抜いたせいで、傷口から血が流れ出し、藍色のブレザーを赤く染める。
「結構頑張ったが、ここまでか。もう少し出来ると踏んでいたが、俺の見込み違いだったか」
桐崎が座り込んでいる俺に鉤爪状のレーザーを向け、トドメとばかりに腕を振り上げる。
反撃に転じようと思ったが、痛みで動くのが遅れてしまう。
これを食らえばひとたまりもない。それは考えないでも分かった。
だけど、このまま終わっていいのかよ俺。さっき美咲と約束したばかりじゃねえか。
だったら、最後の最後まで諦めるわけにはいかないよな。
「……負けて、たまるかよッ!!」
俺は努声を上げながら右手で刀を振るい、爪を弾き飛ばす。
そして隙の出来た桐崎に、思い切り回し蹴りを打ち込んだ。
その蹴りは、完璧に無防備になった桐崎の腹部に直撃し、数歩桐崎を後退させた。
俺は大きく息を吐くと、痛む左腕を動かして両手で刀を構え直す。
「痛って、どうやらまだ諦めてないみたいだな」
「当たり、前だ。試験に合格する、約束だからな」
ふと、法具が赤色の光を放っていることに気がつく。その光は、俺の武器が桐崎のレーザーを裂いた時に発したそれと同じだった。その直後。
『固有魔法ノ解析ヲ完了。術式ヲ展開シマス』
頭に直接響く機械音声がそう告げると、法具がより一層赤みを増し、法具に掘ってある文字も発光を始めた。
『白属性――訂正。赤属性。固有魔法、紅蓮絶刀。準備ガ整イマシタ』
なんとか、間に合ったみたいだな。
これで桐崎に取った遅れは取り戻せる。
俺は体に馴染んだ正眼の構えを取り、一度呼吸を整えて敵を見据えた。
「紅蓮絶刀」
そう発言した途端、俺の全身が熱気を帯び、体の周りに赤い光が飛び交い始める。そして、不思議と体の底から力が湧き出してきた。
続けて、俺の持つ刀が燃える炎のように紅く染まった。
これで準備は整った。
俺は鋭い目で桐崎を見つめ、紅くなった刀を構える。
それにしても、法具はやっぱり凄いな。さっきまで自分の固有魔法がわからなかったのに、今になって前から知ってたみたいに理解る。
これなら、いける。
「行くぞ、今度こそケリをつける」
俺はそう明言し、桐崎へ駆け出す。
そして、神速とも呼べるであろう速さ。俺はその自分でも信じられないスピードで桐崎に接近した。
「なッ!?」
桐崎は俺の速さに目を剥きつつも、反射的に素早く鉤爪を振るう。
だが俺はこの攻撃に反応し、簡単に避ける事ができた。
その異常な速度を前に、桐崎は冷や汗を浮かべつつも笑っていた。
「なるほど。身体能力の増大、それがお前の能力か」
「いや、そんなのはただの副産物みたいだ」
桐崎の言葉を、俺は即座に否定する。
身体能力の増大。確かにそれは行われている。だけど、それは俺の魔力が爆発したことによって一時的に起こったものだ。
だけど、その増加量は馬鹿には出来ない。何しろ、さっきまで翻弄されていた桐崎を相手に圧倒しているんだから。
「お前の魔法じゃ、俺の魔法には追いつけねえよ」
そして、俺は凄まじい猛攻を加え、桐崎のレーザーの爪と幾度も斬り結ぶ。
しかし、数度打ち合いが行われた途端、桐崎は危険を察知したのか、鉤爪を体の前でクロスさせて盾のようにする。
その盾に刀は阻まれるも、先程とは全く違う威力で桐崎を後方へと押し出す。
そこへ続けてラッシュ。さっきのお返しとばかりに俺は刀を振るう。
桐崎はレーザーの爪で応戦するが、攻撃に転じる余裕はない。
「一撃の威力が、上がってるのかッ」
そう、俺の固有魔法は身体能力の増加ではなく、繰返し攻撃することによって攻撃力を高める魔法だ。
シンプルとは言え、攻撃を続ければその一撃は強大になる。
繰り返した攻撃の際、威力を増した斬撃は、桐崎のレーザーの盾を見事に裂いた。
そこで追加の一撃とばかりに、桐崎に返す刀で切り上げた。
だが、その一撃を受けつつも桐崎は倒れない。
「ッ――連葬!」
桐崎がすぐに切り替え、俺との距離を広げて攻撃に転じてきた。
だけど、今ではこの技すら見切れる。
桐崎が幾多のレーザーを打ち出し、俺を貫こうとするが、俺はその一つ一つを躱し、桐崎へと詰め寄る。
そして、桐崎がレーザーを打ち出すのをやめ、レーザーの爪に切り替える。
近距離で俺を仕留めようと思ったのだろう。だが、その動きが俺に勝利をもたらした。
「遅い!!」
俺は桐崎が攻撃を仕掛ける前に接近し、懐で身をかがめると刀で爪を弾き、振り上げた刀を素早く峰に持ち替えると、そのまま桐崎に振り下ろした。
「がっ!」
苦悶の表情を浮かべる桐崎の胸に輝く赤い石。
俺は、倒れかかる桐崎の首に下げられたそれを奪い取り、その手に収めた。
「この試験、俺達の勝ちだ」
俺はそう言い放ちながら、膝をついた。
さっきまで放出された魔力は消え、刀も同じように消えた。
てか今気がついたけど全身ボロボロで、体中痛い。よくさっきまで戦ってられたな俺。
しかし、それでも勝ったのは事実だ。俺は手に握った赤い石を強く握りしめ、その成果を再度確かめていた。
そんな俺を桐崎が覗き込むようにして、薄く笑みを浮かべた。
「俺の目測は間違いじゃなかったな。まさか、こんな逸材が俺の担当になるとは。世の中わからねえな」
さっき見込み違いとか言ってた奴がよく言う。てか、復活するのは早過ぎるだろ。結構渾身の一撃だったんだぞ、あれ。
それにしても、逸材ってどういうことだ?
「全力じゃなかったとは言え、固有魔法を使う俺を一人で倒すとは恐れいった。固有魔法の力にも結構驚かされたしな。後、トドメを峰でするなんて余裕にも驚いた」
そう言って俺を評価する桐崎。
俺は素直に褒める桐崎に少し驚きつつも、ゆっくりと立ち上がる。
そして、美咲の元へ行こうと思っていた時、後ろから思いっきり何かがぶつかって来た。
軽い衝撃に驚き、俺は首を後ろに回す。
すると、俺の背に抱きつくようにして美咲が顔を当てていた。
突然の出来事で思わず狼狽え、離れるように言おうかと考えたが、美咲の様子を見てそれはやめた。
「本当、馬鹿なんだから。無茶し過ぎだよ」
その声は微かに震えていたのがわかり、美咲に心配を掛けたことを反省した。
確かに、いつも気丈に振る舞ってはいるけど、昔は泣き虫だったな。
最近忘れかけてた事を思い出し、俺は微かに笑った。
「悪かった。けど、約束は守ったから問題ないだろ?」
「問題ない――わけないでしょ!」
そう言って、美咲は俺の正面に立ち、目元を少し赤くしながらも不満をぶつけてきた。
「あんな無茶な戦い方するからでしょうが。なに避けずに攻撃食らってんのよ」
「仕方がないだろうが。あんなウネウネ動かれて躱しきるなんて無理だ。むしろ怪我で済んだなら万々歳――――痛ってえ!!」
俺が言い終える前に、怪我した左肩を美咲は殴りつけた。
この女……、性格破綻してやがる。怪我したところ殴るとか殺す気かよ。
俺は内心で毒突くが、口には出さずにした。
「あれ? 傷口が塞がれてる?」
肩に開いていた傷が、いつの間にか張られた氷によって塞がれていた。
きっと、さっき殴った時に美咲がやってくれたのだろう。
「全く、相変わらず直人は馬鹿なんだから。怪我して喜ぶとかマゾみたい」
「別に喜んじゃいねえよ!」
こいつ、さっきあんなことがあったのにすぐいつものように戻りやがって。
相変わらずだな、まったく。でも、本当無事でよかった。
「それで、テストは俺らが合格でいいんだよな?」
「勿論合格だ。お前らルーキーの実力に、正直ビビってる」
やれやれといい、桐崎は胸ポケットから出したタバコに火をつける。
そして一息吐くと、テストの〆を宣言した。
「これで第一回。フィージア、ローグス魔法学校試験は終了だ」
…………は?
なんかわけの分からない単語が出てきたぞ。
フィージア? ローグス魔法学校? なんだよそれ。
「まだ言ってなかったが、このテストは魔法学校に入学するかどうかの試験だったんだ。それにお前らは見事合格したってわけだ」
「いやいやいやいや。俺達普通に高校受験してもう入学式終わったんだが」
「そんなもん知らねえよ。俺だってやりたくてやってるんじゃない」
知らないって、めちゃくちゃいい加減じゃねえか。
しかもやりたくてやってるわけじゃないって……。
これじゃ、ただの骨折り損じゃねえか。肩に穴開けられてまで得る必要無かったぜ。
俺は今日一番大きいため息をつく。
「そろそろ移動する時間だ。お前ら、行くぞ」
「え? 行くってどこに? 私達下校途中だったんだけど?」
「そりゃ決まってるだろうが。フィージアだよ」
本当何いってんだ? そもそもどこだよそこ。外国なのか? 聞いたことすら無いぞ。
そんな場所にどうやって行こうってんだ。
「どうやって行くかって聞かれれば、こうするんだ」
桐崎は笑みを浮かべながら言うと、俺の持っている赤い石をその手に取る。
そして何かぶつぶつ呟いた瞬間、赤い石が眩しい輝きを放ち始めた。
「それじゃ、新入生2名ご案内だ」
桐崎の言葉が聞こえたが、光によってその姿が見えなくなっていた。
俺達は抵抗する暇もなく、その光に飲み込まれた。