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1章-4

 外に顔を出してもいい。

 そういわれてテセラが外を見たときには、空には夜の帳が下りていた。

 黒く塗りつぶされた空の星は、未だ続く砲撃の音に震えるように瞬いている。

 テセラは音が聞こえるほうを振り向いた。

 木のまばらな荒地の向こうから、天へ向って煙が立ち昇っている。灰色の煙が時折赤く変色する。炎を照り返しているのか。

 直下にあるのは街ではなく、シエナ軍の野営地だと聞いた。同じ国の人が、今もあそこで死んでいる。それを実行したのは、ユイエンの軍人だ。

「敵……か」

 なんとなく単語として理解していても、実感できていなかった気がする。

 ディオが死んだと聞かされた時だって、敵が憎いというより、ディオが死んだなんて信じられないという気持ちだけで一杯だった。手を下した相手のことなんて二の次だった。

 そこで思わず想像してしまった。

 ――イサが、ディオに剣を突き立てる姿を。

 閉じている目の上を、さらに両手で塞ぐ。

 あり得ない事じゃない。

 イサがもし軍を退役していなければ、ディオがたまたま背を向けていたら……。

 でもそんな想像をするのは怖かった。まだ遺体も見つけてないディオが、死んでしまったと認めてしまうみたいで……。

 眼が熱を持って、涙があふれそうだった。

「お兄ちゃん……」

 口の中でそっと呟く。

 母が亡くなるまで、兄のことを名前で呼んだりしなかった。ディオと二人きりになってから、もう大人なんだからと名前で呼ぶようにしていた。甘えてはいけない。二人でお互いを支え合って生きていくのだからと。

 煙を見つめていると、イサに座って食事をとるよう促された。

 手渡されたのはコップに入った水と硬いビスケット。自分の手のサイズぐらい大きなビスケットは、ひと齧りしただけでおなかが一杯になった気がした。水だけ飲み込んだテセラは、寝るとイサに告げた。

 小さくうずくまって、テセラはもう一度毛布を頭から被る。

 そして顔を覆って、唇を噛み締めた。

 ディオを探すこともできなかった。助けてくれたのは敵側の人間だった。何をしているんだろう、自分は。

 泣きそうな気分でテセラはきつく目を閉じた。

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