6章-3
次の日も、翌々日も、結局ディオに会う機会はこなかった。
リヤも全く連絡をくれない。ミデンにすら、顔をあわせていない。
その日、おなかが空いて目が覚めたテセラは、深々とため息をつく。
悩んでも悩んでも、自分ひとりでは解決できそうになくてなきたいくらいなのに、腹の虫が鳴るのを聞いていると、なんだか空しくなってくる。
「…………最低」
よろよろと起き上がった上がったテセラだったが、もう一度枕に突っ伏した。
とりあえず、なんとかしてディオに会って、真意を聞かなくては。
しかしこっそりと探そうにも、扉の外には見張りがいて、とても抜け出せそうにないのが難点だ。
テセラはもう一度起き上がって、服を着た。着替えにおいてあったのは、緑のワンピースにカーディガンだった。部屋へ案内してくれた女性と同じような制服かと思ったので意外だった。警備上、見分けが付かなくなるので嫌なのだろうか。
しかしスカートではさすがに動き難いので、ジーンズもはいておく。
それから部屋の中を細かくチェックしていった。何か武器になりそうなものはないかと思ったが、さすがにナイフやはさみの類は全く無い。鈍器に使えそうなのも水のボトルぐらいだろうか。
窓を見た。
さすがに民間人相手に鉄格子をつける必要はないと考えたのかもしれない。しかも四階の高さだ。ただし軒下には見張りがいるようだったが、巡回制なのか数分立つとまたどこかへ行ってしまった。
テセラはふと思いつき、急いで水のボトルと枕カバーを剥がして浴室へ持って行った。洗面所に枕カバーを拡げ、ボトルを叩きつけて割る。
くぐもった音とともにガラスのボトルは割れた。もう少し調節して割り、口に向って細くなった部分を持ち手に、先がとがった形にした。
今度はベットのシーツをはがした。それをボトルの鋭い部分を使って割く。案外上手くいかない。切り目を入れては手で引き裂くのを繰り返しても、なんとか四分割にするのが関の山だった。それを今度は結ぶ。全部で三メートルちょっとの長さになった。
そして他に何かないかと探し回る。
カーテンは引き裂きにくい。毛布のカバーを外して引き裂いた。これでなんとか六メートルくらいはなる。ベットの端に縄の先端を結びつけた。
それから窓を開けて外をうかがう。
巡回が来て、通り過ぎていった。今だ。
窓の外に即席の縄を垂らし、壁に足を着けてゆっくりと降りた。自分の体重を腕だけで支える機会にめぐり合わせることがないから、すぐに手が震えてくる。それでも、挑戦しないよりましだった。
耐え切れずに二メートル半ほど落下したが、なんとか足から着地できた。地面が芝で良かった。
急に負荷をかけたせいで、まだ腕が震えている。でもそれにかまけてたら見つけられてしまう。テセラは木に隠れながら走り出した。
建物の見取り図なんてわからない。それでもこれ以上のことは思いつけなかった。
とにかく行動しなければ。すぐに掴まるかもしれないが、騒ぎを起こせばディオと話せる機会が生まれるかもしれない。そう思った。
静かな庭を進むと、思いがけずもっと前方で銃声が上がった。何だろう。逃げたテセラを見つけたにしては、騒ぎの起きる方向が違う。
「イサ?」
可能性はある。テセラはできるだけ急いで木立の中を走った。
音の発生源へ進んでいくと、そこが建物のエントランス前だということがわかった。
来た時は真っ暗でほとんど様子がわからなかった庭は、かなり手入れの行き届いたものだった。低く茂る木は刈り込まれて一列にならんでいる。
その先に大勢の軍服を着た人々が見えたので、テセラは茂みの中に隠れ、枝葉の隙間からなんとかその向こうを伺おうとした。
でも見えない。
銃を構える兵士の生垣が邪魔だった。そこまでしているのだから、要注意人物が来たと見ていい。銃声があったわりには皆静かにしているのが不気味だ。兵士たちが動かないので、もう少し建物の方へ体を低くして進んだ。
今度は向う側の様子が見えるようになった。
そこには何人もの兵士を従えるようにディオが立っていた。その視線の先を見て、テセラは声を上げそうになる。
――イサだ。