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みんな幸せになれました  作者: とみやま象


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6/7


 ご出産お疲れさまでございました。


 1年の月日など、あっという間に過ぎ去りましたわねえ。


「ヒャッホー!勝った……勝ったわ!ねえ、見た?わたしの子!めちゃくちゃラブリー!優勝!ヒューヒュー!」


 まあ、出産して間もないというのに指笛まで吹いてお元気でいらっしゃること。安産でようございましたわね。ですが、一応はわたくしのお産ということになっていますので、深夜に品のない声で騒がないでいただけるかしら。


「だって、王太子で次代の王の誕生よ!ラッパを吹いて太鼓を打ち鳴らしたいくらいよ」


 ハイハイ、お子さまは先ほど拝見させていただきましたが、サンドラさまのミルクティーブラウンの髪に殿下の紺色の瞳を受け継いだ健やかで玉のような男子でいらしたわね。お名前はもう決めていらっしゃるの?


「男の子ならジョナサン、女の子ならリーディラって、ふたりで決めていたの。だから、ジョナサン王子よ!」


 さようでございますか。


「ソフィアさまには感謝しているのよ。なんだかんだ苦労かけたわね」


 まったくでございますよ。居もしない綿の子を腹に詰めて暮らしているうちに、うっかりうつ病を発症してしまうぐらいには気苦労いたしました。


「なによーぉ、ディーン・ベルガーに溺愛されてイチャコラ暮らしているじゃないのさ」


 ええ、ディーンさまが側にいてくださるおかげで救われておりますわ。


「わたし思ったのだけど……ディーン・ベルガーって、やっぱり隠し攻略対象だったのかもね。黒髪黒目一族の中で1人だけ銀髪に秘色ひそくの瞳なんて不自然だもの。明らかに何かの匂わせだわ。拾われ子なんじゃない?ゲームの地図にさあ、ズーラリア大陸の北の彼方にミュトス神島っていうのがあって……25年前に白澤はくたくの嫁になった神子姫が、はぐれた息子を捜してどうたら……イベントが発生しなくて謎のままだったけど、実は行方不明の半神子デミゴッドなのかも。年齢的にも合うし」


 まあ……サンドラさまったら、相変わらずひとり言が世迷言で気味が悪いわ。


「面と向かってブキミとか言うな、指をさすな、さした指をくるくる回すな、わたしはトンボか!?」


 目が回って、ついでに首がもげ落ちてしまえばよろしいのに。


「どういう感情よ?怖いこと言うな!」


 たしかに、ディーンさまはご自身のルーツを探っていらっしゃいますけれどね。ふうん……ミュトス神島ですか。サンドラさまのお話は、一応お伝えしてみます。


「あとさー、よくよく考えてみたら、ソフィアさまの母親のフレイア元王女って、絶対に転生者だよね?原作改変のために、学院に通う時期がヒロインのわたしと被らないよう出産時期をずらしたのでしょ!やられたわー!ねえ、そうでしょ!?」


 さあ?存じません。わたくし、母からげえむ?などという話は一切聞いたことがございませんもの。ただ、サンドラさまほどではありませんけれど、わたくしの母も時折、少々独特な物言いをするところが似ていなくもないかも……ええ、うちの母は断じてサンドラさまほどケダモノでもゲテモノでもバケモノでも不気味でもありませんけれど。


「うっさいわ!それで?母親の独特な物言いって、どんなのよ?」


 そうですわねえ……例えば、愛人の座を狙って父に色目を使う女狐との会話中にはよく「耳の穴から指を突っ込んで奥歯をガタガタいわせて差しあげましょうか?」と、特殊な技を繰り出す予告をして、でも、別れ際には「夜道を歩かれる際は背後にお気をつけあそばせね」と安全に留意するよう親切に注意を促して差し上げて、後ろに控える国家公務員を振り返り「旦那様と千代に八千代に平安であるために、あの塵芥ちりあくた混凝土コンクリート詰にしてシュッド港に沈めてきてくださいな」とお願いしておりますわね。こんくり?が何かは存じませんが、ゴミを港に不法投棄してこいなどと頼まれても立場上断れない国家公務員の方を気の毒に思って「大変なお仕事ですわね」と労いましたところ「イエイエ、親方日の丸なので気楽にバラさしてもらって、安生あんじょうやっております」と返ってきたのも意味不明でしたわ。


「めちゃくちゃ怖いのだけど!そして、暗殺者も確実に元日本人じゃないのさ!?ねえ、一体どれだけ転生者がいるわけ?」


 さあ?わたくしに聞かれましても、さっぱりわかりませんわ。


「そりゃあ攻略が暗礁あんしょうに乗り上げもするわ。妊娠中にいろいろ検査を受けている中でも医療が発達しすぎていて驚いたものよ。乙女ゲームのヒロインであるサンドラちゃんは薬草地の娘で妹が病弱だから、咳止めのハーブ茶とかよもぎ蒸しとか、いろいろ作って、王都で感冒が流行ったら、うがい・手洗い・マスク着用の基本的な公衆衛生を促して、孤児院に生姜のど飴を配って民衆から聖女と崇められ、ドレスとコーディネートした布マスクを普及させて一財産稼ぐ予定だったのに……世の中、全然そんな段階じゃなかったものねえ……」


 ヴニール国との技術交換によって、わが国の医科学は、ここ十年ほどで飛躍的に進歩いたしましたからね。


「そう、それ。ソフィアさまが貸してくれたグレゴール・メンデルにルイ・パスツールにアレクサンダー・フレミングにマリー・キュリーに、その他諸々の偉人伝。そこに答えがあったわ」


 うふふ、どうでしたか?翻訳版の出版にはディーンさまとわたくしも、とても尽力いたしましたのよ。感想をお聞かせくださいな。


「読んでねぇわ。どうもこうも、普通は部屋に籠っている妊婦に暇つぶしの本を貸すって言ったらラブロマンスとかミステリーとかの娯楽小説じゃないの?という疑問と呆れが率直な感想だわ。ただね、開かずに積んでいた本の背表紙に並んだ名前が、前世の理科の教科書に出てきた偉人たちだと気づいて、ようやく腑に落ちたのよ。偉人本人か、あるいは偉人を知るもっと後の世界の優秀な医者や科学者が、ある時期ヴニール国に大量に転生してきた結果、この国も影響を受けて発展し、乙女ゲームの世界と大きく乖離かいりしてしまったということよね」


 さようでございますか。


「ムカつくわー。ソフィアさまが『さようでございますか』って返す時って、こっちの話をちゃんと聞いていないわよねえ」


 さようでございますね。


「……そういうところよ、小娘。まあでも、現地人に乙女ゲームの理解を求めてもせん無いことよね。わたしもわかっちゃいるのよ。逆ザマアもので『なんでシナリオ通りにイジメに来ないのよー!』とか絡みに行くヒドインみたいに理不尽なことをするつもりもなかったし、ソフィアさまはムカつく小娘だけど、不幸になればいいなんて思ったことはないの。迷惑をかけて申し訳なかったと反省しているし、力になってくれて感謝しているし、幸せになってほしいと願っているわ。ほんとよ?」


 別に、疑ってはおりませんよ。それに現状、幸せですし。


「いやー……ほんと、結果オーライよねえ。シナリオ崩壊しているのに、ここまでたどり着くとは頑張ったわー、わたし!ブラボー、わたし!」


 ともあれ、本日をもちまして、神誓は果たされましたわね。


「うん、まずは大きな仕事をやり遂げた満足感でいっぱいよ。この先は、王子の育ての母として、妃に上がる日を目指して、益々励むわよ!」


 ご健闘をお祈りいたします。


「ふぅ……夜明けまではまだまだ遠いわね。だんだん眠くなってきたわ……」


 では、わたくしは退出いたしますね。


「あ、待って……ねえねえ、前世のアレコレを話し合う同士がほしいのよー。ソフィアさまのお母さま……暗殺者……いや、どっちも怖いな……前世持ちの誰かを紹介してよー」


 いいえ、わたくしとサンドラさまがお会いするのはこれが最後ですので、それは叶いませんわ。


「……あ、そっか。ソフィアさまは産褥死したことになっているから、深夜のうちに人知れず王宮を出るのね……ムカつく小娘だったけど、お別れとなると寂しいわ……元気でねー、ディーン・ベルガーとお幸せにー、バイバイ……」


 おやすみなさいませ。



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