表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みんな幸せになれました  作者: とみやま象


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/7


「ジョンリード殿下とノーラン伯爵令嬢がご到着されました」


 そう、お通しして頂戴。あっ、わたくしが記入しますから、神誓用紙の束はこちら側に積んでくださる?神の指と神の血もこちらに置いてね。


「……ソフィア、待たせてすまない。来てくれてありがとう」


 いいえ、わたくしが早く着いただけで、約束の時間ぴったりですわよ。


 はじめまして、サンドラさま。お噂はかねがねお伺いしておりますわ。


「はっ、はじめまして」


 いやね、入り口に立ったままお二人揃って頭を下げていらっしゃらないで、どうぞ入室して、お座りになって。


「え……ヤバっ、デカっ、キモっ!これって『真実の口』?」


 サンドラさま、神殿は我が国に降臨された天孫を祀る場所であり、地下には古代神王の御霊が眠る霊廟がございます。殊更に萎縮する必要はありませんが、王家の祖はすべてを見て聞いておられるので、言動は慎まれてくださいませね。


「神社仏閣で騒ぐなってことね……あーイエイエ、こちらの話です。ごめんなさい。石像の迫力に驚いてしまったのです」


 こちらにおわす石像は、約束を司るミトラ神にあらせられます。サンドラさまは初めてご覧になるのですね。そうよね、神誓なんて、王家に関わる特殊な事案以外で使われることはまずありませんもの。


 神誓については、殿下から説明を受けていらして?


「えっーと、ソフィア・ラーテル公爵令嬢さまと交渉……いえ、お慈悲に縋って、わたしたちの今後について取り決めを行う場だと聞いています」


 ええ、神のガラスペンに神のインクをつけて神誓用紙に取り決めを記入し、石像の口に投函すれば、決定事項をミトラ神が飲み込んで腹に収めてくださいます。そうして違えられない約束が交わされるというわけ。


「違えれば?」


 神罰を受けるそうですわ。


「神罰とは?」


 さあ?存じません。わたくし、神罰を受けたことなどございませんもの。どこかの何方かと違って、婚姻の貞節を司るヘーラー神に恥じるような真似もしておりませんしね。


「「………………」」


 さて、では協議をはじめましょうか。


「君には迷惑をかけて大変申し訳なく……」


 前置きはよろしいですわ。わたくし、この後の予定が詰まっておりますので、さくさく進めましょう。それで?殿下はどの選択肢をお選びになりますの?


「選択肢……とは」


 もう、陛下ったら。殿下へのお説教と事前説明を怠られましたのね?


「いや、父上からお叱りは受けたよ。そのうえで『後はソフィアにお前の生殺与奪権を委ねておく』と」


 殿下に匙を投げ、わたくしに丸投げされたというわけね。はあ、面倒だわ。


「父上に匙を投げられたのか……僕は」


 そのようですわね、ご愁傷様。


 では、よろしくて?お二人の今後は、大きく分けて3択です。1つ目は、殿下がサンドラ・ノーラン伯爵令嬢との関係を断ち、お二人は生涯二度と接触しない。この神誓が何方にとっても最善の選択ですね。


「そ、それはできない」


「ソフィアさま!どうか、わたしたちの愛をお許しください。ジョンリードさまとわたしは真実の」


 あーハイハイ、御託は結構ですわ。では2つ目の選択肢として、殿下がわたくしとの婚約を解消し、王族籍から抜けてノーラン伯爵家に婿入りすること。たしか、稀少な薬草の産地を治めるノーラン家には、子息がおらず娘が二人。サンドラさまが長女でいらっしゃいますよね?元王子が婿入りする家としては悪くないと思いますわ。


「あっ、それはですね、わたしはずっと王都で暮らすから、うちの家督は医学者のディーン・ベルガー氏を妹の婿に迎えて継がせることになっています」


 まあ、ディーン・ベルガーさまがノーラン伯爵家に?そうですか。下位貴族の、しかも嫡男でもない身分のままでは、研究基盤に限界がありますもの。良いご縁を得られたのですね。伯爵位と潤沢な研究資源を得て、彼の方はこれからますますご活躍なさることでしょう。


「へえ?ソフィアさまは貧乏木っ端貴族のディーン・ベルガーなんかをご存じなのですか?」


 あら、ベルガー家は医学・理学・農学・薬学・工学・生命科学など、あらゆる分野で有名なお家ですわよ。特に8男のディーンさまはゲノム創薬による精密医療の実現など、多くの研究成果を挙げて、何度も表彰されていらっしゃいますわ。


「ゲーム?」


 ゲノムですわ。


「よくわかりませんけど、ソフィアさまはどうして王太子妃に必要のない学問に興味を?しかも、6年制の医科学研究科に進んだりして……展開がおかしいのよね」


 わたくしが何に興味を持って何年学ぼうと王家とラーテル公爵家に許されている限りはわたくしの勝手ですわ。サンドラさまこそ、おかしな方ね。


「だって、卒業と同時に結婚しても21歳でしょう。王太子妃としては嫁ぎ遅れでは?」


 いいえ、医科学研究科は博士課程までありますから、挙式は23歳の春ですわ。同時に陛下が生前退位されてジョンリード殿下の戴冠式が行われる運びです。いやね、殿下ったら、サンドラさまに国家スケジュールをお伝えしていませんでしたの?


「……僕には国家スケジュールとまでの認識はなかった。まだ随分と先の話だし、予定は未定だから……」


 そうね、随分と先ですから、結婚前の火遊び猶予期間はまだまだございますわよ。わたくしとしては、子を生さず、挙式当日までにはキッパリ縁を切ると神誓されるなら、このままお付き合いを続けてくださっても構いません。要は選択肢1の猶予期間7年付お得バージョンですが、いかが?


「ひどいわ!わたしたちの愛は、火遊びなんて不誠実なものじゃない!真実の愛なのよ!」


「そ、そうだ……そんな不誠実な神誓はできない」


 ハイハイ、ご両名こそが不誠実の権化ですよと諭したところで響かないでしょうし、この案は否決ということで。


 ああ、質問はゲノムに興味を持ったきっかけでしたかしら?実はね、サンドラさまの妹婿になられるディーンさまなのですよ。世間は狭いものですね。

 殿下とわたくしは幼い頃から大人に混じって様々な集まりに出席しておりますのよ。まあ、王子とその婚約者が国の前途を担う若者代表として笑顔で座っているだけの、いわばお飾り人形になる公務ですわ。


 月に一度、国立図書館に有識者を招いての懇談会もその一つ。

 当然、この国の叡智を司る方々のお話なんて難しくて、いつも歓談の席でぼんやりしていたのですけれど、ディーンさまがしてくださったエンドウマメの遺伝の法則のお話は楽しくて。それが4年ほど前でしたわ。


 殿下も一緒にいらしたから、覚えていらっしゃるでしょう?


「どうだったかな。有識者にベルガー家の人間は多いから……」


 黒髪揃いの一族の中で、一人だけ髪色の違う方よ。


「ああ……うん、エンドウマメの話はよく覚えていないが、ディーン・ベルガー氏は、まだ学院生の内にエーベル生理学医学賞を受賞した秀才だったか。たしかに、他の有識者たちより格段に若くて頭二つ分も背の高い、人目を引く銀髪の男がいたね」


 ふふっ、とても素敵な方よね。以来、懇談会が楽しみになりましたの。

 近年、ヴニール国との技術交換によって、わが国の医科学は飛躍的に進歩いたしましたでしょう?祝賀パーティーや有識者懇談会でディーンさまとお会いした折にグレゴール・メンデル博士やフレデリック・サンガー博士の偉人伝を翻訳していただき、他国の先進遺伝子研究について見聞を賜るうちに、ゲノム医科学にのめり込んだというわけです。


 学院に入学してからは懇談会に出席できず、久しくお会いしていませんが、ディーンさまが前途に有益なご縁を得られたとの近況を伺って安堵いたしました。彼の方と夫婦になれるなんて、サンドラさまの妹さんが羨ましいですわ。


「そりゃまあ、ヒロインの妹の婚約者でしかないモブのくせに、攻略対象者に勝るとも劣らぬイケメンですけど、台詞一つない、研究バカ揃いのジリ貧子爵家8男坊設定じゃねえ……ああイエイエ、つまり、妹のサビーネは幼い頃から虚弱で他家へ嫁ぐことは難しいので、優秀な医学者を婿にすれば生き長らえるし、相手は資源と実験体と伯爵位が手に入ってウィンウィンってことでして。わたしは幸い学業成績が良くて文官試験に受かり、王宮に働き口がありますので、田舎の伯爵領には戻る必要がないのです」


 あらあ、そういうことでしたら尚更、殿下とともに領地にお戻りになっては?虚弱体質ならば、妹さんは子を望めないかもしれませんでしょう?伯爵家の補佐として執務を担い、殿下とサンドラさまの子を次代の後継に据えて、二家族でノーラン伯爵家を盛り立てていかれるのがよろしいかと思いますわ。


「イヤよ!わたしはっ、愛する人が王子さまじゃなくても、王都で暮らせなくても、伯爵位すらない補佐になっても、どんなかたちであれジョンリードさまと一緒にいられるだけでいいのよ?もちろん、わたしはね!」


「ありがとう、サンドラ」


「でもでも、ジョンリードさまが王になる未来を閉ざされるなんて絶対にダメです!」


 殿下が王になる未来の門を全力で閉ざしにかかっているのはサンドラさまなのですが、ご自覚は……ないようですわね。


「ひどいっ!ソフィアさまはひどい!自分が愛されないからって、ジョンリードさまに愛されるわたしが憎くてたまらないのね!?」


 あのう、部屋が狭いので、大声で叫ばれると耳が痛いです。煩くてたまらなくて、サンドラさまへの憎しみ指数が爆上がりしそうですわ。もう少し声を抑えていただけませんこと?


「サンドラ、落ち着いて。ソフィアも、あまりサンドラにいじわるを言わないでおくれ。大丈夫、僕はソフィアのことだって、愛していないわけじゃない。何しろ、君が生まれた瞬間から16年もの年月をずっと婚約者として過ごしてきたのだから。だけどね、君への愛は妹に対する家族の情で、サンドラに抱いている真実の愛とは違う」


 はあ……愛はともかく、わたくしもまだ、殿下への家族の情はそれなりに残っていましてよ。幼い頃は二人目のお兄さまのように慕い、長じるにつれ、4つも年上なのに弟よりも手がかかると呆れ、今現在は、面倒くさいが見捨てるのもかわいそうな殺処分寸前の駄犬をどうにか救ってやる手立てはないものかと、せつない気持ちに苛まれております。


「ごめん、せつなくさせてごめんね、ソフィア。どんなひどい罵りも甘んじて受けるよ。僕が悪いのはわかっている。君の求める愛を返せない僕を許してほしい」


 いいえ、殿下は全くわかっておられませんわ。ああ……話が随分と横道に逸れてしまいましたので、協議に戻りましょう。


 今わたくしが求めているのは、2つ目の選択肢を選ぶか否かの返答です。

3秒以内にYESかNOでお答えください。王族籍から抜けてサンドラさまと結婚し、ノーラン伯爵領で妹夫婦の補佐として、幸せに暮らしますか?


 3…2…1……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ