8話
1. 終わりの予感は、静かにやってくる
「卒論、あと何ページ?」
「……あと3ページ。でも、進まない」
中村ゆい(教育学部4年)は、図書館の窓際でパソコンを開いたまま、空を見ていた。
冬の光が、静かに差し込んでいた。
その光の中に、彼の姿はなかった。
——最近、LINEの返信が遅い。
——会う約束も、なんとなく流れる。
——“忙しい”の言い方が、ちょっと冷たい。
「終わりって、こうやって来るんだな」
心の中で、そうつぶやいた。
2. 卒論と恋の共通点
「卒論って、恋に似てない?」
カフェで、あかりに言った。
「え、どういうこと?」
「最初はやる気あるのに、途中で迷って、最後は“これでいいのかな”って思いながら提出する」
「それ、恋の提出って何?」
「別れ話、かも」
「……ゆい、別れたの?」
「まだ。でも、たぶん、もう終わってる」
「じゃあ、卒論と同じだね。
“終わってるのに、提出できない”」
ゆいは、笑った。
でも、目の奥が、少しだけ熱かった。
3. 提出ボタンを押す勇気
その夜、彼からLINEが来た。
「ごめん、最近バタバタしてて。
ちょっと距離置きたいかも」
“距離”って、どのくらい?
“置く”って、どこに?
“かも”って、逃げ道?
ゆいは、返信を打っては消した。
何度も、何度も。
でも、最後に送ったのは、たった一行だった。
「わかりました。お疲れさまでした」
——それは、卒論の提出ボタンを押す瞬間に似ていた。
——もう戻れない。
——でも、どこか、ほっとしていた。
4. 恋の提出完了
翌朝、ゆいは卒論を提出した。
USBを差し込み、ファイルを選び、アップロード。
確認画面。
提出ボタン。
クリック。
——完了。
その瞬間、なぜか涙が出た。
卒論のせいか、恋のせいか、わからなかった。
でも、どちらも、終わった。
そして、こう思った。
“終わるって、悲しいだけじゃない。
終わらせるって、強さかもしれない”




