4話
1. 焚き火と沈黙
ゼミ合宿の夜。
山のロッジ。星空。焚き火。
——恋が始まりそうな空気、満点。
中村ゆい(教育学部3年)は、丸めたブランケットを抱えて座っていた。
周囲では、ゼミ仲間が輪になって話している。
「好きな人、いる?」
「えー、言えないよー」
「じゃあ、好きなタイプは?」
その空気が、ちょっとだけ苦手だった。
でも、嫌いじゃない。
でも、入れない。
でも、聞いていたい。
——恋って、話すものなの?
——それとも、黙ってるもの?
2. 恋愛未経験の沈黙
「ゆいちゃんは、好きな人いないの?」
男子に聞かれた。
声は優しかった。
でも、質問は鋭かった。
「……うーん、わかんないです」
「そっか。でも、今日の星、きれいだね」
「はい……」
——それだけで、ちょっとドキドキした。
——でも、それが“恋”なのかは、わからなかった。
恋愛未経験。
それは、恥ずかしいことじゃない。
でも、ちょっとだけ、置いていかれる気がする。
3. 恋の空気に巻き込まれる
焚き火の火が、ぱちんと弾けた。
その音に、ゆいは少しだけ肩をすくめた。
その瞬間、隣にいた男子が、そっとブランケットをかけ直してくれた。
「寒くない?」
「……大丈夫です」
「そっか。でも、無理しないでね」
——その言葉が、火よりもあたたかかった。
でも、ゆいはまだわからなかった。
これは、恋なのか。
それとも、ただの優しさなのか。
でも、わからないままでいい気もした。
今は、ただこの空気に、巻き込まれていたかった。
4. 恋のトラップ
翌朝、ゼミの女子たちが話していた。
「ゆいちゃん、昨日の夜、いい感じだったじゃん」
「えっ、そうですか?」
「男子の方、絶対気になってるって。あのブランケットのとこ、見てたよ」
ゆいは、笑ってごまかした。
でも、心の中では、何度も再生されていた。
焚き火の音。
星空。
あの言葉。
——恋って、トラップみたい。
——気づいたら、落ちてる。
でも、落ちた先があたたかいなら、
それも悪くない。




