3話
1. スーツと恋の違い
「恋って、スーツみたいなもんだと思ってた」
高橋すず(経済学部3年)は、就活セミナーの帰り道、そう思った。
サイズが合って、色が好みで、動きやすくて、コスパが良ければ買い。
でも、今日のセミナーで出会った男子は、なんか違った。
スーツは黒だった。ネクタイは青。笑顔は、ちょっとずるい。
名刺交換のとき、指が触れた。
その瞬間、心拍数が上がった。
——それ、面接じゃなくて恋活じゃない?
2. LINEは投資か浪費か
「LINE、来た?」
カフェで、すずはひなたに聞かれた。
「来た。“今日はありがとうございました。またどこかで”って。これ、脈あり?」
「“またどこかで”は、恋の保留ボタンだよ」
「でも、スタンプが“笑顔のうさぎ”だった。あれ、好感度高めじゃない?」
「それ、うさぎじゃなくて期待値の罠」
「恋って、期待値で動くの?」
「女子大生は、恋に関しては全員、行動経済学者だよ」
すずはスマホを見つめた。
“またどこかで”の“どこか”って、どこ?
キャンパス?セミナー?それとも、LINEの中?
3. 恋のリスク管理
「恋って、リスク高すぎない?」
すずは、経済学部のゼミで発表した。
「感情の変動幅が大きすぎる。しかも、情報非対称。相手の気持ちが見えない。これ、投資対象としては不安定」
教授が笑った。
「でも、リスクを取らなきゃ、リターンは得られないよ」
その言葉が、なぜか刺さった。
教授の言葉なのに、彼の声で再生された。
——恋って、リスク管理できるの?
——それとも、リスクごと好きになるしかないの?
4. 境界線、ぼやける
その夜、すずはLINEを送った。
「今日はありがとうございました。次、もしまたセミナーで会えたら、今度はコーヒーでも」
送信。
既読。
返信:
「ぜひ。コーヒー、好きです」
すずはスマホを伏せた。
恋と就活の境界線が、少しだけぼやけた。
でも、ぼやけた先にあるものは——
たぶん、ちょっとだけ甘い。




