2話
1. 先輩は、恋か、演出か
「好きって、どこからが“恋”なんだろうね」
演劇サークルの稽古後、あかりは舞台袖でつぶやいた。
誰に言ったわけでもない。けど、誰かに聞いてほしかった。
その“誰か”は、たぶん——先輩だった。
先輩・藤堂さん(3年)は、演出担当。
台詞の言い回し、立ち位置、照明のタイミング。
全部、完璧。
そして、声が低くて、笑い方が静かで、
たまに「宮本、そこ、もうちょい感情入れて」って言う。
その“もうちょい”が、心臓に刺さる。
2. 恋と演技の境界線
「藤堂さんのこと、好きなんじゃない?」
カフェで、あかりはひなたに言われた。
「いや、尊敬だと思う。演出家として。人として。あと、声が好き」
「それ、恋じゃん」
「でも、演技中にドキドキするのは、役のせいかもしれないし……」
「じゃあ、相関係数で測ってみれば?」
「え?」
「“恋”と“演技”の相関係数。0.8以上なら恋。0.5以下なら演技。間の0.6〜0.7は、混乱ゾーン」
「それ、統計学部の人に怒られない?」
「女子大生の恋は、統計じゃ測れないよ。でも、測りたいよね」
3. 稽古場の告白未満
その日、稽古場で藤堂さんが言った。
「宮本、今日の台詞、よかった。感情、乗ってた」
「……ありがとうございます」
「でも、ちょっとだけ、素の感情が混ざってた気がする。俺に向けてた?」
「えっ……それは……」
「冗談だよ。演技に集中してくれてれば、それでいい」
あかりは、心臓が跳ねた音を、靴音で誤魔化した。
——恋か、演技か。
——どっちでもいい。
——でも、どっちかにしてほしい。
4. 相関係数、0.72
帰り道、あかりはスマホのメモに書いた。
“藤堂さんとの恋の相関係数:0.72(混乱ゾーン)”
そして、こう付け加えた。
“でも、混乱って、ちょっと楽しい”




