表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁書館の魔導師は、万年2位の恋を綴る  作者: 秋津冴
第二話 禁書館ライフ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/27

2

 禁書館の内部は、迷路のようだった。

 本棚が複雑に入り組んでいて、一度曲がると元の場所が分からなくなりそうだ。

「迷いそうだな……」

 アーガムが呟いた。

「最初はみんなそう言う。だが、慣れればすぐに覚えられる。魔力の流れを感じ取れば、現在位置が分かるようになっている」

 学園長が本棚の間を歩いていく。

 私は周囲の本を見た。

 古びた革装丁の本、金文字で書かれたタイトル、中には鎖で縛られているものもある。

「この本は……」

 一冊の本に目が留まった。

『失われし時の魔法――テンポラル・アーカイブ』

 時間魔法の書だ。

「ああ、それは第一カテゴリーの書だ。時間魔法の理論が記されている。興味があるか?」

「はい……時間魔法は、最も難しい魔法の一つだと聞いています」

「その通り。使いこなせる者は、王国でも数人しかいない」

 学園長が本を取り出した。

「読んでみるか?」

「え、いいんですか?」

「番人の特権だ。ただし、館内でのみ。持ち出しは厳禁だ」

 私は本を受け取った。

 ページを開くと、複雑な魔法陣と、古代文字で書かれた説明が並んでいる。

 美しい……思わず見入ってしまった。

「おい、ネイサ」

 アーガムの声で我に返る。

「お前、めちゃくちゃ嬉しそうな顔してるぞ」

「え?」

「いや、魔導書見てる時の顔、子供みたいだなって」

 彼は笑っていた。

 私は慌てて本を閉じた。

「べ、別に……」

「いいじゃん。好きなもの見てる時は、素直に楽しめばさ」

 アーガムの言葉に、少しだけ心が温かくなった。

「こっちにも面白い本があるぞ」

 学園長が別の本棚を指差した。

「『筋肉強化の古代魔法』――王子、これは君向きだろう」

「マジで!?」

 アーガムの目が輝いた。

「筋肉を魔法で強化できるのか!?」

「ああ。ただし、副作用もある。使いすぎると、筋肉が暴走して制御できなくなる」

「……それはちょっと怖いな」

 アーガムが苦笑した。

 学園長は、さらに奥へと進んだ。

「ここからは、第二カテゴリーだ。禁呪の研究書が並んでいる」

 雰囲気が変わった。

 空気が重く、湿っている。魔力が淀んでいる感じがする。

「この辺りの本は、むやみに触らない方がいい。呪いがかかっているものもある」

「呪い……」

 私は本棚を見た。

 黒い革表紙の本が並んでいる。タイトルも不吉だ。


『大量殺戮魔法の研究』

『人体改造の禁術』

『魂を喰らう魔法』


 読むだけで気分が悪くなりそうなタイトルばかりだ。

「これらの本は、過去に悪用された魔法の記録だ。二度と同じ過ちを繰り返さないために保管しているが、同時に、 悪意ある者が手に入れれば大惨事になる」

 学園長の声が厳しくなる。

「だからこそ、君たちに守ってもらいたいのだ」

「……分かりました」

 私は頷いた。

 この責任の重さを、改めて実感した。

「そして、最奥には第三カテゴリーがある」

 学園長が、館の一番奥を指差した。

 そこには、鉄格子で囲まれた部屋があった。

「あそこには、最も危険な魔導書が保管されている。普段は絶対に近づかないこと。もし何か異変を感じたら、すぐに私に報告しなさい」

「はい」

「さて、一通り案内したが、質問はあるか?」

 アーガムが手を挙げた。

「もし侵入者が来たら、どうすればいいんですか?」

「まず、警報魔法を発動させなさい。この鍵に、緊急通報機能が付いている」

 学園長が鍵の使い方を説明した。

「そして、可能であれば侵入者を拘束する。ただし、無理はするな。君たちの安全が最優先だ」

「分かりました」

「他には?」

 私が手を挙げた。

「あの……なぜ、私たちなんでしょうか。教師の方が、適任だと思うのですが……」

 学園長は少し考えてから答えた。

「実は、教師陣の中に、内通者がいる可能性がある」

「え……?」

「禁書を狙っている者は、学園の内部情報を知っている。侵入の試みがあった時間帯、警備魔法の配置――それらを知っているのは、教師陣だけだ」

 衝撃的な事実だった。

「だからこそ、教師ではない、信頼できる者に任せたい。君たち二人なら、その条件を満たしている」

「俺は王族だから、疑われにくいってことか」

「そうだ。そして、ネイサは新入生で、学園の内部事情を知らない。だから、内通者である可能性がゼロだ」

 なるほど。

 そういう理由か。

 でも、学園長は知らない。

 私が潜入者であることを。

 もっとも、私の任務は第三王子の護衛であって、禁書を盗むことではないが。

「分かりました。引き受けます」

「私も」

 アーガムも頷いた。

「よろしい。では、今日から君たちが禁書館の番人だ。頼んだぞ」

 学園長は満足そうに微笑んだ。


 学園長が去った後、私とアーガムは禁書館に残された。

「なんか、とんでもない仕事を引き受けちまったな」

 アーガムが頭を掻いた。

「本当に……」

 私も溜息をついた。

 でも、内心では少し嬉しかった。

 これで、アーガムの側にいる理由ができた。護衛任務がやりやすくなる。

「でも、まあ」

 アーガムが本棚を見回した。

「悪くねえかもな。こんなにたくさんの魔導書、読み放題だし」

「そうですね……」

 私も同意した。

 魔法を愛する者として、これほど贅沢な環境はない。

「なあ、ネイサ」

「はい?」

「俺たち、いいコンビになれそうだな」

 アーガムが笑った。

「お前は頭脳、俺は筋肉。完璧な組み合わせだろ?」

「筋肉……」

「おい、そこで溜息つくなよ」

 私たちは笑い合った。

 そして、初めての巡回を始めた。

 本棚の間を歩き、異常がないか確認する。

 魔導書の配置、魔法陣の状態、魔力の流れ――全てをチェックしていく。

「これ、慣れるまで時間かかりそうだな」

「そうですね……でも、やりがいはありそうです」

「ああ。つーか、お前、本当に魔導書好きだな」

「え?」

「さっきから、ずっと本見てるだろ。目がキラキラしてるぞ」

 アーガムが笑う。

 私は慌てて視線を逸らした。

「べ、別に……」

「隠さなくていいって。好きなもの見てる時の顔、可愛いから」

「か、可愛い!?」

 思わず声が大きくなった。

「ああ。お前、普段は真面目な顔してるけど、魔導書見てる時は子供みたいに無邪気な顔するんだよ」

「そ、そんなこと……」

 顔が熱くなる。

 誰かに「可愛い」なんて言われたのは、初めてかもしれない。

「照れてんの? 珍しいな」

「照れてません!」

「嘘つけ。顔真っ赤だぞ」

 アーガムがからかうように笑った。

 私は怒ったフリをして、彼から離れた。

 でも、心の中では――

 少しだけ、嬉しかった。


 二時間の巡回が終わり、私たちは禁書館を出た。

 外は既に夕暮れだった。

「疲れたな……」

 アーガムが伸びをした。

「でも、初日としては順調だったんじゃねえか?」

「そうですね。異常もありませんでしたし」

「じゃあ、飯食いに行こうぜ。腹減った」

「え、でも……」

「いいからいいから。お前も腹減ってるだろ?」

 確かに、お腹が空いていた。

 昼食もろくに食べていなかったし。

「じゃあ……お願いします」

「よし! 学食行こう!」

 アーガムは私の手を掴んで歩き出した。

 また握力が強い。

「い、痛いです……」

「おっと、悪い!」

 彼は力を緩めたが、手は離さなかった。

 手を繋いだまま、夕暮れの学園を歩く。

 周囲の生徒たちが、私たちを見て驚いている。

「あ、あれって……」

「第三王子と……新入生の……」

 ひそひそと囁き声が聞こえる。

 恥ずかしい。

 でも、アーガムは全く気にしていない様子だ。

「なあ、ネイサ」

「はい?」

「これから、よろしくな。番人として」

「はい……こちらこそ」

 私は小さく答えた。

 夕日が、彼の赤い髪を染めている。

 横顔が――

 やけに眩しく見えた。

 そして、私は気付いていなかった。

 この任務が、私の運命を大きく変えることを。

 彼との距離が、これから縮まっていくことを。

 さらに――心の中に、小さな恋の種が芽生え始めていることを。


 その夜、私は師匠に報告していた。

「本日、禁書館の番人に任命されました」

「禁書館? ……それは好都合だな」

 師匠が興味深そうに言った。

「禁書を狙う動きがあるらしいです。学園長は、教師陣の中に内通者がいると疑っています」

「ふむ。では、その内通者を探るのも、お前の任務に加えよう」

「はい」

「それと、アーガム王子との関係は?」

「順調です。番人として一緒に行動することになりましたので、護衛がしやすくなりました」

「そうか。引き続き、警戒を怠るな」

「承知しました」

 通信が切れた。

 私はベッドに横たわった。

「お疲れ様」

 ランスが闇から現れた。

「禁書館の番人、か。面白い展開だな」

「ええ……でも、責任が重いわ」

「まあ、お前なら大丈夫だろ。それより――」

 ランスが意味深に言った。

「王子との距離、縮まってるんじゃないか?」

「そ、そんなこと……」

「嘘つけ。手、繋いでただろ」

「あれは……向こうが勝手に……」

「お前、満更でもなさそうだったけどな」

「そんなこと……ない……わよ」

 声が小さくなる。

 ランスは呆れたように溜息をついた。

「まあ、いいけどな。でも、気をつけろよ。任務と恋愛は別だ」

「恋愛なんて……してないわ」

「本当に?」

「……本当よ」

 そう言いながら、胸の奥に温かいものを感じていた。

 アーガムの笑顔。

「可愛い」と言ってくれた言葉。

 繋いだ手の温かさ。

 全てが、心に残っている。

 でも――

 これは、任務だ。

 そう自分に言い聞かせた。

 窓の外には、星が輝いている。

 明日から、本格的に番人としての仕事が始まる。

 そして――アーガムとの時間が、増えていく。

 その事実に、期待と不安が入り混じっていた。

 この時の私は、まだ知らなかった。

 禁書館での日々が、私の心を少しずつ変えていくことを。

 そして、やがて訪れる大きな試練を――

 まだ知らないまま、私は眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ