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禁書館の魔導師は、万年2位の恋を綴る  作者: 秋津冴
第二話 禁書館ライフ

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嫉妬

嫉妬

「ちょっと待ってください! そこは危険です! 今すぐ離れてください!」

朝のホームルームが始まる直前、私は教室の入り口で全力で転校生を止めようとしていた。彼女――エリカ・ローゼンバーグという名前らしい――は、教室に入るなり、いきなり窓際の席にあった魔法実験用の触媒に手を伸ばしていた。その触媒は、昨日の魔法実習で使った不安定な魔力結晶で、本来なら専用の保管庫に収めるべきものだった。

「えー? でも、これ綺麗じゃない? キラキラしてて可愛い♪」

エリカは無邪気な笑顔でそう言った。彼女は背が高く、プラチナブロンドの長い髪を持っていた。サファイアのような青い瞳が大きく、整った顔立ち。まるで人形のような美しさだ。制服も完璧に着こなしていて、リボンの結び方一つとっても優雅だった。

「綺麗だけど触ったら爆発します!」

「え、爆発!?」

エリカは慌てて手を引っ込めた。その拍子にバランスを崩し――

「きゃっ!」

彼女は前のめりに倒れそうになった。私は反射的に魔法を展開しようとしたが――

「おっと」

アーガムが素早く彼女を支えた。彼の大きな手が、エリカの肩をしっかりと掴んでいる。

「大丈夫か?」

「あ……ありがとう……」

エリカは顔を赤らめて、アーガムを見上げた。そして――その瞬間、彼女の瞳がキラキラと輝いた。まるで、星を見つけた子供のような表情だった。

「あなた……誰?」

「ん? 俺はアーガム。アーガム・フォン・エルドリア」

「アーガム様……」

エリカは頬を染めたまま、アーガムをじっと見つめていた。その視線は――明らかに好意を含んでいた。私は、その光景を見て、胸に妙な感覚を覚えた。ざわざわとした、不快な感覚。

「お前、転校生か?」

「はい! エリカ・ローゼンバーグです! 今日からこのクラスでお世話になります!」

エリカは元気よく答えた。でも、その目はずっとアーガムを見つめている。私は――その視線が、なぜか気に入らなかった。


ホームルームが始まり、エリカは正式に自己紹介をした。

「皆さん、初めまして! エリカ・ローゼンバーグです! 趣味は魔法の研究と、お菓子作りです! 好きな食べ物はストロベリータルトで、嫌いなものは特にありません! これから仲良くしてください!」

彼女の明るい自己紹介に、教室は拍手で包まれた。クラスメイトたちは、彼女の美貌と明るい性格に好印象を持ったようだった。特に男子生徒たちは、目を輝かせていた。

「エリカさん、席はここね」

エルザ先生が指した席は――アーガムの隣だった。私の斜め後ろ、アーガムの隣。つまり、私たちの近くだ。

「わあ! ありがとうございます!」

エリカは嬉しそうにその席に座った。そして、すぐにアーガムに話しかけた。

「ねえねえ、アーガム様! よろしくお願いします!」

「おう、よろしく」

アーガムは気さくに答えた。エリカは嬉しそうに笑った。その笑顔が――なぜか、私は気に食わなかった。

――何、この感じ……?

私は自分の胸に手を当てた。心臓が、妙にざわついている。不快で、落ち着かない感覚。初めて感じる、この感情は何だろう。


授業が始まっても、エリカはしきりにアーガムに話しかけていた。

「ねえ、アーガム様。この問題、分かります?」

「ん? ああ、これは……」

「わあ、すごい! 頭いいんですね!」

「いや、そんなことねえよ」

二人の会話が、私の耳に入ってくる。私は教科書を見ているはずなのに、全く内容が頭に入ってこなかった。アーガムとエリカの会話ばかりが、気になって仕方がない。

「アーガム様って、魔法得意なんですか?」

「いや、全然。むしろ苦手」

「そうなんですか? でも、さっきの問題解けてましたよね?」

「まあ、基礎的なのは分かるけど……」

私は、ペンを握る手に力が入っていた。爪が手のひらに食い込んで、痛い。でも、その痛みで少しだけ冷静になれた。

――何やってるんだろう、私は。

授業に集中しないと。でも――二人の会話が、どうしても気になってしまう。

「ネイサさん?」

突然、先生に名前を呼ばれた。

「は、はい!」

私は慌てて立ち上がった。

「この魔法陣の構造について、説明してください」

黒板を見る。複雑な魔法陣が描かれている。いつもなら一瞬で理解できるはずなのに――今日は、時間がかかった。頭が、うまく働かない。

「えっと……これは……」

私は必死に考えた。周囲の視線が、私に集中している。その中に――エリカの視線もある。彼女は、興味深そうに私を見ていた。

「……七層構造の防御魔法陣です」

なんとか答えた。でも、声が少し震えていた。

「正解です。でも、ネイサさん、今日は少し元気がないですね」

「すみません……」

私は座った。心臓が、激しく跳ねていた。恥ずかしさと、焦りと、そして――得体の知れない不快感が、胸の中で渦巻いていた。


昼休み、食堂に向かおうとしたら――エリカがアーガムに話しかけているのが見えた。

「ねえ、アーガム様! 一緒にお昼食べませんか?」

エリカは満面の笑みでそう言った。彼女の手には、可愛らしい弁当箱が握られている。

「ん? 俺、いつもネイサと食べてるんだけど……」

「じゃあ、三人で食べましょう! ね、ネイサさんもいいですよね?」

エリカは私に向かって笑顔を向けた。その笑顔は明るくて、無邪気で――でも、私には、何か計算されたもののように見えた。

「ええ……別に構わないけど……」

私は曖昧に答えた。本当は、断りたかった。でも、理由がない。正当な理由もなく断ることはできない。

「やった! じゃあ、行きましょう!」

エリカは嬉しそうにアーガムの腕を掴んだ。彼の腕に、自分の腕を絡めるように。

その瞬間――私の胸に、激しい痛みが走った。

――何、この感じ……?

息が詰まりそうだった。胸が、ぎゅっと締め付けられる。視界が、少し歪んだ気がした。

「ネイサ、行くぞ」

アーガムが私に声をかけた。でも、私は――彼の顔をまともに見ることができなかった。エリカが彼の腕に絡みついている。その光景を見ると、胸がさらに痛んだ。

「はい……」

私は小さく答えて、二人の後をついていった。


食堂では、エリカがずっとアーガムに話しかけていた。

「アーガム様って、筋肉すごいですよね! 鍛えてるんですか?」

「ああ、まあ。毎日トレーニングしてる」

「すごーい! 私も鍛えたいんですけど、どうすればいいですか?」

「まずは基礎的な筋トレからかな。腕立て伏せとか」

「教えてもらえますか?」

「いいけど……」

二人の会話を聞きながら、私は食事を口に運んでいた。でも、味がしない。何を食べているのか、分からなかった。ただ、機械的に口を動かしているだけだった。

「ねえ、アーガム様。今度、一緒にトレーニングしませんか?」

「ん? まあ、いいけど……」

「やった! じゃあ、放課後とか!」

「放課後は、禁書館の仕事があるから無理だな」

「禁書館?」

「ああ。俺とネイサ、守護者やってるんだ」

アーガムが私の名前を出した。エリカは、初めて私の方を見た。

「へえ、そうなんですか。ネイサさんも一緒に?」

「ああ」

「じゃあ、私も手伝っていいですか?」

「え?」

私は驚いて顔を上げた。エリカは、にこやかに笑っていた。

「禁書館のお手伝い、私もしたいです! アーガム様と一緒なら、楽しそうですし!」

「いや、でも守護者は俺とネイサだけだし……」

「お手伝いくらい、いいじゃないですか! ね、ネイサさんもいいですよね?」

エリカは私に同意を求めてきた。その笑顔は――計算されているように見えた。私を断れない状況に追い込んでいる。

「それは……学園長の許可が必要だから……」

「じゃあ、学園長に聞いてみます! きっと、大丈夫ですよ!」

エリカは自信満々に言った。私は――反論できなかった。胸の中の不快感が、さらに強くなっていた。


午後の授業も、エリカはずっとアーガムに話しかけていた。休み時間も、彼の周りにいた。まるで、彼を独占しようとしているかのように。

そして――私は、その光景を見るたびに、胸が痛んだ。不快で、苦しくて、でも理由が分からなかった。

――何なの、この感じ……?

私は自分の胸に手を当てた。心臓が、不規則に跳ねている。

――私には関係ないはずなのに……

アーガムが誰と仲良くしようと、それは彼の自由だ。私には、口出しする権利なんてない。それなのに――

――なんで、こんなにモヤモヤするんだろう……?


放課後、禁書館に向かった。アーガムは、まだ来ていなかった。おそらく、エリカに捕まっているのだろう。

私は一人で、目録作成を始めた。でも、集中できなかった。頭の中は、アーガムとエリカのことでいっぱいだった。

――彼女、可愛いな……

否定できない事実だった。エリカは、客観的に見て美人だ。明るくて、社交的で、誰からも好かれるタイプ。アーガムだって、彼女のことを気に入るかもしれない。

その考えが――胸を締め付けた。

「ニャア」

突然、足元から声がした。見ると、ランスがいた。

「ランス……」

「どうした? 浮かない顔してるぞ」

「別に……何でもないわ」

「嘘だ。顔に書いてある」

ランスは私の膝の上に飛び乗った。温かい毛並みが、太ももに触れる。

「転校生のこと、気にしてるだろ」

「……なんで分かるの?」

「お前、ずっとイライラしてたじゃないか」

ランスの指摘は正しかった。確かに、私は一日中イライラしていた。でも、その理由が分からなかった。

「イライラって……私、そんなに分かりやすかった?」

「ああ。昼休みの時とか、すごい顔してたぞ」

「すごい顔って……」

「怖い顔」

ランスは容赦なく言った。

「転校生が王子の腕に絡みついた時、お前、すごい顔してた」

その時のことを思い出した。エリカがアーガムの腕を掴んだ時――確かに、私は胸が痛んだ。苦しくて、不快で、でも理由が分からなかった。

「あれは……」

「それが嫉妬だよ」

ランスはあっさりと言った。

「え……?」

「嫉妬。お前、転校生に嫉妬してるんだ」

「し、嫉妬!?」

私は驚いて声を上げた。嫉妬――その言葉を聞いた瞬間、何かが腑に落ちた気がした。

「そんな……嫉妬なんて……」

「してるだろ。王子を取られそうで、焦ってるんだ」

「取られるって……私は別に……」

「別に?」

「私とアーガム様は、ただの仕事仲間だし……」

私は否定しようとした。でも、言葉が続かなかった。

「仕事仲間が、あんなに嫉妬するか?」

ランスの問いに、私は答えられなかった。

「お前、王子のことが好きなんだろ」

「それは……」

「認めろよ。自分の気持ちを」

ランスは真剣な表情で言った。

「好きだから、嫉妬する。当たり前のことだ」

「でも……私には……」

「資格がない、とか言うなよ」

ランスは私の言葉を遮った。

「お前の気持ちは本物だ。それを否定するな」

「……」

私は黙り込んだ。ランスの言う通りだった。私は、アーガムが好きだ。だから、エリカに嫉妬している。彼を取られそうで、焦っている。

その事実を――認めるしかなかった。


しばらくして、アーガムが禁書館に来た。

「悪い、遅くなった」

「いえ……」

私は彼の顔を見ることができなかった。エリカと一緒にいたのだろうか。そう考えると、また胸が痛んだ。

「転校生に捕まっててさ」

やっぱり――

「そう……」

私は短く答えた。声が、少し冷たくなっていた。自分でも気づいた。

「お前、機嫌悪いのか?」

「別に」

「いや、絶対機嫌悪いだろ。顔に書いてあるぞ」

アーガムは心配そうに私を見た。

「何かあったのか?」

「何もないです」

「でも――」

「本当に何もありません!」

私は少し強く言ってしまった。アーガムは、少し驚いた様子だった。

「そ、そうか……」

沈黙が降りた。気まずい、重い沈黙。私は――自己嫌悪に襲われた。

――また、やってしまった……


その日の作業は、気まずいまま終わった。

アーガムは何度か話しかけてきたが、私は素っ気ない返事しかできなかった。嫉妬という感情に、どう対処していいか分からなかったのだ。

「じゃあ、また明日な」

「はい……」

アーガムは寂しそうに去っていった。私は――その背中を見送りながら、胸が痛んだ。

――私、何やってるんだろう……


翌日、状況はさらに悪化した。

エリカは、朝からアーガムにべったりだった。隣の席という有利な立場を最大限に活用して、常に彼に話しかけている。

「ねえ、アーガム様! 昨日の宿題、見せてもらえますか?」

「ああ、いいぞ」

「ありがとうございます! アーガム様って、本当に優しいんですね!」

エリカの甘い声が、教室に響く。周囲の女子生徒たちは、羨ましそうにエリカを見ていた。男子生徒たちは、複雑そうな顔をしていた。

そして私は――ただ、黙って自分の席に座っていた。胸の中の不快感が、どんどん大きくなっていく。

「ねえ、アーガム様。今日のお昼も、一緒に食べませんか?」

「ん? まあ、いいけど……」

「やった!」

エリカは嬉しそうに手を叩いた。その様子を見て――私の胸は、さらに痛んだ。

――彼が誰と食べようと、私には関係ない……

そう自分に言い聞かせた。でも、心は納得していなかった。


昼休み、私は一人で食堂に向かった。アーガムとエリカは、一緒に来るだろう。それを見たくなかった。

でも――

「ネイサ! 待ってくれよ!」

後ろから、アーガムの声がした。振り返ると――彼が一人で走ってきていた。エリカの姿はない。

「アーガム様……?」

「一緒に食おうぜ」

「え? でも、エリカさんと……」

「断った」

アーガムはあっさりと言った。

「え……?」

「俺、ああいうのって苦手なんだよ。ずっとべたべたされるの」

彼は少し困ったように頭を掻いた。

「転校生、いい奴だとは思うけど……ちょっとしつこくてさ」

その言葉を聞いた瞬間――私の胸の中の重いものが、一気に軽くなった。

「そう……なんですか」

「ああ。それに、俺は――」

アーガムは私を見た。

「お前と食べる方が、楽しいし」

ドクン。

心臓が、激しく跳ねた。顔が、一気に熱くなる。

「な、何言ってるんですか……」

「本当のことだよ。お前といる方が、気を遣わなくていいし」

アーガムは笑った。その笑顔が――眩しすぎて、直視できなかった。

「だから、これからもよろしくな。相棒」

「……はい」

私は小さく答えた。胸が、温かかった。さっきまでの不快感は、完全に消えていた。代わりに――幸せな気持ちが、胸いっぱいに広がっていた。


その日の午後、エリカは少し不満そうだった。

「アーガム様、お昼断られちゃった……」

彼女は友達にそう愚痴っていた。私は、その声を聞きながら――少しだけ、優越感を覚えた。

――私って、意地悪だな……

でも、その気持ちを抑えることはできなかった。


放課後、禁書館での勤務。

今日は、アーガムが時間通りに来た。

「よお、ネイサ」

「はい」

私は笑顔で答えた。昨日とは違う、自然な笑顔。

「お前、今日は機嫌いいな」

「そうですか?」

「ああ。昨日は、なんか不機嫌そうだったけど」

アーガムの指摘に、私は少し恥ずかしくなった。

「昨日は……ちょっと疲れてただけです」

「そっか。まあ、無理すんなよ」

「はい」

私たちは、いつものように仕事を始めた。目録作成、書架の整理――淡々とした作業。でも、彼と一緒だから、楽しい。

「なあ、ネイサ」

「はい?」

「転校生のこと、どう思う?」

突然の質問に、私は戸惑った。

「え? どうって……」

「いや、女子の意見を聞きたくてさ」

アーガムは真剣な表情で聞いてきた。

「あの子、俺に好意持ってるっぽいんだよな」

「……そうみたいですね」

「でも、俺……ああいうの、苦手なんだよ」

「苦手……?」

「ああ。なんていうか、分かりやすすぎるっていうか……」

アーガムは少し困ったように言った。

「俺、ああいう積極的な子、苦手なんだよな」

その言葉を聞いて――私は少しほっとした。彼は、エリカに興味がない。それが、嬉しかった。

「でも、どう断ればいいか分かんなくてさ」

「正直に言えばいいんじゃないですか?」

「正直に?」

「はい。『そういう気持ちには応えられない』って」

「うーん……でも、傷つけちゃいそうで……」

アーガムは優しいな、と思った。エリカに興味はないけど、傷つけたくないと思っている。その優しさが――また、私の心を掴んだ。

「でも、曖昧にしておく方が、後々困ると思いますよ」

「そうかな……」

「はい。早めにはっきりさせた方が、お互いのためです」

私は冷静にアドバイスした。アーガムは、少し考え込んだ。

「分かった。じゃあ、そうするわ」

「はい」

私は笑った。胸の中の不安が、完全に消えていた。彼は、エリカに興味がない。それが――何より嬉しかった。


その夜、寮の部屋でランスと話していた。

「今日は、機嫌いいな」

「そう?」

「ああ。昨日までの暗い顔が嘘みたいだ」

ランスは尻尾を揺らした。

「何かあったのか?」

「アーガム様が……転校生に興味ないって言ってたの」

「ほう」

「それで……ほっとしちゃった」

私は正直に答えた。ランスは、満足そうに頷いた。

「それが嫉妬だって、分かったか?」

「ええ……分かったわ」

私は認めた。

「私、嫉妬してた。エリカさんに」

「そうか」

「彼がエリカさんと仲良くしてるのを見て……胸が痛かった」

私は胸に手を当てた。

「でも、彼は興味ないって言ってくれて……すごく嬉しかった」

「それが恋だ」

ランスは言った。

「好きな人が、他の誰かと仲良くしてるのを見ると、嫉妬する」

「好きな人が、自分だけを見てくれると、嬉しい」

「それが、恋」

ランスの言葉に、私は頷いた。

「そうね……これが、恋なのね」

「ああ」

私は窓の外を見た。夜空には、星が輝いている。

「私……アーガム様が好き」

声に出して言った。もう、迷いはなかった。

「彼のことが、本当に好き」

その言葉を口にした瞬間――何かが、胸の中で確かなものになった気がした。

「好きだから、嫉妬した」

「好きだから、彼の笑顔が見たい」

「好きだから……守りたい」

私の気持ちが――はっきりと形になった。

これが、恋。

これが、愛。

アーガムへの想いが――もう、否定できないほど大きくなっていた。


翌日、エリカは相変わらずアーガムにアタックしていた。

でも――私は、もう気にならなかった。彼が興味を持っていないと分かったから。それに――

「ネイサ、一緒に食おうぜ」

アーガムは、今日も私を誘ってくれた。

「はい」

私は笑顔で答えた。エリカは、少し不満そうな顔をしていた。でも、私は――もう、罪悪感を感じなかった。

だって、彼が選んだのは私だから。

それが――何より嬉しかった。


数日後、アーガムはエリカにはっきりと伝えたらしい。

「そういう気持ちには応えられない」と。

エリカは、最初はショックを受けていたようだが――すぐに立ち直った。彼女は明るい性格だったから、すぐに他の友達を作り、学園生活を楽しんでいた。

そして――私とアーガムの関係は、元に戻った。いや、元よりも少し――近くなった気がした。

「なあ、ネイサ」

ある日、禁書館で彼が言った。

「何ですか?」

「お前がいてくれて、良かった」

「え?」

「転校生の件の時、お前がいてくれたから、乗り越えられた」

アーガムは笑った。

「ありがとな」

その言葉に、私の胸は温かくなった。

「いえ……私こそ、ありがとうございます」

「ん? 何が?」

「色々と……」

私は曖昧に答えた。本当のことは言えない。あなたのおかげで、自分の気持ちがはっきりしました――なんて。

「変な奴」

アーガムは笑った。

私も笑った。

そして――心の中で、改めて誓った。

彼を守り続ける、と。

愛しているから。

この気持ちは――もう、消えることはない。


その夜、私は一人で星空を見ていた。

窓を開けて、秋の冷たい風を感じながら。

「恋、か……」

呟いた。

嫉妬という感情を通して、私は自分の気持ちを再確認した。

アーガムを愛している。

誰にも渡したくない。

彼の笑顔を、独占したい。

それが――私の本音だった。

「でも……」

私は拳を握った。

「この恋は、叶わない」

年齢を偽っている。正体を隠している。全てが嘘の上に成り立っている関係。

いつか、真実を告げなければならない。その時――彼は、私を許してくれるだろうか。

答えは、分からない。

でも――

「それでも、愛し続ける」

私は決意した。

たとえ、この恋が叶わなくても。

たとえ、彼に拒絶されても。

私は、彼を愛し続ける。

それが――

私の、選んだ道だから。


「ニャア」

ランスが寄り添ってきた。

「まだ起きてたのか」

「ええ……考え事をしてて」

「恋の悩みか?」

「……そうね」

私は笑った。

「辛いか?」

「辛いけど……幸せよ」

私は正直に答えた。

「好きな人がいるって、こんなに幸せなことだったのね」

「そうか」

ランスは満足そうだった。

「お前、いい顔してるぞ」

「ありがとう」

私はランスを撫でた。柔らかい毛並みが、手のひらに触れる。

「でも、これから大変だぞ」

「分かってる」

私は頷いた。

「恋を隠し続けるのは、辛いからな」

「でも……仕方ないわ」

私は空を見上げた。星が、輝いている。

「これが、私の運命だから」

「運命、か」

ランスは少し悲しそうだった。

「でもな、運命は変えられるかもしれないぞ」

「え?」

「お前次第だ」

ランスは意味深に言った。

「いつか、真実を告げる時が来る。その時――お前がどう行動するかで、運命は変わる」

「……そうね」

私は呟いた。

いつか、真実を告げる時が来る。

その時――

私は、どうするのだろう。

答えは――

まだ、出せない。

でも、一つだけ確かなことがある。

私は、彼を愛している。

その気持ちだけは――

絶対に、変わらない。

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