仲間たちとの交流
「ちょっと待ってください! そんな告白の仕方は絶対に失敗します! というか、それは告白じゃなくて脅迫です!」
私は必死にクラスメイトを止めようとしていた。
爆破テロ事件から一週間。学園も禁書館も徐々に日常を取り戻しつつあった。そして今日は珍しく、私はクラスメイトたちと昼休みを過ごしていた。
場所は学園の中庭。リリアと、その友人たち数人と一緒に。
そして今――一人の女子生徒が、とんでもない告白の練習をしようとしていた。
「え、でも私本気だし! 『付き合ってくれないと、呪いをかけるわよ!』って言えば、ドキドキするでしょ?」
「ドキドキじゃなくて恐怖です! 普通に怖いです!」
その女子生徒――名前はマリア――は魔法科の生徒で、少し変わった性格をしていた。
「でも、インパクトあるじゃん」
「インパクトありすぎます! 相手は逃げますよ!」
「そっか……」
マリアはしょんぼりした。
リリアが笑いながら言った。
「マリア、もっと普通に告白しなよ」
「普通って、例えば?」
「『好きです。付き合ってください』とか」
「それじゃつまんないじゃん」
「つまらなくても、それが王道なの!」
他の女子生徒たちも笑っていた。
私は溜息をついた。
恋愛の話は、本当に苦手だ。
「ねえ、ネイサはどう思う?」
突然、マリアが私に振ってきた。
「え? 私ですか?」
「うん。ネイサって、なんか恋愛に詳しそうだし」
「いえ、全然詳しくないです」
「そうなの? でも、アーガム様とあんなに仲いいじゃん」
「あれは仕事です」
「仕事ぅ?」
マリアが不思議そうに首を傾げた。
「禁書館の守護者として、一緒に働いてるだけです」
「でもさー、二人ともいつも一緒にいるし、お似合いだよね」
「似合ってません!」
私は慌てて否定した。
リリアがニヤニヤしながら言った。
「ネイサ、顔赤いよ?」
「赤くないです!」
「赤いって」
「赤くありません!」
女子生徒たちが笑った。
私は恥ずかしくて、顔が本当に赤くなってきた。
「まあまあ、落ち着いて」
リリアがなだめた。
「ところで、ネイサは恋愛経験ある?」
「え……?」
突然の質問に、私は固まった。
「ないです……」
「マジで!?」
マリアが驚いた。
「ネイサって綺麗だし、絶対モテるでしょ?」
「モテません」
「嘘だー」
「本当です。ずっと魔法の研究ばかりしてきたので……」
「へえ……」
女子生徒たちが興味深そうに見てきた。
「じゃあ、好きな人とかもいないの?」
「い、いません!」
私は即答した。
でも――心の中では、アーガムの顔が浮かんでいた。
「ふーん……本当に?」
リリアが意味深に笑った。
「本当です!」
「分かった分かった」
リリアは笑いながら手を振った。
「でもさ、ネイサに相談したいことがあるんだ」
「相談……ですか?」
「うん。実はね――」
リリアの相談は、こうだった。
彼女には、密かに想いを寄せている男子生徒がいる。
でも、どうやって距離を縮めればいいか分からない。
「だから、アドバイスが欲しいんだ」
「私に……ですか?」
「うん。ネイサって、冷静だし、的確なアドバイスくれそうだし」
「いえ、恋愛のことは全く分からないので……」
「そこをなんとか!」
リリアが懇願してきた。
他の女子生徒たちも、期待の目で見ている。
私は困った。
恋愛経験ゼロの私が、どうやってアドバイスすればいい?
でも――断るのも悪い気がする。
「分かりました……できる範囲で」
「やった!」
リリアが喜んだ。
「じゃあ、まず何からすればいい?」
「えっと……」
私は必死に考えた。
恋愛……距離を縮める……魔法の理論なら分かる。
でも、恋愛の理論なんて――待って。
魔法と同じように考えればいい。
目的があって、手段がある。
目的は「距離を縮める」。
手段は――
「まず、相手の興味を知ることです」
「興味?」
「はい。相手が何を好きで、何に興味があるのか」
私は魔法の研究計画を立てるように説明した。
「それが分かれば、共通の話題ができます」
「なるほど!」
リリアが目を輝かせた。
「それで?」
「次に、自然な接点を作ります」
「自然な接点?」
「はい。例えば、同じ授業で隣の席になるとか、図書館で偶然会うとか」
「おお、なるほど!」
「そして、少しずつ会話を増やしていきます」
「ふむふむ」
リリアが真剣にメモを取り始めた。
他の女子生徒たちも、熱心に聞いている。
「会話が増えたら、次は二人きりの時間を作ります」
「二人きり!?」
「はい。でも、自然に。例えば、『一緒に勉強しない?』とか」
「なるほどね!」
「そして、相手の反応を見ながら、少しずつ距離を縮めていく」
私は淡々と説明した。
まるで、魔法の実験手順のように。
「最終的に、相手も自分に好意を持っていることが確認できたら――」
「できたら?」
「告白します」
「おおお!」
女子生徒たちが歓声を上げた。
「ネイサ、すごい! めっちゃ分かりやすい!」
「本当に恋愛経験ないの? 嘘でしょ?」
「いえ、本当にないです……」
私は困惑した。
ただ、魔法の理論と同じように説明しただけなのに。
「じゃあ、さっそく実践してみる!」
リリアが立ち上がった。
「え? 今からですか?」
「うん! 好きな人、今図書館にいるはずだから!」
「そんな急に……」
「大丈夫大丈夫! ネイサのアドバイス通りにやってみる!」
リリアは嬉しそうに走っていった。
私は不安になった。
本当に、大丈夫なのだろうか……
「ネイサも一緒に見に行こうよ!」
マリアが私の手を引っ張った。
「え、でも……」
「いいからいいから!」
私は女子生徒たちに連れられて、図書館に向かった。
図書館に着くと、リリアが既に男子生徒に話しかけていた。
その男子生徒――名前はエドワードらしい――は少し驚いた様子だった。
私たちは遠くから見守った。
「どうなるかな……」
「ネイサのアドバイス通りにやれば、大丈夫でしょ」
「そうだといいんですけど……」
リリアとエドワードが会話している。
最初は少しぎこちなかったが、徐々に打ち解けてきたようだ。
そして――二人で一緒に本を読み始めた。
「おお、うまくいってるじゃん!」
「ネイサのアドバイス、効果あるね!」
「いえ、それはリリアさんが頑張ったからで……」
私は謙遜した。
でも、内心では少しほっとしていた。
とりあえず、失敗はしていないようだ。
図書館を出た後、マリアが私に言った。
「ねえ、私にもアドバイスしてよ!」
「え? マリアさんも誰か好きな人が?」
「うん! 実はね――」
マリアの好きな人は、魔法科の上級生らしい。
「でも、その人、いつも真面目で近寄りがたいんだよね」
「真面目……」
「うん。だから、どうアプローチすればいいか分かんなくて」
「そうですか……」
私は考えた。
真面目な人には、真面目なアプローチがいい。
「では、まず魔法の話題で話しかけてみてはどうですか?」
「魔法の話題?」
「はい。相手は上級生なので、魔法の質問をすれば、教えてくれるはずです」
「なるほど!」
「そして、教えてもらうことを繰り返せば、自然と距離が縮まります」
「おお、いいね!」
マリアは嬉しそうだった。
「ありがとう、ネイサ! さっそく試してみる!」
そう言って、マリアも走っていった。
私は溜息をついた。
恋愛相談、思ったより疲れる……
「ネイサ、人気者だね」
別の女子生徒が話しかけてきた。
「そんなことないです……」
「いや、本当に。みんな、ネイサのアドバイスすごく参考になったって」
「そうですか……?」
「うん。私も相談していい?」
「え、まだあるんですか……?」
結局、その後も何人かの女子生徒から恋愛相談を受けた。
全て、魔法の理論と同じように説明した。
目的を明確にして、手順を決めて、実行する。
シンプルな方法だ。
でも、みんな喜んでくれた。
私は不思議な気分だった。
恋愛経験ゼロの私が、恋愛アドバイザーになるなんて。
夕方、ようやく恋愛相談から解放された。
私は疲れ果てて、中庭のベンチに座った。
「ふう……」
「お疲れさん」
突然、隣に誰かが座った。
見ると、アーガムだった。
「アーガム様……」
「お前、さっきからずっと女子に囲まれてたな」
「見てたんですか?」
「ああ。何の話してたんだ?」
「恋愛相談です……」
「恋愛相談?」
アーガムが驚いた。
「お前が?」
「はい……なぜか、私に相談が集中して……」
「へえ……」
アーガムは面白そうに笑った。
「で、どんなアドバイスしたんだ?」
「えっと……魔法の理論と同じように、手順を説明しました」
「魔法の理論?」
「はい。目的を明確にして、手順を決めて、実行する」
「なるほど……」
アーガムは感心したように頷いた。
「お前らしいな」
「そうですか?」
「ああ。何事も、論理的に考えるんだな」
「それしかできないので……」
私は苦笑した。
アーガムは笑った。
「でも、それがお前のいいところだよ」
「え……?」
「お前は、物事を冷静に分析できる。それが、すげえと思う」
彼の言葉に、胸が温かくなった。
「ありがとうございます……」
「おう」
アーガムは空を見上げた。
「なあ、せっかくだし、どっか遊びに行かないか?」
「遊びに?」
「ああ。最近、禁書館ばっかだったし」
「そうですね……」
確かに、最近は仕事ばかりだった。
「じゃあ、行きましょうか」
「おう!」
アーガムに連れられて、学園の外に出た。
街の方向へ歩いていく。
「どこに行くんですか?」
「お前、甘いもの好きだろ?」
「え? まあ、嫌いじゃないですけど……」
「じゃあ、決まりだ」
アーガムは嬉しそうに歩いていた。
しばらくして、着いたのは――
可愛らしいカフェだった。
「ここ……?」
「ああ。この前、リリアに教えてもらったんだ」
「リリアに……?」
「美味しいケーキがあるらしいぞ」
「そうなんですか」
私たちはカフェに入った。
店内は、温かい雰囲気だった。
木製のテーブルと椅子。柔らかな照明。
「いらっしゃいませ」
店員が笑顔で迎えてくれた。
「二名様ですか?」
「ああ」
「こちらへどうぞ」
窓際の席に案内された。
メニューを見ると、色々なケーキがあった。
「何にする?」
「えっと……このチョコレートケーキ、美味しそうです」
「じゃあ、俺はショートケーキにするわ」
「ショートケーキですか? 意外です」
「なんでだよ」
「アーガム様、甘いもの苦手かと思ってました」
「いや、好きだぞ。特にショートケーキ」
「へえ……」
私は少し意外だった。
筋肉ばかり気にしているアーガムが、ケーキ好きだなんて。
「注文いいですか?」
店員が来た。
「はい、チョコレートケーキとショートケーキを」
「飲み物は?」
「紅茶で」
「私も紅茶でお願いします」
「かしこまりました」
店員が去っていった。
窓の外を見ると、夕日が綺麗だった。
「綺麗だな」
アーガムも窓の外を見ていた。
「ええ……」
私も頷いた。
そして――ふと、アーガムを見た。
夕日に照らされた彼の横顔。
赤毛が、オレンジ色に輝いている。
翡翠色の瞳が、優しく細められている。
そして――穏やかな笑顔。
その瞬間――私の心臓が、跳ねた。
ドクン。
強く、大きく。
彼の笑顔が――眩しすぎて。
美しすぎて。
愛おしすぎて。
私は――息が詰まった。
「ネイサ? どうした?」
アーガムが私を見た。
「あ、いえ……何でもないです」
私は慌てて顔を背けた。
心臓が、まだ激しく鼓動している。
落ち着け。
私は、21歳。
彼は、16歳。
五歳も年上だ。
それに、私は彼を欺いている。
年齢も、正体も、全て嘘。
こんな私が――彼を愛する資格なんて、ない。
ありえない。
絶対に、ありえない。
「お待たせしました」
店員がケーキと紅茶を持ってきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
私はケーキに目を向けた。
アーガムを見ないように。
「うまい!」
アーガムが嬉しそうにショートケーキを食べていた。
「このクリーム、めっちゃ美味い!」
「そうですか……」
私もチョコレートケーキを一口食べた。
確かに、美味しい。
でも――味が、あまり分からなかった。
心が、乱れていて。
「ネイサ、本当に大丈夫か?」
「はい……大丈夫です」
「顔、赤いぞ?」
「え……」
私は自分の頬に手を当てた。
確かに、熱い。
「熱でもあるんじゃねえか?」
「いえ、多分……疲れてるだけです」
「そっか。無理すんなよ」
アーガムが心配そうに言った。
その優しさが――さらに胸を締め付けた。
カフェを出た後、私たちは学園に戻った。
夜になりかけていた。
「今日は、楽しかったな」
アーガムが言った。
「はい……」
「たまには、こういうのもいいよな」
「そうですね」
私は小さく答えた。
アーガムは、満足そうに笑っていた。
「じゃあ、また一緒に遊ぼうぜ」
「はい……」
「おやすみ、ネイサ」
「おやすみなさい」
アーガムは寮の方へ去っていった。
私は、その背中を見送った。
そして――胸に手を当てた。
心臓が、まだドキドキしている。
さっき見た、彼の笑顔が――
頭から離れない。
「ダメだ……」
私は呟いた。
「これ以上、好きになったら……」
でも――もう遅い。
私は、既に――彼を、深く愛してしまっている。
寮の部屋に戻ると、ランスが待っていた。
「お帰り」
「ただいま……」
私はベッドに倒れ込んだ。
「疲れたか?」
「ええ……色々と」
「恋愛相談、大変だったな」
「見てたの?」
「ああ。面白かったぞ」
ランスがニヤニヤした。
「恋愛経験ゼロのお前が、恋愛アドバイザーなんて」
「うるさいわね……」
「でも、みんな喜んでたじゃないか」
「そうみたいね……」
私は天井を見た。
「でも、自分のことは全然分からないわ」
「自分のこと?」
「ええ。アーガム様への気持ち……」
私は告白した。
「さっき、彼の笑顔を見て……ドキッとしちゃった」
「ほう」
「心臓が、すごく跳ねて……」
「それは恋だな」
「……分かってる」
私は目を閉じた。
「でも、ダメなのよ」
「なんで?」
「私は21歳。彼は16歳」
「だから?」
「だから、ありえないの」
私は拳を握った。
「五歳も年上で、しかも彼を欺いてる」
「年齢も、正体も、全部嘘」
「こんな私が、彼を愛するなんて――」
「ありえる」
ランスが遮った。
「え?」
「お前が彼を愛する。それは、全然ありえることだ」
「でも――」
「年齢なんて、関係ない」
ランスは真剣な表情で言った。
「お前は、彼を本当に愛してる。その気持ちは本物だ」
「……」
「嘘で塗り固められた関係でも、お前の愛だけは本物だろ」
「ランス……」
「だから、自分を責めるな」
ランスは優しく言った。
「お前は、ただ人を愛しただけだ。それは、悪いことじゃない」
「でも……いつか、真実を告げなきゃいけない」
「ああ」
「その時、彼は私を許してくれるかしら……」
「分からない」
ランスは正直に答えた。
「でも、お前にできることは、今を精一杯生きることだ」
「今を……」
「ああ。未来のことは、未来の自分に任せろ」
ランスの言葉が、心に染みた。
「ありがとう、ランス」
「どういたしまして」
翌日、教室に行くと、リリアが駆け寄ってきた。
「ネイサ! 昨日はありがとう!」
「え? 何がですか?」
「恋愛相談! おかげで、エドワードくんと仲良くなれたの!」
「そうなんですか? 良かったです」
「うん! 今度、一緒に勉強することになった!」
「それは良かったですね」
私は笑った。
リリアが幸せそうで、嬉しかった。
「ネイサのアドバイス、すごく的確だった!」
「いえ、それはリリアさんが頑張ったからです」
「そんなことないよ! ネイサのおかげ!」
リリアは嬉しそうに笑った。
「ねえ、お礼に何かおごらせてよ」
「いえ、大丈夫です」
「そう言わないで! お願い!」
「そこまで言われるなら……」
「やった! じゃあ、放課後ね!」
リリアは嬉しそうに席に戻った。
授業中、私はぼんやりと窓の外を見ていた。
昨日のことを思い出す。
アーガムの笑顔。
あの、眩しい笑顔。
心臓が、また跳ねた。
ダメだ。
こんなことを考えてたら――
「ネイサ・フィルメント」
突然、先生に名前を呼ばれた。
「はい!」
私は慌てて立ち上がった。
「この魔法陣の構造を説明してください」
「え、えっと……」
黒板を見る。
複雑な魔法陣が描かれている。
でも――私には簡単だった。
「これは、五層構造の防御魔法陣です。外側から順に――」
私は淀みなく説明した。
「素晴らしい。さすがネイサですね」
先生が褒めてくれた。
私は席に座った。
周囲から、尊敬の眼差しが向けられる。
でも――私は複雑な気持ちだった。
魔法のことは分かる。
でも、自分の気持ちは――全然分からない。
放課後、リリアと街に出た。
彼女のおすすめのカフェに行った。
昨日、アーガムと行ったのとは違う店だ。
「ここ、すごく美味しいんだよ!」
「そうなんですか」
私たちは席に座った。
「ねえ、ネイサ」
「はい?」
「実は、聞きたいことがあるんだけど」
「何ですか?」
「ネイサって、アーガム様のこと、どう思ってる?」
突然の質問に、私は固まった。
「え……?」
「だって、二人ともすごく仲いいじゃん」
「それは……仕事仲間ですから」
「仕事仲間?」
リリアは首を傾げた。
「でも、それだけじゃない気がする」
「え……」
「ネイサ、アーガム様のこと、好きでしょ?」
その言葉に、私は息を呑んだ。
「そ、そんなこと……」
「やっぱり! 顔に書いてあるもん!」
リリアが笑った。
「いつも、アーガム様を見る目が優しいし」
「アーガム様の話をする時、表情が柔らかくなるし」
「一緒にいる時、すごく幸せそうだし」
リリアは次々と指摘した。
私は、何も言い返せなかった。
なぜなら――全て、本当のことだから。
「でも……」
私は小さく呟いた。
「私には、資格がないんです」
「資格?」
「ええ。彼を愛する資格が」
「なんで?」
「色々と……事情があって……」
私は俯いた。
リリアは、優しく私の手を握った。
「ネイサ、無理に話さなくてもいいよ」
「リリア……」
「でも、一つだけ言わせて」
「何ですか?」
「恋に資格なんていらないよ」
リリアは笑った。
「好きになっちゃったら、それはもう止められない」
「だから、素直になっていいんだよ」
その言葉が――心に響いた。
素直に――でも、それができない。
私には、秘密がある。
嘘がある。
全てを隠したまま、素直になることなんて――
「ありがとう、リリア」
私は笑った。
「でも、今はまだ……無理なの」
「そっか……」
リリアは残念そうだった。
「でも、いつか素直になれるといいね」
「ええ……いつか」
私は窓の外を見た。
いつか――その日は、来るのだろうか。
その夜、禁書館で勤務をしていた。
アーガムと一緒に。
「なあ、ネイサ」
「はい?」
「お前、今日元気ないな」
「そうですか?」
「ああ。何かあったのか?」
「いえ……ちょっと考え事を」
「そっか」
アーガムは私の隣に座った。
「無理すんなよ」
「はい……」
「お前、最近頑張りすぎだし」
「そうですか?」
「ああ。たまには休めよ」
彼の優しさが――胸に染みた。
「ありがとうございます……」
「おう」
アーガムは笑った。
その笑顔を見て――また、心臓が跳ねた。
ダメだ。
また、ドキドキしてる。
落ち着け、私。
彼は16歳。
私は21歳。
ありえない、ありえない――
「ネイサ、顔赤いぞ?」
「え、ええ!? そんなことないです!」
「いや、赤いって」
「赤くありません!」
私は慌てて顔を背けた。
アーガムは不思議そうに首を傾げた。
「変な奴」
「変じゃありません!」
私たちは笑い合った。
そして――また、仕事に戻った。
でも――私の心は、ずっと乱れたままだった。
アーガムへの想いが――日に日に、強くなっていく。
それが――嬉しくて、そして苦しかった。
翌日の朝、教室でマリアに会った。
「ネイサ! 昨日はありがとう!」
「え? 私、何かしましたか?」
「恋愛相談! おかげで、憧れの先輩と話せたの!」
「そうなんですか? 良かったです」
「うん! 魔法の質問したら、すごく丁寧に教えてくれた!」
「それは良かったですね」
「次も、また質問しに行くつもり!」
マリアは嬉しそうだった。
私も、少し嬉しくなった。
みんなが幸せになっていく。
それは――いいことだ。
たとえ、自分の恋が叶わなくても――他の人の恋を応援することは、できる。
それで、十分だ。
昼休み、また女子生徒たちに囲まれた。
「ネイサ、私も相談したい!」
「私も!」
「私も!」
次々と、恋愛相談が寄せられる。
私は溜息をついた。
どうして、こんなに人気になってしまったのか……
でも――断るわけにもいかない。
「分かりました……順番に聞きます」
「やった!」
女子生徒たちが喜んだ。
私は、一人ひとりの話を聞いて、アドバイスをした。
全て、魔法の理論と同じように。
論理的に、冷静に。
みんな、満足そうだった。
「ネイサ、ありがとう!」
「助かった!」
「また相談していい?」
「はい……いつでも」
私は笑った。
そして――ふと思った。
自分の恋は、全然分からないのに――他人の恋は、冷静にアドバイスできる。
それは――皮肉なことだ。
その夜、ランスが言った。
「お前、学園で人気者になったな」
「そうみたいね……」
「恋愛アドバイザーとして」
「不思議よね。恋愛経験ゼロなのに」
「でも、お前のアドバイスは的確だからな」
「そうかしら……」
私はベッドに横たわった。
「でも、自分のことは全然分からないわ」
「まあ、そんなもんだろ」
ランスが笑った。
「恋をしてる時は、誰でも盲目になる」
「盲目……」
「ああ。お前も、完全にアーガムに盲目だ」
「……否定しないわ」
私は認めた。
「私、彼のことしか見えてない」
「それが恋だ」
「……そうね」
私は目を閉じた。
アーガムの笑顔が、浮かぶ。
あの、眩しい笑顔。
私は――彼を、愛している。
この気持ちは――もう、止められない。




