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禁書館の魔導師は、万年2位の恋を綴る  作者: 秋津冴
第二話 禁書館ライフ

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20/27

仲間たちとの交流


「ちょっと待ってください!  そんな告白の仕方は絶対に失敗します!  というか、それは告白じゃなくて脅迫です!」

 私は必死にクラスメイトを止めようとしていた。

 爆破テロ事件から一週間。学園も禁書館も徐々に日常を取り戻しつつあった。そして今日は珍しく、私はクラスメイトたちと昼休みを過ごしていた。

 場所は学園の中庭。リリアと、その友人たち数人と一緒に。

 そして今――一人の女子生徒が、とんでもない告白の練習をしようとしていた。

「え、でも私本気だし!  『付き合ってくれないと、呪いをかけるわよ!』って言えば、ドキドキするでしょ?」

「ドキドキじゃなくて恐怖です! 普通に怖いです!」

 その女子生徒――名前はマリア――は魔法科の生徒で、少し変わった性格をしていた。

「でも、インパクトあるじゃん」

「インパクトありすぎます!  相手は逃げますよ!」

「そっか……」

 マリアはしょんぼりした。

 リリアが笑いながら言った。

「マリア、もっと普通に告白しなよ」

「普通って、例えば?」

「『好きです。付き合ってください』とか」

「それじゃつまんないじゃん」

「つまらなくても、それが王道なの!」

 他の女子生徒たちも笑っていた。

 私は溜息をついた。

 恋愛の話は、本当に苦手だ。

「ねえ、ネイサはどう思う?」

 突然、マリアが私に振ってきた。

「え? 私ですか?」

「うん。ネイサって、なんか恋愛に詳しそうだし」

「いえ、全然詳しくないです」

「そうなの? でも、アーガム様とあんなに仲いいじゃん」

「あれは仕事です」

「仕事ぅ?」

 マリアが不思議そうに首を傾げた。

「禁書館の守護者として、一緒に働いてるだけです」

「でもさー、二人ともいつも一緒にいるし、お似合いだよね」

「似合ってません!」

 私は慌てて否定した。

 リリアがニヤニヤしながら言った。

「ネイサ、顔赤いよ?」

「赤くないです!」

「赤いって」

「赤くありません!」

 女子生徒たちが笑った。

 私は恥ずかしくて、顔が本当に赤くなってきた。


「まあまあ、落ち着いて」

 リリアがなだめた。

「ところで、ネイサは恋愛経験ある?」

「え……?」

 突然の質問に、私は固まった。

「ないです……」

「マジで!?」

 マリアが驚いた。

「ネイサって綺麗だし、絶対モテるでしょ?」

「モテません」

「嘘だー」

「本当です。ずっと魔法の研究ばかりしてきたので……」

「へえ……」

 女子生徒たちが興味深そうに見てきた。

「じゃあ、好きな人とかもいないの?」

「い、いません!」

 私は即答した。

 でも――心の中では、アーガムの顔が浮かんでいた。

「ふーん……本当に?」

 リリアが意味深に笑った。

「本当です!」

「分かった分かった」

 リリアは笑いながら手を振った。

「でもさ、ネイサに相談したいことがあるんだ」

「相談……ですか?」

「うん。実はね――」


 リリアの相談は、こうだった。

 彼女には、密かに想いを寄せている男子生徒がいる。

 でも、どうやって距離を縮めればいいか分からない。

「だから、アドバイスが欲しいんだ」

「私に……ですか?」

「うん。ネイサって、冷静だし、的確なアドバイスくれそうだし」

「いえ、恋愛のことは全く分からないので……」

「そこをなんとか!」

 リリアが懇願してきた。

 他の女子生徒たちも、期待の目で見ている。

 私は困った。

 恋愛経験ゼロの私が、どうやってアドバイスすればいい?

 でも――断るのも悪い気がする。

「分かりました……できる範囲で」

「やった!」

 リリアが喜んだ。

「じゃあ、まず何からすればいい?」

「えっと……」

 私は必死に考えた。

 恋愛……距離を縮める……魔法の理論なら分かる。

 でも、恋愛の理論なんて――待って。

 魔法と同じように考えればいい。

 目的があって、手段がある。

 目的は「距離を縮める」。

 手段は――

「まず、相手の興味を知ることです」

「興味?」

「はい。相手が何を好きで、何に興味があるのか」

 私は魔法の研究計画を立てるように説明した。

「それが分かれば、共通の話題ができます」

「なるほど!」

 リリアが目を輝かせた。

「それで?」

「次に、自然な接点を作ります」

「自然な接点?」

「はい。例えば、同じ授業で隣の席になるとか、図書館で偶然会うとか」

「おお、なるほど!」

「そして、少しずつ会話を増やしていきます」

「ふむふむ」

 リリアが真剣にメモを取り始めた。

 他の女子生徒たちも、熱心に聞いている。

「会話が増えたら、次は二人きりの時間を作ります」

「二人きり!?」

「はい。でも、自然に。例えば、『一緒に勉強しない?』とか」

「なるほどね!」

「そして、相手の反応を見ながら、少しずつ距離を縮めていく」

 私は淡々と説明した。

 まるで、魔法の実験手順のように。

「最終的に、相手も自分に好意を持っていることが確認できたら――」

「できたら?」

「告白します」

「おおお!」

 女子生徒たちが歓声を上げた。

「ネイサ、すごい! めっちゃ分かりやすい!」

「本当に恋愛経験ないの? 嘘でしょ?」

「いえ、本当にないです……」

 私は困惑した。

 ただ、魔法の理論と同じように説明しただけなのに。


「じゃあ、さっそく実践してみる!」

 リリアが立ち上がった。

「え? 今からですか?」

「うん!  好きな人、今図書館にいるはずだから!」

「そんな急に……」

「大丈夫大丈夫!  ネイサのアドバイス通りにやってみる!」

 リリアは嬉しそうに走っていった。

 私は不安になった。

 本当に、大丈夫なのだろうか……

「ネイサも一緒に見に行こうよ!」

 マリアが私の手を引っ張った。

「え、でも……」

「いいからいいから!」

 私は女子生徒たちに連れられて、図書館に向かった。


 図書館に着くと、リリアが既に男子生徒に話しかけていた。

 その男子生徒――名前はエドワードらしい――は少し驚いた様子だった。

 私たちは遠くから見守った。

「どうなるかな……」

「ネイサのアドバイス通りにやれば、大丈夫でしょ」

「そうだといいんですけど……」

 リリアとエドワードが会話している。

 最初は少しぎこちなかったが、徐々に打ち解けてきたようだ。

 そして――二人で一緒に本を読み始めた。

「おお、うまくいってるじゃん!」

「ネイサのアドバイス、効果あるね!」

「いえ、それはリリアさんが頑張ったからで……」

 私は謙遜した。

 でも、内心では少しほっとしていた。

 とりあえず、失敗はしていないようだ。


 図書館を出た後、マリアが私に言った。

「ねえ、私にもアドバイスしてよ!」

「え? マリアさんも誰か好きな人が?」

「うん! 実はね――」

 マリアの好きな人は、魔法科の上級生らしい。

「でも、その人、いつも真面目で近寄りがたいんだよね」

「真面目……」

「うん。だから、どうアプローチすればいいか分かんなくて」

「そうですか……」

 私は考えた。

 真面目な人には、真面目なアプローチがいい。

「では、まず魔法の話題で話しかけてみてはどうですか?」

「魔法の話題?」

「はい。相手は上級生なので、魔法の質問をすれば、教えてくれるはずです」

「なるほど!」

「そして、教えてもらうことを繰り返せば、自然と距離が縮まります」

「おお、いいね!」

 マリアは嬉しそうだった。

「ありがとう、ネイサ! さっそく試してみる!」

 そう言って、マリアも走っていった。

 私は溜息をついた。

 恋愛相談、思ったより疲れる……


「ネイサ、人気者だね」

 別の女子生徒が話しかけてきた。

「そんなことないです……」

「いや、本当に。みんな、ネイサのアドバイスすごく参考になったって」

「そうですか……?」

「うん。私も相談していい?」

「え、まだあるんですか……?」

 結局、その後も何人かの女子生徒から恋愛相談を受けた。

 全て、魔法の理論と同じように説明した。

 目的を明確にして、手順を決めて、実行する。

 シンプルな方法だ。

 でも、みんな喜んでくれた。

 私は不思議な気分だった。

 恋愛経験ゼロの私が、恋愛アドバイザーになるなんて。


 夕方、ようやく恋愛相談から解放された。

 私は疲れ果てて、中庭のベンチに座った。

「ふう……」

「お疲れさん」

 突然、隣に誰かが座った。

 見ると、アーガムだった。

「アーガム様……」

「お前、さっきからずっと女子に囲まれてたな」

「見てたんですか?」

「ああ。何の話してたんだ?」

「恋愛相談です……」

「恋愛相談?」

 アーガムが驚いた。

「お前が?」

「はい……なぜか、私に相談が集中して……」

「へえ……」

 アーガムは面白そうに笑った。

「で、どんなアドバイスしたんだ?」

「えっと……魔法の理論と同じように、手順を説明しました」

「魔法の理論?」

「はい。目的を明確にして、手順を決めて、実行する」

「なるほど……」

 アーガムは感心したように頷いた。

「お前らしいな」

「そうですか?」

「ああ。何事も、論理的に考えるんだな」

「それしかできないので……」

 私は苦笑した。

 アーガムは笑った。

「でも、それがお前のいいところだよ」

「え……?」

「お前は、物事を冷静に分析できる。それが、すげえと思う」

 彼の言葉に、胸が温かくなった。

「ありがとうございます……」

「おう」

 アーガムは空を見上げた。

「なあ、せっかくだし、どっか遊びに行かないか?」

「遊びに?」

「ああ。最近、禁書館ばっかだったし」

「そうですね……」

 確かに、最近は仕事ばかりだった。

「じゃあ、行きましょうか」

「おう!」


 アーガムに連れられて、学園の外に出た。

 街の方向へ歩いていく。

「どこに行くんですか?」

「お前、甘いもの好きだろ?」

「え? まあ、嫌いじゃないですけど……」

「じゃあ、決まりだ」

 アーガムは嬉しそうに歩いていた。

 しばらくして、着いたのは――

 可愛らしいカフェだった。

「ここ……?」

「ああ。この前、リリアに教えてもらったんだ」

「リリアに……?」

「美味しいケーキがあるらしいぞ」

「そうなんですか」

 私たちはカフェに入った。


 店内は、温かい雰囲気だった。

 木製のテーブルと椅子。柔らかな照明。

「いらっしゃいませ」

 店員が笑顔で迎えてくれた。

「二名様ですか?」

「ああ」

「こちらへどうぞ」

 窓際の席に案内された。

 メニューを見ると、色々なケーキがあった。

「何にする?」

「えっと……このチョコレートケーキ、美味しそうです」

「じゃあ、俺はショートケーキにするわ」

「ショートケーキですか? 意外です」

「なんでだよ」

「アーガム様、甘いもの苦手かと思ってました」

「いや、好きだぞ。特にショートケーキ」

「へえ……」

 私は少し意外だった。

 筋肉ばかり気にしているアーガムが、ケーキ好きだなんて。

「注文いいですか?」

 店員が来た。

「はい、チョコレートケーキとショートケーキを」

「飲み物は?」

「紅茶で」

「私も紅茶でお願いします」

「かしこまりました」

 店員が去っていった。

 


 窓の外を見ると、夕日が綺麗だった。

「綺麗だな」

 アーガムも窓の外を見ていた。

「ええ……」

 私も頷いた。

 そして――ふと、アーガムを見た。

 夕日に照らされた彼の横顔。

 赤毛が、オレンジ色に輝いている。

 翡翠色の瞳が、優しく細められている。

 そして――穏やかな笑顔。

 その瞬間――私の心臓が、跳ねた。

 ドクン。

 強く、大きく。

 彼の笑顔が――眩しすぎて。

 美しすぎて。

 愛おしすぎて。

 私は――息が詰まった。

「ネイサ?  どうした?」

 アーガムが私を見た。

「あ、いえ……何でもないです」

 私は慌てて顔を背けた。

 心臓が、まだ激しく鼓動している。

 落ち着け。

 私は、21歳。

 彼は、16歳。

 五歳も年上だ。

 それに、私は彼を欺いている。

 年齢も、正体も、全て嘘。

 こんな私が――彼を愛する資格なんて、ない。

 ありえない。

 絶対に、ありえない。

「お待たせしました」

 店員がケーキと紅茶を持ってきた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 私はケーキに目を向けた。

 アーガムを見ないように。


「うまい!」

 アーガムが嬉しそうにショートケーキを食べていた。

「このクリーム、めっちゃ美味い!」

「そうですか……」

 私もチョコレートケーキを一口食べた。

 確かに、美味しい。

 でも――味が、あまり分からなかった。

 心が、乱れていて。

「ネイサ、本当に大丈夫か?」

「はい……大丈夫です」

「顔、赤いぞ?」

「え……」

 私は自分の頬に手を当てた。

 確かに、熱い。

「熱でもあるんじゃねえか?」

「いえ、多分……疲れてるだけです」

「そっか。無理すんなよ」

 アーガムが心配そうに言った。

 その優しさが――さらに胸を締め付けた。


 カフェを出た後、私たちは学園に戻った。

 夜になりかけていた。

「今日は、楽しかったな」

 アーガムが言った。

「はい……」

「たまには、こういうのもいいよな」

「そうですね」

 私は小さく答えた。

 アーガムは、満足そうに笑っていた。

「じゃあ、また一緒に遊ぼうぜ」

「はい……」

「おやすみ、ネイサ」

「おやすみなさい」

 アーガムは寮の方へ去っていった。

 私は、その背中を見送った。

 そして――胸に手を当てた。

 心臓が、まだドキドキしている。

 さっき見た、彼の笑顔が――

 頭から離れない。

「ダメだ……」

 私は呟いた。

「これ以上、好きになったら……」

 でも――もう遅い。

 私は、既に――彼を、深く愛してしまっている。


 寮の部屋に戻ると、ランスが待っていた。

「お帰り」

「ただいま……」

 私はベッドに倒れ込んだ。

「疲れたか?」

「ええ……色々と」

「恋愛相談、大変だったな」

「見てたの?」

「ああ。面白かったぞ」

 ランスがニヤニヤした。

「恋愛経験ゼロのお前が、恋愛アドバイザーなんて」

「うるさいわね……」

「でも、みんな喜んでたじゃないか」

「そうみたいね……」

 私は天井を見た。

「でも、自分のことは全然分からないわ」

「自分のこと?」

「ええ。アーガム様への気持ち……」

 私は告白した。

「さっき、彼の笑顔を見て……ドキッとしちゃった」

「ほう」

「心臓が、すごく跳ねて……」

「それは恋だな」

「……分かってる」

 私は目を閉じた。

「でも、ダメなのよ」

「なんで?」

「私は21歳。彼は16歳」

「だから?」

「だから、ありえないの」

 私は拳を握った。

「五歳も年上で、しかも彼を欺いてる」

「年齢も、正体も、全部嘘」

「こんな私が、彼を愛するなんて――」

「ありえる」

 ランスが遮った。

「え?」

「お前が彼を愛する。それは、全然ありえることだ」

「でも――」

「年齢なんて、関係ない」

 ランスは真剣な表情で言った。

「お前は、彼を本当に愛してる。その気持ちは本物だ」

「……」

「嘘で塗り固められた関係でも、お前の愛だけは本物だろ」

「ランス……」

「だから、自分を責めるな」

 ランスは優しく言った。

「お前は、ただ人を愛しただけだ。それは、悪いことじゃない」

「でも……いつか、真実を告げなきゃいけない」

「ああ」

「その時、彼は私を許してくれるかしら……」

「分からない」

 ランスは正直に答えた。

「でも、お前にできることは、今を精一杯生きることだ」

「今を……」

「ああ。未来のことは、未来の自分に任せろ」

 ランスの言葉が、心に染みた。

「ありがとう、ランス」

「どういたしまして」


 翌日、教室に行くと、リリアが駆け寄ってきた。

「ネイサ! 昨日はありがとう!」

「え? 何がですか?」

「恋愛相談! おかげで、エドワードくんと仲良くなれたの!」

「そうなんですか? 良かったです」

「うん! 今度、一緒に勉強することになった!」

「それは良かったですね」

 私は笑った。

 リリアが幸せそうで、嬉しかった。

「ネイサのアドバイス、すごく的確だった!」

「いえ、それはリリアさんが頑張ったからです」

「そんなことないよ! ネイサのおかげ!」

 リリアは嬉しそうに笑った。

「ねえ、お礼に何かおごらせてよ」

「いえ、大丈夫です」

「そう言わないで! お願い!」

「そこまで言われるなら……」

「やった! じゃあ、放課後ね!」

 リリアは嬉しそうに席に戻った。


 授業中、私はぼんやりと窓の外を見ていた。

 昨日のことを思い出す。

 アーガムの笑顔。

 あの、眩しい笑顔。

 心臓が、また跳ねた。

 ダメだ。

 こんなことを考えてたら――

「ネイサ・フィルメント」

 突然、先生に名前を呼ばれた。

「はい!」

 私は慌てて立ち上がった。

「この魔法陣の構造を説明してください」

「え、えっと……」

 黒板を見る。

 複雑な魔法陣が描かれている。

 でも――私には簡単だった。

「これは、五層構造の防御魔法陣です。外側から順に――」

 私は淀みなく説明した。

「素晴らしい。さすがネイサですね」

 先生が褒めてくれた。

 私は席に座った。

 周囲から、尊敬の眼差しが向けられる。

 でも――私は複雑な気持ちだった。

 魔法のことは分かる。

 でも、自分の気持ちは――全然分からない。


 放課後、リリアと街に出た。

 彼女のおすすめのカフェに行った。

 昨日、アーガムと行ったのとは違う店だ。

「ここ、すごく美味しいんだよ!」

「そうなんですか」

 私たちは席に座った。

「ねえ、ネイサ」

「はい?」

「実は、聞きたいことがあるんだけど」

「何ですか?」

「ネイサって、アーガム様のこと、どう思ってる?」

 突然の質問に、私は固まった。

「え……?」

「だって、二人ともすごく仲いいじゃん」

「それは……仕事仲間ですから」

「仕事仲間?」

 リリアは首を傾げた。

「でも、それだけじゃない気がする」

「え……」

「ネイサ、アーガム様のこと、好きでしょ?」

 その言葉に、私は息を呑んだ。

「そ、そんなこと……」

「やっぱり! 顔に書いてあるもん!」

 リリアが笑った。

「いつも、アーガム様を見る目が優しいし」

「アーガム様の話をする時、表情が柔らかくなるし」

「一緒にいる時、すごく幸せそうだし」

 リリアは次々と指摘した。

 私は、何も言い返せなかった。

 なぜなら――全て、本当のことだから。

「でも……」

 私は小さく呟いた。

「私には、資格がないんです」

「資格?」

「ええ。彼を愛する資格が」

「なんで?」

「色々と……事情があって……」

 私は俯いた。

 リリアは、優しく私の手を握った。

「ネイサ、無理に話さなくてもいいよ」

「リリア……」

「でも、一つだけ言わせて」

「何ですか?」

「恋に資格なんていらないよ」

 リリアは笑った。

「好きになっちゃったら、それはもう止められない」

「だから、素直になっていいんだよ」

 その言葉が――心に響いた。

 素直に――でも、それができない。

 私には、秘密がある。

 嘘がある。

 全てを隠したまま、素直になることなんて――

「ありがとう、リリア」

 私は笑った。

「でも、今はまだ……無理なの」

「そっか……」

 リリアは残念そうだった。

「でも、いつか素直になれるといいね」

「ええ……いつか」

 私は窓の外を見た。

 いつか――その日は、来るのだろうか。


 その夜、禁書館で勤務をしていた。

 アーガムと一緒に。

「なあ、ネイサ」

「はい?」

「お前、今日元気ないな」

「そうですか?」

「ああ。何かあったのか?」

「いえ……ちょっと考え事を」

「そっか」

 アーガムは私の隣に座った。

「無理すんなよ」

「はい……」

「お前、最近頑張りすぎだし」

「そうですか?」

「ああ。たまには休めよ」

 彼の優しさが――胸に染みた。

「ありがとうございます……」

「おう」

 アーガムは笑った。

 その笑顔を見て――また、心臓が跳ねた。

 ダメだ。

 また、ドキドキしてる。

 落ち着け、私。

 彼は16歳。

 私は21歳。

 ありえない、ありえない――

「ネイサ、顔赤いぞ?」

「え、ええ!?  そんなことないです!」

「いや、赤いって」

「赤くありません!」

 私は慌てて顔を背けた。

 アーガムは不思議そうに首を傾げた。

「変な奴」

「変じゃありません!」

 私たちは笑い合った。

 そして――また、仕事に戻った。

 でも――私の心は、ずっと乱れたままだった。

 アーガムへの想いが――日に日に、強くなっていく。

 それが――嬉しくて、そして苦しかった。


 翌日の朝、教室でマリアに会った。

「ネイサ!  昨日はありがとう!」

「え? 私、何かしましたか?」

「恋愛相談! おかげで、憧れの先輩と話せたの!」

「そうなんですか? 良かったです」

「うん! 魔法の質問したら、すごく丁寧に教えてくれた!」

「それは良かったですね」

「次も、また質問しに行くつもり!」

 マリアは嬉しそうだった。

 私も、少し嬉しくなった。

 みんなが幸せになっていく。

 それは――いいことだ。

 たとえ、自分の恋が叶わなくても――他の人の恋を応援することは、できる。

 それで、十分だ。


 昼休み、また女子生徒たちに囲まれた。

「ネイサ、私も相談したい!」

「私も!」

「私も!」

 次々と、恋愛相談が寄せられる。

 私は溜息をついた。

 どうして、こんなに人気になってしまったのか……

 でも――断るわけにもいかない。

「分かりました……順番に聞きます」

「やった!」

 女子生徒たちが喜んだ。

 私は、一人ひとりの話を聞いて、アドバイスをした。

 全て、魔法の理論と同じように。

 論理的に、冷静に。

 みんな、満足そうだった。

「ネイサ、ありがとう!」

「助かった!」

「また相談していい?」

「はい……いつでも」

 私は笑った。

 そして――ふと思った。

 自分の恋は、全然分からないのに――他人の恋は、冷静にアドバイスできる。

 それは――皮肉なことだ。


 その夜、ランスが言った。

「お前、学園で人気者になったな」

「そうみたいね……」

「恋愛アドバイザーとして」

「不思議よね。恋愛経験ゼロなのに」

「でも、お前のアドバイスは的確だからな」

「そうかしら……」

 私はベッドに横たわった。

「でも、自分のことは全然分からないわ」

「まあ、そんなもんだろ」

 ランスが笑った。

「恋をしてる時は、誰でも盲目になる」

「盲目……」

「ああ。お前も、完全にアーガムに盲目だ」

「……否定しないわ」

 私は認めた。

「私、彼のことしか見えてない」

「それが恋だ」

「……そうね」

 私は目を閉じた。

 アーガムの笑顔が、浮かぶ。

 あの、眩しい笑顔。

 私は――彼を、愛している。

 この気持ちは――もう、止められない。

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