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禁書館の魔導師は、万年2位の恋を綴る  作者: 秋津冴
第二話 禁書館ライフ

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19/27

爆破テロ


「それは絶対に食べちゃダメです!  というか、なぜそんなものが禁書館にあるんですか!?」

 私は必死にアーガムを止めようとしていた。

 禁書館での勤務開始から三週間。今日も放課後、私たちは禁書館で目録作成をしていた。

 そして今――アーガムが、どこからか持ってきた謎のサンドイッチを食べようとしていた。

「いや、休憩室のテーブルに置いてあったんだよ。『ご自由にどうぞ』って書いてあったし」

「『ご自由にどうぞ』!? そ んなメモ、私見てませんけど!」

「あれ?  俺が来た時はあったぞ?」

「怪しすぎます!  絶対に罠です!」

 私はサンドイッチに魔法をかけた。

「《隠された危険を暴け――ディテクト》」

 すると――

 サンドイッチが、青白く光った。

「やっぱり!  毒が入ってます!」

「マジで!?」

 アーガムは驚いた。

「また毒か……しつこいな、犯人」

「しつこい、じゃないです! これで何回目ですか!」

 私は溜息をついた。

 毒入り料理事件以来、アーガム宛に怪しい食べ物が届くことが何度かあった。

 全て、私が事前に察知して阻止したが。

「でも、腹減ったんだよな……」

「我慢してください。後で安全な食べ物を買いに行きますから」

「マジで?  やった!」

 アーガムは子供のように喜んだ。

 その無邪気さが――

 可愛いと思ってしまう自分がいる。

 いや、何を考えているんだ、私は。

「とにかく、このサンドイッチは処分します」

「おう」

 私は魔法でサンドイッチを氷漬けにして、証拠として保存した。

「また学園長に報告しないと……」

 その時だった。

 ピピピピピ――

 妙な音が聞こえた。

「ん?  何の音だ?」

「分かりません……でも、この音……」

私は集中して音の方向を探った。

そして――

背筋に冷たいものが走った。

「まずい……!」

「どうした?」

「この音……時限爆弾です!」

「は!?」


 私は急いで音の発信源を追った。

 禁書館の奥――第二カテゴリーの書架の裏側。

「ここ……!」

 本棚の影に、小さな箱が置かれていた。

 そして、その箱から――

 ピピピピピ――

 規則的な音が鳴っている。

「これは……」

 私は箱に魔法をかけた。

「《構造解析――ストラクチャー・アナライズ》」

 魔法で箱の内部を透視する。

 すると――

 複雑な魔法陣と、大量の爆発性魔力結晶が見えた。

「本当に爆弾……!」

「マジかよ……」

 アーガムも青ざめた。

「解除できるのか?」

「……難しいです」

 私は魔法陣を分析した。

 これは、高度な魔法技術で作られている。

 おそらく、古代魔法の知識を持つ者の仕業だ。

「解除魔法をかければ、逆に起爆するように設計されています」

「じゃあ、どうすんだ?」

「物理的に破壊するか、時間切れまで待つか……」

 私は箱に表示されたカウントダウンを見た。

 残り時間――三分。

「三分!?  短すぎるだろ!」

「避難しましょう!  今すぐ!」

「でも、禁書館が――」

「今はあなたの命の方が大事です!」

 私はアーガムの手を掴んで引っ張った。

「走りますよ!」

「お、おう!」

 私たちは出口に向かって走り出した。


 しかし――

 ドンッ!

 突然、禁書館の扉が閉まった。

「え!?」

「扉が……!」

 私は扉に駆け寄って、魔法で開けようとした。

「《開け――アンロック》」

 でも、効果がない。

「くっ……封印魔法がかかってる……!」

「じゃあ、俺が壊す!」

 アーガムが扉を蹴ろうとした。

「待ってください! これは――」

 私は扉の魔法陣を分析した。

「反動魔法が組み込まれています。物理的な攻撃を受けると、攻撃者に同じ力が跳ね返ります」

「マジか……」

「窓は?」

 私は窓を見た。

 でも、窓にも同じような魔法陣が刻まれている。

「ダメです……全ての出口が封印されています」

「じゃあ、どうすんだ!?」

 ピピピピピ――

 爆弾のカウントダウンが続く。

 残り時間――二分。

「くそ……罠だったのか……」

 アーガムが拳を握った。

「最初から、俺たちを閉じ込めるつもりだったんだな」

「そうみたいです……」

 私は必死に考えた。

 どうすれば、この状況を切り抜けられる?

 爆弾は解除できない。

 出口は封印されている。

 残り時間は――

 一分半。

「ネイサ」

 アーガムが私の肩を掴んだ。

「お前、避難しろ」

「え?」

「俺が爆弾を止める。その間に、お前は――」

「何を言ってるんですか!」

 私は彼の手を振り払った。

「そんなこと、できるわけないでしょう!」

「でも――」

「あなたを置いて逃げるなんて、絶対にしません!」

 私は叫んだ。

「私の任務は、あなたを守ることです!」

「任務、任務って……」

 アーガムは苦しそうな顔をした。

「お前の命の方が大事だろうが!」

「あなたの命の方が大事です!」

 私も叫び返した。

「私は――」

 あなたを愛している、と言いかけて――

 言葉を飲み込んだ。

「私は、あなたの味方です。だから、一緒にいます」

「ネイサ……」

 ピピピピピ――

 残り時間――一分。

「くそ……!」

 アーガムは壁を殴った。

 私も、必死に考えた。

 何か、方法があるはずだ。

 爆発を防ぐ方法が――

 待って。

 防げないなら――耐えればいい。

「アーガム様!」

「何だ!?」

「私に任せてください!」

「え?」

「爆発を防ぐことはできません。でも――」

 私は魔法を準備し始めた。

「防御することはできます!」

「防御? でも、あんな大爆発を――」

「できます!」

 私は断言した。

「信じてください!」

 残り時間――三十秒。

「分かった。お前を信じる」

 アーガムが頷いた。

「でも、俺も手伝う」

「え?」

「二人の方が、強いだろ?」

 彼は笑った。

「俺たち、相棒だからな」

「……はい!」

 私も笑った。

 そして――二人で、魔法を準備した。


 残り時間――十秒。

「《光よ、全てを包め――アブソリュート・シールド》」

 私は最強の防御魔法を展開した。

 光の盾が、私たちを包む。

 でも――それだけでは足りない。

 あの爆弾の威力は、私の魔法だけでは防ぎきれない。

「アーガム様! 私の背中に!」

「おう!」

 アーガムが私の背中にぴったりと寄り添った。

 そして――

 彼の体が、強固な壁となって私を守る。

 物理的な防御。

 魔法的な防御。

 二重の防御。

 これなら――

 五秒。

 四秒。

 三秒。

 二秒。

 一秒。

 ゼロ。



 ドォォォォォン!



 凄まじい爆発音。

 熱風。

 衝撃波。

 光の盾が、激しく揺れる。

 私は全力で魔力を注ぎ込んだ。

 絶対に、負けない。

 アーガムを、守る。

「ぐっ……!」

 背中に、アーガムの体温を感じる。

 彼も、私を守ってくれている。

 お互いを守り合っている。

 だから――負けない!

「あああああああ――!」

 私は叫んだ。

 魔力を、限界まで放出した。

 光の盾が、さらに強化される。

 そして――

 爆発の威力が、収まっていった。


 煙が晴れていく。

 私は恐る恐る光の盾を解除した。

 周囲は――滅茶苦茶だった。

 本棚が倒れ、魔導書が散乱している。

 床には大きなクレーターができていた。

 でも――私たちは、無事だった。

「ネイサ……大丈夫か?」

 背中から、アーガムの声が聞こえた。

「はい……大丈夫です」

「良かった……」

 アーガムの腕が、私を抱きしめていた。

 強く。

 優しく。

「お前……すげえよ」

「いえ……あなたも、私を守ってくれました」

「当たり前だろ」

 アーガムが笑った。

「お前は、大切な相棒だからな」

 相棒――

 その言葉が、嬉しくて、そして少し寂しかった。

 でも、今は――

「ありがとうございます」

 私は小さく呟いた。


 しばらくして、私たちは離れた。

 アーガムは無傷だった。

 完全に無傷。

 爆発に巻き込まれたとは思えないほど。

「お前こそ、大丈夫か?」

 アーガムが私を心配そうに見た。

「傷とかない?」

「はい、大丈夫です」

 私も無傷だった。

 魔法で守られていたから。

「……お前、また魔法使っただろ?」

 アーガムが聞いた。

「俺を守るために」

「……はい」

 私は認めた。

「当然です。あなたを守るのが、私の役目ですから」

「役目、か」

 アーガムは複雑な表情をした。

「でもさ、俺もお前を守ったぞ」

「はい……」

「お互い様だ」

 彼は笑った。

「俺たち、お互いを守り合ってる」

「……そうですね」

 私も笑った。

 確かに、お互いを守り合っている。

 それが――私たちの関係だ。


「しかし、ひでえな」

 アーガムが周囲を見回した。

「禁書館、滅茶苦茶じゃねえか」

「そうですね……学園長に怒られそうです」

「でも、俺たちのせいじゃねえし」

「そうですけど……」

 私は落ち込んだ。

 守護者として、禁書館を守れなかった。

「気にすんなって」

 アーガムが私の頭をぽんぽんと叩いた。

「禁書館は直せる。でも、お前は替えがきかない」

「え……?」

「お前が無事で良かった。それだけで十分だ」

 彼の言葉に、胸が温かくなった。

「……ありがとうございます」

「おう」

 アーガムが笑った。

 その笑顔を見て――私は改めて思った。

 この人を守りたい。

 何があっても。


 扉の封印魔法は、爆発と同時に解除されていた。

 おそらく、時限式だったのだろう。

 私たちは禁書館を出て、すぐに学園長に報告した。




「なんということだ……」

 学園長は、禁書館の惨状を見て溜息をついた。

「幸い、禁書は無事なようだが……」

「申し訳ございません」

 私は深く頭を下げた。

「守護者として、不甲斐ない結果で……」

「いや、君たちを責めるつもりはない」

 学園長は優しく言った。

「むしろ、よく生き延びてくれた」

「はい……」

「それに、禁書は守られた。君たちは立派に任務を果たしたよ」

「ありがとうございます……」

「しかし、問題は犯人だ」

 学園長は厳しい表情になった。

「禁書館に侵入し、爆弾を仕掛け、封印魔法まで使う」

「相当な実力者だな」

「はい……おそらく、前回の侵入者と同じ組織だと思われます」

「そうだろうな」

 学園長は腕を組んだ。

「王宮にも報告する。警備をさらに強化しよう」

「お願いします」


 報告を終えた後、私たちは保健室に向かった。

 一応、検査を受けるためだ。

「本当に、どこも怪我してないんですか?」

 保健医が不思議そうに言った。

「あれだけの爆発に巻き込まれて、無傷なんて……」

「まあ、俺は丈夫なんで」

 アーガムがあっけらかんと答えた。

「それに、ネイサの魔法が凄かったし」

「そうなんですか……」

 保健医は私を見た。

「あなた、相当な実力者ですね」

「いえ、そんな……」

 私は謙遜した。

「でも、まあ、二人とも健康です。異常なし」

「良かった……」

 私はほっとした。

 本当に、無事で良かった。


 保健室を出た後、私たちは学園の中庭を歩いていた。

 夕日が、美しかった。

「なあ、ネイサ」

「はい?」

「さっき、マジで怖かったわ」

 アーガムが珍しく弱音を吐いた。

「お前が死んじゃうんじゃないかって」

「……」

「俺、お前を失いたくない」

 彼は立ち止まった。

「だから、無茶すんなよ」

「無茶……してませんよ」

「してるだろ。あんな大爆発、防ぐなんて」

「でも、あなたを守らないと……」

「俺は大丈夫だって。不死身だし」

「不死身でも、心配なんです」

 私は彼を見た。

「あなたが傷つくのを見たくない」

「……」

 アーガムは黙った。

 そして――

「お前も、同じこと言ってるじゃねえか」

 彼は笑った。

「お互い、相手のことを心配しすぎだな」

「そうですね……」

 私も笑った。

 確かに、お互いに心配しすぎだ。

 でも――それは、仕方ないことだ。

 なぜなら――大切だから。


「でもさ」

 アーガムが歩き出した。

「今日、改めて思ったんだ」

「何をですか?」

「お前といると、安心するって」

 彼は空を見上げた。

「どんな危険があっても、お前がいれば大丈夫って思える」

「……」

「お前は、俺の――」

 彼は言葉を探していた。

「俺の、大切な相棒だ」

 相棒――

 またその言葉だ。

 でも、今回は――

 少し違って聞こえた。

 まるで――それ以上の何かを含んでいるような。

「私も、同じです」

 私は答えた。

「あなたがいれば、どんな困難も乗り越えられます」

「そっか」

 アーガムが笑った。

「じゃあ、これからも一緒に頑張ろうぜ」

「はい」

 私も笑った。

 夕日が、私たちを照らしていた。

 二人の影が、地面に長く伸びている。

 その影は――寄り添うように、重なっていた。


 その夜、寮の部屋でランスと話していた。

「今日は、危なかったな」

「ええ……本当に」

 私は窓の外を見た。

「でも、無事で良かった」

「お前、また限界まで魔力使っただろ」

「……うん」

 私は認めた。

「でも、仕方なかったの」

「分かってる。でもな、無理しすぎるなよ」

「大丈夫よ。もう回復してるし」

「そういう問題じゃない」

 ランスは真剣な表情で言った。

「お前、自分の命を軽視しすぎだ」

「してないわ」

「してるだろ。アーガムを守るために、自分を犠牲にする気満々じゃねえか」

「それは……」

 私は言葉に詰まった。

 確かに、ランスの言う通りかもしれない。

「私は、彼を愛してる」

 私は認めた。

「だから、彼を守りたい。彼のためなら、命も惜しくない」

「……それが愛か」

「ええ」

「重いな」

「重いわよ。愛は、重いものよ」

 私は笑った。

「でも、それでいいの」

「そうか……」

 ランスは溜息をついた。

「まあ、お前が決めたことなら、俺は何も言わない」

「ありがとう、ランス」

「ただ、忘れるなよ」

「何を?」

「お前が死んだら、アーガムも悲しむってことを」

 ランスの言葉が、心に刺さった。

「……分かってる」

 私は小さく答えた。

 確かに、私が死んだら――

 アーガムは悲しむだろう。

 それは、避けたい。

「だから、もっと自分を大切にしろ」

「……うん」

 私は頷いた。


 翌日、朝。

 教室に行くと、爆破テロのニュースが広まっていた。

「聞いた? 昨日、禁書館で爆発があったんだって」

「マジで? 怖い……」

「でも、守護者の二人が無事だったらしいよ」

「良かった……」

 クラスメイトたちが、ひそひそと話していた。

「ネイサ!」

 リリアが駆け寄ってきた。

「大丈夫だった!? 怪我とかない!?」

「うん、大丈夫」

「本当に!? 爆発に巻き込まれたんでしょ!?」

「大丈夫。アーガム様が守ってくれたから」

「そっか……良かった……」

 リリアは安心したように息をついた。

「本当に、心配したんだから」

「ごめん、心配かけて」

「いいの。無事なら」

 リリアは笑った。

「でも、ネイサは本当に凄いね」

「え?」

「アーガム様を守り続けてるんでしょ? 尊敬するわ」

「そんな……」

「いや、マジで。私だったら、怖くてできない」

 リリアは真剣な表情で言った。

「でも、ネイサは違う。いつも、アーガム様のそばにいる」

「……」

「それって、本当に好きじゃないとできないことだと思う」

 リリアの言葉が、心に響いた。

 本当に好き――そうだ。

 私は、彼を本当に愛している。

 だから、守れる。

 どんな危険があっても。


 授業が始まる前、アーガムが教室に入ってきた。

「おう、ネイサ」

「おはようございます」

「昨日は、ありがとな」

「いえ……こちらこそ」

 私たちは笑い合った。

 そして――

「なあ、今日も禁書館行くか?」

「え? でも、爆発で滅茶苦茶なのでは……」

「修復工事が始まってるらしいぞ。見に行こうぜ」

「そうですね。行きましょう」

 私は頷いた。


 放課後、禁書館に向かった。

 既に工事が始まっていて、職人たちが忙しく動き回っていた。

「すげえな。もう直してるのか」

「学園長、仕事が早いですね」

 私たちは職人たちの邪魔にならないよう、端を歩いた。

「ところで、ネイサ」

「はい?」

「昨日から気になってたんだけど」

 アーガムが立ち止まった。

「お前、俺のこと守るのって、任務だからなのか?」

「え……?」

 突然の質問に、私は戸惑った。

「それとも、他に理由があるのか?」

「それは……」

 私は答えに詰まった。

 どう答えればいい?

 本当のことを言うべき?

 でも――

「任務です」

 私は嘘をついた。

「あなたを守るのが、私の任務ですから」

「……そっか」

 アーガムは少し寂しそうだった。

「まあ、そうだよな」

「はい……」

 私は胸が痛んだ。

 本当は――任務じゃない。

 愛しているから、守りたい。

 でも、それは言えない。

 言ってしまったら、全てが崩れてしまう。

「でも」

 アーガムが言った。

「任務でも、嬉しいよ」

「え?」

「お前が、俺を守ってくれること」

 彼は笑った。

「それが、すげえ嬉しい」

「……」

 私は何も言えなかった。

 ただ――胸が、熱くなった。


 工事現場を見学した後、私たちは学園の屋上に向かった。

 夕日を見るために。

「綺麗だな」

 アーガムが空を見上げた。

「ええ……」

 私も空を見た。

 オレンジ色の空。

 美しい夕焼け。

「なあ、ネイサ」

「はい?」

「俺、思ったんだ」

 アーガムが言った。

「お前と一緒なら、どんな困難も乗り越えられるって」

「……」

「だから、これからも一緒にいてくれ」

 彼は私を見た。

「ずっと、相棒でいてくれ」

 ずっと――その言葉が、切なく響いた。

 ずっとは、無理だ。

 いつか、この任務は終わる。

 そして、私は消える。でも――

「はい」

 私は答えた。

「ずっと、一緒にいます」

 また、嘘をついた。

 でも――今は、それでいい。

 この瞬間を、大切にしたい。

 彼と一緒にいられる、今を。


 その夜、私は師匠に報告していた。

「爆破テロ……か」

 師匠は深刻な表情だった。

「犯人の狙いは?」

「アーガム殿下の殺害だと思われます」

「そうか……」

 師匠は考え込んだ。

「ネイサ、お前は無事だったか?」

「はい。アーガム様が守ってくれました」

「そうか……」

 師匠は少し安心したようだった。

「引き続き、警戒を怠るな」

「はい」

「それと」

 師匠が付け加えた。

「お前、アーガム王子に感情移入しすぎていないか?」

「……」

 私は黙った。

「ネイサ、答えろ」

「はい……感情移入しています」

 私は正直に答えた。

「私は、彼を愛しています」

「……そうか」

 師匠は溜息をついた。

「それは、任務に支障をきたすぞ」

「いえ、逆です」

 私は断言した。

「愛しているからこそ、全力で守れます」

「……」

 師匠は黙った。

 そして――

「分かった。お前の判断を信じる」

「ありがとうございます」

「ただし、無理はするな」

「はい」

 通信が切れた。

 私は窓の外を見た。

 星が、輝いている。

 アーガムの顔が、浮かぶ。

 彼を守りたい。

 愛しているから。

 それが――私の、全てだ。

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