魔法オタクの本領発揮
「待って待って待って! それは絶対に触っちゃダメ! 今すぐ手を離して!」
私は禁書館で、全力でアーガムを止めようとしていた。
守護者に任命されてから一週間。今日も放課後、私たちは禁書館で勤務をしていた。
そして今、アーガムが――無邪気な好奇心から――とんでもない魔導書に手を伸ばそうとしていたのだ。
「えー、なんでだよ? このタイトル、『筋肉増幅の奥義』だぞ! 超読みてえ!」
「それは読んだら筋肉が暴走する呪いの書です! 前にも言ったでしょう!」
「でも、ちょっとだけなら――」
「ちょっとでもダメです!」
私はアーガムの手を掴んで引っ張った。
でも、彼の筋力には敵わない。
「うぐぐ……力が……強すぎる……」
「お前、もっと筋トレした方がいいぞ」
「そういう問題じゃありません!」
必死に引っ張り続けた結果――
バランスを崩した。
「わっ!」
私はアーガムにぶつかり、二人とも床に倒れ込んだ。
ドサッ。
「いてて……」
「大丈夫か、ネイサ?」
気付くと、私はアーガムの上に倒れ込んでいた。
顔が、近い。
至近距離で、翡翠色の瞳が私を見つめている。
「あ、あの……」
「ん?」
「どいて……ください……」
「あ、悪い!」
アーガムは慌てて私を起こした。
私は顔が真っ赤になっているのが分かった。
「す、すみません……」
「いや、俺が悪かった。変な本に手を出そうとして」
「分かってくれればいいです……」
私は立ち上がって、服の埃を払った。
心臓が、激しく鼓動している。
落ち着け、私。
「でもさ」
アーガムが立ち上がりながら言った。
「お前、本当に魔導書好きだよな」
「……はい。とても」
「何がそんなに面白いんだ?」
「それは……」
私は少し考えた。
魔法の何が面白いのか。
それを言葉にするのは、難しい。
「今から、お見せしましょうか」
「え?」
「私が、なぜ魔法を愛しているのか。その理由を」
私はアーガムを、禁書館の最奥へと案内した。
古代魔法の書が収められている、特別な書架だ。
「ここには、千年以上前の魔導書があります」
「へえ……」
アーガムが興味深そうに本棚を見た。
「古いんだな。ボロボロだ」
「ええ。でも、その中には……」
私は一冊の本を取り出した。
「素晴らしい宝物が、眠っているんです」
本のタイトルは『星詠みの魔法――アストラル・グリモワール』。
古代の天文魔法の書だ。
「ちょっと待ってください」
私は慎重にページを開いた。
古い羊皮紙が、パラパラと音を立てる。
そして――
「これです」
私が開いたページには、信じられないほど美しい魔法陣が描かれていた。
完璧な円。その中に、星座を模した幾何学模様。無数の線が複雑に交差し、それでいて完璧な調和を保っている。
「わあ……」
思わず、感嘆の声が漏れた。
「すげえ……」
アーガムも驚いていた。
「これ、めちゃくちゃ綺麗じゃん」
「でしょう!?」
私は興奮して彼を見た。
「この魔法陣、『星の軌道を読む魔法』のものなんです。千年前、古代の魔導士たちは、この魔法陣を使って星の動きを予測していたんです」
「へえ……」
「見てください、この線の流れ」
私は魔法陣を指でなぞった。
「外側の円から内側の円へ、魔力がこう流れるんです。まるで、本物の星の軌道のように」
「おお……」
「そして、この部分」
私は中心部を指差した。
「ここが最も重要な術式の核です。全ての魔力がここに集約され、ここから放出される。まるで、太陽のように」
私は夢中で説明していた。
魔法陣の美しさ、構造の完璧さ、古代魔導士たちの叡智――
全てが、愛おしかった。
「それでな、この魔法陣の特徴は――」
私が説明を続けようとした時、ふと気付いた。
アーガムが、じっと私を見ていた。
「あ、あの……どうかしましたか?」
「いや」
アーガムが笑った。
「お前、めっちゃ楽しそうだなって思って」
「え……」
「目がキラキラしてるぞ。子供みたいに」
「こ、子供って……」
私は恥ずかしくなった。
「いや、いい意味でだよ。好きなもの見てる時の顔、すげえいい顔してる」
「そ、そうですか……」
顔が熱くなる。
「それでさ」
アーガムが魔法陣を見た。
「この魔法陣、実際に使えるのか?」
「理論上は可能です。でも、現代では失われた技術なので、詠唱方法が分からなくて……」
「そっか。もったいねえな」
「ええ……」
私も残念に思った。
こんなに美しい魔法が、もう使えないなんて。
「なあ、ネイサ」
「はい?」
「お前にとって、魔法って何なんだ?」
アーガムの質問に、私は少し考えた。
「魔法は……人類の叡智の結晶です」
「叡智の結晶?」
「はい。何千年もの間、無数の魔導士たちが研究を重ねて、少しずつ発展させてきたもの。それが、魔法なんです」
私は本を撫でた。
「この本一冊にも、何十人もの魔導士の人生が詰まっています。彼らの情熱、努力、そして夢が」
「夢……」
「ええ。魔法で世界をより良くしたい。人々を幸せにしたい。そういう純粋な願いが、魔法を発展させてきたんです」
私は熱く語った。
「だから、魔法は美しいんです。それは、ただの力じゃない。人の心が生み出した、芸術なんです」
アーガムは黙って聞いていた。
そして――
「なるほどな」
彼は笑った。
「お前、本当に魔法が好きなんだな」
「はい。大好きです」
「いいじゃん。そういうの」
アーガムは魔法陣をもう一度見た。
「俺も、ちょっと分かった気がする」
「え?」
「魔法の美しさ、ってやつ」
彼は指で魔法陣をなぞった。
「この線の流れとか、模様の配置とか。確かに、綺麗だな」
「本当ですか!?」
私は嬉しくなった。
「分かってくれますか!?」
「ああ。お前が説明してくれたおかげで、見方が変わった」
アーガムが笑った。
「今まで、魔法は力だと思ってた。でも、芸術でもあるんだな」
「そうなんです!」
私は興奮して彼の手を握った。
「魔法は、力であり、芸術であり、そして――」
「そして?」
「人と人を繋ぐもの、なんです」
私は彼を見た。
「こうして、あなたと魔法について語り合えること。それも、魔法が繋いでくれたご縁だと思うんです」
アーガムは少し驚いたような顔をした。
そして――
「そうだな。お前の言う通りだ」
彼は優しく笑った。
その笑顔を見て、私の胸が温かくなった。
「じゃあ、実際に魔法陣を描いてみるか?」
アーガムの提案に、私は目を輝かせた。
「いいんですか!?」
「ああ。お前が描くの、見てみたい」
「分かりました!」
私は訓練用の魔法陣描画セットを取り出した。
魔力を込めたチョークと、特殊な紙。
「では、さっきの星詠みの魔法陣を描いてみます」
「おう」
私は床に紙を広げて、慎重に魔法陣を描き始めた。
まず、外側の大きな円。
次に、内側の円。
そして、星座の模様を――
「すげえ……」
アーガムが感心したように見ていた。
「お前、めちゃくちゃ正確に描くんだな」
「魔法陣は、少しでもズレると機能しませんから」
「なるほど」
私は集中して描き続けた。
三十分後――
「完成しました」
床には、完璧な魔法陣が描かれていた。
「おお! すげえ!」
アーガムが拍手した。
「これ、本当にお前が描いたのか?」
「はい」
「芸術作品みたいだな」
「ありがとうございます」
私は笑った。
「では、魔力を流してみましょう」
「え、動くのか?」
「理論上は。ただ、詠唱が分からないので、どうなるか……」
私は魔法陣の中心に手を置いた。
「《星よ、我に語れ――》」
適当に詠唱を唱えながら、魔力を流し込む。
すると――
魔法陣が、淡く光り始めた。
「お、光った!」
「成功……?」
光が強くなっていく。
そして――
魔法陣から、小さな光の粒が浮かび上がった。
それは、まるで星のように輝きながら、ゆっくりと宙を舞った。
「綺麗……」
私は思わず呟いた。
「すげえ……本物の星みたいだ……」
アーガムも感動していた。
光の粒は、魔法陣の上で円を描くように動いた。
まるで、星の軌道を再現しているかのように。
「これが……古代の魔法……」
私は感動で胸がいっぱいになった。
失われたはずの魔法が、今、蘇った。
それは――
奇跡だった。
しかし。
次の瞬間――
魔法陣が、激しく明滅し始めた。
「え……?」
「おい、これやばくね?」
光の粒が増殖し始めた。
十個、二十個、五十個――
「ま、まずい! 魔力の制御が!」
私は慌てて魔力供給を止めようとした。
でも――
魔法陣が暴走していた。
「ネイサ、どうすんだ!?」
「分かりません! こんなこと、初めてで!」
光の粒がどんどん増えていく。
そして――
ボンッ!
小さな爆発が起きた。
「うわっ!」
私たちは慌てて飛び退いた。
ボンッ、ボンッ、ボンッ!
光の粒が、次々と爆発していく。
でも、幸いにも威力は小さい。
花火のような、可愛らしい爆発だった。
「綺麗だけど……やばいな、これ……」
「すみません! 私が余計なことを!」
「謝んなくていいって! でも、止めないと!」
「はい!」
私は魔法陣に向かって、抑制魔法を唱えた。
「《鎮まれ、暴走せる力よ――カーム》」
でも、効果がない。
「くっ……古代魔法には、現代の抑制魔法が効かない……」
「じゃあ、どうすんだ!?」
「物理的に……破壊するしか……」
「物理的?」
「魔法陣を、壊すんです!」
「了解!」
アーガムは躊躇なく、魔法陣に向かって飛び込んだ。
「おりゃあああ!」
そして――
拳で、床を殴った。
ゴンッ!
魔法陣が描かれた紙が破れ、魔法陣の構造が崩壊した。
瞬間――
全ての光の粒が消滅した。
「ふう……」
私たちは床に座り込んだ。
「助かりました……」
「いや、まあ、なんとかなって良かったな」
アーガムが笑った。
私も笑った。
そして――
二人で大笑いした。
「あははは!」
「なんか、すげえことになったな!」
「本当に! 古代魔法、侮れませんね!」
「でも、面白かったぞ!」
「私も、楽しかったです!」
私たちは笑い合った。
失敗したけど、それも含めて楽しかった。
アーガムと一緒だから――
何でも楽しい。
笑いが収まった後、私たちは散らばった紙の破片を片付け始めた。
「しかし、お前すげえな」
「何がですか?」
「古代魔法を、いきなり再現しようとするなんて」
「いえ、失敗しましたけど……」
「でも、途中までは成功してただろ? あの光の星、めっちゃ綺麗だったし」
「そうですね……」
私は少し嬉しくなった。
「また挑戦してみたいです」
「おう、付き合うぜ」
アーガムが笑った。
「お前といると、退屈しねえからな」
「私も、あなたといると楽しいです」
私は素直に答えた。
アーガムは少し驚いたような顔をした。
「お前、たまにそういうストレートなこと言うよな」
「え? 変ですか?」
「いや、嬉しいけど」
彼は照れくさそうに頭を掻いた。
「俺、そういうの苦手でさ。感情をうまく言葉にできないんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。だから、お前みたいにストレートに言えるの、羨ましいわ」
「そんなこと……」
私も照れくさくなった。
「あの、アーガム様」
「ん?」
「今日、ありがとうございました」
「何が?」
「私の話を、真剣に聞いてくれて」
私は微笑んだ。
「魔法の美しさを、理解しようとしてくれて」
「いや、お前が熱く語ってくれたからだろ」
アーガムも笑った。
「お前の情熱、伝わってきたぞ」
「本当ですか?」
「ああ。俺も、魔法に興味が出てきた」
「それは嬉しいです!」
私は心から喜んだ。
アーガムが、魔法に興味を持ってくれた。
それは――
私たちの距離が、また一歩縮まったということだ。
片付けが終わった後、私たちは禁書館の窓辺に座って休憩していた。
窓の外には、夕日が沈みかけていた。
「綺麗だな、夕日」
「そうですね」
私も窓の外を見た。
オレンジ色の光が、学園を染めている。
「なあ、ネイサ」
「はい?」
「お前って、魔法以外に好きなものある?」
「魔法以外……?」
私は考えた。
「あまり、考えたことがないですね……」
「マジで?」
「はい。私、ずっと魔法の研究ばかりしてきたので」
「そっか……」
アーガムは少し寂しそうだった。
「でも、最近は――」
「最近は?」
「あなたと過ごす時間が、好きです」
私は素直に答えた。
アーガムは顔を赤くした。
「お、おう……俺も、お前と過ごす時間、好きだぞ」
「本当ですか?」
「ああ。お前といると、楽しいし」
彼は照れくさそうに笑った。
「それに、安心するんだよな」
「安心……?」
「ああ。お前がいれば、何があっても大丈夫って思える」
アーガムの言葉に、胸が温かくなった。
「私も、同じです」
「そっか」
私たちは黙って夕日を見た。
静かな時間。
でも、心地よい沈黙だった。
そして――
私は思った。
この瞬間が、ずっと続けばいいのに、と。
「ニャア」
突然、足元から声がした。
見ると、ランスがいた。
「ランス……いつからいたの?」
「さっきから。お前らの魔法実験、見てたぞ」
「そうだったの……」
「盛大に失敗してたな」
「う、うるさいわね」
私は少し恥ずかしくなった。
「でも、楽しそうだった」
「え?」
「お前ら、すげえいい雰囲気だったぞ」
ランスがニヤニヤと笑った。
「い、いい雰囲気って……」
「見てるこっちが照れるくらい、ラブラブだった」
「ラブラブ!?」
私は声を上げた。
「違います! 私たちは、ただの――」
「相棒、だろ? 知ってるって」
ランスは尻尾を揺らした。
「でもな、相棒以上の関係に見えるぞ」
「そんなこと……」
私は否定しようとした。
でも――
言葉が出てこなかった。
なぜなら――
ランスの言う通りだから。
私は、アーガムを相棒以上の存在として見ている。
愛している。
でも、それは言えない。
「まあ、いいけどな」
ランスはあくびをした。
「お前が幸せそうなら、俺は何も言わない」
「幸せ……」
「ああ。お前、最近すごくいい顔してる」
ランスは私を見た。
「昔のお前は、もっと暗い顔してた。魔法の研究に没頭して、他のことを何も見てなかった」
「……そうね」
「でも、今のお前は違う。ちゃんと、周りを見てる。特に――」
ランスはアーガムを見た。
「あの王子をな」
「ランス……」
「いいんだよ。恋をするのは、悪いことじゃない」
ランスは優しく言った。
「ただ、忘れるなよ。お前は任務中だ」
「……分かってる」
私は拳を握った。
分かっている。
この恋は、叶わない。
いつか、真実を告げなければならない。
その時、彼は私をどう思うのか。
きっと――
裏切り者として、憎むだろう。
でも――
「今は、この瞬間を大切にしたい」
私は呟いた。
「彼と一緒にいられる、今を」
「それでいい」
ランスは頷いた。
「未来のことは、未来の自分に任せろ」
「なあ、ネイサ」
アーガムが話しかけてきた。
「猫と話してたのか?」
「え? あ、はい……」
そういえば、アーガムには私とランスの会話は聞こえていないんだった。
使い魔との会話は、契約者にしか聞こえない。
「何話してたんだ?」
「えっと……今日の魔法実験のこと、とか……」
「そっか」
アーガムは立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ戻るか」
「そうですね」
私も立ち上がった。
「今日は、楽しかったです」
「俺も」
アーガムが笑った。
「また、一緒に魔法の実験しようぜ」
「はい! ぜひ!」
私は嬉しくなった。
魔法について、彼と語り合える。
それは――
私にとって、最高の幸せだった。
禁書館を出て、夕暮れの学園を歩いた。
「そういえば」
アーガムが言った。
「お前、前の学校ではどんな感じだったんだ?」
「え……?」
突然の質問に、私は戸惑った。
「いや、お前のことあんまり知らないなって思ってさ」
「そ、そうですか……」
まずい。
前の学校の話なんて、存在しない。
「えっと……普通でしたよ」
「普通?」
「はい。魔法の勉強をして、図書館で本を読んで……」
「友達は?」
「あまり……いませんでした」
それは本当だ。
私には、友達と呼べる人はいなかった。
ずっと、師匠と一緒に研究していたから。
「そっか。じゃあ、俺が初めての友達か?」
「え……」
「いや、違うか。俺たち、相棒だもんな」
アーガムが笑った。
「相棒……」
私は複雑な気持ちになった。
相棒。
それ以上の関係を、私は望んでいる。
でも、それは叶わない。
「なあ、ネイサ」
「はい?」
「これからも、ずっと相棒でいようぜ」
彼の言葉に、胸が痛んだ。
ずっと――
それは、不可能だ。
いつか、この任務は終わる。
そして、私は消える。
でも――
「はい。ずっと、相棒でいましょう」
私は嘘をついた。
また、嘘を。
でも――
今は、それでいい。
この瞬間を、大切にしたい。
彼と一緒にいられる、今を。
寮に戻った後、私は一人で部屋にいた。
ランスが話しかけてきた。
「今日は、楽しかったな」
「うん……」
「でも、辛そうだったぞ。最後」
「……うん」
私は認めた。
「彼に、嘘をつき続けるのが辛い」
「そうか」
「でも、仕方ないわ。それが、私の任務だから」
「任務、ねえ……」
ランスは溜息をついた。
「お前、もう任務のためだけに動いてないだろ」
「え……?」
「彼を守りたいのは、任務だからじゃない。愛してるからだ」
ランスの言葉が、心に刺さった。
「……そうね」
私は認めた。
「私は、彼を愛してる」
「なら、告白すればいいじゃないか」
「できないわ。だって、私は――」
「嘘をついてる、ってか?」
「そう。年齢も、正体も、全部嘘」
私は窓の外を見た。
「そんな私が、彼を愛する資格なんて……」
「資格なんて、いらないって」
ランスが言った。
「恋に資格はいらない。ただ、愛してる。それだけで十分だ」
「でも……」
「お前が悩むのは分かる。でも、いつか決断しなきゃいけない時が来る」
ランスは真剣な表情で言った。
「その時、後悔しない選択をしろよ」
「……うん」
私は小さく頷いた。
ランスの言う通りだ。
いつか、決断の時が来る。
真実を告げるのか。
それとも、このまま黙っているのか。
その答えは――
まだ、出せない。
でも、一つだけ確かなことがある。
私は、彼を愛している。
その気持ちは、本物だ。
嘘で塗り固められた関係の中で――
唯一、本物の感情。
それが――
私の、愛だ。
その夜、私は眠れなかった。
天井を見つめながら、考えていた。
アーガムと過ごした、今日の時間。
魔法について語り合った時間。
笑い合った時間。
全てが、宝物だった。
でも――
いつか、終わりが来る。
この幸せな時間に。
その時、私はどうするのだろう。
彼に、真実を告げられるのだろうか。
そして――
彼は、私を許してくれるのだろうか。
答えは、分からない。
でも――
「今は、彼と一緒にいよう」
私は呟いた。
「この瞬間を、大切にしよう」
そう決めた。
未来のことは、未来の自分に任せる。
今は――
彼と過ごす時間を、精一杯楽しもう。
それが――今の私にできる、唯一のことだから。




