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禁書館の魔導師は、万年2位の恋を綴る  作者: 秋津冴
第二話 禁書館ライフ

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4

 その後、日常業務に戻った。

 魔導書の整理、目録作成、見回り。

 地味な作業が続く。

「ネイサ、この本、どこに置けばいい?」

「それは第一カテゴリーの『火魔法の歴史』ですね。あちらの棚に」

「了解」

 アーガムが本を運んでいく。

 彼の役割は、主に力仕事だ。

 重い本を運んだり、高い場所の本を取ったり。

 一方、私は記録や整理を担当する。

 完璧な役割分担だ。

「なあ、ネイサ」

「はい?」

「お前、魔法以外に趣味とかあんの?」

「魔法以外……?」

 考えたこともなかった。

「えっと……読書とか……」

「魔導書だろ?」

「……はい」

「やっぱりな」

 アーガムが笑った。

「お前、完全に魔法オタクだな」

「オタクって……」

「いいじゃん、オタク。俺も筋トレオタクだし」

「筋トレオタク……」

 確かに、彼の筋肉は尋常じゃない。

「じゃあ、アーガム様は魔法以外に何が好きなんですか?」

「うーん……動物?」

「動物?」

「ああ。犬とか猫とか、可愛いじゃん」

 意外だった。

 この筋肉脳筋王子が、動物好き?

「ほら、あそこ」

 アーガムが指差した先――

 本棚の隅で、小さな白い子猫が丸くなっていた。

「猫!? なんでこんなところに!?」

「迷い込んだんだろ。おいで」

 アーガムが優しく手を伸ばすと、子猫が近づいてきた。

「ニャア」

「よしよし、怖かったろ」

 アーガムは子猫を優しく抱き上げた。

 その仕草が――

 やけに優しくて、驚いた。

「可愛いな、お前。どっから来たんだ?」

「ニャア」

 子猫がアーガムの手を舐める。

 懐いている。

「……意外ですね」

「何が?」

「アーガム様、動物に優しいんですね」

「そりゃそうだろ。弱い者は守らなきゃ」

 彼は当然のように言った。

 その言葉に、胸が温かくなった。

「じゃあ、この子、外に出してあげましょう」

「ああ」

 私たちは一緒に、子猫を外に逃がしてあげた。


 夕方になり、見回りの時間になった。

 館内を一周して、異常がないか確認する。

「今日も平和だな」

「ええ。侵入者もいませんし」

「でも、油断はできねえな」

 アーガムが真剣な表情で言った。

 彼も、番人としての自覚が出てきたようだ。

「そろそろ日が暮れますね」

 窓の外を見ると、夕焼けが美しかった。

「綺麗だな」

「ええ」

 私たちは並んで、窓から外を眺めた。

 沈黙。

 でも、居心地の悪い沈黙ではない。

 むしろ、心地いい。

「なあ、ネイサ」

「はい?」

「お前、なんでこの学園に来たんだ?」

 突然の質問に、心臓が跳ねた。

 まずい――

 正直に答えられない。

「え、えっと……魔法を学びたくて……」

「そっか。お前なら、もっと凄い学校でも行けそうだけどな」

「そ、そんなことないですよ」

「いや、お前すげえよ。俺より絶対頭いいし」

「そんなこと……」

 私は言葉に詰まった。

 嘘をついているのが、辛い。

 でも、言えない。

「ネイサ」

「はい?」

「お前と番人やれて、良かったよ」

 アーガムが笑った。

「最初は面倒くせえって思ったけど、今は楽しい」

「私も……楽しいです」

 本心だった。

 任務として始めた番人業務。

 でも、今は純粋に楽しい。

 アーガムと一緒にいる時間が、楽しい。

 これは――

 いや、考えるのはやめよう。


 完全に日が暮れた後、最後の見回りをした。

 夜の禁書館は、静かで少し不気味だ。

「明かりつけるか」

 アーガムが魔法で灯りを灯した。

 柔らかい光が、館内を照らす。

「上手ですね、光魔法」

「これくらいなら使えるよ」

 私たちは螺旋階段を上がり、最上階へと向かった。

 そこには、小さなバルコニーがある。

「お、ここ初めて来たかも」

「私もです」

 バルコニーから外を見ると――

「わあ……」

 満天の星空が広がっていた。

 街の灯りから離れた場所だからか、星がとても綺麗に見える。

「すげえな……」

 アーガムも感嘆の声を上げた。

「こんな綺麗な星空、久しぶりに見た」

「ええ……」

 私たちは並んで、星空を見上げた。

「なあ、ネイサ」

「はい?」

「星座とか、分かる?」

「少しだけ。あれが北斗七星で、あれがオリオン座で……」

「へえ、詳しいじゃん」

「魔法と星は、昔から関係が深いんです。占星術とか」

「そうなんだ」

 アーガムは興味深そうに聞いていた。

「俺、星座とか全然分かんないんだよな」

「じゃあ、教えましょうか?」

「マジで? 頼む」

 私は星座を一つ一つ説明していった。

 アーガムは真剣に聞いている。

 こういう時の彼は、子供のように無邪気だ。

「あ、流れ星!」

 突然、アーガムが指差した。

 見ると、一筋の光が夜空を横切っていった。

「本当だ……」

「願い事、した?」

「え?」

「流れ星見たら、願い事するんだろ?」

「あ、ああ……忘れてました」

「俺は間に合ったぜ」

 アーガムが得意げに言った。

「何を願ったんですか?」

「それは秘密」

 彼は笑った。

 その横顔が――

 星明りに照らされて、綺麗だった。

 ドキドキする。

 心臓の音が、やけに大きく聞こえる。

「ネイサ」

「は、はい?」

「お前、いい奴だな」

「え……?」

「真面目で、優しくて、魔法が好きで。一緒にいると、楽しい」

 アーガムの言葉に、顔が熱くなった。

「そ、そんな……」

「俺、お前と友達になれて良かったよ」

 友達。

 その言葉が、少しだけ――

 寂しく感じた。

 なぜだろう。

「私も……友達になれて、嬉しいです」

 そう答えながら、胸の奥に違和感があった。

 友達。

 それでいいのだろうか。

 いや、それ以上を望んでいるのか、私は?

「さて、そろそろ戻るか」

「そうですね」

 私たちはバルコニーを後にした。


 その夜、寮の部屋でランスと話していた。

「お前ら、完全にケンカップルだな」

「は!?」

 思わず声が大きくなった。

「ケンカップルって……何を言ってるの!?」

「だって、見てたぞ。禁書館で口論してるの」

「あ、あれは……価値観の違いで……」

「でも、戦う時は息ぴったりだったな」

「それは……連携が大事だから……」

「それに、星空見てる時のお前の顔、完全に恋する乙女だったぞ」

「こ、恋する!?」

 顔から火が出そうだ。

「違う! 私はただ――」

「ただ?」

「任務で……彼を守らなきゃいけないから……」

「本当にそれだけか?」

 ランスの黄色い瞳が、私を見つめる。

「お前、アーガムのこと、どう思ってる?」

「それは……」

 言葉に詰まった。

 どう思っているのだろう。

 最初は、ただの護衛対象だった。

 でも、今は――

「分からない……」

 正直に答えた。

「自分でも、よく分からないの」

「まあ、焦る必要はないさ」

 ランスは優しく言った。

「時間をかけて、ゆっくり考えればいい」

「……うん」

 私は窓の外を見た。

 星が、静かに輝いている。

 アーガムと見た、あの星空。

 彼の横顔。

 優しい言葉。

 全てが、心に残っている。

 これは――

 恋、なのだろうか。

 まだ、分からない。

 でも、確かなことが一つある。

 アーガムと一緒にいると、楽しい。

 彼の笑顔を見ると、嬉しい。

 彼に褒められると、心が温かくなる。

 これが何を意味するのか――

 いつか、分かる日が来るのだろうか。

 私は、その答えを探し始めていた。

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