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禁書館の魔導師は、万年2位の恋を綴る  作者: 秋津冴
第二話 禁書館ライフ

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3

「それは違います!  魔法は力じゃなくて、芸術なんです!」

 私は思わず声を荒げていた。

 禁書館での番人業務を始めて五日目。今日も放課後、アーガムと一緒に魔導書の整理をしていた――はずだった。

 それなのに、なぜか魔法論争になっている。

「いや、でもさ」

 アーガムは腕を組んで反論した。

「魔法って結局、力だろ?  敵を倒すための、強い力」

「違います!  魔法の本質は、その構造の美しさや、魔力の流れの調和にあるんです!  力はただの副産物に過ぎません!」

「副産物って……お前、本気で言ってんの?」

「本気です!」

 私たちは、お互いに一歩も譲らなかった。

 きっかけは些細なことだった。

 アーガムが「この魔法、威力すげえな!」と興奮気味に言った一言から、私が「威力じゃなくて構造の美しさを見てください!」と反論し――

 気付けば、30分も口論していた。

「つーか、ネイサはさ」

 アーガムが呆れたように言った。

「魔法陣見てる時、めちゃくちゃ幸せそうな顔するじゃん。あれ、完全にオタクの顔だぞ」

「オタクって……失礼ですね!」

「いや、褒めてるんだって。好きなもの見てる時の顔、可愛いし」

「か、可愛い……」

 また言われた。

 顔が熱くなる。

「ほら、また照れてる」

「照れてません!」

「嘘つけ。顔真っ赤だぞ」

 その時――

 ゴゴゴゴゴ……

 突然、床が揺れ始めた。

「え? 地震?」

「いや、違う! これは――」

 私は周囲を見回した。

 本棚の一つから、禍々しい黒い魔力が溢れ出していた。

「魔導書の暴走!」

「マジかよ!」

 黒い魔力は、まるで生き物のように蠢き、床を這っていく。

 そして――

 私たちの足元に到達した瞬間、魔力が爆発的に膨れ上がった。

「うわっ!」

 アーガムが私を庇うように抱き寄せた。

 黒い魔力が、私たちを包み込む。

 まずい――


 目を開けると、見慣れない景色が広がっていた。

「……ここ、どこ?」

 アーガムが呟いた。

 私たちは、真っ白な空間の中に立っていた。

 床も壁も天井も、全てが白。何もない、無の空間。

「これは……魔導書の中に閉じ込められたみたいですね」

「魔導書の中!?」

「ええ。さっきの黒い魔力、おそらく『幻惑の魔導書』が暴走したんです」

 私は周囲を確認した。

「この魔導書は、触れた者を幻想の世界に閉じ込める魔法がかかっています」

「どうやって出るんだ?」

「魔導書の核となる魔法陣を見つけて、それを解除すれば……」

 その時、白い空間に亀裂が走った。

 そこから、黒い影が這い出してくる。

「何だ、あれ!?」

 影は、みるみるうちに形を成していく。

 巨大な狼。いや、三つ首の魔獣だ。

「幻獣……! この魔導書、防衛機能もあったのね!」

 三つ首の魔獣が、牙を剥いて襲いかかってきた。

「くそっ! こういう時は――」

 アーガムが拳を構えた。

「力で解決するしかねえ!」

「待ってください! 計画を――」

「計画は後だ! まず生き残れ!」

 アーガムが突進した。

 もう――この脳筋!

 でも、仕方ない。

 私も魔法を構えた。

「《風よ、刃となれ――ウィンド・ブレード》!」

 風の刃が、魔獣の一つの首を切り裂く。

 同時に、アーガムの拳が別の首に炸裂した。

「おりゃああ!」

 ドゴォッ!

 魔獣が怯む。

「今です! もう一撃!」

「おう!」

 私は次の魔法を唱えた。

「《氷よ、牢獄となれ――アイス・プリズン》!」

 氷の檻が魔獣を包み込む。

 動きが止まった――今だ!

「アーガム様、上から!」

「分かった!」

 アーガムが跳躍した。

 その高さ、5メートル以上。

 人間離れした跳躍力だ。

「落ちろおおお!」

 アーガムの拳が、魔獣の頭部に叩き込まれた。

 ゴッ!

 魔獣が粉砕される。

 黒い煙となって、消えていった。

「やった……!」

「ふう……」

 アーガムが着地した。

「お前の魔法、ナイスタイミングだったぞ」

「アーガム様の力も、すごかったです」

 私たちは顔を見合わせて、笑った。

 息がぴったりだった。

 口論している時とは大違いだ。

「なあ、ネイサ」

「はい?」

「俺たち、意外といいコンビかもな」

「……そうかもしれませんね」

 私は素直に認めた。

 価値観は違う。

 でも、戦う時は信頼できる。

 それが、パートナーというものなのかもしれない。

「さて、ここから出る方法を探しましょう」

「おう」


 白い空間を歩き回り、ようやく魔法陣を見つけた。

 床に刻まれた、複雑な魔法陣。

「これが核ですね」

「どうすんの?」

「解除魔法を使います。でも、この魔法陣は複雑だから……時間がかかります」

「じゃあ、俺が守る」

 アーガムが私の前に立った。

「また魔獣が来るかもしれねえからな」

「……お願いします」

 私は魔法陣の解析を始めた。

 構造を読み解き、解除の手順を組み立てていく。

 集中する。

 周囲の音が消えていく。

 ただ、魔法陣だけが私の世界を満たす。

 これだ――

「《封印よ、解かれよ――アンシール》」

 魔法陣が光り出した。

 白い空間が、揺れ始める。

「出られる!」

「よし!」

 光が強くなり――

 私たちは、元の禁書館に戻っていた。


「はあ……はあ……」

 床に倒れ込む。

 疲れた。

 魔力を使いすぎた。

「大丈夫か、ネイサ?」

 アーガムが心配そうに覗き込んできた。

「え、ええ……ちょっと疲れただけです」

「無理すんなよ」

 彼は私を抱き起こしてくれた。

 優しい。

「あの、アーガム様」

「ん?」

「さっきの戦闘……ありがとうございました。助かりました」

「お互い様だろ。お前の魔法がなかったら、俺も危なかったし」

 彼は笑った。

「でもさ、やっぱり魔法って力だよな」

「……は?」

「だって、あの魔獣、お前の魔法で倒したじゃん」

「いえ、あれはアーガム様の物理攻撃があったからこそ――」

「ほら、また始まった」

 アーガムが笑った。

「お前、本当に魔法の話になると止まらねえな」

「……うるさいですね」

 私も笑ってしまった。

 こうやって言い合えるのも、悪くない。

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