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未来の息子シリーズ

断罪の場に乱入したのは未来息子!? 返品不可・幸せ保証つき!

作者: *ほたる*

※未来息子シリーズ最新作!

各話パラレル構成のため、単独でも楽しめます。

「侯爵令嬢リリアナ! お前が男爵令嬢エリナをいじめ続けた罪――もはや見逃せぬ!」


 王太子フレデリックの声が広間に響く。

 糾弾されたリリアナは、陽光を受けてやわらかく揺れる茶色の髪に、翡翠のように澄んだ緑の瞳を震わせた。

 けれどその美しさは今、疑惑の色を帯びた眼差しにさらされ、冷たい囁きを招いていた。


(……いじめ? そんなこと、一度もしていないのに!)


 彼の青い瞳は勝ち誇っていた。だが次の瞬間――


「――失礼いたします」


 静かな声と共に文官が進み出る。手にした書類を国王へ差し出した。


「証拠とされた手紙は偽造です。使用された羊皮紙もインクも、この王宮では存在しません。筆跡も不一致。侯爵令嬢を陥れるためのものと断定されました」


 広間がざわめき、フレデリックの顔から血の気が引いていく。


「そ、そんなはずは……! 私は確かにこの目で……!」


 彼は必死に声を張るが、文官の冷静な報告と群衆のざわめきにかき消される。


「証拠が偽造と判明した以上、殿下の主張は成立しません」


 文官の一言が決定打となり、視線が一斉に王太子へ突き刺さった。


「まさか……王太子殿下が偽証を?」

「リリアナ様を陥れるために?」


 囁きが広間を駆け抜け、空気は一変する。

 フレデリックは動揺のあまり口をぱくぱくさせるだけだった。

 その姿は、威厳ある王子というより哀れな少年にすぎない。


「フレデリック。――下がれ」

 国王の冷ややかな声が響いた。

「父上、しかし私はっ――!」

「これ以上醜態をさらすな」


 一喝にフレデリックは言葉を失い、顔を真っ赤にして踵を返した。


 ――けれど、胸の奥に小さな疑念が芽生える。


(……なぜ? なぜあの文官が、あれほどはっきりと私を庇う証拠を差し出してくれたの?

 王太子の婚約者である私に味方するなど、誰にとっても得にならないはずなのに……)


 静まり返った広間。

 疑惑を晴らされたリリアナに視線が集まる中――


「みなさーん! ちょっと聞いてください!!」


 突如、甲高い声が響き渡った。

 人々が一斉に振り返ると、銀髪の少年が大股で壇上へ駆け上がってくる。


「僕は――宰相家の長男セドリック様と侯爵令嬢リリアナ様の、未来の息子です!!」


 広間がどよめいた。

 あまりに場違いな宣言に、誰もが息をのむ。


 リリアナは思わず瞳を見開き、壇上の少年を見やった。

 銀の髪に、翡翠のような緑の瞳――その片方は、まぎれもなく自分の色だった。

 ふと視線を巡らせれば、列席していたセドリックも、思わず少年を凝視していた。


 現宰相の嫡男、次期宰相候補と目される切れ者。

 名前も存在も知ってはいたが、直接意識したことなど一度もない。

 銀の髪に蒼い瞳――普段は石像のように無表情だと噂される男。

 その彼が。

 今は。

 目をまんまるに見開き、口がわずかに半開き。

 石像どころか「衝撃の顔!」をさらしていた。


(……あの冷静沈着だと評判のセドリック様まで固まってる!?)


 リリアナは混乱のあまり、思わず心の中で突っ込む。

 一方で壇上の少年は胸を張っていた。

 その姿は信じがたい話を逆に真実味を帯びさせ、広間に「もしかして……?」というざわめきを広げていった。


「僕は未来からやって来ました!

 そして断言します――このあとセドリック様とリリアナ様は政略結婚をするんです!」


 ざわめきが一段と大きくなる。

 突拍子もない宣言に、群衆は半信半疑の視線を交わした。

 だが少年は胸を張り、さらに言葉を重ねる。


「けれどその結婚は誤解とすれ違いだらけで……!

 ついに母上は実家に帰ってしまう未来にたどりつくんです!!」


 リリアナは思わず息をのんだ。


「でも安心してください! 母上を陥れた罪の証拠を集めたのは――父上です!!

 全部、父上が陰で動いていたんです!」


 広間が「えぇぇ!?」とどよめいた。

 セドリックの蒼い瞳が、ぐらりと揺れる。

 冷静沈着だと評判のその顔が、一瞬だけ崩れた。


(な、なぜそれを……!? 誰にも明かしていないはずなのに!)


 普段の無表情からは想像できない動揺が、はっきりと浮かぶ。

 リリアナは思わず息をのんだ。


(……えっ? セドリック様が……? 嘘……本当に、裏でそんなことを?)


 少年は胸を張り、さらに言葉を重ねる。


「そうなんです! 父上は誰にも言わず、こっそり証拠を集めていたんです!

 なのに無口で不器用だから、母上は全然気づいてません!」


 広間に再びざわめきが走り、リリアナの頭は混乱するばかりだった。


「そして皆さん! ここからが重要です!」

 少年は胸を張り、声を張り上げた。

「父上は母上一筋! ずっと陰で支え続けていたんです!

 たとえば、母上が舞踏会で陰口を言われていたとき――陰で根回しして火消ししたのも父上です!

 母上が風邪をひいたときも、さりげなく薬を届けさせてたのも父上なんですよ!」


 広間が一気にざわめいた。

「そ、そんなことまで!?」

「あの宰相候補が?」

「……顔、赤くないか?」


「やめろ……! それ以上は言うな……!」


 セドリックの声が裏返った。

 普段は滅多に表情を動かさない男が、耳まで真っ赤にして必死に否定し――震える手で拳を握りしめている。

 その慌てぶりこそ、何より雄弁に「図星です」と叫んでいた。


「そんな父上と母上が結ばれる未来は――もう約束されているんです!

 しかも今なら!」


 少年はきらりと笑みを浮かべ、両手を大きく広げた。


「こんなに可愛い僕もセットでついてきます!!

 返品不可! キャンセル不可! 未来の幸せ保証つきです!!」


 広間に呆気と失笑が混ざったどよめきが広がる。


「保証って何の!?」

「お得……なのか……?」


 その中で、リリアナは胸の奥が熱くなるのを感じていた。


(……本当に……セドリック様が、そんなふうに私を……?)


 信じられない、でも彼の真っ赤な顔が何よりの答えで――

 不意に胸がときめいてしまうのを、どうしても抑えられなかった。


「……でも、ここに来るのだって、本当に大変だったんです!」

 少年はぷんすかと頬をふくらませて叫ぶ。

「王家の血を引く曾お婆様に頭を下げて、泣いて、土下座までして! 

 家宝の《時越えの魔道具》をやっと借りてきたんです!!」


 広間が一斉にざわめく。


「そんな大事なものを……?」

「子どもに渡すなんて……」


 少年は胸を張り、セドリックをびしっと指さした。


「だから父上! 僕の苦労を無駄にしないでください! 

 今こそ母上に、男を見せるときです!!

 母上への愛を、ちゃんと言葉にしてください!

 態度だけじゃ伝わりません! このままじゃ未来で母上は本当に実家に帰っちゃいますよ!!」


 広間にしんと静寂が広がった。

 普段は冷静沈着と恐れられる宰相家の長男が、まさか子どもに説教されているなんて――

 誰もが信じられない光景だった。


「……っ」


 セドリックの蒼い瞳が揺れる。

 無表情を必死で保とうとするが、耳の赤みはもう隠しようがない。


「や、やめろ……! そんなこと……!」


 普段は感情を微塵も見せない男が、今はどう見ても動揺を隠しきれていなかった。


「父上、観念してください!」


 少年は胸を張り、勝ち誇ったように叫ぶ。


「母上はちゃんと待ってるんです! 言葉にするだけで未来は変わるんです!」


 群衆は固唾をのんで見守り、リリアナは胸を高鳴らせてセドリックを見つめた。


(……セドリック様……?)


 列席していたセドリックが、ゆっくりと歩み出る。

 一歩、また一歩と壇上へ向かい、リリアナのそばに立った。


 深く息を吐き、彼はようやく口を開く。


「……私は、最初から君だけを想っていた」


 低く、けれどはっきりとした声。


「陰で証拠を集めたのも、義務ではない。

 君を守りたかったからだ。――それだけだ」


 リリアナの胸が大きく震える。

 その言葉が、静かに、けれど確かに心の奥に届いていく。


(……本当に……ずっと……?)


 少年はぱっと笑顔を浮かべ、両手を腰に当てて胸を張った。


「ほら見てください母上! やっと父上が言いましたよ!

 これで未来はハッピーエンド間違いなしです!」

「母上! 父上は不器用ですが、母上一筋なんです!

 そこだけは絶対忘れないでください!」


 少年は広間いっぱいに響く声で言い切り、満足げに胸を張った。


「父上! 言葉にするの、すごく大事なんですよ!

 しないと本当に母上に逃げられますから! 僕の未来を無駄にしないでくださいね!」


 その瞬間、少年の体が柔らかな光に包まれていく。


「じゃあ、僕は帰ります! 二人ともお幸せに!!」


 にっと笑って手を振ると、彼の姿はぱっと掻き消えた。

 残されたのは、ただ呆然と立ち尽くす人々と――照れくさそうに立つ二人だけ。

 セドリックはしばし沈黙し、やがて小さく息を吐いた。


「……まったく、あいつは勝手なことばかり言って……」


 そう言いつつも、彼はそっとリリアナへ歩み寄る。

 伸ばされた手は不器用に震えていたが、触れた先には確かな温もりがあった。


「……リリアナ。俺は、君を愛してる」


 短く、けれど真っ直ぐな言葉。

 その響きに、リリアナの胸は大きく震えた。


「……本当に、私のことを……?」


 涙が滲み、思わず微笑む。

 次の瞬間、セドリックの腕が彼女を強く抱き寄せた。

 広間に残るのは、呆気と温かな余韻。

 人々の視線も、今はただ二人の行く末を祝福するように静かだった。



お読みいただきありがとうございました。

もし何か感じていただけたら、ブクマや感想を頂けると励みになります✨

未来息子たちのこれからの物語を、そっと見守っていただけたら嬉しいです☘️

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