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びしょうじょ・ぱんでみっく!  作者: カシノ
あなたにわたしのすべてを捧げる

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024

「遅かったね、本当に。このまま会えないと思った」


 ドローンを送っていたのは、妹だったらしい。口振りからして、僕と金剛さんの状況も知っているのだろう。

 何年振りか分からないほどの再会であるが、積もる話は特にない。知りたいことだけを簡潔に聞くことにする。


「JCってなんだ。どうして僕は破裂しなかった」

「いきなりだね。暫くぶりの妹相手に、懐かしむこともしないのかい」

「お互い大した思い出もないだろ。知ってるなら早く話してくれ」

「……わかったよ」


 杏は目元を隠して大袈裟に溜め息を吐くと、頭を振ってから尊大に胸を張った。


「最初に白状しておこう。ウィルスを開発し、パンデミックを起こしたのは私だ」


 嘘を言っているようには見えないが、世界規模の災害を子供一人が引き起こせるとも思えない。そういう疑問を見透かして、杏は訳知り顔で鼻を鳴らす。


「もちろん、私一人で成したわけじゃあない。協力者は世界中にいる。発案は私だけどね」

「こんなことに付き合う人が他にもいたのか?」

「科学者っていうのは、恋愛に憧れる奴が多くてね。少女ばかりの世界で生きたくはないかと声を掛けたら、皆二つ返事で了承してくれたよ」


 実感の湧かない話だ。

 興味が薄れてきた僕とは対照的に杏は熱が入ったようで、早口で言葉を続ける。


「とはいえ、ここまで大それたことができるとは思っていなかった。運命を変えたのは、ある子供の遺体から見つかった特異な細胞さ」


 子供の遺体。犯罪臭のする響き。杏が勤めていたのは、まともな研究機関ではないらしい。


「地球上の生物であることを疑いたくなる細胞でね。私がこうあって欲しいと願ったとおりの反応を示すんだ。まさしく魔法のような細胞だった」


 杏の目が煌々と輝く。狂気的な光だ。

 見た目は似ていても、純粋に僕を求めていたJC達とは違う。


「だから、魔が差した。いや、ようやく願いが叶う機会が訪れた、というべきか」

「願い?」

「兄さん。貴方を手に入れることさ」


 誰かに好意を向けられる。

 以前の僕なら喜び、動揺しただろう。いや、相手が妹だから、牡丹のトラウマが想起されていたかもしれない。

 だが、突然の告白にも関わらず僕の頭は平静で、疑問符が浮かぶだけだ。


「そんなに意外そうな顔をしないでくれ。身近な異性に心惹かれるのは、別に不思議じゃあないだろう」

「話したことはほとんどない。君は父と母に連れられて、僕の家族は牡丹一人みたいなものだった。好きになられるほどの時間は過ごしてない」

「……それだよ」


 一転して、杏の声色が低くなる。ぎらついた瞳に影が落ち、憎しみを帯びた視線を向けられる。


「そうさ。私がどれだけ兄さんを想っても、研究が私を離さない。その結果がどうだ? 牡丹が、あの女だけが兄さんを独占した!」


 杏がうなじを掻きむしる。手を動かすたび、細かな瘡蓋がぱらぱらと床に落ちる。


「おかしいだろう? 顔も体も同じなのに、どうして私だけが馬鹿を見る? あいつが兄さんを襲ったと知った時は頭がおかしくなりそうだったよ。だから、親を使って引き離した。なのにあいつ、自殺なんざしやがって! 下手くそな遺書まで残してさあ! 死んでからも兄さんを独り占めするなんて、くそ、くそくそくそ!!」


 その場で何度も強く足踏みする。

 黙って眺めていると、一頻り暴れて疲れたのか、大人しくなった。


「ふう、ふう。そんな折だよ、この細胞に出会ったのは。研究所の連中は世紀の発見だと浮かれていたが、そんなのはどうでもいい。こいつがあれば、今度こそ兄さんが手に入れられる。お次は原因の分析さ。最大の障害は、兄さんが牡丹に囚われていることだ。それじゃあ、どうすれば兄さんを解放できるか? 答えは簡単、あいつの死が原因ならば、あいつを蘇らせれせてしまえばいい」


 杏はまた自分の世界に浸り始めた。うろうろと部屋を行き来しながら喋り続ける。


「もちろん、そのまま蘇らせるなんてことはしない。あいつが再び兄さんに纏わりつく光景なんて、怖気がするね。それに、あいつが得をすることなんて、一つだってしたくない。だから、考えた。兄さんの心を癒せて、尚且つ私が最大に幸福になれる方法を」


 突然立ち止まり、こちらに向き直ると、不気味に口角を吊り上げる。


「私だ。瑪瑙(めのう)(あんず)を増やすんだ。幸か不幸か、私と牡丹は同じ姿をしている。増えた私が牡丹のように振る舞えば、兄さんの後悔は薄れていく。何より、兄さんを独り占めにできる。世界中が私になれば、兄さんは私を愛するしかなくなる!」


 牡丹なら、誰かが僕の隣にいるのを許さなかっただろう。それがたとえ、自分の複製品だったとしても。

 なによりあの子は、ありのままの自分を愛させようとした。目的のためとはいえ、誰かの真似をするなんていうのは絶対にしない。そういう根本的な違いがあるから、僕は杏を家族だと思えないのだろう。


「体内に摂取すると同時に、体を私に作り変えるウィルスを造った。それから、世界の主要都市にウィルスをばら撒いた。ああ、兄さんの住む町と、ここら一帯は念入りにやらせてもらったよ。拡がる前に殺処分されては堪らないから、人払いも込みで。計画通り世界は、特に兄さんの周辺は、すぐに私で一杯になった」

「僕が破裂しないのには何か理由があるのか?」

「もちろんさ。兄さんまで私になったら意味がない。兄さんの遺伝子にはブロックを掛けたよ。ウィルスの進行を止めることはできなかったけれど、まあ、些細なことさ」


 僕の特別は仕組まれたものだったということか。

 自分に価値が生まれたと浮かれていた数日前を思い出し、心の内で苦笑する。


「だけど、はは、生き物っていうのは思い通りにいかないね。ウィルスはすぐに、わたしの想定から外れた変化を始めた。意思の力というやつか? 生前の自我が強いほど、変異後の見た目に個体差が出るんだ。こんなところまで魔法とは、本当に嫌になる」


 思い出すのは杉石君の変貌した姿だ。彼は男性であることに見切りをつけたようでいて、男の自分が愛されることを諦められなかった。だから、二つの性が混じったJCに変化したのだと思う。

 では、金剛さんはどうか。杉石君と同じように、僕を愛し、愛されたかった故に姿が変わらなかったのなら、これ以上なく嬉しいけれど、流石にそれは都合が良すぎるか。

 僕がぼんやりと思惟に耽る間も、杏の論説は続く。僕の反応を無視して好き勝手に話すところは、牡丹によく似ている。


「結果、私の計画は失敗した。兄さんを独り占めするはずが、恋敵を増やしてしまうなんて。何なんだよ、そのデカブツは。急に現れて、私の兄さんを滅茶苦茶にしやがって。全部見ていたぞ。お前も気付いていたんだろ? 分かっててあんな、見せつけるような真似をしたんだ。なぁおい。何とか言えよ」


 金剛さんは動かない。

 苛立った杏は手近なボールペンを掴んで振りかぶる。


「やめろ」


 言葉で短く制すると、杏は酷く傷ついた顔になった。奥歯が擦り減りそうなほど歯を食い縛り、ボールペンを荒々しく床に投げ捨てる。


「はは。そうだね。もうどうでもいい。私の計画は失敗した。けれどまだ、幸せになる方法は残ってる」


 そう言って、杏は白衣のポケットから試験管を取り出した。

 中には透明な液体が入っている。


「ウィルス入りの唾液さ。私になるためのウィルスを私が飲めば、どうなると思う? はは、そうさ、完全な私に生まれ変わるんだ。そこのデカブツみたいな紛い物なんか比にならない、完璧なJC()にね」


 杏は試験管を光に透かし、揺らぐ中身を恍惚とした表情で見つめる。


「牡丹は自殺なんてありきたりな方法を選んだが、私は違う! 兄さんへの気持ちを、こいつで証明してみせる!」


 親指で蓋を飛ばし、口の端に泡を溜めながら叫ぶ。血走った目は試験管に集中し、僕は映っていない。


「私の気持ちは本物だ!」


 顎を逸らして、試験管の中身を一気に呷る。

 直後、杏の体は爆散した。

 大量の液体を飛び散らし、部屋中が赤く染まる。

 爆心地には誰もいない。

 主人を失った白衣が床に落ち、体液を吸って変色していく。

 杏はJCになれなかった。だが、彼女の叫びを聞き、その無惨な結末を見ても、涙は出ない。

 僕は最後まで、この子に興味を持つことができなかった。

急に魔法要素が出てきましたが、いずれ別のお話で理由を説明できたらなと思ってます。

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