田舎に光る美少年
…はず、だったのだが…?
また、目が覚めた。
…目が開いた?そんなはずない、だって私は…!
「どうしたの?要くん」
「えっ…」
ええ!!!要!?誰!?ていうか、要「くん」?私女なんですけど!
…待てよ?ここはどこだ?すごく質素な壁と家具に、…鏡…そうか、鏡を見ればわかるはず!
とりあえず目の前にある鏡をのぞき込んでみた、のだが…
「ええ!?これ私!?かっ、かっっっっっっこよ!」
なんと、目の前の鏡に映ったのはいわれもなき究極の美少年だった。荒れ一つない肌に、端正な顔立ち。
綺麗な浅葱色の瞳、それにサラサラの紺色の髪……そして、なにより…
「漫画の世界すぎる!」
明らかに「私の生きる世界」ではない。とすると…
もう一度辺りを見回す。確かに、改めて見てみるとすべてイラストのようなタッチだ。そして私の急なナルシスト発言に困惑しているであろう、この美少年のお母さん…?
「いやお母さんも美少女!!!!」
本当にこの美少年のお母さんなの!?と言いたくなるほどの若々しい姿。いや、待てよ。まだお姉さんという場合もある。そうだ、お姉さんだ!
「ど、どうしたの要くん、急にお母さんのこと美少女だなんて…」
お母さんだったか!!!!!!
でもとりあえず、分かったことは3つ。
私は「あの世界」で死んで、この世界の美少年くんに魂が乗り移ってしまったということ。
そしてこの世界は、私が死んだ世界ではないこと。
そしてこの一家は美人一家だということ!
とりあえず、私がこの美少年…要くんに乗り移ってしまったのなら、要くんらしくふるまわないといけない。
美少年…美少年の話し方…美少年の仕草…?
よし、このキャラでいこう!
「いや、改めて母さんって綺麗だなって思っただけだよ、気にしないで」
決まった!!!絶対決まった!!!ついでにかわいらしい仕草もつけたし、これは要くんらしいでしょ!
そう確信していたのもつかの間、お母さんからは意外な答えが返ってきた。
「ど、どうしたの要くん、最近ずっと反抗期で、うっせぇクソババァ!としか言ってくれなかったのに…!」
前言撤回。要くんとてつもなく口悪かった。
でも、私は親にそんな暴言を吐いたことがない。もう元の要君との性格のミスマッチはしょうがない。私にはこんな美人のお母さんに暴言を吐くことはできない!
「…今までごめん、母さん。わた…俺、考え直したんだ。やっぱり今までずっと育ててきてくれた母さんだし、大切にしていかないとな、って…」
私はこの人と初対面な上に、大切にするきっかけもないが。
それでもそんな私の精一杯の嘘はバレなかったようだ。お母さんは、目にうっすら涙を浮かべている。
「よかった…要くん、美少年なのに口が悪いから、いままでずっと誰も寄り付かなくて…っ!これなら、たくさんお友達できるわね…!本当によかった…!」
このお母さんは泣いてる姿もかわいいなと思っていたが、「今まで誰も寄り付かなかった」という言葉を聞いて、そこまで性格が悪かったのかと昔の要くんに興味がわいてきた。
…だが、まだ何も解決していない。
「ごめん母さん、ちょっと考え事したいから、部屋に戻るね」
今まで起きたことを整理しなければ。さすがにこの年頃の男の子なら自分の部屋くらいあるだろう。
「…要くん、部屋ないでしょ。考え事したいなら外にでも出てみたら?」
おおっと、部屋さえないのかいお母さん!?
驚きのあまり声が出そうになったが、あくまで私は今「要くん」だ。今はとにかく要くんになりきらなければ!
「はは、冗談だよ。紙とペンある?」
情報を整理しないといけない。私は頭の容量が特別いいわけではないので、できれば筆記用具は欲しいのだが、はたしてあるのだろうか?
「あるよ」
よかった!さすがにあった!
そう言っておかあさんは近くの棚を開ける。その間に改めてこの家の内装を観察してみるが、やっぱりどれも平凡…というか、家自体がそこまで広くないことに気づく。
「はい、どうぞ」
そんなことを考えているうちに、お母さんが紙とペンをこちらに差し出してくれていた。
「ありがとう」
笑顔で受け取ると、お母さんはまたもや泣きそうになっていた。
「うんうん、どういたしまして。もう、本当にいい子になったのね。ありがとうなんていつぶりに聞いたか…」
なんだか私まで悲しくなってきたので、早く家を出よう。
玄関らしい扉の前でいってきますと声をかけると、お母さんは満面の笑みで送り出してくれた。
そしてゆっくり扉を開ける。
そこにはなんと…
「…田舎!!!!!!!!」
立派なお城なんてものは遠くにさえ見えず、あるのは小さい民家だけ。道もあまり整備されていなさそうだ。少し歩いてみても、見えるのは畑や田んぼ。かろうじて小さなスーパーが建っている。
てっきりこれだけの美少年なら高貴な生まれかと思ったが、もしかして、私はこれから…
「知らない世界の知らない場所で超ド田舎に住む美少年として暮らしていかなきゃかならないのかなぁ!?」