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プランB 05


6月3日 試験当日


巨費を投じた実験の日。


立てこもった彼の国の人の部屋は、万が一に備えてブロックごと閉鎖して、ハッチを外側からも接着して室外へのアクセスを物理的に遮断した。

彼が自分の立てこもったモジュールから出ようと思ったら、接着しているハッチを切断しなければならないがその手段は彼にはない。



「 3号機が目標宙域に到達。 3号機の引力センサーに歪みを確認したわ 」


「 了解した、3号機の融合炉をスタンバイからアイドリングへ 」


ステーションの管制室室では、ヒロとジュンとマークがオペレートしている。

メインオペレーターはヒロで、ジュンとマークはサブだ。


「 本当に来るとはね 」


「 ヒロはまだ彼らを疑っていたの? これだけの費用を出してくれたのに? 」


「 あれを正確に探知する方法は論文すら発表されていなんだ。 流石に疑うさ 」


ヒロはモニターから顔を上げずに答える。

ヒロは彼らに騙された経験があるのだ、疑うほうが自然なのだ。

ヘリウム融合炉の稼働は今日の試験にとって重要だ、安全な稼働状態になるまでは目を離せない。


「 それよりだ、閉じ込めちまって本当に良かったのか? 」


「 仕方がないさ、失敗は許されないからね。 本当なら女性の方も閉じ込めたいんだけど・・・ 」


マークの問いかけに、ヒロはジュンにチラッと視線を送るが直ぐにモニターに戻す。


大丈夫だとジュンから聞いてはいるが、心配なものは心配なのだ。

それはムービングゴールと呼ばれ何度も覆されている過去の彼らの行動が原因で、過去に何度も証明されている。

彼の国の人々は、とにかく日本人が邪魔なのだ。


「 大丈夫よ、彼女は理日派だから。 それに他の子にも監視を頼んでおいたし 」


理日派:とにかく反発とにかく同調ではなく、その他多くの国同様に理解しようとしている派閥だ。


「 了解だ 」


ジュンに手抜かりは無いらしい。



「 水も食料も持ち込んでるって聞いたし、命を落とすことは無いだろ? 多分 」


見かけた者たちの証言から推測して、持ち込んだ食料などは約2週間分ではないかと推測されている。 それだけあれば、少なくとも実験中は飢えたりはしないだろうと判断されている。


「 だがなヒロ、あのモジュールにはシャワーもトイレも無いんだぞ? 」


「 そうなんだ? それは気が付かなかったな 」


サブモニターでステーションの構造データを確認するヒロ、確かに彼が立てこもったあのモジュールにはシャワーもトイレもない。

日本人のヒロにはシャワー無しの2週間だけでも辛い、トイレを2週間我慢するのは不可能だ。

トイレを我慢するのは、ヒロに限らず生きた人間なら無理なのだが。


「 俺は知らないからな 」


マークは責任逃れをした。


「 携帯式トイレを持って入ったって可能性は? 」


「 水と食料だけだったって聞いてるわ 」


ジュンが答えるが、ヒロは想像したくもなかった。

対処する他の方法があっても時間が足りない、そういう時は忘れてしまった方が精神の安定にはなる。 

立てこもった彼自身も何とか対処はするだろうが、完全に対応するのは難しいだろう。


「 マークの国に、『 人間の排泄物から製造する酒 』 と言った単語(・・)は在るかい? 」


「 あるか! そんなモノ! こう見えても、俺は酒に関してはこだわりがあるんだ。 そんなモノは聞いたことがない、在ったらその場で叩き壊してやるさ 」


「 日本にも無いんだけどね。 でも彼の国にはそういう単語(・・)が存在するって知ってたかい? 」


「 何だそれは? どういうことだ? 」


「 だから、彼の国にはそんな単語(・・)があるんだよ。 彼の国ではそう言う酒を作れるし、飲んでるって事だろ? だからさ、そうなっても彼なら酒でも造って飲むだろう、って事さ 」


マークは心から嫌な顔をしている。


「 つまり? 」


「 彼は彼の責任で立てこもった。 排泄物は・・・酒の原料にでもするんだろ。 だからトイレを持ち込まなかった 」


ヒロはそれが真実であるかのように、マークに語った。 

ヒロ本人も全く信じてはいないだろうが、話はこれで終わりだという事だけはマークも理解した。

想像してもあまり気持ちの良い話ではないし、今更どうしようもない。


「 了解だ。 彼は実験に反対したんじゃなく、酒を密造するために立てこもった。 君らの実験を妨害する意思はなかった 」


「 今のところはそれで良いさ 」


ヒロの肩をすくめるジェスチャーは、マークの国ではポピュラーだ。

ヒロのジェスチャーがいささか崩れているのは、慣れていないこともあるが、気持ちのいい話題ではなかったことが大きいだろう。


そしてマークは理解した、密造酒作りは規則違反にはなるが反乱には当たらない。

立てこもった彼がしばらくの間臭いのを我慢すれば、マークは彼を処分しなくても良い。

ヒロが言っているのはそういう事だと。 


ヒロもジュンも彼を罰したいわけでは無い、それが分かれば充分だった。


各国首脳の全権委任状と、膨大な資産を有するスポンサーを持っている二人の言動は重い。

マークはそれを十分理解している。


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「 1号機も加速を開始したわ 」


「 ステーションの全てのセンサーは観測を継続してる。 異常は無い、同じ結果が出てる 」


ジュンとマークが報告する、ヒロはモニターから目を離さない。


「 了解した。 そろそろ、3号機のヘリウム融合炉を稼働するよ 」


ヒロがモニタを操作する、3号機のヘリウム融合炉が全力運転を開始した。 

生み出された膨大なエネルギーは、本来の目的のために使用され始める。


最後に残った1号機が加速を開始し、これで全ての衛星が外力による加速を始めたことになる。

3機の衛星の進路を合成して衛星が目指している空間が判明する、そこは何もない空間に見える。


「 ブラックホールか・・・ 」


「 その通りよマーク。 でも大丈夫、マイクロブラックホールに分類されてるから、ステーションにも太陽系にも影響はないわ 」


「 しかも、太陽系から遠ざかる軌道だし。 実験が終わったら、そのまま太陽系から遠ざかる軌道さ 」


測定対象のブラックホールの推定位置は木星の公転軌道より外側で、太陽系を通過して太陽系外への飛翔コースとなっている。

ヒロもジュンも、スポンサーからそう訊いている。


ヒロとジュンが実験に使おうとしているモノ、その対象にマークは辿り着いた。

そして新たな疑問が生まれる。


「 ブラックホールに衛星を突入させて、どうしようってんだ? 」


ヒロもジュンも微笑んでいるだけで何も答えない。


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