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プランB 04


巨大な木星を背景にしてジュンが作業を進めていく。

ヒロが監視しているモニターには、ジュンと木星の一部が映っている。

木星の一部しか映らないのは距離が近いからだ、あの中に落ちたらまず助からない。


『 パッケージを差し込んだわ、異物除去を実施するわね 』  


「 了解 」


ヘリウム融合炉に燃料パッケージを挿入する時には、炉内に異物が入り込まないように細心の注意が必要になる。

地上で充分注意を払って製造されてはいるが、最終確認と仮にあったと仮定しておいて、クリーニングする位の努力もするべきだ。


その為のブローだ。

それが存在した時の被害の大きさを考えれば、注意をし過ぎるくらいでもまだ足りない。


『 ブローが終わったわ。 燃料パッケージをセットするわね 』


「 了解。 慎重にな 」


『 了~解~ 』


ジュンは自身の緊張を和らげるために、あえて軽い言葉遣いをしている。

そして、それをヒロは知っている。

30km離れた所にはヒロが居るのだがジュンは緊張していた、30kmとは言え地表の30kmとは違う。

何かあったら車をすっ飛ばして迎えに行くなんて出来ない、迎えを待ってることも出来ない。


ジュンは燃料パッケージを更に炉内に押し込んで180°回転させ、もう一度押し込んで今度は逆方向に360°回転させて固定する。

燃料パッケージをロックボルトで固定したら、炉のハッチを閉じる。

外壁の固定ボルトを電動ドライバーで回したら作業は完了だ。


『 燃料ユニットの装填が終わったわ 』


ジュンは内心で安堵のため息をつくとヒロに報告する。

ヒロの事だからシッカリ観てくれているのは知っているけれども。


ヒロはモニターしている3号機に変化があったことを認識して、確認作業を開始した。

確認だけだ、炉を稼働させるのはジュンがステーションに戻ってからになる。


「 こちらでも確認した、ヘリウム残量のモニターから始めてる。 今のところ問題は無いよ 」


『 じゃあ大丈夫ね。 今から帰るね 』


「 お疲れ様。 ステーションに帰るまでが作業だからな、くれぐれも気を付けてくれよ 」


『 了解 』


ジュンの搭乗する船外活動機が、スラスターを噴射してステーションに向かって加速を開始する。


「 ヘリウム融合炉の燃料確認作業完了。 ヘリウム残量に問題無し、炉心の異物警報無し。 今の所オールクリアだ。 これで何時でも稼働できる 」


「 それで、何をしようって言うんだ? 融合炉まで持ち込んだんだ、単なる実験じゃないのはわかるが。  衛星を外宇宙までぶっ飛ばす気か? それとも木星の()()に行く気か? 」


「 すまないマーク、それはまだ話せないんだ。 例えマークでもね 」


3基の衛星の放出は上手くいった、3機はステーションから離れてステーションに追随している。


--------------------


「 どうにも無理だな 」


マークが珍しく弱音を吐いてる。

彼は1カ国だけと言うか1人と言うか、ジュンとヒロの実験計画に反対している者の説得から帰ってきたばかりだ。


「 お前達の国はどうなってるんだ? もう400年以上昔の話で、6億3000万km向こうでの話だろ? 」


「 それはあちらに言ってくれないか? 」


マークが言ってるのは、ジュンやヒロの国とお隣の国の諍いのことだ。


「 要約するとだな、”謝罪も賠償もしないジャップに協力する気はない” だそうだ。 2週間分の水と食料を持ち込んで籠城したらしい。 内側のカメラは壊したみたいだし、ハッチも内側から接着したようだ。 ありゃぁ、2週間は出てこないつもりだぞ 」


「 そこまでやるんだ 」


大きなため息を付くヒロ。


南北が統一され世界的にそれなりの地位を築いた国家、その代表としてステーションに滞在している科学者がとる態度ではない。

マークだけではなく、他のすべてのステーション在住者はそう考えている。

同じ国の女性科学者は、ヒロとジュンに直接謝罪に来ているほどだ。


「 残念だけど時間切れだ。 強硬手段を採るよ 」


ヒロが端末をステーションのコントロールパネルと接続する、コントロールルームのすべてのモニターが一瞬だけブラックアウトしてから復帰する。

ヒロは、立てこもった科学者がいるブロックの全ての機能をオーバーライドした。


実の所、立てこもった人物のいるブロックのセンサーは今回の観測に必要ない。

そんな事もあろうかと、より新しく、高精度なセンサーを持ってきているから。

オーバーライドしたのは、万が一でも外に出られないようにするためだ。


「 何をしたんだ? このステーションにそんな機能は無いはずだ 」


「 見た通りだけど? 」


「 俺は10年間ここでミッションをこなしてる、毎日何時間も操作してる、使い込んでる。 このステーションにはそんな機能は無いはずだ 」


マークにはマークの、プロフェッショナルとしての思いがあるのだろう。

それが分かるヒロはゆっくり説明する。


「 マーク。 このステーションのプログラムは30人のエンジニアが、5年掛けて開発したんだ 」


プログラマーは、公平と安全を期して複数の国から集められた。

自分の担当以外の箇所は、具体的な内容については知りようがない。

プログラムは全体として、ステーションを維持するために使用されるのは知っているが。


「 プログラムを書いたエンジニアでも、全部を把握できてる訳じゃないんだ。 いいかいマーク。 使ってるだけで全てを理解しようなんて、そんなことは無理だよ 」


「 しかしだな・・・ 」


「 没になったアイディアやデータがプログラム内に残ってるケースもある、内緒で最初から入っているコードもある。 それらは使ってるだけじゃ決して分からない。 マークがソースコードを直接解析できれば、分かる可能性は在るけどね 」


「 ・・・機密事項と言うことか 」


「 それも在るんだけど。 プログラマーがお遊びで残したのもあるから、使ってるだけで全部把握するなんて、現実には不可能だよ 」


使ってるだけでは、全てのプログラムを理解できることは出来ない。

30人が5年必要だったのだ、一人で解析したら単純に150人年の作業量になる。

余程の天才でもない限り最低でも150年掛かる、僅か10年使っていてもねぇ。


実に単純な話なのだ。

プログラムが何をやっているか知りたいなら、解析する必要がある。

マークの完全な思い上がりと思い違いなのだが、ヒロはあえてそこは指摘しなかった。


完全な引きこもりには家の中が世界の全てだ、だから世界(・・)を全て知っている気になる。

地元じゃ最強なんて言葉もあるがそれも同じだ。

知ってるつもり分かったつもりなだけで真実と現実は別の所に在る、世界は広いのだ。


「 ・・・・・・ 」


マークが活動を停止した。

自分が居るステーション、自分が把握していると思っていたステーションが、実は訳が分からないプログラムで動いていたなんて知ったらそうなるか。

わずか10年で全てを把握するのは無理だ、そう思い込むのは自由だがショックは大きいだろう。


若者や馬鹿者が罹患する中二病と言われるシンドロームの症状の一つなのだが、マークは中年で決して若くはない。 

自己研鑽と自己改革、つまり学習と情報のアップデートを怠ったツケだ。


しばらく放置すれば勝手に再起動するだろう、オマケにステーション責任者の心身管理は自分の仕事じゃない。

もう直ぐジュンがステーションに帰ってくるのだ。

安全な場所で作業しているマークより、安全ではない外から帰ってくるジュンの方が遥かに大切だ。



そう考えたヒロはマークを放置して、自分の作業を進めていった。



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