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プランB 03


西暦2228年06月03日 ガニメデステーション 管制室


「 それでだ。 なぜワイフを危険が一杯の()に行かせて、お前はココで座ってるんだ? 」


「 ジュンの船外活動の評価はA+、技量に問題は無いよ。 それに僕は船外活動は許可されていない 」


「 船外活動の試験に合格出来なかったのか! 」


豪快に笑うマークとしかめっ面のヒロ。

宇宙服を着て船外活動をするには一定期間の訓練が必要で、もちろん訓練に合格しないと許可は下りない。


「 そうじゃない。 船外活動だけじゃない、宇宙服を着ることだって許されていないんだ 」


「 なんだって? じゃあ、何でここに居られるんだ? 」



ステーションに居るのは科学者だけではない、メンテナンスのためのエンジニアもいる。

全員が少なくとも政治的にも宗教的にもニュートラルで、自身の専門職の知識や技能だけでなく、最低でも船外活動が出来る技量が求められる。

ここは、地球や人類にとってそれほど重要な場所なのだ。


「 色々あったんだよ。 本当に色々ね・・・・・・ 」


モニターを見つめるヒロ。

ただ彼の視線はその先の、はるか遠くを見ていることにマークは気づいた。

彼は両手を軽く上げた、詳しくは訊かないぜって意味なのだろう。

ヒロと違ってマークはボディランゲージが大きな国の出身だ。


「 理解してくれればそれで良いよ。 我が家は実力主義だから、上手くできる方がメインで担当するんだ、仕事でも家事でもね 」


もちろん共同で作業はするが手を出せない事もある、男女平等と男女同等は似ている様ではあるが全く異なるものだ。

今はヒロはステーションの管制室で作業を行っている、ジュンはジュンでステーションの外で作業中だ。

ヒロやジュンには当たり前の分業なのだが、国が変われば風習も変わると言うことだろう。



『 ヒロ。 3号機の切り放し準備が出来たわ 』


「 了解。 安全な場所に移動したら教えてくれ 」


『 もう移動中よ。 あと10秒で移動完了~ 』


「 15秒したら切り離すよ 」


『 了解 』


ヒロとジュンが乗って来た宇宙船が巨大なのには理由があった、小型とはいえ特別製の3機の衛星を一緒に運ぶ必要があったのも理由の一つだ。

それと、極々(・・)短い訓練期間だけで宇宙に放り出された2人の、快適さと安全を重視したのも理由の一つになっている。

彼らのスポンサーは決してケチではない。


ヒロは船外カメラでジュンが安全な場所に移動し、船外活動船をステーションに固定したのを確認した後、管制室のパネルを操作する。


「 3号機をパージする。 3・2・1・マーク 」


ヒロの後ろで、マークが渋い顔をしているがヒロは気にもしていない。



『 パージを確認 』


切り離された衛星は、スラスターを僅かに噴射して姿勢をステーションに合わせる。

上も下も無い空間では、何かを基準点もしくは基準線とする必要がある。

今はガニメデステーションの基準軸が、放出された衛星の相対的な基準となっている。


「 了解。 姿勢制御完了。 スラスター始動、減速開始 」


衛星のスラスターが噴射され、徐々にステーションから離れていく衛星。


ガニメデのステーションは、ガニメデの自転方向と同じ向きに移動している。

そのため、少し減速すれば衛星は自然とステーションから離れていく。

減速しすぎると高度が大きく落ちてしまうので、そこは注意が必要だ。


『 3号機の減速を確認。 ワイヤーの繰り出しも順調よ 』


「 了解 」


ヒロとジュンは、実験のために3基の衛星を放出する。


ステーションと3基の衛星のデータリンクは、電波、レーザー、有線の3系統が備えられている。

木星近傍であるため、ノイズが乗りやすい電波は最終手段となっている。

ステーションと衛星を繋ぐワイヤーは、物理的な接続と通信手段を兼ねている。


3号機が、ステーションから25km離れた時点で2号機が、更に1km離れた時点で1号機が分離されてステーションから離れていく。


「 さて、ジュン。 ここからが本番だぞ 」


『 分かってるわ。 平常心で訓練通りに、でしょ? 』


「 その通り 」


『 燃料の固定を確認したわ。 じゃ、チョット行ってくるわね 』


「 行ってらっしゃい。 気をつけてな 」



管制室のモニターには、巨大な木星をバックに手を振りながら遠ざかって行くジュンが映し出されている。

ジュンが搭乗(・・)しているのは、今回のためだけに作られた特別製の船外活動船だ。

ステーションから30km離れた衛星まで、それなりに安全に往復する必要があるからだ。


特別製の船外活動船には大型のペイロードが用意されており、衛星3号機用の燃料が積まれている。

その他、大型のスラスターや加速用のロケットモーターまで用意されている。

緊急時にはガニメデの周回軌道に遷移することも可能だ。 


もう小型の宇宙船と言ってよい規模だが、使用するのは地球を遥かに離れた場所になる。

それも様々なものが飛び交う宇宙空間だ、どれだけ対策して準備しても決して安全とは言い難い。

ジュンもヒロもそれは許容している。


--------------------


「 マークが、女性にそこまで優しいとは知らなかったよ 」


遠ざかっていくジュンが搭乗した船外活動船をモニターで見ながら、ヒロが話す。


「 そんなんじゃ無い。 危険な作業は、俺が担当すべきだと考えているだけだ 」


「 それが、優しいと言うことなんだけどな 」


男女平等は難しい、特に選択肢が多数在る危険な現場での作業となると尚更だ。

上手く出来る者が担当すれば良いと考えるヒロと、危険な作業は男がやるべきだと考えるマーク。

直ぐに助けに行けない宇宙空間での作業だ、当然ヒロは誰よりもジュンのことを心配している。


だが、ジュンが作業を担当した方がヒロが担当するより作業時間は短くなるし、作業精度も高くミスも少ない。

ヒロが行って作業するより確実に危険性は低くなるのが現実だ。


「 それで何をしてるんだ? ステーションから30kmも離れるんだ、ロクな作業じゃ無いのは判るけどな 」


「 ヘリウム融合炉に燃料を入れる。 小形の炉だけどね 」


「 融合炉って・・・・・・、碌なことじゃないと思ったが、融合炉を持ってきてたのか 」


肩をすくめるマーク、彼の国の人達はボディーランゲージが大げさで種類が多い。

ヒロからすると時には馬鹿にされているように感じるのだが。

マークの人柄だろう、ヒロが怒る気配は無い。


ステーションから30km離れるのは、ヘリウム融合炉の暴走に備えているためだ。

今までは燃料と炉を別に保管してあったので、暴走どころか作動すらしない状態だった。

だが、ヘリウム融合炉を作動させるとなれば話は違ってくる。



人類には木星のヘリウムが確実に必要だ、その為にステーションは維持されなければならない。

だが、実験にはヘリウム融合炉が必要だ。


だったら燃料と炉を分離して運び、現地で使用前に燃料を入れれば良い。

ステーションは安全だし実験も出来る、燃料を入れる時はステーションから充分距離をとれば良いだけでさほど問題は無い。

地球で待っているだけの者達はそう考えた。


30km離れた空間まで移動するのは、ステーションの安全が優先された結果だ。

燃料を入れに行く者の安全は後回しになっているが、その埋め合わせとして巨費を投じて新型の特別な船外活動船が製作された。

スポンサーの意向と膨大な資金により、今回はそれが可能になっている。


------------------------------


『 ヒロ、3号機に到着。 これから燃料パッケージを入れるわね 』


「 了解 」


ヒロがミッションタイムを確認する。 大丈夫、予定通りに進行している。 


『 外壁を開けたわ、内部の隔壁に異常は見られない。 炉のハッチを開けて、ヘリウム燃料パッケージを差し込むわ 』


「 了解 」


ヒロもジュンも手順は理解している。

いちいち言葉で確認するのは、人的ミスの防止と通信手段が確保されている確認を兼ねている。

そしてあえて事務的に対応しているのは、不安を隠すためだったりする。


あと、何もない空間での作業で自己の存在を認識する意味もある。

間近に、宇宙的スケールでの近くだが、大質量の惑星はあるが生命体は存在しない。

訓練期間が不十分なヒロとジュンでは、自己の認識を無くせば宇宙に飲み込まれ、パニック状態に陥る可能性が高い。

巨大な質量は引力だけでなく、人の心理も歪めるのだろう。


ジュンは船外活動船のペイロードから燃料パッケージを取り出し、慎重に挿入口に差し込む。

パッケージを180°回転させて半ロック状態にしてから、クリーニングプロセスを実行していく。


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