プランB 27
「 見るだけなら何とかなると思うけど? 」
ジュンを見ながら答えるヒロ、確か大丈夫だったはずだよなとジュンに確認する。
アイコンタクトでだ。
「 そうね。 見るだけなら何とかなるかも 」
「 だよな 」
ジュンとヒロの回答はローズの想定以上だった。
自分に甘いのはジュンとヒロだけではなく、神も甘いのかもしれない。
ローズはチョットだけそう考えた、だとしたら行動あるのみ。
本当に出来るのか? まぁ、見る位なら何とかね。
そんなことを話しながらローズはジュンとヒロを引っ張って、ホテルに戻って来ていた。
本当に? 嘘じゃなかろうな? 何度もそう訊ねながら。
「 切っ掛けはローズのお願いだったのよ 」
「 私の? 」
「 そうそう 」
ローズの考案したジャンプ装置をイジクリ回し、ヒロが空間安定化装置をでっち上げた。
ジャンプ装置と空間安定化装置が在れば光速を超えて移動ができる。
また、空間安定化装置はフィールドとしても機能する、外乱から船を守るシールドとなる。
従って宇宙船には、ジャンプ装置とこれに完全に同調した空間安定化装置、船を守るフィールド発生器としての空間安定化装置が搭載される。
ザックリ言うと、ジャンプ装置が一台と複数の空間安定化装置が搭載される。
あと、ホール通信。
ローズがガニメデから地球圏へ移動中のヒロとジュンにお願いしたのは、フィールド発生装置の変形だ。
ほぼ球形で真ん丸な宇宙船ではカッコ悪いからと言って。
ヒロとジュンが用意した答えは、空気を入れすぎたラグビーボール型、中央が太い葉巻型と言ってもいい。
もしくは、おわん型の二種類だ。
どちらも、空間安定化装置としては有用で有効だ。
「 ローズから頼まれてね、複数の空間安定化装置を並列起動させた際の挙動を色々と調べたの。 そしたらね・・・ 」
並列に並べるとくっ付いてしまう、だったら一つ目の中でもう一つ作動させたらどうなるか。
その実験をしたのよ、とジュンは説明する。
そんなことを考えたのはヒロだ。
ジュンはその実験を止めた、理論の構築さえ最近になって確立されたばかりなのだ。
有効性ゆえにすぐに量産されてはいるが、どんな危険が在るか分からない。
ヒロはエンジニアゆえの好奇心から実験を行った、エンジニアゆえの直感を信じて。
結局、最小化すれば危険性は最小になるだろうとお互いに合意して、実験は行われた。
「 真っ黒になったのか? 」
「 そうよ。 一枚だった時は透明だったのに、二枚重ねたら真っ黒になったの 」
「 その後の実験で、二枚の距離と位相を変えると更に外乱を遮断できることが分かってね。 色々と実験したんだ 」
ジュンはお茶を飲みながら、ヒロはアイスを食べながらローズに話している。
ホテルのジュンとヒロの部屋でだ。
ローズの部屋は二人の部屋の隣で、三人の部屋には後付けではあるが防諜措置が施されている。
「 色が変わったのは可視光が遮られたからじゃろう? 」
「 さすがはローズだな 」
ヒロに褒められたローズは嬉しそうだ。
「 シールド一枚だと物理的に安定した空間に包まれるの、物理的な変化から切り離されるのね 」
「 二枚だと光学的に切り離されるのか? いや、違うの・・・ 」
ローズは首を傾けて考え込む、手に持ったソフトクリームは傾いていない。
「 そう違うわ。 二枚だとエネルギー的に切り離されるの 」
「 それはどこまでじゃ? 」
「 既知のエネルギーはほとんど遮断できるわ 」
ジュンはポータルを取り出して、スクリーンをローズに見せる。
そこには二人の後を継いでムーンベースで繰り返された、数々の実験の結果報告が表示されている。
三人が休暇中でも、ムーンベースでの実験と試作は引き続き行われている。
ムーンベースの科学者もエンジニアは、色々と優秀なのだ。
「 可視光・宇宙線・磁界・電界・電磁波・・・ 」
既知のエネルギーすべてが記載されていた、結果はポジティブ。
遮断係数は100%となっていた、正確には遮断係数が測定限界値以上となっている。
「 引力もか! 」
「 そうよ。 二重のフィールドを形成すれば引力も遮断できるの、だからブラックホールの中でもフィールド中の空間を安定化できるはずなの 」
まだ試したことは無いけどね、とジュンは付け加えた。
ヒロとジュンがタンカーから持って降りたアタッシュケースの中身は、二人の実施した実験データだった。
そこには二重に発生させた空間安定化装置による、完全な安定化空間生成方法が記録されていた。
ヒロとジュンは、安全な航宙のためのフィールドとして有効だと考えていた。
宇宙空間で宇宙船の安全を脅かすのは宇宙塵だけではない、様々なエネルギーも人類にとっては危険なのだ。
「 これが在れば新型の宇宙船が作れる、ブラックホールにも潜れるじゃろう 」
ローズは少しだけ嬉しそうに笑った。
少しだけ嬉しそうなローズを見てジュンは意外だった、もっと喜ぶと思ったのだ。
「 どうしたのローズ? もっと喜ぶと思ったんだけど 」
「 片道ではどうしようもなかろう? 潜っても戻ってこれないんじゃから 」
タブレットを突っつきながら、何となく寂しげにローズは笑う。
「 戻って来られるだろ? 何が問題なんだ? 」
ヒロが食べているアイスはカップだ、ローズのソフトクリームと違ってスプーンが必要だ。
そのスプーンをヒラヒラさせながら、ヒロはローズに尋ねる。
ヒロもローズがもっと喜ぶと思っていたのだ。
「 宇宙船が所属している空間が無事でも、戻っては来られないじゃろ。 光も出られないんじゃから 」
「 ああ、そんなことか 」
ヒロはまたアイスを食べ始めた。
光さえ吸い込むブラックホールの引力に対抗できる推進装置が無い、だからブラックホールの中に入って中で無事に存在できたとしても戻ってこられない。
そこで何を記録して何を見ても全く意味は無い、ローズはそう言っている。
片道では意味が無いと。
「 ローズ、空間に及ぼす引力は遮断できるんだよ。 でも遮断できるだけで引力は無くならない、その引力はどこに行くと思う? 」
「 どこにって・・・まさか!? 」
「 そのまさかだよローズ。 引力の密度を変えれば、結果的に推力を得られる 」
気体の密度を変えることで揚力を得られるように、引力の密度を変えることで推力を得られるはず。
それがヒロの仮説だった、ジュンもそれに賛同していた。
簡単な模型で実施した実験の結果をシミュレートした結果、推進装置としても利用可能。
ヒロとジュンはそう結論付けた、反重力だけが引力をベースとした推進装置ではないのだ。
この時点で、優秀なムーンベースの科学者達とエンジニア達は、簡単な模型を使った実感にも成功している。
ジュンは基礎理論の構築を終えていて、検証中の段階にある。
「 それが在れば完璧じゃ! 」
今度こそローズは大喜びした、持っていたソフトクリームが床に落ちるほど飛び跳ねて喜んだ。
ほとんど食べ終わっていたから、床に落ちたのは溶けた雫程度で被害はそれほどでも無かったが。
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