ダイブ! 26
ジュンはヒロとタンカーの中で話し合い、地球に戻ったらヒロの実家がある田舎に引っ越す事にした。
二人はそこでノンビリ生活するつもりだ。
ジュンは好きな研究を、ヒロは何かをする事になっている。
何かはやる事になっているが、それはゲーム三昧になる事もジュンは許容した。
二人でスローライフを目指すのだ、家庭菜園はやるがファーマーライフをやる気はない。
農業は重労働だからスローライフにならない、二人ともそれは理解している。
農業で生活して、スローライフを自称するヤツは農家さんに謝った方が良い。
農業はお気楽なイメージがあるんだろう、魔法も農業もイメージだけで出来るらしい。
そんなヤツは、実際やったら1時間も持たないぞ、きっと。
当初ジュンは、ヒロを何とかしてムーンベースへ連れて行くつもりだった。
そこで、ローズと自分の研究に付き合って欲しいと願っていた。
だが、スポンサーの行動に疑問を持ってから、積極的に研究しようとする気が無くなった。
ヒロは元々積極的ではなかった、“ 話が美味すぎる ” それがヒロの考えだ。
高給で研究費は使いたい放題、福利厚生は最高レベルで、おまけに護衛と言う名の監視付き。
美味い話には裏がある、どうにも胡散臭かった。
例え本当の儲け話を逃すことになっても、はめられて利用されるより遥かに良い、ヒロはそう考えた。
なにより自分の設計した物で、第三者に迷惑を掛けたいとは思わないから最初から消極的だった。
「 ヒロは分かるが、ジュンもか? 」
ジュンはまだローズに話していない、話すつもりは在ったのだがタイミングが無かった。
話したくても護衛が多すぎたのだ、残念ながら今も護衛は多い。
今夢の国に居る客はジュンとヒロとローズだけ、他は全て護衛とその家族だ。
スポンサーは三人の安全の確保と、福利厚生の履行を同時に実行していた。
三人を狙う者にとって必要なのは三人の頭の中身である、従って命の危険は無い。
スポンサーも彼女らを狙う者達も、それを十分理解している。
ジュンもヒロも働かなくても収入はある。
ジュンはジャンプ機関の共同開発者として、ヒロはホール通信装置と空間安定化装置とシールド発生器の考案者としての収入がある。
当初、ヒロの功績は無かったとされ、インセンティブは認められなかった。
しかし総合電機会社退職後に、ローズとジュンの努力により状況は変わった。
主にローズの実家の影響力と、ジュンが手配した優秀な弁護士の働きでだ。
スポンサーの意向も影響あったのだが、彼女らは知らない。
それらの根回しは、“ 価値は大きすぎて金額を正確に算出出来ないので無料 ” とか、“ 生産しても赤字だから配当は無し ” とかにならない様に念入りに準備された。
マークが指揮官を務めるムーンベースでは、現在最新型のタンカーを56隻同時に起工している。
ヒロの取り分は0.005%だから、手取り額は10億円を大幅に上回る。
税金で90%持っていかれても、ヒロの収入だけで二人の生活は十分成り立つ。
過去のエンジニアの境遇に学び弁護士が作成した契約書は優秀で、既に30億円ほどがヒロの個人口座に振り込まれている。
ジュンの方はローズとの共同名義がほとんどではあるが、それでも十分な収入がある。
ジュンにも収入は在るから、二人が個人用の宇宙船を購入しない限り、ジュンとヒロの家計が破綻することは無い。
「 じゃあ私もヒロの実家で 『 ダメでしょうね? 』 」
ローズの発言にかぶせまくるジュン。
「 ローズの研究は遅れてるって聞いたわ。 それが終わらない内は無理でしょうね、スポンサーも許してくれないと思うわよ? 」
「 そんな・・・ 」
ローズはガックリ俯きながらポップコーンを食べる、そんなに落ち込んだのなら食べるなよってヒロは思った。
思ったが、しけったポップコーンはフニャフニャで美味しくない、今食べた方が美味しいのは確かだ。
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夢の国の中に在るホテルから外を見る二人、ジュンとヒロだ。
部屋の窓から地上を見ると、水辺を中心にした夜間のショーが開催されている。
ホテルはショーの一部を成していて、二人の部屋には照明やカーテンに関する注意が書かれたお願いと言う名の命令書が置いてある。
二人は一般的な日本人だ、目立ちたがりでも無いし、迷惑動画で金儲けをする気も無いからお願いは守っている。
「 やっぱりローズも来るって言ったわね 」
ジュンはバスルームから出てきたヒロに話しかけた。
「 さすがに無理だと思うけどな 」
冷蔵庫から持ってきたペットボトルの水を、一口飲んでからヒロが答える。
夕飯を食べ、風呂に入ったのであとは寝るだけだ。
「 遅れてるのはジャンプ機関の効率化だったっけ? 」
「 そう聞いてるわ。 それさえ終われば何とかなりそうなんだけどね 」
「 ジャンプ機関の効率化ね~ 」
ジャンプ機関の原理はヒロには理解できない、高度で複雑な数学が必要になるから。
ヒロは一般人の平均的なエンジニアなのだ、高度な物理学を理解するのは無理だ。
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翌日も夢の国で過ごす三人。
絶叫系に乗らなければヒロにとっても悪夢の国にはならないから、それなりに楽しめる。
甘い屋台が多いのもプラス要因だ、夏でも冬でも楽しめる。
ヒロとジュンのお気に入りのアトラクションはスターなウォーズだ。
「 たった一発であのサイズの衛星が吹き飛ぶとは考えられん! 」
「 まぁ、そう言う設定だからな 」
ローズはあまり気に入っていないようだ。
ヒロとしても 『 こんな設計するか? 』 と言いたい点は多々ある。
それでも物語としてなら楽しむことはできる。
「 いわゆる 『 お約束 』 だからね~ 」
「 お約束は知っておる。 だがあれは・・・ 」
ローズは日本の漫画やアニメーションが好きだ、だからお約束も知っている。
それでも、あれはやり過ぎだと言うのだから、やっぱりローズには合わないのだろう。
好き嫌いは在っても良い、ヒロもジュンもそう思っている。
「 ローズ。 あのスターの設計者にも、反乱軍は居たんだよ 」
「 ふむ? 」
「 製造を止めることは出来なかったけど、排熱機構の設計を変更したんだ 」
「 ふむ? 」
「 例え完成しても、直ぐに壊せるようにな 」
スパイは弱点を連絡したことになっているが、正確には弱点を設計に盛り込んだ事を報告したのだ。とヒロもジュンも思っている、個人の自由の範囲内だ。
「 ・・・そういう事にしておこう 」
ヒロの言葉に何処か納得しないローズ、やはり彼女には合わない様だ。
次のアトラクションを選び始める三人、滞在日数に余裕が有るのでそんなに焦る必要はない。
「 それよりじゃ、ヒロにお願いがあるんじゃが 」
「 どんなお願いだ? 」
ヒロは一口食べたターキーレッグをローズに渡す、元々はジュンから回ってきたものだ。
ヒロとジュンにとって少々肉に臭みが在ったようで、二人とも一口食べて回している。
養殖物だから仕方がないのだが、薬臭い肉は二人の口に合わない。
「 大したことじゃないんだが、ブラックホールの中を見たいんじゃ 」
ターキーを食べながらモゴモゴと喋るローズ。
若干俯き加減だが、演技かどうかは分からない。
「 ブラックホールの中? そんなもん見てどうすんだ? 」
「 どうもこうも無い。 ただ見たいんじゃ 」
どうじゃろか、と上目使いでヒロを見るローズ。
今まではこうすれば大抵の事ならヒロは叶えてくれた、ジュンもヒロも自分に甘いのは知っている。
ひょっとして今回も、そうローズは考えた。
ひょっとして、万が一、もしかしたら・・・。
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