ダイブ! 25
地表に降り立った三人は、用意されていた車でヒロの地元に向かった。
ヒロの両親の墓参りの為だ。
人類が電気自動車を完全に手に入れたのは、融合炉を手に入れてからになる。
電気自動車を主な移動手段とする際に問題となったのは価格ではなく、航続距離でもなく、一台で平均的家庭の数日分の電力が必要だった点だ。
自動車メーカーは競って電気自動車を開発し売り出したが、電力供給の問題は目をつぶっていた。
つまり、“電気自動車” は人類には早過ぎたのだ。
電力不足を改善するために、白熱電球や蛍光灯を禁止しても足りる訳が無い。
照明の消費電電力の単位は“ワット”、電気自動車は“キロワット”、単位からして千倍の差があるのだ。
電気で走る自動車は製造できても、電力をどこの誰が用意するのかの準備が足りなかった。
ただでさえ夏場や冬場は電力不足になる、全車種電気自動車化を取りやめたのは遅すぎる位だった。
ヒロの家の墓参りの次はジュンの家に行った、ジュンの家の墓参りは行かなかった。
お盆なのだが墓参りについては ”行かなくて良いんじゃない?” とジュンの母親の一言で片付いた。
ジュンの家もヒロの家も熱心な宗教家ではない、祖先を大切に扱いはするが。
だからそれに縛られることは無い、あくまでも儀式や風習を守る意味合いが強い。
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「 まだ食べるのか? 」
「 祭りの屋台は別腹じゃ! 」
温泉を楽しみ夕飯を頂いた後、三人は温泉街へと出かけた。
お日様は沈み切っているが、温泉街は電球で明るく照らされている。
あえてオレンジ色の照明を用いることで、ノスタルジックな雰囲気を演出している。
金魚すくい、輪投げ、射的にピンボール、どこか古めかしいそれらの遊びと共に様々な店が立ち並ぶ。
だが祭りではない。
ローズの手には海産物の串焼きが握られている、箱根と言えば海産物だ。
A5ランクの牛肉の串焼きは似合わないから、イカ焼きは正解だろう。
今では温泉街の宿泊施設とこれらの店はセットとなっていて、箱根にはいくつものセットが存在する。
ホテルや旅館は共同でこういった店を経営していて、温泉以外の娯楽として提供している。
三人が宿泊しているのは高級旅館で、そこが運営しているこれらの店の景品も高級だ。
もちろん一回のプレイ代金も高級になっている。
宿泊客以外も訪れる事は可能だが、今はそうした姿は見られない。
スポンサーが三人の宿泊する付近一帯を、セットごと貸し切ったからだ。
但し護衛は100人単位で付いている。
護衛しか居ない温泉街は実に侘びしいとの理由から、護衛は一般人に扮装させられている。
一見するとごく普通の温泉街なのだが、実は厳重な警戒が敷かれている。
上空からも監視の目が在る、さすがに露天風呂の中までは監視していないが。
三人と同じ旅館にジュンの両親も宿泊している、ジュンが親孝行として両親を温泉に招待したからだ。
ローズの両親は来ていない、彼らには彼らの仕事が在る。
それに今回のローズの休暇は急に決まったのだ、両親が日本に来るのはスケジュール的に無理だった。
なおヒロの両親はお星さまになって見守っている。
「 温泉は最高じゃな! 」
「 そうだな。 これも含んで温泉だからな 」
射的の銃を振り上げながらローズが言った、ヒロの機嫌も上々だ。
もちろんヒロは知っている。
ローズが持っているどこか古めかしい射的用の銃も、ピンボールの機械も、2220年製の最新型だと言う事を。
もちろんジュンも知っていて、それも含んで皆で楽しんでいる。
ジュンもヒロも、動物が主人公の夢の国なのに動物が一匹も居ない国より遥かに好ましいと感じている。
夢の国にも鳥はいるが、飼育はされていない野鳥だからノーカウントだ。
ここでは疲れが取れるのに、夢の国に行くと疲労が増えるのだ。
レジャーに行って家族サービスして疲れまくってるお父さん、家に帰ったらお父さんサービスを要求するのを忘れずに。
「 今日こそは手に入れるからの! 」
ローズの意気込みは凄い、店主は笑っている。
「 ほどほどにね? 」
「 分かっておる 」
景品は様々なものが用意されている、ヌイグルミやらオモチャやら、電化製品から化粧品や服まで用意されている。
壊れそうな物や、射的台に乗らない物は札に置き換わっている。
手に入れられないほど高価でもなく希少でもない、今のローズとジュンだったら手に入れることは容易な物ばかりだ。
こういった娯楽はのめり込むほど賭博性が高くても問題だし、簡単に手に入ってもよろしくない。
ギャンブルではないし、ショッピングでもないのだから。
高級な宿泊施設に泊まる客が求めているのは非日常を楽しむこと。
高級旅館などが経営しているセットの屋台では、そういった加減が絶妙だ。
特に今回は三人だけの貸し切りと言う事もあり、本当に欲しい物は手に入る事になっている。
普通の射的では、ネライが逸れた弾が当たってもなかなか手に入らない。
ヒロも最新型のゲームギアを手に入れて喜んでいる。
似たようなものは持っているのだが、最新型というだけでも嬉しいらしい。
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三人は十二日間温泉を堪能したのち、アメリカへと移動した。
高高度を巡行する航空機は、昔の機体より揺れは少なく安全で早く到着できる。
高高度は気圧が低く大気が少ないから、揺れの原因となる大気の濃淡が少ない。
それでも、機体が空中に在る四0分の間、ヒロが座席にしがみ付いていたのは言うまでもない。
「 ホントにヒロは弱いの~ 」
「 仕方がないだろ? 」
夢の国のベンチにヒロが青い顔をして座っている、クタバッテいるとも言う。
ヒロの両隣には水の入ったペットボトルを持ちヒロを介抱するジュンと、ポップコーンを食べているローズが座っている。
ここは夢の国、アメリカに在る本家の方だ。
夢の国は日本にもあるのだが、ローズの希望で本家の方になった。
ポップコーンはキャラメル味である、それはジュンとヒロも同意している。
「 日本の方は狭いくせに人が多すぎて、せっかくの雰囲気がぶち壊しじゃからな 」
と言うローズの一言で決まった。
「 入る前に並んで、アトラクションで並んで、飲み物を買うのに並んで、オマケにトイレでも並ぶんじゃぞ! あれじゃ夢の国ではなく行列の国じゃ! 」
「 昔は入場者の数を決めて入場制限してたみたいだけど。 今は来たら来ただけ入場させてるみたいね 」
「 ・・・ 」
ヒロはアトラクションで酔って使い物にならない。
ちなみに、眼鏡タイプの優秀な翻訳装置が在り、映像・音声共に母国語に関係なく楽しめる。
もちろん、映像は眼鏡のグラスに、音声は骨伝導で耳に伝えられている。
三人はしばらくの間、ここに滞在する予定だ。
「 それで、この後はどうする気じゃ? 」
ポップコーンを口に放り込みながらローズが二人に訊く。
ポップコーンはキャラメル味なのだ、ポップコーンはキャラメル味が一番だ。
「 ヒロが元に戻るまでこのままかしらね 」
ジュンがヒロを見る目は優しい、アトラクションに酔う事と夫としての価値は無関係だ。
もちろん男としての評価にも影響は無い。
「 もっと後の事なんじゃが? 」
ローズはもう一口ポップコーンを食べる。
現在のヒロは無職である。
JAXAと結んだ定期雇用契約が期限を迎えたからだ。
ヒロは総合電機会社を退職し、ガニメデステーションに行くときにJAXAの臨時職員になった。
地球に帰還したので契約満了になった、つまり現在は無職だ。
ローズとジュンの雇い主は、表面上はNASAである。
但しUSSFが警護に付いているから、実質的にはアメリカ政府に雇われているのだろう。
雇用主は大統領だ、何か偉くなったみたいだなとヒロは笑った。
「 それならもう決めてある。 地元に帰ってノンビリする事にしたよ 」
「 そうね。 私もそうするつもりよ、子供も欲しいし 」
ローズの手からポップコーンが落ちる、落ちた先はポップコーンの入れ物で地面ではない。
「 私を一人にするつもりか!? 」
ポップコーン食べ始めるローズ、ローズの手から落ちたポップコーンは全て容器に入っている。
案外、演技だったりするのかもしれないなとヒロは思った。
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