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ダイブ! 24



「 温泉というモノは、なかなか良いものだな! 」


上機嫌のローズは広い露天風呂でご機嫌に泳いでいる、ヒロとジュンはのんびりと静かに温泉に浸かっている。

三人は(正確にはヒロとジュンの二人は)1年間の宇宙勤務のご褒美として、6週間の休暇を与えられた。

元々そういう契約だった事もある、特にヒロはJAXAの臨時社員でしかない。



ムーンベースから地球に降り立った三人は、今は箱根温泉に来て絶賛休養中だ。


箱根はヒロの実家に近く、(地球 - ガニメデ間の距離に比べると温泉が地球の裏に在っても近いと言えるが)、ヒロの両親の墓参りを兼ねて来ている。

ヒロはそれなりに両親の墓を大切に扱っており、無事に戻りましたの報告もしている。

もちろん、去年のお盆に来れなかったから墓の掃除もしている。


日本の文化には詳しいが、日本の習慣には詳しくないローズは少々戸惑った。

それでも、ヒロの両親が眠る墓であることを理解してからは、ヒロとジュンと一緒に汗をかきながら墓を掃除した。


ムーンベースでそれぞれの成果を引き渡したヒロとジュンは、その足でムーンベースに一泊もしないで、そのまま地球行きのシャトルに乗り込んだ。

ヒロは地球に帰りたがっていたし、ジュンはそんなヒロに合わせてだ。

スポンサーに対する不信感もあった。


そこにローズが入り込んだのは彼女の我儘だ。

我儘ではあるが、長期間研究しっぱなしで休みが無かったのは事実だ。

ローズは地球圏では有名人だ、そんな彼女を休暇無しのブラックな環境で働かせるのはきわめて外聞が悪い。


それゆえローズの休暇申請はまかり通る事となった、ムーンベースの主要な研究が全て進まなくなるという問題は発生したが。



『 ヒロとジュンに付いていく! 』


そんなローズの希望がそのまま通ったのは、彼女の功績と比較すれば正当でささやかな報酬であるとも言える。

ジュンとヒロには断る理由など一つもなかった。


「 ローズ。 湯船で泳いじゃいけないって言ったでしょ 」


「 では、何故こんなに広いのだ? 」


反論と言うより純粋な疑問としてローズは訊ねた。

貸し切りの露天風呂は、同時に20人は入れるほどの広さがある。

ただし、脱衣所の籠の数は5個だ。

つまり5人用の風呂と言うのがローズの認識だった、広いのだから広さに合わせた行動も許されるはずだと考えた。


「 ローズ。 浴槽は泳いじゃいけないの、だから泳ぐのは止めなさい 」


「 だがなジュン、こんなに広いのだぞ! 」


ローズは立ち上がり、両手を広げて露天風呂の広さをアピールする。


「 5人用の貸し切り風呂にしては確かに広い。 でもローズ、この広さは泳ぐためのモノじゃない 」


顔に流れる汗を、側の岩にかけておいたタオルで拭いながらヒロは答える。


「 では何のためなんじゃ? 無駄ではないのか? 」


日本人以外によく在る勘違いの一つだ。

日本人は無駄を嫌う → 無駄に広いはずが無い → 広いのは何かをするためだ、と言う発想。


「 無駄と言えば無駄だね 」


「 じゃあ無駄にしないために、泳ぐことで有効活用した方が良いな! 」


「 こら! ローズ! 」


「 この広さは泳ぐためのモノじゃない、広過ぎるという空間の贅沢さを味わう設計なんだ。 一時を楽しむって形で有効活用されてるからね、単なる無駄じゃない 」


ローズを叱るジュンと説明するヒロ。


「 無駄じゃない? 」


「 そうだね。 ここでは温泉と一緒に、贅沢な空間の使い方を楽しむんだ。 泳ぎを楽しみたいならプールに行くな、日本ではだけど 」


汗を拭き終わったヒロは、ニッコリとローズに微笑みかける。


「 泳ぐのはプール・・・それはドイツでも同じだな。 そうか、空間の無駄を贅沢として楽しむのか・・・ 」


風呂の真ん中で座り込み、ブツブツ言い始めるローズ。 

天才とはいえ、形の無い贅沢を楽しむのは少々若すぎたのかもしれない。

無駄と言えば無駄なのだが、空間の贅沢な使い方を楽しむのはそれなりに年季と経験が必要だ。

日本人でもそれが理解できない者はそれなりにいる。


風呂で泳いだり、コンビニやスーパーで走り回ったり、そんなヤツはいる。

ボウリング場で投げた直後に踊ったり、図書館で踊ったり、ファミレスの中でスキップで移動したり、それの何が悪いのか分からない奴がいる。


理由や根拠や狙いがあってそう設計されているのに、”僕が私がやりたいんだから” 何をやっても良いと考えるらしい。

そう考える奴が親になって子供を育てるから、その子供も当然そうなる。

コンビニで転んで棚に頭をぶつけて救急車の世話になったり、スーパーで他の買い物客にぶつかって怪我をさせたり。


他の客に怪我をさせても ”なぜそこに立ってるんだ ” ”ウチの子が怪我をしたじゃないか ” と言うのだ。

子供が走り回ってブツかって相手にゲガをさせてるのに、相手に賠償を求めたり暴言を吐いたりする”親” と“子供” がいる。

ホントに居るんだよ。


何と言うか、ある意味世紀末である。

そういうやつらには関わらない方が良い、彼らには日本語も日本の法律も通用しないのだから。




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三人のパッセンジャーを乗せた定期便のシャトルは、ムーンベースを定刻に出発した。

もちろん最新型だ。

シャトルには乗員や護衛など30人ほどが乗り込んでいるが、純粋なパッセンジャーはローズとジュンとヒロの三人だけ、貸し切りになっている。


最新型のシャトルの客席数は60で、60人乗りだ。

主要なサイズは旧式と同じなのだが、(ドッキングベイやドッグの関係でそうなった)、乗員数は半分になっている。


これは、フィールド発生装置と専用の反応炉を搭載したためで、安全性と乗り心地は格段に上昇している。


『 アテンション。 当機は間もなく大気圏に突入いたします。 シートベルトの装着をご確認下さい 』


「 ・・・ 」


無言でベルトを確認するヒロ、彼は一度もシートベルトを外していないから確認するまでもないのだが。

彼は空を飛べるモノは空から落ちるモノだけと言う事を知っている、つまり安全な空を飛ぶモノは存在しないことを知っている。


簡単に言うと、ヒロは空を飛ぶモノ全般が苦手だ。

飛ぶ乗り物はいずれ地表に降りる、つまり降りるのだから墜落も在りえる。

つまり墜落しない乗り物は空を飛べない、彼はそう考える。


「 大丈夫よ、ヒロ。 あなたが設計した装置が付いてるのよ? 」


「 それは知ってる。 でも、絶対は存在しない 」


隣に座っているジュンが声をかけても、ヒロの視線は正面を向いている。

肉眼では見ることなど出来ない機体正面の風景を見ようとしている、様に見える。


「 ヒロは心配性じゃな。 ヒロの装置が稼働していれば、真っすぐ落っこちても中に乗ってる限り無傷だぞ? 」


「 それも知ってる 」


ローズが言っているのは事実だ。

最新型のシャトルに搭載してあるフィールド発生装置が稼働していれば、自由落下どころか加速しながら地表に向かって激突しても、シャトルとシャトルに乗っている人は無傷だ。

もちろん地表には大きな被害が出るけれども。


「 じゃあ何でそんなに緊張しているんだ? 」


「 怖いからだよ 」


「 安全だと言うておるのに 」


ヒロは左に座っているジュンと、右に座っているローズを交互に見て、シートの手すりを握りなおす。

最新型のシャトルは窓が大きく設計されている、その窓からオレンジの光が入り込み機内をオレンジに染める。

機体が大気圏に入った。


シャトルのフィールド発生装置が稼働すると、窓の前側から青白い光が機内に入ってくる。

シャトルの先端に設けられたフィールドの変換光だ。


シャトルのフィールド発生装置の出力は最低に絞られている、フィールドに触れた空気を守るためだ。

空気を守るというのはおかしな表現だが、フィールドを普通に稼働するとフィールドに接触した瞬間に空気がエネルギーに変換されてしまう。

空気は有限で替えが効かない物質ばかりだ、汚染物質を除いてだが。


空気は無尽蔵に生み出されているのではなく、地球内で循環しているだけなのだから失うわけにはいかない。

それに空気との摩擦が完全に無くなると減速できない、毎回スラスターによる減速が必要だ。

容積の限られたシャトルでそれをやると、あまり経済的では無くなる。


フィールドの出力が最低だから、機内はまぁまぁ揺れる。

それでも空間を安定化する機能は働いているから、初期のシャトルに比べると非常に安全で揺れも少ない。

シャトルは前方付近を青白く、それ以外はオレンジに染まりながら地表に向かう。

地表に向かう、基地に降りる、地球に帰還する、どう表現しても落下している事に変わりはないと歯を食いしばるヒロを乗せて。






誤字脱字の報告、読後の感想などお待ちしています。

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