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プランB 21



「 ・・・ヒロ。 スポンサーを疑う貴方の気持ちが、少し判った気がする 」


考え込んでいたジュュンがやっと再起動した。


予算が限られている科学者は成果を出しにくい。

予算が限られてるから、必要な資材やら機材やらが購入できない。

なんなら測定器も購入できない。


まともな試作も正確な測定も出来ないから、研究はちっとも進まない。

成果が出ない進まない研究は予算が削られるから、更に出来る事が減っていって悪循環に陥る。


だがローズとジュンは違った。

最初こそ苦労したが、直ぐにスポンサーが現れて全てが180度変わった。


予算は欲しいだけ与えられ、必要な物は納期を無視する形で届けられる。

世間に発表出来ない極秘試験だったから軍の監視は何処でもついてきたが、それもその内に慣れた。


ジュンはガニメデステーションへ行くための大型専用宇宙船も、ジャンプ機関開発の為に必要で当たり前の費用だと考えていた。

ヒロがスポンサーを疑っているのは、彼の心配性から来る疑心暗鬼の類だと思っていた。


だが今日のスポンサーとの通信で、初めて違和感を感じた。


ジャンプ機関搭載船の基礎理論と基本要素の技術は完成している、量産も可能だ。

これからの研究は、ムーンベースでゆっくりノンビリ進めても問題無いだろう。

少なくとも人類がまだ数隻しか保有していない宇宙船を使って、研究に直接関係無いモノをジュンやヒロに届けてまで急ぐ理由は無い。

そうジュンは考えている。


ローズもそう考えていた、ガニメデステーションでの実験が成功すれば、”ノンビリ研究できる” と。


――――――――――――――――――――


「 なるほど。 今年の新豆が採れましたか 」


『 ・ああ、そうだ。 今年は良い出来だ、何袋かそちらに送ろうか? 』


「 それも良いですね。 でも、地球に帰ってからの楽しみにとっておきますよ 」


『 ・なるほど。 それも良いか 』


さっきの通信でスポンサーとヒロが穏やかに会話をしていた、今年採れたコーヒー豆の話しだ。

スポンサーは気軽に ”送る” と言っているが、ジュンとヒロが居るのはスポンサーの隣の家ではない。

光速の約30%で、地球に向かって宇宙空間を移動しているタンカーの中だ。


簡単に送れる場所ではないし送る手段も限られる。

二人はいったい何の話をしているのか、ジュンには理解できなかった。

そして彼女は自分でも知らないうちに、右手で左腕を抑えているのに気が付いた。


------------------------------


ジュンの隣の席ではヒロがゲームを起動している。

ボーッと見ていたジュンであったが直ぐに考えをまとめた、彼がスポンサーを疑っていたのを思い出した。


「 ・・・ヒロは何時からスポンサーの事が気になっていたの? 」


「 最初からだな。 ジュンが月から家まで通ってた時から、変なスポンサーだって思ってたよ 」


ゲーム画面から目を離さずにアッサリ答えるヒロ。

ヒロは正確には裏が在りそうだなと思っていた、と付け加えた。


サラリーマンの諸経費は厳格に管理されている、何なら計上出来ない費用の方が多い。

振り返ってジュンは経費を使いたい放題だったから、サラリーマンのヒロから見ると怪しすぎた。

上手い話には必ずオチがある、すなわち騙されていると言うことだ。


ヒロが言っている家とは、彼が引き籠ろうとしていた両親が遺してくれた家の事だ。

もちろん地球の日本にある、富士山が見える田舎町である。


彼はスポンサーとの通信中にジュンが何かに気が付き、怯える様な仕草をとった事に気が付いていた。

ヒロはゲーム内で自分の基地のステータスを確認して、デイリー報酬を貰えるミッションから片づけようとしている。


「 そんなに前から? 」


コントローラーを置き、ヘッドセットを外してからコーヒーチューブを手にするヒロ。


「 ムーンベースから実家まで、いくら掛かると思ってるんだ? 」


ムーンベースと地球の間には、定期のシャトル便が存在する。

必要な人員や物資を運ぶのが主目的ではあるが、観光目的でも搭乗できる。


”ムーンでハネムーン” は、それなりに裕福な新婚さんに人気のツアーになっている。

一生に一回の贅沢として人気なのだ(少なくとも結婚する当事者は神の前で一生に一度だと誓っている)、誓いを破っても神罰は無いから間接的に神は不在との証明になっている。

神は居ないとの認識だからだろうか、離婚は悪い事ではないと考える者も多くなっている。


ちなみに、最近では結婚式を挙げる者は大まかに2種類に分けられる。

結婚したからお祝いしてねタイプと、結婚しました相手ともどもこれからもよろしくね、タイプだ。


前者は結婚式や披露宴の主役は自分達だと考えて、引き出物に自分達の写真を入れたがり、”披露宴なのに赤字になった” と祝儀の額に文句を言う。


後者は二人の結婚報告がメインで、めったに会えない田舎のじいちゃん・ばあちゃんも呼ぶから、(交通費は自分たちが負担してだ)、赤字で当たり前と考える。


考え方は人それぞれだ、どちらが正しいとか間違ってるとかは無い。

神との誓いさえ無視できる人物が、人間との約束を守れるのかという問題は在る。

どちらの方が離婚率が高いかはお察しだ、まぁそういう事だろう。



ジュンはその贅沢なツアーとほぼ同じ交通費で、毎月何回もヒロの実家に来ていた。

一生に一回を月に何度もだ、個人で支払ったらとんでもない金額になる。

本当に支払っていたらだが、ジュンがタダで利用しているのはヒロも知っている。

流石に費用が気になったヒロが、以前確認したことがあるのだ。


「 スポンサーは、ついでの任務があるからタダで同乗しても構わないって言ってたから。 それに、ヒロに合えるならって思って他は気にならなかったし・・・ 」


「 ついでね~。 今となっては、どっちがついで(・・・)の用事だったのか疑問だけどね 」


ヒロは両手を上げて降参のポーズだ。

マークの真似でしかないが、最近では自分なりのやり方を覚えたらしくなかなか様になっている。

ジュンの表情も少しだけ柔らかいものになった。


ヒロは ”ムーンでハネムーン” に巻き込まれた者の一人だ。

ジュンはそれを知っている、ヒロはジュンの強い希望を無視できなかったのだ。


ジュンが乗って来たのは臨時のシャトル便だ。

ムーンベースに必要な人員や物資の輸送のついでにジュンが搭乗したのか、ジュンを送るついでに他のモノを運んだのか。

現状から推測すると、後者の可能性が高いとはヒロは考えている。


ヒロはエンジニアだ、世界を救うつもりは微塵も無い。

それでもジュンと自分の生活は守りたいと考えている。

だからこそ、臨時で専用のシャトル便を気軽に調達できる存在には逆らわないと決めている。


------------------------------


リビングを見渡すジュン。


「 ここが、盗聴されている可能性は在る? 」


「 調べた範囲じゃその可能性は無いと思う。 ロクな機材を持ち込めなかったから確実じゃないけど 」


盗聴器の無線タイプで、常時発信タイプなら見つけるのはそれほど難しくは無い。

広帯域の無線受信機を持ってウロウロすればいい。

逆に言えばそれ以外は無線タイプであっても見つけるのは困難だ、無線でも有線でもない方法ならもっと難しい。


ヒロが特別慎重な訳では無い、これだけ恵まれた環境を提供されると余程の楽天家か馬鹿でもない限り慎重になるだろう。

ジュンとヒロに与えられた待遇はそれほどのものなのだ。

だから当然、ヒロは盗聴や盗撮にも以前から注意している。

注意しているが、それらが発見されたことは1度も無い。


「 スポンサーの目的が分からなくなってきたの・・・ 」


何をそんなに急いでいるのか、誤差以下の省エネに何の意味があるのか。

ジュンには理解できなかった。

彼女の横で、チョコでコーティングされたポテトチップスを食べながらヒロが応じる。


「 俺は最初から分からなかったけどね 」


ヒロが食べているのは老舗で作ってるのでも高価でもない市販品だ、それでもヒロの味覚に合うお気に入りの品だ。

タンカーの倉庫に、山になっているのを確認しているから食べ放題だ。

虫歯はかなり昔に絶滅してる、定期的に殺菌すれば虫歯知らずで一生を過ごせる。


「 ジャンプ航法だけ発明しても、それだけじゃ儲けにならないわ。 違法コピーされたらそれまでだし 」


1隻だけ購入して、後はコピーして闇で売り捌けばいい。

買わなくても情報だけ手に入れればもっと安く済む。

そういった船を利用する格安のツアーも出来る、むしろ地球にと言うか、現状に不満や不安を抱えた者達はそういった格安ツアーに群がるだろう。


数をさばける分、そちらの方が儲かるかもしれない。

闇のツアーだから、何の保証もしなくてもいいのも大きいし。


地球の歴史を振り返ると、何時の時代でも ”コピー” が得意な国は存在する。

違法か適法かの境界線は難しいが、どんなモノでも ”我が国が発祥である” と言い張る国も存在する以上、完全に防止するのは不可能だ。

“ 色が違えば別物 ” と主張する国を取りしまる手段は存在しない。

日本のモノだったら、何をコピーしてもOKなんて国には対処のしようがないのだ。


他にも重要な発明過ぎて、 ”人類共通の財産とすべき” なんて言い出す国が出るかもしれない。 


「 今回の発明に価値が在るのは分かるの。 でも・・・ 」


「 それにしても待遇が良すぎる・・・か? 」


黙って頷くジュン。

投資に見合う利益をどうやって出していくのか、どう維持するのか想像できないのだ。


「 それに気付いてくれて嬉しいよ。 ちょっと、遅すぎた気がするけどな 」


ヒロもジュンもタンカーに乗っている、まだ地球圏からは数億km離れている。

法律なんて無いも同然で、周りは全員知らない者ばかりだ。

その気になれば、スイッチ一つで二人共宇宙のゴミの仲間入りだ。


「 目的が何なのか分からない。 警戒し過ぎて敵対視されたら厄介だけど、だからと言って警戒しないのも危険だと思う 」


「 ・・・そうね。 気づくのが遅すぎたかもだけど 」


「 最悪の場合は、命がけで逃げ出すことも考慮してるよ 」


スポンサーが地球征服を目論む悪の組織としたら、逃げ出さなきゃいけない可能性はある。

巨大な資本と軍を自由に動かせる力、それに最先端の科学力が加わったら?

バカげた話ではあるが、相手は金も軍事力も合わせ持った巨大な組織である事は紛れもない事実なのだ。


誤字脱字の報告、読後の感想などお待ちしています。

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