プランB 09
「 丸い宇宙船はカッコ悪いか・・・。 〇ス・スターに謝れって言ったら怒られるかな? 」
「 あれは宇宙船じゃなくて要塞よ? 」
それはヒロも知っている、何と言ってもジュンと一緒に見た最初の映画なのだから。
昔々の映画に出て来るあれは要塞であって宇宙船じゃない、それはヒロでも知っている。
ただ丸いからカッコ悪いと決して思わないヒロからすると、少しくらい異議を唱えたかっただけなのだ。
『 カッコ悪いから変えろ 』、『 気に入らないから変更しろ 』、エンジニアが言われるがちな事だ。
そして一度でも聞いてしまうと、際限なく継続される要求と言う名前の命令だ。
その日の気分で『 変えろ 』と言ってくるから、どれだけ変更しても意味が無いのだ。
単なる俺は偉いムーブのクレーマーと同じだ、考えるだけ無駄なのだ。
地球圏へと向かうタンカーでシュタインリッヒ博士との通信を終えると、画面に映り込まない部屋の隅で護衛していた兵士が二人に話しかけてくる。
「 あんな博士は見たことがありません・・・ 」
兵士は戸惑っているような、嬉しいような複雑な表情をしている。
シュタインリッヒ博士は、ヒロとジュンの前では年相応の表情をするが、他の人の前ではそうではない。
孤高の天才少女、代々続く貴族出身、どこまでも理性的で気高くどこか冷たい雰囲気をまとっている。
兵士はそういった姿だけを見てきたのだろう、子供らしい姿を見て嬉しかったのかもしれない。
「 何時もあんなもんだけどな 」
「 年上の科学者に囲まれてて、普段は彼女なりに気を使ってるからね 」
ヒロにしてみれば、しかめっ面をして小難しいことを話しているローズの方が珍しい。
もう少し気楽にしたらいいのにと言ったりするのだが、家の誇りがとか天才科学者としての体裁がとかの理由で難しいといった答えが返ってくる。
天才って大変なんだなとヒロは思っていたりする。
自分がごく普通のサラリーマンの家の出身で良かったなとも思っている。
ジュンは、シュタインリッヒ博士との付き合いはヒロよりはるかに長い。
博士の同僚として長年傍にいて、私的にも何年もの付き合いがある。
ジュンはローズの外向きの顔も普段の顔も、どちらも良く知っている。
「 ローティーンに気を遣わせる大人って、何か恥ずかしくないか? 」
むしろ子供に気を使わせないように配慮するのが大人だろうに。
ローズの周りの科学者たちは何をやっているのかとヒロは思う。
まぁそれが出来る様なら、科学者にはなってはいないだろうが。
「 私もそう思うわ。 彼女が彼女らしく自由にできれば、発想も自由になってもっと色々考えつく思うの 」
「 自由ね。 それはどうかと思うけどな 」
自由 = 良い事と、ヒロは考えていない。
自由と何をやっても許されるのは全く違うのだが、区別が出来ない者が多いからだ。
それにフリーでノープレッシャーの状態ではヒューマンエラーが起きやすい事を知っており、それを防ぐための対策を必ず設計に盛り込んでいるのもある。
人はミスを犯す生き物だ、しかもそれを繰り返す。
ミスは時として自分自身だけではなく、他の人の生命や財産に被害をもたらす。
ペットが寒そうだからと言って、電子レンジで温めた事故も実際に在る。
ウソみたいな話だが、裁判になったって話も聞いてる。
ヒューマンエラーなのに、損害賠償は製造元に来るという法律が存在する。
20年使い続ければどこが壊れても当たり前だ、なのに損害賠償は製造元に来る。
だから会社の利益を守るため、エンジニアの給料とボーナスを守るため、安全性を重視したなんだが何処か使いづらい機器が設計され、細かな文字の注意書きが一杯の分厚い取扱説明書が出来上がる。
だからある程度自由は制限せざるを得ないよな、と言うのがヒロの本音だ。
自分の感情をコントロールできない馬鹿者には、特に制限が必要だろう。
それがルールであったり、規則であったり。
判らない守らない者には、罰則付きの法律も必要になる。
交通事故を起こしたけど若いから仕方がないよね、では終わらない。
若さゆえの過ちの巻き添えで、命や体の自由を失った方はたまったもんじゃない。
そういう事をやる人物を、友人に分類したくは無いとヒロは思っている。
それをローズのような天才にやらせたら、とんでもない事になりそうな気がする。
マッドサイエンティストになりそうだよな、とヒロは思う。
自由は最高! 支配からの卒業! なんて言えるほど、ヒロは子供でも愚かでも無いつもりなのだ。
「 さて。 ローズのお願いだから、さっそく始めるとするか 」
「 そうね、せっかく設備を用意してくれたんですもの。 使わないともったいないわ 」
二人は食堂の椅子からゆっくり立ち上がる、ここには疑似低重力はあるがそれでも急な動作は怪我のもとになる。
決してヨッコラセとは言わない、まだそこまでの年寄りじゃない。
ジュンのセリフに露骨に嫌そうな顔をするヒロと、それを見て笑うジュン。
スポンサーがタンカー内に用意した施設は、タンカーの容量をなんと15%も削り、他の科学者達が見たら涎を流しそうなほど高価で充実した設備や資材が揃えている。
「 実験室は立派だけど、それより残業代は出るんだろうな? 」
その設備を見たヒロが最初に言ったセリフだ。
科学者のジュンからしたら設備は使う物で、何時であろうと設備は有効に効率的に使いたいと思う。
科学者の予算はいつも限られているのだから。
エンジニアのヒロからしたら出張中の移動時間は自由時間であり、規則に違反しない限りノンビリ出来る時間なのだ。
だからヒロは用意された実験室を見て、半年間の有給休暇が無くなったと感じた。
食堂を出る二人と兵士、入り口には別の兵士が警備していて通信の妨害と傍受を防いでいた。
簡単に言えば立ち聞きの防止だ。
ヒロは軽く会釈して、ジュンは気にもしないで通り過ぎる。
サラリーマンと科学者の違いか、それともジュンが兵士に慣れているのか、二人の反応は異なっている。




