28 それから先は
組んでいた足を組み替えて、ディーは踏ん反り返るようにベンチの背もたれに体重をかけた。
「他の貴族もな、国を回すのに必要なぶんはこっちで管理するが、それ以外はおそらく日の目を見ることは二度と叶わないだろうな」
「管理ってどうするの?」
「まぁ馬車馬のように働いてもらうさ。お国のために」
「……どこの国のため?」
「さぁどこかな」
ニヤニヤとディーが笑う。
リゼットはため息をついた。
「悪い人」
「その悪い人が好きなんだろ?」
などとかえってきて、思わずディーを睨みつける。
「勝手に言ってなさい」
リゼットはゆるりと立ち上がった。
不満そうにディーが唇を尖らせる。
「なんだ、もう行くのか?」
「うん。負傷兵の治療まだ終わってないし」
「ああ、まぁそうだな。頼む」
殊勝な態度で頭を下げるディーを見てリゼットは微笑んだ。
兵士のために頭を下げる皇帝なんて聞いたこともない。
「ねぇ、ディー」
「?」
「とりあえずなんだけど、城の外にお屋敷がほしいの」
「は?」
「大きくなくていいから、綺麗で明るくて、自然がいっぱいあるところがいいわ。できれば王城に近い方がいろいろと便利かも。そうね。帝国の東側にある旧市街に空いてるお屋敷はないかしら、あの辺りは趣があっていいわよね。そこをもらえたら嬉しいわ。別にそこで暮らそうって言うんじゃないのよ。でも私王城はあまり得意じゃないの」
混乱した様子でディーが首をかしげる。
「ああ、それと指輪はあまり派手なのは嫌よ。いつもつけてられるようにシンプルなやつがいいわ。帝国の大通りにある宝石店ではなくて、下町の小さな宝石職人に腕のいい人がいるの。前にそこで治療したことがあるんだけど、その人に作ってもらいましょう」
「なんの話だ?」
「言っておくけど、これは私が負けたからじゃないわよ。だって期限はこないだすぎちゃったから、私の勝ち。勝ったから好きにするの」
そこまでいって振り返ると、ディーが目を見開いてリゼットを見ていた。
「それって……」
「賭けのこと忘れたんじゃないわよね。……何度も言うけど、あなたが勝ったからじゃないからね。私が勝った”けど”だから」
「……ああ」
ディーが立ち上がる。
そうして手を広げて近づいてくると、ぎゅうっと音が出そうな勢いでリゼットを抱きしめた。
「こら、苦しい」
「ああ」
まるで聞いていない返事にリゼットは苦笑する。
「ちょっと緩めてってば」
すこし語気を強く言うが、なかなか力を緩めない。しかたなくリゼットがディの背中の服を引っ張ると、しぶしぶといった様子で腕の力が緩められた。
その瞬間を見計らって、リゼットはぐんと背伸びをする。
先日まではとどかなかった距離にディーの顔があった。
うれしそうに細められた目を覗き込み、リゼットも笑う。背が高くなってよかった。
リゼットのはほんのり頰を染めて、掠め取るように唇を寄せた。
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これにてお話は完結です。
ここまで読んでくださった読者の皆様
ありがとうございました。




