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Letter later  -伝聞師と魔法使いの職務記録-  作者: 鳥路
序章:伝聞師見習いと魔法使いの卒業試験
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4:オンボロ宿屋の癒やし枕

オンボロ宿屋に宿泊を決め、二人は小さなベッドで横になる

なんせカルルがあまりにも飲みすぎていた為、物価が高いこの区域で一番安いオンボロ宿屋で最も安い一人部屋しか借りることができなかったのだ

壁は薄いが、鍵がついているだけありがたい

とんがり帽子の精霊楼と窓から差し込む月明かりだけが、この部屋の光源だ


「へえ、まだ柔らかいし小さいツノだね。ぶつかっても誰かに怪我させないように先端を丸くしているんだ。いいね、エリちゃんらしい。ご家族の意向かな」

「触らないで欲しいな。生えかけは結構むず痒いんだよ。それに、小さくたっていいことは・・・」


正確には、まだ小さい部分だ

エリシアは元より、ツノが非常に小さい部類に位置している

自身の父親のように、雄々しく立派なツノは持ち合わせていない

・・・もう少し大きくなったらどうかわからないが


「羊族のとある集落はね、外敵から子供の身を守る為にまだ柔らかいツノに先が鋭利な鉄のカバーをつけているそうだよ。エリちゃんのところはどんな感じ?」

「うちはね、逆に子供が誰も怪我させないようにツノは丸く整えて、保護用の柔らかいカバーをつけるのが慣し。僕のところは「ひだまり丘」・・・のどかな土地だったし、外敵も少なかったから・・」

「なるほどね」


カルルは自前の手帳の中に話の内容を書き込んでいく

どうやら彼も他種族に興味があるタイプの人間のようで、魔法使いとしても優秀だが種族学もかなり好んで学んでいるらしい

まさか護衛役を務める彼が同じ嗜好だとは思っていなかったエリシアは、この星刻天秤が保有する中央区に来て、初めて子供らしい一面を覗かせた

学内で話のあう同年代の者はおらず、語り合える者は誰一人いなかった

デリをはじめとする教師は付き合ってくれたが、彼らだけだ

こうして自発的に、同年代の存在とエリシアが語らうのはこれが初のことなのだ


「でね、僕の集落には子供の時にツノをしっかり整えていたら大人になった時に、立派なツノを持てるって言い伝えがあるんだ」

「へえ、エリちゃんのお父さんとお母さんも?」

「うん。でもお母さんはあえて大きかったツノを削って子供のように丸くしている。うち、十人兄妹でまだ小さい子も多いから子供がうっかり怪我しないようにって」

「十人も!?エリちゃんは何番目?」

「僕は一番上で一人っ子なんだ」


「十人なのに、一人っ子?」

「他は双子だったり三つ子だったりするんだけど・・・一緒に産まれた子がいないから」

「ああ。そういうね・・・こういうこと言っていいのかわからないけどさ、エリちゃんって性的な話題平気なタイプ?」

「一応未成年だから露骨なのは手加減してもらえると。でも、そうだな・・・学術的なことなら問題ないかな」

「じゃあ話題に出そっかな。分類が獣になっている種族の初産はまず一人って聞いたんだ。それと、出産に慣れてから二人とか三人を同時に産むって。出産数コントロールの真偽はどうだと思う?」

「そんな話があるんだ・・・」


エリシアの母は欲しい人数を事前にエリシアと彼の父親に教えてくれていた

双子の時は、二人欲しい〜とかそんな感じのノリ

最初は偶然かと思っていたエリシアだが・・・


「お母さん、いつも欲しい子供の人数を僕と父さんに伝えていたんだ。三回とも当てたから・・・もしや」

「噂は本当なのかね?」

「聞きたいけど、聞けないよね。こればっかりは」


馬鹿みたいに騒ぐのも、家族以外の人物と笑い合うのも全部、エリシアの初めて


「お父さんは羊族の文化に則って、ツノを凄く綺麗な形に整えているよ。羊族にとってツノは人族でいう身なりを整える感覚に似てるかな。凄く格好いいんだ」

「へえ、エリちゃんはお父さんとお母さんのこと大好きなんだね」

「うん・・・向こうはどう思っているかわからないけど」

「へ?」


「それよりも、カルルは?」

「俺?」

「カルルの両親の話、僕は聞きたいな」


エリシアが両親の話をしたのだ。流れ的にこう来るのは自然な話

しかしカルルの反応は先ほどまでの飄々と語らず、決まりが悪そうな声で語る


「んー、俺の母さんは俺を産んだ時に死んじゃったんだよね。父さんの話だと、人族にしてはかなり丈夫な人だったらしいんだけど、妊娠してた時に重い病気にかかって、俺か自分かを選んで、俺を選んだんだとさ」

「・・・ごめん、そんな」

「いいって。まあ、そんな感じだから母さんの話は周囲が言うような高尚な人物の感覚かな。それと父さんは魔族。まあ、珍しくもないかな。この組み合わせは」


「人族は純血より混血が多いよね?なんで?」

「他種族との相性がいいらしい。生まれる子供は両親の「いいとこどり」みたいな?だから俺が住んでいた区域ではむしろ純血じゃなくて混血が推奨されて、言語も色々なものを叩き込まれたんだ」


「だからカルルも色々と話せるんだ」

「うん。でもエリちゃんさっきっから意地悪だよね。試すように多言語交えて話してさ」

「まあ、ノリで。他種族に興味あるならいけるかなって」

「まあね。話す言語ならわりとなんでも。蝙蝠族バリーの音波会話とか、魔族の中に口縫族サイレンスって言う種族がいるんだけど、彼らが使う手話はできないね。普通の手話とは違って、少し癖があるから。腕四本だし」


カルルは指先で精霊楼の中にいる精霊に合図を送る

すると、明かりが消えて月明かりだけが部屋を照らすようになった


「そろそろ眠る?」

「ん。明日も早いし頑張らないとだからねー。ところでエリちゃん」


布団を被り、寝る準備を整える

しかし、カルルの話は明かりが消えても終わらない


「何?」

「歳いくつ?」

「今更・・・十二だよ。カルルは?」

「そっか。凄いね、十二で養成学校の卒業試験とか。ちなみに俺は十七歳。五歳しか変わらないんだね。俺よりしっかりしてる」


ふと、抱き枕のように抱きしめられて頭を撫でられる

両親からはお兄ちゃんなんだからと一度もされたことのない行動に、戸惑いを隠せなかったが、エリシア自身、安心感を覚えてしまったのも事実

たった数時間な関係なのに、なぜここまで心を許してしまうのか

それはエリシアにもカルルにもわからずにいた


「何するのさ」

「いやぁ、アリエスの噂でさ。子羊を抱きしめて寝るといい夢見られるって聞いて」

「・・・そんな馬鹿な」

「だから試してみたくって」

「ふーん。いいよ、別に。でも明日は依頼料以上に頑張るんだよ」

「もちろんさ。おやすみエリちゃん。いい夢を」

「おやすみカルル。いい夢見れるといいね」


おやすみの挨拶を交わし、二人は目を閉じる

そして、意識は夢の中へ

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