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Letter later  -伝聞師と魔法使いの職務記録-  作者: 鳥路
序章:伝聞師見習いと魔法使いの卒業試験
4/21

3:待機場の魔法使い

護衛役を探すには、まず待機場が最適です

討伐を生業にした冒険者が昼夜問わず多数仕事を求めて待つ場所・・・それが待機場だ


「・・・どうしたらいいんだろう」

「なんだ、こいつ。ちびっこがくる場所じゃねえぞ」

「アリエスのガキか。迷子なんだろうなぁ・・・おい、ミルク飲むか?」

「え、あ、あの・・・」


入口近くにいた大男たちに声をかけられる

おそらく彼らは巨人族ギガント。普通の人の二倍ぐらいの体格をもつのが特徴だ

僕は彼ら二人に背中を押されながらカウンターの方に連れて行かれそうになる


「ぼ、僕は・・・!」

「ちょい、ちょい巨人族のお二人さん。子羊君ビビってんじゃん。ここは人畜無害な俺が受け持つから、二人はお酒を飲んでてよ」


ふと、エリシアの後ろに一人の青年が立つ

少し煤汚れた麻の服を覆い隠すように魔力がしっかり通った上質生地のローブ

そして何よりも特徴的なのは、小さな精霊楼がついた魔法使いであることを証明するとんがり帽子

移動用の箒と魔法の杖を背中に背負った青年の耳は「普通」

何もない。普通の容姿。彼は自称する通り人間・・・人族インダスの青年のようだ


「カルルか。無害な部分は首を捻るが・・・まあ、お前の方が見た目は優しそうだしな、後は頼むぜ」

「マスター。この子にミルク与えてやってくれよ。俺の奢りで」


巨人族の二人はカルルと呼ばれた青年にエリシアを預けた後、元の席に戻って行った

それを見送った後、カルルはマスターの方に向き合い、指を二本立てる


「マスター、あの二人にいい酒を。俺のツケね」

「お前どれだけツケる気だ。ちゃんと返せるんだろうな」

「それはまあ、子羊君の提示内容次第かな」

「・・・貴方」

「自己紹介が遅れたね。俺はカルル。人族の魔法使いさ。君は?」

「・・・羊族のエリシア。今は、伝聞師の卒業試験中」


エリシアは学校でつけるように命じられた腕章を見せながらカルルに自己紹介を行う

この腕章は伝聞師養成学校の卒業試験中であることを示すものだそうだ

風呂以外で外すなと命じられたのは、記憶に新しい

後、この腕章を盗まれたら問答無用で不合格とも・・・


「腕章・・・やっぱりね。なあ、エリちゃん。俺と組まない?」

「いきなり愛称。まあいいですけど・・・しかし申し出は嬉しいのですが、カルルさんに僕と組んだところでほとんどメリットはないんじゃないですか?」

「敬語抜きの呼び捨てでいい。あんまり好きじゃないからね。まあ、まずは護衛依頼料を貰えたら俺は酒代を一気に返上できる」

「その、それはカルルさんのメリットだらけではないですかね・・・」


エリシアの内心は表情に出てしまったのか、カルルの表情が引きつる

しかし気を取り直するように何度か咳払いをした後、話の続きを初めてくれた


「ああ。もちろん金額に応じた働きはするよ。約束する。このとんがり帽子に誓って」

「とんがり帽子の誓いは、魔法使いにとって最上級の約束・・・」

「よく知ってるね。そう。この帽子は魔法使いにとって命だから。だから、命をかけた約束だと思ってくれていい。それに、腕には自身あるよ。どうかな?」

「実力は未知数ですが、話だけを聞くと結構な好条件だと思います。ぜひともお願いしたいのですが・・・まずは魔法を見せて頂きたいのと・・・なぜ、試験に関わろうと?お金の他にも理由がありそうですが、それを聞かせていただければ」


疑問は最も。話の続きをカルルがしようとした瞬間、邪魔が入る


「よお、落ちこぼれ!お前もここに来たんだな」

「・・・そうだよ。キーファも今から?」

「ああ。しかしお前の相棒も貧乏くさいやつだなー・・・・同じ魔法使いとは思えないぜ、な!」


キーファがいつものノリでエリシアをいじるのだが、今回は場所が場所だから一瞬にして空気が凍りついた


「・・・羊族のガキいじめて楽しんでるネコがいるぞ」

「滑稽だな。羊に捕食されたことでもあんのかね、あのネコは」

「それに、喧嘩売っちゃいけねえ奴に喧嘩売るとは、ついてねえな、兄ちゃん!」


待機場にいた男たちからブーイングとからかいを一点に受けていく

もちろん、彼の後ろで控えていた護衛である魔法使いの青年も、キーファを嗜めた


「あ・・・あの、キーファ。そいつは、そいつにだけは喧嘩を売るのは・・・」

「あ!?金で雇われた奴が何口答え・・・」

「お掃除の時間だよ。ファシット・スノーグラス!」


指先に魔力を集中させて、カルルは小さな魔法を起動させた

小さな光は形を成し、小さな葉を作り上げる

大気に含まれた水を冷やし、葉に纏わせ舞わせる

それはキーファと彼の護衛の方だけに向かっていく

なんせ、彼の狙いはその二人だけなのだから


「あ、エリちゃん。魔法みたいって言ってたよね!今から見せるからそれで判断して!」

「ええ・・・」


明るいテンションで魔法を行使する姿に困惑しつつ、エリシアは遠目でカルルの様子を伺う

エリシア自身、魔法のことは詳しくないが・・・この世界の魔法というものは大きく分けて七つの属性に分けられているそうだ

炎魔法とか、水魔法とか・・・

基本的にその中の一つを極めることを求められる


しかし先程のカルルは複数の属性魔法を行使していた

植物を出すのは土魔法、水を凍らせるのは水魔法

・・・腕に自身があると自分でいうだけのことはある

複数の属性を操る魔法使いは・・・なかなか出てこないらしいから


「抵抗ぐらいしろよ。単一魔法使い」

「ひ、は、ファシット!ファイアリープ!」


動揺したキーファの護衛は得意魔法である火魔法の円を作り上げ、それをカルルの方へ向かわせる

エリシアから見たそれは、轟々と燃える車輪だった・・・が、それは彼の氷の葉の前であっという間に鎮火された

まるで、消えかけだったというようにあっという間に


「やっぱり・・・お前「全属」のカルルだな」

「うん。でもさ、努力したら全部使えるようになるのに、努力を怠って一つしか使えないままでいるのってどうかと思うんだよね。まあ、こんな小火でもさ、民家にある暖炉を絶やさず燃やすことぐらいはできると思うから、早急に田舎に戻って暖炉に火を灯し続ける仕事を探すことをお勧めするよ」

「グゥ・・・!」

「それにそっちの猫も。落ちこぼれって、まだ子供でしょ?十分伸びしろあると思うのにな。節穴?眼球ついてる?十二歳の子供いじめて楽しい?」

「き、貴様・・・言わせておけば!」

「あーあ。こんなのでもあの天下の伝聞師になれる可能性がある卒業試験を受けられるとか、世も末だね。デリマジで何やってんのって感じ・・・よっ」


キーファの怒りが乗せられた拳が振り下ろされる

カルルはそれを軽くかわすが、勢いよく叩き落とされた拳は床に穴を開けていた


「こうはなりたくないだろう」

「わあ。凄い力だね!相棒は暖炉を燃やす係だし、君はその力で暖炉にくべる薪を作る仕事をした方がいいよ!伝聞師より、よっぽどお似合いだと思うよ?」

「きさっ・・・・」


キーファの怒りをかわして、更に煽る煽る

それに見ていられなくなったエリシアも、ある考えを持って行動に移す


「カルル!実力はわかったし、君に護衛を正式に依頼するからお店の人にごめんなさいして今すぐ仕事に行こう!」

「なぬー!俺の怒りは沈まら」

「うるさい!お酒のツケ代わりに払わないよ!修理費も一人で背負いたい!?」

「すみませんでした。あ、でもさ、こいつらすぐに動けるようになると追ってきそうでウザそうだから。「ノネクテット・パライズプリストチューン」・・・これで拘束しとくね。あ、五時間後に解除されるから、君の相棒が頑張れば一分ぐらいは短縮できるかも?」


カルルはスキップしながらエリシアの元に戻る

先ほどまで同年代の青年を煽って遊んできた帰りとは思えないほどの、無邪気さで

そもそも、ノネクテットと最初に詠唱する魔術は基礎の中でもハイレベルの魔法だと聞いた覚えがある

魔力の消費も、馬鹿にならないとも

あれだけ魔法を使って暴れた後にそれを行使しても平気な顔をしているあたり、カルルの腕は確かなものだろう

奇妙な縁だが、いい縁を結ぶことができたとエリシアは心の中で密かに感じた


「じゃあ、カルルのツケ分支払いま・・・うわ、依頼料超えてるし。仕方ない。贅沢しません受かるまでは・・・」


エリシアは鞄の中から自分のお財布を取り出す

学校から預かった護衛の依頼料と自分のお財布から出した差額をマスターに支払う


「これでよし。すまんな子羊。今度来た時は美味しいもの作ってやろう。カルルのツケで」

「巡り巡って再びツケ生活・・・」

「ありがとうございます。マスター。あ、床は・・・」

「あいつらに請求するよ。野郎ども!補修費用払うまで逃すんじゃねえぞ!金むしりとれた奴は飯一品サービスしてやるよ!」

「うおおおおおおおお!」


「ほら、あの肉壁で見えなくなっている内にお前らは裏口経由して出な」

「ありがとうございます」

「・・・頑張れよ。二人共」


マスターの掛け声で待機場にいた仕事待ちの男たちは歓喜の声を上げる

その隙に、マスターの案内でエリシアとカルルは裏口から待機場を後にした

それから、夕暮れ時の街を歩いていく


「・・・ツケのお金、もしかして越えた?エリちゃん自腹してたよね?」

「越えた。でも依頼料でやれるだけの働きでいいよ。それ以上は求めてない」

「なんで」

「お礼だよ。キーファのこと」

「あの猫のこと?」

「うん。僕さ、学校で常に落ちこぼれって言われ続けているんだ」

「まだ子供なのに、伝聞師養成学校に在籍してる時点で落ちこぼれもクソもないと思うけどね。あいつわかってんのかな」


養成学校の適正入学年齢は十五歳。一般的な高等学校の入学年齢だ

しかし、それ以外の年齢でも入学を果たすことはできる。エリシアのように


「さあね。でも、言われることに対して反論を返せば何をされるかわからなかったから我慢してたけど、学校ならともかく、外に出ても言われたらどうしてか耐えられそうになくて、やり場のない怒りが遂にあふれそうになったんだ」

「・・・うん」

「そんな時、カルルもムカつくことはあったんだろうけどさ、キーファに色々言ってくれたし、待機場の人たちも色々言ってくれたでしょう?学校では先生以外誰も庇ってくれないから、耐えることしかできなかった」

「うん」

「暴言はどうかと思うけど、代わりに声を上げてくれたことが、嬉しかったんだ。あれは、そのお礼。待機場の人たちにはまたどこかでお礼をするよ」

「子供を悪い大人から守ることぐらい大人のお仕事ですよ。気にしなくていいよ」


そう言いながら、カルルはエリシアの隣から先導するように前に出る

彼のとんがり帽子の先についている精霊楼が夕暮れの陽と同じ色に瞬き揺れた

魔法使いは、大気の中に生きる精霊族の子供の力を借りて魔法を行使するらしい

互いに生きるための戦略とも言われている


魔法使いは、元々体内に魔力を有しているものと、有していないものが存在する

魔族とかの魔法使いは前者にあたるが、カルルが属する人族は後者が多い

後者の場合、精霊楼に住まわせている精霊に、大気に存在する魔力を集めてもらうことで魔法を使えるようになるらしい


精霊の子供がその行為に対して持つメリットは、大人になるまで確実な住処を得られること・・・大人になれることだ

大人になるまで魔法使いは精霊を守り続ける

エリシアを助けたのも、大人になる前の子供を助けた行為。カルルからしたら当たり前の行動だ


「ありがとうね、カルル」

「どういたしまして。それ、待機場の連中にも今度言ってあげてね。ところでエリちゃん、宿はどうするの?出発は明日・・・」

「ここの相場だと一番安い宿の一つの部屋しか借りられないけど・・・」


残された路銀を確認してみる

一応そこそこに入っているはずだが、少々心許ない


養成学校の周辺ということは、機関の保有する中央区だ

多種族が共存している世界「テレジアノーツ」

そんなテレジアノーツの平和の為に日々奔走する統治機関が「星刻天秤エクリプスリブラ」・・・伝聞師もこの機関の所属となる

もちろん、養成学校も星刻天秤が運営しているこの中央区に存在している


正直言おう。都市だから非常に物価が高い

無駄遣いをしたら、与えられた路銀が一気にパーになるレベルだ


「・・・羊族と一緒に寝泊まり」

「な、なんだよその目」

「・・・あの噂、確かめたいからいいよ。一緒に寝よっか、エリちゃん?」

「まあ、その方が助かる。でも、布団にケチつけないでね。後、僕は凄く寝相悪いらしいから。蹴っても怒らないでね」

「そんなケチつけてる場合じゃないでしょ・・・」


先に言っておくと、エリシアは良くも悪くも「羊族からかけ離れた存在」だ

羊族の文化には、非常に疎い

それを自覚するのは、もう少し後のこと

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