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Letter later  -伝聞師と魔法使いの職務記録-  作者: 鳥路
第1章:白兎族のミシェリアと白銀の籠
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3:初仕事

「僕は、正直カルル君が「一人で行くならば」とは思うね」

「・・・」

「けれど僕は少し賭けてみたいな」


所長はどこか期待に満ちた表情を浮かべながら、僕とカルルを交互に見てくれる


「魔法使いとしての腕が確かなカルル君と、可能性が未知数のエリシア。二人ならば・・・スノーレイクに到達できるのではないかなと」

「・・・所長」

「カルル君」

「はい」

「一つ聞いておこう。君は、エリシアをきちんと守れるね?」

「もちろんです。俺は、エリちゃんの友達で、護衛ですから」


「次にエリシア。君はシュベリグロウから生きて帰れると断言できるかい?」

「・・・断言はできません。不慮の事故があるかもしれないから。けれど、目的を果たして、カルルと二人で、生きて帰ってみせます」

「よろしい」


所長はその言葉を聞いて、自分の中で意志を固めてくれたらしい

しかしもう一人。反対意見を述べるものはいる


「待ってくださいよ所長!エリシア、まだ小さくて」

「キャレット君。エリシアは新人ではあるが、立派な伝聞師だ。特別扱いはできない。仕事を与えて、伝聞師として育てる義務が僕にはある」

「っ・・・」

「リスクも何もかも承知している。けれど、守るだけでは何も成長はさせられない。これが、僕の判断だよ」

「・・・わかりました。けれど、私もついていきます。それが、エリシアをシュベリグロウに挑ませる条件です」


まさかの条件に所長だけではなく、僕らも驚いてしまう

キャレット先輩が心配してくれているのは理解しているけれど・・・過保護すぎるし、キャレット先輩自身も危険な話だ


「・・・滅びたとはいえ、私の故郷はシュベリグロウの山中にありました。あの山のことは、シュベリア以上に熟知しています」

「それに〜私が直接出向いたほうが、お父さんたちも安心して通してくれると思うんですよね〜手紙じゃ、たまに嘘だと思われたりするので〜」

「・・・で、では、君たちが不在の間、誰が伝聞を?」

「他支所に伝聞委託をしては?」

「どうでしょう〜?」


二人の言葉に、所長は眉間を軽くひくつかせていた

流石に彼女たちからそんな提案をされるとは思っていなかったのだろう

所長はすぐに普段の表情に戻り、空気を切り替えるために一度咳払いをする


「・・・そうだね。その方が受けてくれる人はいそうだからね。でもそんなことに無駄金は使わない。僕が現役に戻って支えておく」

「あ、あの。所長は伝聞局に勤務しているとは言え、伝聞師としては引退した身なんですよね?そんな簡単に戻れるものなんですか?」

「資格はあるからね。手続きに一日かかるけど、引退後も簡単に復職できるよ」

「へぇ・・・」


「伝聞師は万年人材不足だからね・・・伝聞師を志して、養成学校に通う存在は多いけれど、なれる存在の方が少ないし」

「私も何度も留年しましたからね・・・」

「まあ、そういう理由もあって復職は簡単だ。けれど僕は、護衛を担当していた子が亡くなって引退を選んだ身だから、臨時で護衛を雇わないといけなくてね・・・」

「「「「あぁ・・・」」」」


元伝聞師はやはり、護衛が亡くなったことで引退したという者が多い

デリ先生も、所長も・・・皆、同じ理由

それほどまでに、護衛に信用し、信頼を積み重ねていたのだろう

伝聞師を失った護衛が、新しく伝聞師とコンビを組むこともなければ・・・

護衛を失った伝聞師が、新しく護衛を雇うこともないと聞く

互いが唯一無二であり、それ以外は考えられないということなのだろうか

・・・実際に、そうなった時。僕は二人の気持ちが理解できるのだろうか

できれば、理解したくないけれど


「・・・それなら都合が良さそうな男がもう少しで」

「カルルぅ・・・まさか「あの人」を使う気なの?何も知らずにここに来るのに・・・」

「だって都合いいし。ほら、都合よく都合のいい元伝聞師がやってきたよ」


入口のベルが都合よく鳴る

カルルから言われるまですっかり忘れていたが、今日はここへ一人、お客様がやって来る

卒業後、僕がきちんと伝聞師として務められているか確認する「学校の卒業後監査」

そのために、恩師である彼はここまでやってきてくれた


「こんにちは、カルル。お前をしばきに来たぞ」

「なんでエリちゃんの監査なのに、俺狙いで来てるの、デリ・・・」

「エリシアは大丈夫だ。君も久々だね、キャレットさん。元気そうで何よりだ」

「で、デス・・・デリ先生・・・エリシアの恩師だったんですね・・・」

「なぜ君も口元が歪んでいるんだい?」

「「あんたが怖いからだよ・・・」」


キャレット先輩もデリ先生が恩師だったんだ

今、デス先生と言おうとしたのは、聞かなかったことにしよう


先程、キャレット先輩は留年していたと言っていた

デリ先生は、学校で落第と退学を生徒に通告する役目があったりする

その影響で、デリ先生はデス先生・・・死の宣告者なんてあだ名がつけられていた

本人も結構気にしているのは、ここだけの話にしておこう


半年ぶりのデリ先生は、自分が預かっているカルルに理由もなく蹴りを入れた後、僕の前に立ってくれる


「エリシア、元気そうだね」

「デリ先生もお元気そうで何よりです。今日は、よろしくお願いします」

「ああ。しかし、コッセロ・・・都合が悪い時に来たんじゃないか?」

「そうですねぇ、デリ先輩。なかなか都合が悪いタイミングですが、貴方の来訪は僕にとって都合がいい」

「ふむ・・・?」

「教え子たちにいいとこ見せてくださいよ」

「・・・はい?」


状況が飲み込めないデリ先生を置いてけぼりにしながら、所長は笑顔で僕らに指示を出してくれる


「さて、エリシア。キャレット君。二人に任務を与えよう」

「「はい!」」

「君たちは支援保護伝聞という名目であの山に立ち入ってもらう。通行許可はシュベリア。荷物の運搬はカルル。君に任せるよ」

「わかりました」

「了解で〜す」


「デリ先輩は二組が戻るまで、俺の護衛をしてください」

「・・・コッセロ。今回」

「いやぁ、実はエリシアはこれが初伝聞なんだ。過酷な任務だよ?養成学校に持ち帰る話としては面白いと思うけどなぁ」


「・・・先程、シュベリグロウと言っていたが」

「そうそう。そこに支援保護伝聞を」

「・・・在校生の中にもエリシアが俺や教師陣の温情で単位を得られて卒業できたと思いこんでいる愚物は多い。シュベリグロウの伝聞を成功させれば、嫌でも実力を認めてくれるだろうな」


僕、後輩にも馬鹿にされているんだ・・・

い、いや・・・!これから払拭していけば問題ないはずだ!


「いいだろう。エリシアのためだ。手続きは俺がしておくから、準備を始めるぞ」

「・・・この偏屈堅物鬼畜性悪劇物悪魔を頷かせるってどういうマジック?」

「エリちゃんマジック。エリちゃん関わるといつもこんなん・・・」

「可愛がられているんだねぇ・・・」

「うんうん。一応、エリちゃんもデリに懐いてはいるんだけど、デリの可愛がり方はなんというか、その・・・」

「孫みたいですよねぇ〜。所長もあの方も。二人揃って孫を甘やかしているような」

「「なんかわかる」」


デリ先生の協力って珍しいのかな

所長もカルルもなんだかデリ先生に対するイメージが偏っているような・・・

現役時代は、凄かったのだろうか

デリ先生も単純計算では創始時代の生まれになるし

今より更に過酷な伝聞も乗り越えているだろうから、自然と後輩には厳しくなるのかもしれない


「今日の伝聞はキャレット、一人で頑張れるかい?」

「もちろんです」

「エリシア、事務仕事はすべて任せても?」

「問題ありません!」

「カルル、シュベリア。君たちは伝聞用の物資の確認を。カルルは運搬方法も考えておいてくれ」

「「了解です」」

「デリ先輩は、俺と臨時復職許可の書類を書きましょうね」

「ああ」


所長がそれぞれに指示を出した後、僕らはそれぞれ動き出す

これが、僕とカルルが正式に伝聞師となってから初めて挑む伝聞の初仕事

スノーレイクへの支援保護伝聞は、ここから始まっていく

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