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Letter later  -伝聞師と魔法使いの職務記録-  作者: 鳥路
第1章:白兎族のミシェリアと白銀の籠
20/21

2:魔石が眠る山

訓練中だったカルルとシュベリアさんが支援保護伝聞の話を聞いていた僕らの元にやってくる


「どうしたの、カルル」

「・・・ごめんね、エリシア君。君の相棒の杖、壊しちゃった」

「カルルの?」


カルルが何かを掴んでいるとは思ったが・・・まさか愛用の杖だったとは

魔法使いと言えば、ステッキ型の杖

軽くて持ち運びやすくて使い勝手がいい

けれど少しだけ脆くて落としやすいそれは現代の魔法使いの杖として主流だったりする


けれど、カルルの場合は旧時代の伝統である身長ほどの長さがある杖を使用している

本とかに書いてある魔法使いの定番だ

どうしてそんな使いにくいものを使っているのか、と聞いたことはある

どうやら、魔法使いの杖に使用するものが重要らしい


「カルル。魔石は無事?」

「それも壊れちゃってね・・・今じゃただの透明な石さ」

「あちゃー」


魔法の杖というのは、魔法使いにとって体内に存在している魔力を外に出力する為に使う、最も効率がいい媒体だそうだ

杖の先端に存在している魔石を器にして魔力を出力し、呪文で魔力に形を与え・・・魔法として出力をする

本来なら小さい魔石でどうにかなるのだが・・・カルルの場合はそうも言えないらしい


カルルは、人族と魔族の混血魔法使いだ

制限を受けているとは言え、その身には膨大な魔力を有している

そんな彼の膨大かつ高純度の魔力を受け止める「器」というのはそれなりに大きくて、丈夫でなければいけないらしい

そのへんにある魔石や、魔法の杖ではどうにもならないそうだ

簡単に壊れて、使い物にならなくなる


「それが無事なら、どうにかなったと私も思いました・・・本当に申し訳ないことを」

「事故だったんですから。シュベリアさん、お気になさらず」

「けれどカルル。魔石の代用品はどうするの?そう簡単には見つからないんじゃ・・・」

「うん。正直現代で見つけられるものじゃないと思う」


彼が今まで使っていた魔法の杖も、大きいのはその彼の魔力を受け止める魔石に合わせて作られているため、自然と大きいものだった


「現代?」

「え」

「確かに、あの杖は古びていましたけど〜」

「あ、あれさ・・・父さんが作ったもののひとつなんだよ」

「カペラの?」

「それは申し訳ないことを・・・」


「いいんすよ。千年以上経過しているものですし・・・いつ壊れてもおかしくなかったんですから」

「千年!?」


いや、カルルの年齢は・・・十七歳。次の十一月で十八歳になるらしいけど・・・

あれ?それじゃあ、おかしくないか?


「ねえ、カルル」

「何、エリちゃん」

「君、本当はいくつ?」


冷静に考えれば、何もかもおかしいじゃないか

アリシアとカペラは、二千年前の人物だ

だからこそ伝説。語り継がれる存在・・・カルルの年齢だと二人が両親という事実には一致することがない


「・・・言わなきゃダメ?」

「いいたくなかったら、僕から言っても構わないよ、カルル君」

「所長・・・」


確かに、登録資料で生年月日を記載する欄がある

それで所長はカルルが本当は何歳なのか知ったのだろう


「けれど、エリシア君との相棒関係には亀裂が入るかもね」

「・・・」

「どうする?」

「・・・・なな歳」

「え?」

「1987歳・・・です」

「ほぼテレジアノーツの創始時代じゃないか!」


テレジアノーツは今から二千年ほど前に誕生したと言われている

アリシアとカペラが生きていたのも、伝聞師の歴史が始まったのも、その時代と言われている

まさか、まだ生き証人が残っていたとは


「まあね。うちの父さんも母さんも、知っての通り創始時代の生まれだからね」

「そんなに生きられるものなのかい?純血ならありえるかもしれないけど、混血のカルルじゃ・・・」

「普通に死んでいる年数だね。けど、俺は・・・」


所長とキャレット先輩を一瞥した後、カルルは三角帽子を外す

誰かの目の前で帽子を外す姿は非常に珍しい


「珍しいね。角が両方欠けているのは・・・魔力の増幅を防ぐためかい?」

「ええ。まさかまだこの風習をご存知な方がいらっしゃるとは」

「これでも僕は精霊族エメレンタル。君たち魔法使いと寄り添う種族だ。最も、僕も祖父から聞いた話だから、詳しいことはわからないけれどね」


けれど、カルルの事情はそれで正解らしい


「・・・魔族は成長と共に魔力が増えるって聞いたことがある」

「その象徴は角に現れるといいますね。強さを示す縮図だとも〜」

「じゃあ、角が折れたらこれ以上は・・・あ」

「・・・元々膨大な魔力を保持していた。生まれ育った村を、自身の魔力暴走で破壊した日に、父さんから両方叩き折られたんだよ。「これ以上育つな」ってね」


「・・・その状態で、魔法学校も卒業して、カイちゃんも召喚できるの?」

「ううん。ここから一度父さんから眠らされたんだよ1700年ぐらいかな」

「・・・は?」


そして時代への整合性は取れていく

彼が創始時代に生まれたのに、現代でも生きられている事実が、しっかりと表面化していく


「角が折れた時に拒絶反応が出てね。その状態が馴染むまで、眠らされていたんだ。デリに聞いてもいいよ。デリはちょうど俺が目覚める頃に、父さんに弟子入りしたからね。起きた瞬間も見ているから」

「大丈夫。信じるよ。そこからカルルはデリ先生に制限をかけられて、魔法学校に入学・・・現在に至るって考えていいのかな」

「うん。だから、実年齢は創始時代だけど、眠らされていた期間を除けば、ざっくり300歳ぐらいだね。外見年齢は人族でいえば、十六歳程度」

「だから十六歳って言ったんだ」

「そういうこと。騙すつもりはなかったんだ。けれど、あの時はまだ俺がアリシアとカペラの息子だって知られるわけにはいかなかったし・・・それに」

「?」

「・・・勘違い、されたくなかったんだ」


出会った時のカルルは、魔族と混血だと言わなかった

彼は、人族のカルルと名乗ったのだ

三角帽子で角を隠し、杖と精霊楼で魔力補助が行われているようなカモフラージュを施す

本来ならそんなものは必要ないのだろう

けれど、彼がそのカモフラージュをやってきたのはきっと・・・自分を守るためだ


「・・・風習、知っている人がいたことに驚いていたよね」

「うん」

「カルルは、自分を守る為に言わなかったんだよね。片方は罪人、じゃあ両方は?ってなった時に、上手く答えられないから」

「証拠も、ないからね・・・エリちゃん。怒ってる?」

「怒ってないよ。怒る部分あった?」


怒ることなんて何もない

仕方のないことじゃないか。抱いていた疑問も解消されたし、カルルは今後、僕らの前で気を使うことなく帽子を脱げる

むしろこの発覚は、全てがいい方向に進んでくれたと・・・僕は思っている


「確かに出会ったばかりの頃に角を見せられていたら、今みたいに上手くは言っていなかったと思うよ。疑っていたと思う」

「・・・だよね」

「けど、今は少なからず君のことを知っているし、君の信頼も得られていると思っている。二人の息子だと教えてくれたのも、角を見せてくれたのも、信頼の証だと思っているよ」

「エリちゃん・・・」

「だからね、カルル。もう心配しないで。これからは君の事情を理解した上で付き合いを続けていく。僕らは相棒なんだから、これからも支えてほしいし、支えたい」

「ありがとう、エリちゃん。俺も同じだよ」


「いいって。けど、どうしよう。カルルは魔法の才能を隠すために杖を使っているんだよね」

「そうだよ。杖を使うということは、魔力操作が下手くそな証拠だから。俺は少なくとも「そういう存在」だと誤認させておかないといけない」


・・・全属性の魔法を行使できていたりと異常性は露呈しているようだけどね

けれど、彼はそれだけじゃないらしい

カルルは誰もいないところに指先を踊らせる

するとそこに、大きな氷塊が出現した


「無詠唱の魔法行使か。僕もそこそこ生きているが、初めて見たよ」

「・・・一応、無詠唱でも魔法は行使できます。けれど俺はこれを隠したいんです。これを使えるのは、父さんと神族だけ。創始時代から生きている化物だけだから」


そんな限られた存在しかできない術だったんだ

確かに、不特定多数の人物にカルルがカペラの息子だと知られるのは・・・避けたい

本人もできる限り隠したいだろう

だから、僕もその意志を尊重する


「カモフラージュの魔法の杖・・・少なくともカルルの魔力に耐えきれる魔石を用意しないといけない。膨大な魔力はバレていいんだよね?」

「魔力が多い魔族は珍しい話じゃないから。これぐらいは」

「けれど、耐えきれそうな高純度魔石はもう回収しつくされているんじゃ」

「危険ですけど・・・あの場所しかないと思うんです〜」


シュベリアさんが告げる場所は唯一つ

シュベリアグロウ。未開のあの場所には、まだ大量かつ高純度の魔石が眠っている可能性がある

カルルが望むものも、そこならば発見できるかもしれない


「今回は私の落ち度もあります。私のお父さんに通行を許可するよう手紙を書くのですが〜・・・エリシア君」

「はい」

「貴方は、どうされますか?」

「・・・僕も、行きたいです。寒くても、危険でも、相棒なので。カルルの為に、一緒に魔石を探して来ます」

「エリちゃんイケメン。好き・・・」

「カルル、抱きつかない」


僕の判断に、シュベリアさんは微笑んで、カルルは嬉しそうに抱きついてくる

しかし、所長とキャレットさんの表情は対照的に重かった

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