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Letter later  -伝聞師と魔法使いの職務記録-  作者: 鳥路
第1章:白兎族のミシェリアと白銀の籠
19/21

1:魔法使いの杖

エリちゃんたちが伝聞師として事務仕事を行なっている間

俺とシュベリアさんの護衛コンビは、戦闘訓練に勤しんでいた


「さ〜カルル君。どんとこいや〜」

「まずはこれから。ファシット・ファイアリープ」


杖の先端から炎の渦が現れる

それはシュベリアさんを狙うように蠢くが、彼女の速度はなかなかのものだ

エリちゃんほどではないけれど、長年積んできた経験が、見事な回避を繰り出してくる


「うん。いい速さだね。私をしっかり捕捉できていました〜」

「どうも。でもいい速さですね、シュベリアさん」

「まあね。これでもあの霊峰を庭とし、駆け回った山羊なので〜」

「霊峰シュベリグロウ・・・名前が似ているとは思っていましたが、シュベリアさんはそこの出身なんすか?」

「はい。正確には、霊峰シュベリグロウに繋がる唯一の登山口付近に出来ている村の出身なんですよ〜」

「なんだか意外だ・・・」


確かに山羊族は寒冷地帯に暮らしている事の方が多い

寒冷だが、その中でも自然が比較的豊かな土地へ集落を築くと本で読んだことがある

目の前にいるシュベリアさんも、ほわほわしているがこれでも山羊族

エリちゃんのように、種族の性質から逸脱している存在ではないらしい

彼女もまた、山羊族らしい山羊族のようだ


「自分もそう思いますよ〜正直、自分でも、ぬくぬくの空間でのんびり過ごしている方がお似合いだと思っていま〜す」

「俺もそう思いますね。何でしょう。イメージ?」

「ですねぇ。でも、人は見かけによらないんですよ〜。こう見えて、私はアクティブな性質ですし、寒いの大好きです。逆にぬくぬく空間は、だるくなるので嫌いだったりします」


「イメージと真逆ってことですね」

「はい。カルル君。これは先輩からの教えです。見かけや他者から提供された情報だけで判断してはいけませんよ。自分で見て、全てを判断してください」

「了解です」


確かに、そのとおり

人は見かけで判断してはいけない

人を知る時は対話で知れ。かつて、父さんが俺に言い聞かせていた言葉だ

俺の相棒にも言えるよね。

あの子ほど、見かけによらない少年は存在しないだろうから


「あ、もう一ついいですか?」

「いいですよ〜。なんですか?」

「シュベリアさんの名前のこと。シュベリグロウが近くにあるから、その集落もシュベリグロウに近い名前をつけている感じですかね?」

「そうですよ。何か気になることでも?」

「いえ。そういう風習があるのかなって、気になって」


ついつい趣味の話をしてしまう

俺もエリちゃんも、こういう種族や集落に関する話が大好きだ

そんな話題の気配がしたら、子供みたいにワクワクしてしまうほどに


「カルル君も、好奇心旺盛なのですねぇ」

「そ、そうですかね」

「いいんですよ〜。では、休憩がてらここで一つ。確かに、私達の集落は産まれた子供にシュベリグロウに近い名前をつけますよ。それはなぜだと思いますか?」

「なぜって・・・」


ただ、近郊にあるからという理由ではないだろうな

そういえば、シュベリアさんは最初にこういっていたな・・・


「シュベリアさんの故郷って、シュベリグロウに繋がる唯一の道付近にあるんですよね?」

「ええ。そうですよ」

「・・・シュベリグロウの手下とか、そういう意味合いで?」


山を神として崇める種族は、少なからず存在する

その中に、山名の一部を自身の名前として与えられる風習が存在していた

神に仕える者として、その神聖を得る儀式

それに近しいものだと思ったが・・・シュベリアさんの反応を見る限り、違うらしい


「ちょっと惜しいですね。私達の村は、シュベリグロウに立ち入る存在ではないものを拒む者。門番というべきですね」

「神様扱いとかはしていないんですか?」

「まさか。強いて言うなら、悪魔扱いはしていますね」

「悪魔・・・」

「神秘的な美しさを持つ種族を囲い、来る者を食らいつくし養分とする悪魔の地。私達は、あの場所をそう呼んでいます」


遠い目をして、シュベリグロウを見上げる


「私達は、シュベリグロウに向かう道を守っているのではありません。あの場所で誰かが死ぬのを防いでいるだけなのです」

「・・・伝聞師の殆どが、山頂に存在していると言われる村「スノーレイク」にたどり着けていません。支援物資を運ぶ伝聞は存在していますが、その途中で常に頓挫しています」

「支援物資・・・?」

「カルル君には説明していませんでしたね。伝聞師には、絶滅危惧種に登録されている種族を生かすために、星刻天秤が手配した支援物資を支援対象種族へ運ぶ任が存在しています」


「・・・そんなことまで。しかし、あの場所に何が住んでいるんです?それこそ、悪魔?そもそもあんな場所で生きられる生き物なんて、存在しているんです?」

「悪魔なんて恐ろしい存在ではありませんよ。あの山頂・・・スノーレイクに住んでいるのは、白兎族。聞いたことはありますか?」

「白兎族って・・・まさかあの!?」

「おお、流石魔法使い。食いつきますねぇ〜」


まさか、こんなところでその種族の名前を聞くことができるとは

絶滅したかと思ったが、まだ存在していたなんて・・・!


「魔石のスペシャリストっすよ!一度は会ってみたいですね〜」

「その角も、治せる存在ですものね〜」

「・・・え?」

「あら、知らなかったんです?魔族の角の治し方。今では白兎族しか出来ないと」


それも初耳な情報だけども!

俺は、この人にあの事実を言っていない

知っているのはエリちゃんだけだ・・・


「いやいやいや。俺、シュベリアさんに角が折れていること」

「しかも両方ですものねぇ〜」

「いや、なんで知って」

「私、三百六十度バッチリ見えますので〜」


まさか・・・あの時か

訓練中、少なからず汗をかくことはある

角のこともあるし、シュベリアさんには後ろを向いてもらった上で帽子を外し、折れた角を露出して汗を拭っていたのだが・・・


「うわぁ・・・」

「まあまあ。片方であれば、警戒はしましたが・・・両方ということは事故なのでしょう?」

「え」

「可哀想に・・・災難でしたね。私達も生え変わるとはいえ、角が重要視される種族。辛さは理解できます」


い、いや・・・これ、両方父さんに叩き折られたんだけど

事故とか全然そんな訳じゃなくて、魔族の風習に則って折られたものなんですけど

今じゃもう、その風習を覚えている存在なんかこの地上にはいないだろうけどさ


「魔族の角は再び生えないと聞きます・・・可哀想に!」

「えっちょ・・・うわっ!」


勢いよく俺に抱きついてきたシュベリアさんを受け止める

しかしその拍子に、持っていた杖に負荷がかかってしまったらしく・・・


「あ」

「あら〜」


地面についていた杖は俺とシュベリアさんを支えきれず、真っ二つに折れて

・・・上にはめ込んでいた魔石は、不運な事に石とぶつかり


「あぁ・・・」

「すみません、流石にこれは想定外でした」


魔石は、粉々になって地面に散らばってしまう

色を失った魔石はもう、ただの透明な石だ

魔法使いにとって、杖というものは非常に大事なもの

魔法を正確に発動させるために必要な媒体なのだ


「ごめんなさい、カルル君」

「いえ、気にしないでください」


しかし困ったな

俺には杖なんて本当は必要がないけれど、カモフラージュの為には必要なものだ


本当は杖なしで、無詠唱で魔法が発動できる

デリと父さんに百分の一程度に能力を抑えられていても、それぐらいはできるように自分自身を鍛え上げた

もう二度と、あんなことは起こせないから・・・


「しかし、俺の魔力に耐えきれる魔石なんてそう簡単に用意できない・・・」

「手つかずのあの場所なら・・・カルル君のお望みな魔石も発掘できると思いますが・・・」


すべての始まりは、俺の杖が壊れたところから始まる

支援保護伝聞なんて、この時はまだ、俺には関係のない話だったのだ

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