間章5:キャレットとの邂逅
レーアクルフに到着した僕らは・・・昼告げの鐘と共に、駅の構内を出た
「身体が痛い・・・」
「だねぇ・・・」
まさか道中で列車事故が起きるだなんて予想外だった
アタラクシアで晩御飯を買っていてよかったよ・・・あれがなければ、晩ごはん抜きでレーアクルフまで耐えなければいけなかった
しかし、お昼ごはんの時間ということもあり、お腹が空腹を訴えてくる
「お腹すいた・・・」
「だねぇ・・・」
「でも伝聞局に行かないと」
「だねぇ・・・!」
「その心配はいらないよ!」
「いらないですよぉ」
「・・・?」
目の前に、茶髪の女性と白髪の女性が立ちふさがる
茶髪の女性は伝聞師の制服だ
頭には、木の枝のように伸びた雄々しい角が生えている・・・鹿族が持つ、特徴的な角
もしかして・・・彼女が
「・・・貴方が、キャレット・コルデリアさん、でしょうか」
「ええ。いかにも。私は鹿族のキャレット・コルデリア。その制服、貴方がエリシア・ノエリヴェールね。会いたかったわ!」
よかった。彼女が事前の話で聞いていた僕の先輩になる存在のようだ
しっかりした印象を持つ女性だ。鹿族ということもあり、長所は同じ
学べることは多そうだ
「早速災難だったね。疲れているだろうけど、伝聞局に来てね。今日は予定を変えて、挨拶だけで終わらせましょう?」
「ありがとうございます・・・あ」
目の前でお腹が大きな音を立てて鳴り響く
それはもちろん、キャレットさんにもカルルにも、白髪の女性にも聞こえていたようで、三人から笑われてしまう
・・・恥ずかしい
「ふふっ、お腹は我慢できないらしいね。今の貴方に必要なのは先に昼ごはんみたい。早速食べに行きましょうか」
「すみません・・・でも、いいのですか?先に所長へ挨拶を済ませるべきでは」
「食事も仕事のうちだよ、エリシア。所長からは、貴方が挨拶だけでも万全な状態でできるようにしてから連れてくるように言われているから。遠慮しないでね?」
「は、はい!」
キャレットさんに連れられて、近くのレストランへと向かう
「いらっしゃい、キャレット。その子が今日からの新人君かい?」
「そうだよ。彼はエリシア。今日から常連候補だから、優しくしてあげてね!」
「ああ。もちろんだ。注文はいつものか?」
「うん。いつものでお願いします!」
「かしこまり!」
店員さんとフレンドリーに会話しつつ、適当な席に腰掛ける
窓際は僕とキャレットさん。その隣にそれぞれの護衛が腰掛ける
「さて、エリシア。紹介するね。この子は山羊族のシュベリア」
「はじめましてぇ〜。シュベリア・マーチャントで〜す」
「私の護衛を務めているわ。性格はこんなに緩いけど、仕事は一級品よ」
「種族は近いですし〜何かと教えられることもあるかと〜。よろしくで〜す」
「よろしくお願いします、シュベリアさん」
白髪の女性・・・シュベリアさんは左右にのんびり揺れながら自己紹介をしてくれる
ほわほわした雰囲気の人だけど、これでも護衛
どんな動きをするのか、気になるな
「で、エリシア。貴方の護衛は?」
「ぼ、僕の護衛は・・・」
紹介をする前に、カルルに軽く目配せをする
「・・・大丈夫だよ、エリちゃん。彼女と同じように進めて。ちゃんと名乗るから」
「・・・わかった」
小声で相談した後、僕もキャレットさんと同じようにカルルを紹介する
「彼は、人族と魔族の混血であるカルルです」
「ご紹介に預かりました。カルル・アステラ・ヴァーミリオン。しがない魔法使いだ。それ以上でもそれ以下でもないから、そこのところよろしくお願いします」
「なるほどね。最年少合格者とアリシアの息子・・・凄い組み合わせだ」
「「・・・」」
そう。僕らの組み合わせは今回の合格者の中でもとんでもない組み合わせなのだ
現在の最年少である十二歳で伝聞師試験に合格した僕
数多の伝説を生み出し、伝聞師の歴史の中で守るべき教訓と共に語り継がれる伝説の名コンビ「アリシア・アステラ・ヴァーミリオン」と「カペラ・アステラ・ヴァーミリオン」のたった一人の息子であるカルル
そんなコンビだ。変な目で見られることは少なくはなかった
現に、着任式の時は二人揃って好奇の目にさらされていたし・・・嫌な気分しかしなかった
「その反応・・・まあ、そうだよね。史上初と偉大な血縁者。注目されなかったわけがないよね」
「・・・はい」
「・・・」
「ここはね、貴方と私しか伝聞師がいないの。指示を出す所長は元伝聞師なの。ここの支所は、三人で回すことになる」
「そうなんですか?」
この情報は初耳だった
伝聞局は大きいし、支所だってそれなりの人が集まっているものだと考えていた
けれど、レーアクルフにはそこまでの人員は配備されていないようだ
「うん。だからね、他の所よりのびのびと仕事ができると思う。仲良くやろう、エリシア。私に教えられることはたくさん教えるから」
「ありがとうございます」
「・・・それでも安心できないなら、二人を安心させる言葉を言ってあげる。私としては不本意なんだけどね」
キャレットさんは咳払いを何度かした後、僕らをまっすぐ見つめながら、その言葉を言ってくれる
「二人は凄い存在なんだろうけど、ここでは新人伝聞師とその護衛。先輩として特別扱いはしないから」
「「ありがとうございます!」」
一人の伝聞師として、一人の魔法使いとして見てもらえる
それはとても嬉しい話だ
初勤務先がここでよかった
キャレットさんシュベリアさんとなら、上手くやっていけそうだ
「二人共喜びすぎですよ〜?まあ、気持ちはわからないこともないのですが〜」
「けど、不本意ってどういうことです?」
「個人的には、まだエリシアは特別扱いしたいんだ」
「僕、ですか?」
「うん。本来伝聞師って、十八歳が最年少年齢なの。それを大きく下回るエリシアはまだ成長過程の状態でしょう?」
「そう、ですね」
「無理をして、成獣になる過程で支障が出るのは避けたい。十二歳で伝聞師になれる少年なんだ。これからも伸びていく。その成長を、阻むことはしたくない」
「・・・」
「だから、危険なことはさせないよ。君には伸びてもらいたいから」
「・・・ありがとうございます」
わかっている。この特別扱いはキャレットさんの優しさで出来ている
この扱いは、当然の扱いなのだ
子供の僕には、当然の扱い
「ごめんね。私の妹がね、成獣になる前に脚に大怪我を負ってね・・・成獣になった今も脚を引きずって歩いているの」
「そうだったのですか」
「うん。だからね、君にも同じ状態になってほしくないだけなの。自己満足だけど、わかってほしい」
「お気遣いありがとうございます。三年間、甘えさせていただきますね」
「うん。それでいい。さあ、ご飯が来たよ。二人共、たくさん食べちゃって!」
「「いただきます!」」
やってきた料理を早速頬張りながら、久々の食事にありつく
ここの名物は野菜と魚のようだ。流石水の都と言ったところだろうか
「おかわりもしていいですよ〜。経費なので〜」
「では、遠慮なく・・・これとこれを追加で」
「・・・あの〜、カルル。彼はやはり」
「・・・育ち盛りっすよ、シュベリアさん。この前からたくさん食べ始めるようになりました。あと、今日が十三歳の誕生日です。本人忘れてますけど」
「・・・こうしてあっという間に大人になるんだね。食事は疎かにさせないよう、君も注意してね、カルル」
「・・・もちろんです。エリちゃんには、立派に成長してほしいので」
エリシア・ノエリヴェール
本人も忘れている十三歳の誕生日を迎えた今日
大人に憧れた彼は、ゆっくり大人に近づいている
成獣になるまで、残り二年
そんな日に、彼は伝聞師としての仕事を開始する
優しい先輩コンビと、これまた優しくも厳しい所長の元で
立派な伝聞師としての一歩を進めていくのだ
おまけ・キャレットさんはおいくつですか?
キャレット「私はこれでも24歳なんだよ!伝聞師としての経験は結構あるんだから!」
シュベリア「初心者から中級者に上がった程度ですがね〜。私も同い年だったりしま〜す」
キャレット「私達は、基本的に町中の伝聞が基本かな」
シュベリア「私はカルルみたいに飛べませんからね〜」
キャレット「エリシアみたいに体力もないし、今後エリシアが担当するような遠方伝聞はやりたいけど、やれない感じだね」
シュベリア「けれど、私達にはこれが一番ぴったりですよ〜」
キャレット「そうだね。私達は地域密着伝聞師として、これからも頑張っていこう!」
シュベリア「お〜!」
おまけおしまい