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Letter later  -伝聞師と魔法使いの職務記録-  作者: 鳥路
第0.5章:首都「エスパシオ」中央区→水都「レーアクルフ」
16/21

間章4:聖都アタラクシア

聖都アタラクシアに到着した僕らは、一時間ほどそこの観光をすることになった

最も、時間の制限から考えて駅近くの中央広場だけになるだろう

周囲は流石に見て回れない


ここは数多の種族が共存する「テレジアノーツ」の始祖と呼ばれる神族メテオラ「テレジア・ユーフェリルド」を信仰する者が作り上げたと言われる都市だ

不可侵土地である「ウィルネス」まで足を運べない地上の民は、ここから彼女を信仰するそうだ


至るところに、テレジアが好む建築方法で作られた建造物が、土産屋も彼女に由縁のある品物が並んでいる

甘いお菓子もその一つ。テレジアが好んでいるものだそうだ


「わぁ・・・」

「これ、どうなっているんだろう」


早速僕らは近くの喫茶店でお菓子を楽しむことにする

一時間程度でできることと言えばこれぐらいだ

今度来た時は、街もじっくり見て回りたい


「店員さん、これがこの都市の名物なのですか?」

「ええ。そうですよ。名物「パイリルド」。テレジア様考案の、テレジア様の好物である焼き菓子です」


きのみを混ぜたパイ生地を焼いたもののようだ

その上には、粉砂糖が満遍なく振りかけられている

見た目からも甘いとわかるのだが・・・味は一体どんなものなのだろうか


「店員さん、飲み物も一緒に頼みたいのですが、何かおすすめってありますか?」

「そうですね・・・魔法使いさんはアタラクシアコーヒーとかはいかがでしょう。酸味が効いているアタラクシアの名物です」

「これも、テレジア様が好んでいるものなんですか?」

「実は違いまして・・・。むしろ嫌っているようです」


名物の一つであるアタラクシアコーヒーは、テレジアが嫌っているものらしい

それでも、この彼女を信仰している都市で名物となっているのはなぜなのだろうか


「テレジア様が好む菓子類は、非常に甘く・・・アタラクシアの民でも食べられない者の方が多かったりします」

「そこまで甘いのですか?」

「ええ。とても。なので、酸味の効いたコーヒーと共に食べるのが一番いいのです」

「なるほど。では、俺はそれをお願いします」

「かしこまりました」


「エリちゃんはどうする?」

「僕は・・・その」


流石に酸味が効いたコーヒーなんて飲める自信がない

それに、甘すぎるということなら・・・いつもはお茶のお供にしているホットミルクとかも避けるべきだろう


「店員さん、この子、まだ幼くてコーヒーはまだ飲めないんですよ。その場合のおすすめってありますか?」

「それでしたら、カフェオレはいかがでしょうか?」

「砂糖、入っていませんか?」

「アタラクシアのカフェオレには入っていないのですよ。酸味がミルクで抑えられ、子供でも飲めるように調整されています」

「では、僕はそれでお願いします」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」


注文を取り終えた店員さんは、カウンターへと戻っていく

一息ついた僕らは、飲み物が来るまで他愛ない会話をしていった


「ありがとう、カルル」

「いえいえ。これぐらいはね」

「でも、相当甘いみたいだね・・・大丈夫かな」

「きっと大丈夫だよ。食べられなかったら、俺が食べてあげるから」


「カルルは平気なの?」

「俺は甘いもの大好きだから」

「僕も好きだけど、甘すぎるのは苦手なんだよね」

「気持ちはわかるよ。俺も程よい甘さが一番だと思っているし」

「無理しないでね」

「わかってるよ」


飲み物がきてから、僕らは名物であるパイリルドを食していく

甘さの際立つパイ生地は、口の中に入れた瞬間、強い甘さと共にサクサクと口の中に広がっていく

食感として物足りないな、と思った先にやってくる歯ごたえ抜群のきのみ

非常に甘いことを除けば、何度でも食べたくなるお菓子かもしれない


一口ごとに、口直しのため互いに頼んだ飲み物を口に含む

程よい酸味が口の中をリセットしてくれる

なるほど、これとセットなら何口でも行けそうだ


「エリちゃん、美味しい?」

「美味しいよ!何口でも行けそう!」

「よかった」

「カルルは?」

「うん。俺も無事に食べきれそうな甘さだよ。ただ・・・」

「ん?」

「コーヒーと一緒じゃないと、無理かな」

「それは僕も同感かな・・・」


パイリルドと飲み物を交互に頂きつつ、お菓子を食べ進めていく

残りが少しになった頃

僕は少しだけ、あるものに興味を抱く


「・・・」

「どうしたの、エリちゃん」

「コーヒーは、どんな味なんだろう」

「やめておいたほうがいいよ。めちゃくちゃ苦いから」

「そうなんだ」


確かに、カフェオレでもちょっと苦いなって思うぐらいだ

ブラックコーヒーになると、さらなる苦さが襲いかかってくるようだ


「エリちゃんの好奇心を満たすために、俺も一口程度は飲ませてあげたいなぁとは思うんだけどね、流石にこれは危ないね」

「そこまで・・・」

「うん。大人の味だよ、エリちゃん。将来大人になって、大丈夫だと確信したら飲みに来よう」

「大人の味って・・・どんな味なんだろうな」

「それは三年後のお楽しみだね」


今日一日、なぜか大人と子供の差を感じる一日だな、と思いつつカフェオレを口に含む

いつか、大人としてカルルと一緒にブラックコーヒーを飲めたらいいなと思いながら、おかしの時間を楽しんだ


・・


列車の発車時刻が近くなった頃

僕らは売店で、晩御飯を見ていた


レーアクルフに到着するのは、夜の九時頃のようだ

開いている店は少なからずあるだろうが、探し回るよりは列車内で夕飯を済ませ、レーアクルフに到着したらすぐに宿屋へ迎い、休息を取るのが一番だと思ったから


「どこもかしこも甘そうだね」

「そうだね・・・」

「あ、でもこのサンドウィッチは甘くなさそう」

「たまごペーストぎっしりだしね!これにしようよ。種類もたくさん買ってさ」

「そうだね。エリちゃんは、保存飲料買ってきてくれる?ここは俺が並んでくるから」

「了解!」


人だかりが出来ていたサンドウィッチはカルルに任せて、僕は持ち運びができる保存飲料を買いに別の売店へと向かう


水を二本、それからサンドウィッチを食べる時用にカルルにはアタラクシアカフェオレを、僕は野菜ジュースを購入し、彼が戻ってくるのを待つ

それからカゴいっぱいのサンドウィッチを抱えたカルルと合流し、僕らはレーアクルフ行きの列車に乗り込んだ

目的地は、もうすぐだ


・・


伝聞局レーアクルフ支所

そこで、彼女は教育係を拝命した後輩が到着するのを今か今かと待っていた


「キャレット君、彼が到着するのは明日だよ」

「所長!でも私、待ちきれないのです!新しい子がどんな子なのか、非常に楽しみで!」

「ここには君と私しかいない伝聞局だからね」


そう。この伝聞局には伝聞師が一人しかいない

指示を出す所長は、元伝聞師

現役の伝聞師は彼女「キャレット・コルデリア」しか存在しないのである


「今まで苦労をさせたね」

「いえいえ。私とシュベリアの脚だからこそ、大丈夫だと上が判断してくださったのでしょうし・・・それに、所長が的確な指示を出してくれていますから、苦労なんてありませんでしたよ!」

「そう言ってくれると嬉しいね」


「しかし、なぜこの場所に新人を?とてもじゃないですが、ここは辺境で、新人が学ぶのには不向きだと思いますよ?田舎ですし、伝聞依頼は少ないですし」

「んー・・・君と同じ健脚を持つ子だからかな。羊族の男の子だと聞いている。種族が近い君から学べることは多いのではないかい?」

「なるほどなるほど。これは、教えがいのある新人が入ってくるということですね!」

「そういうことだよ、キャレット君。明日は久々に忙しくなるから、早く帰って休みなさい」

「了解です!」


明日来る、新人はどんな子だろう

そんな期待に、胸と足取りを弾ませながら、彼女は寮への道をスキップしながら辿っていく

明日はもう、遠くない

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