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Letter later  -伝聞師と魔法使いの職務記録-  作者: 鳥路
第0.5章:首都「エスパシオ」中央区→水都「レーアクルフ」
14/21

間章2:着任式前に

あれから約一ヶ月


「いやぁデリ、こんな晴れ舞台に呼んでくれてありがとうね」

「いや、呼んでないんだけど。君は公務があると聞いていたら招待状を出していないんだけど」

「公務ほっぽってきちゃった!」

「今すぐ帰れクソ鳥。お前の秘書に連絡してやる」

「勘弁してください。帰るんで。帰るんで!せめてその前にエリシアの晴れ姿をひと目見させてくれ!」

「断る・・・!お前に見せるあの子の晴れ姿はない!」


僕の恩師である魔族のデリ先生と卒業試験で僕が運んだ手紙の依頼人であり試験官の一人であった「ユーリ・テスラヴェート」さん

二人は僕らの着任式の前、事務作業で忙しいはずなのに顔を見せに来てくれていた

最も、ユーリ様は呼ばれていないようだが・・・

色々と気を遣ってくれているし、僕の様子を見に来てくれたのかも

時間はまだあるし、挨拶をしておこうかな


「デリ先生、ユーリ様」

「エリシア、来てはいけないよ。不審者が出たからね。向こうに避難を。カルルもいるはずだし、時間が来るまで遊んでもらっていなさい」

「子供扱いしないでください・・・。それに、その方は不審者ではなく、ユーリ様ですよね・・・こんにちは、ユーリ様」

「こんにちはエリシア!会いたかったよ〜!」

「き、昨日も会いましたよね・・・?」


昨日も衣装合わせの時に来てくれた彼は、久々に会ったかのように、僕の頬と自分の頬をスリスリとさせてくる

悪い気はしないんだけど、デリ先生の視線が痛い・・・


「わぁ!」

「ど、どうしました?」


ケープをめくられて、その下にあるワイシャツ?に目を向けられる

けれど、彼が何を見ているかは僕にはわかる

昨日彼が贈ってくれた、「あれ」だと思うから、特に抵抗せず成されるがまま立っておく


「サスペンダー、身につけてくれているんだね」

「は、はい。せっかくの贈り物ですから」

「嬉しいねぇ。ありがとう」

「いえいえ。それはこちらの言葉ですから・・・」


僕らが仲良く話していると、デリ先生の咳払いが数回聞こえる


「ご、ごめんなさいデリ先生。もう着任式の時間ですよね?」

「いや、エリシアには怒っていない。怒っているのはそこの鳥だけだ」

「デリ。そんなきりきりしてたらヴェーダも心配で斧片手に帰ってきちゃうよ?」

「ヴェーダ・・・」


その名前は聞いたことがある

デリ先生が現役伝聞師だった頃の相棒。そのお名前だ


「デリの相棒だよ。牛族タウラスのヴェーダ。斧を振り回し、あの凶暴なデリと一緒に危険区域に伝聞してた凄腕の護衛」

「凶暴・・・」


在学時代も、デリ先生の過去は噂にならない日はなかった

危険区域・・・まあ、紛争地帯や未知の異形が蔓延るような未開地というべきだろうか

そこ宛の伝聞を自ら引き受けて向かっていたのがデリ先生とその護衛と聞く


デリ先生は「アスタロト」と呼ばれる高位の魔族に位置する存在だ

そのアスタロトの特徴としては・・・全身にめぐる血がかなり猛毒で、一滴だけでも即死するほどの毒が含まれているらしい

その体質を利用して、デリ先生は自衛をしていた・・・らしい


そんなデリ先生は、毒が出ることを防ぐためもあるだろうけれど、どんなに暑くても長袖と手袋とマフラーを外さない

顔以外の肌を露出することがないのだ

それはどうやら「伝聞師の任期中に自傷した傷を隠すため」


カルルの話だと、おびただしい数の傷が体中に存在しているそうだ

それだけ彼は修羅をくぐってきたということだ


デリ先生は相当強かった伝聞師だと聞く

それこそ、カルルのお母さん・・・アリシアさんのように、どんな伝聞もやり遂げるような、凄腕の伝聞師だったようだ

そんな彼でも、どうにかならない時があるらしい


「まあ、ある依頼の時にヘマして・・・デリを逃すために殿を買って出てそのまま・・・なんだけど」

「護衛が亡くなったから、デリは引退したって聞くからね」

「カルル」


やっと準備を終えたらしいカルルが、僕らのもとにやってきてくれる

心底嫌そうにしている表情を見る限り・・・カルルは、随分前から近くにいたのだろう

マシな会話になったあたりで出てきたのかな・・・

まあ、関わりたくないという気持ちは理解できないこともない


「まあ、ヴェーダはデリの良き理解者だったから。仕方ないと言えば、仕方ないのかな。あの偏屈男の相棒は、彼ぐらいしか務められないよ」

「カルルは会ったことがあるの?」

「昔ね。強くて優しい男だった」

「・・・」


僕はカルルのマントを無意識に握りしめる


「どうしたの、エリちゃん」

「・・・カルルは、いなくならない?」

「俺はエリちゃんを守り抜くために自らを犠牲にする可能性はある。けれど、それは最悪の手段だから」


カルルは僕の帽子の位置を直した後、一回りほど大きい手を僕の頭に乗せる


「俺はどんな時があっても、エリちゃんと一緒に帰るべきところに帰る。約束だよ、エリちゃん」

「うん。約束。僕もなるべく危険がないように、自分の身の振り方は考えるから」

「頼りになるね。俺の相棒は」

「そっちこそ。頼りになりすぎなんだよ、カルル。頼りすぎない程度に頑張るよ」

「デロデロに甘えていいのに」

「そんなわけにはいかないよ。いつか、カルルにも頼ってもらえるように僕もなんとかしないと・・・」


頼りになる相棒と今後のことを話しながら、まだまだ揉めているデリ先生とユーリさんの方を見る

ユーリさんの首には、あの日届けた夕焼け色の石がはまったネックレスがされている

彼の恋人であった「ティルマ・ノーザンリング」様から、彼への贈り物だ

それはティルマ様のお母様から、テージアさんに渡されて僕とカルルが運んだ伝聞の結晶でもある


「そういえばカルル」

「何かな、デリ」

「お前にはギリギリで伝えておくよ」

「不都合な情報をか。いいよ、何?」

「着任後、エリシアが事務仕事をしている時、お前は普通に護衛訓練だ。所作訓練で躓くなよ?お前は本当に態度だけは最悪だから」

「・・・嫌な予感しかしない」


「アリシアの息子だからかなり期待されてるみたいだよ、カルル君。頑張りなよー」

「ゲェ・・・」


ゲンナリするカルルを軽く慰めていると、係の人がやってくる

どうやら、呼び出しの時間のようだ


「エリシア。この先には他の場所で試験を乗り越えた同期もいるからね」

「年齢的には睨まれるだろうけど、堂々としていなさい。君は僕が認めた伝聞師なのだから」

「はい!」


「カルル」

「なんだよ」

「・・・呼ばれたらちゃんと返事をするんだぞ」

「それぐらいできるよ!行こうエリちゃん」

「うん!」


係の人に従い、僕らは着任式へと向かう

僕らはここに立つことを認められた存在として、堂々と歩いていく

周囲の視線なんて気にしない


僕らは・・・今日から、伝聞師なのだから

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