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Letter later  -伝聞師と魔法使いの職務記録-  作者: 鳥路
第0.5章:首都「エスパシオ」中央区→水都「レーアクルフ」
13/21

間章1:テージアへの届け物

試験終了時に受け取った伝聞証明書に関わる話を、先に話しておかないといけないだろう


浮遊島「アストラリード」

天界人が所有する不可侵領土「ウィルネス」

試験以来のこの場所に来たのは、あの時の約束を果たすためだ


「そろそろウィルネスに到着するよ、エリちゃん。準備はいいかな?」

「大丈夫だよ。しかし・・・」

「どうしたの?」

「まさか、こうして魔法使いの箒に乗って、何度も空へ行くことになるだなんて、試験合格前の僕は想像すらしていなかったよ」

「そうだね。空を飛ぶのはエリちゃんの種族から考えて、もうほぼ憧れだし・・・」

「魔法使いの箒に乗れるのも、また奇跡みたいなものだから」

「だねぇ・・・さ、もうすぐ門前だ。約束を果たしに行こう」

「うん!」


デリ先生とユーリ様に事情を話し、発行してもらった伝聞証明書を片手に僕らは空の上へやってきていた

その方法は卒業試験の時と同じ、カルルの箒だ


「テージアさん!」

「エリシア様」


その姿を見つけた僕は、彼の名前を精一杯の声で呼ぶ

その声に気がついた、光に透ける羽を持つ「天使エルダー」の門番「テージア・ルドレフカ」は、笑顔でこちらに飛んできてくれた


「こんにちは。あの日の約束を、果たしに来ました」

「ありがとうございます。試験は・・・結果は聞かずとも良さそうですね。その晴れやかな表情ならば・・・合格されたのでしょう?」

「はい。無事に」

「伝聞師の試験は難関だと聞きます。エリシア様ほどの年齢での合格は大変だったかと。本当におめでとうございます」

「ありがとうございます」


こうしてお祝いされるのも、何度目だろうか

自分の事のように喜んでもらう姿もだけど、褒められるのは全然慣れない・・・


「次のアプレにはもうエリシア様は正式な伝聞師なのですね」

「アプレ・・・ってなんだっけ、エリちゃん」


僕らにはあまり使い慣れない表現だから、ピンと来ないのも理解できる

わかれば結構馴染みのある言葉なのだが、こうして言語の壁というのは会話をなかなかスムーズに進めさせてくれない


「アプレはたしか・・・アブリルのことですね。はい、次のアプレには正式に伝聞師として任命されます」

「・・・四月のことか」


改めて説明しておくと、この世界には数多の言語が存在している

種族、住む場所・・・その違いで言語がたくさん存在しているのだ

もちろん、時間の違いだってある。その流れについていけず、存在が消えた言語だって少なからず・・・

そんな言語と言語、生活様式も種族も何もかもが違う人たちの思いと言葉を繋ぎ、伝えるのが僕「エリシア・ノエリヴェール」の仕事でもある「伝聞師」の役目だ


「難しいものですよね。インダスではなんというのですが?」

「普通に四月。卯月って特徴的な表現をするところもあるけれど、俺が住んでいた土地では数字で表現していたね」

「卯月・・・うさぎの月、ですか?」

「みたいだけど・・・よくわからないね」


「西の方の土地でイースター祭りっていうウサギと卵を使ったお祝い事をする土地があるから、四月はウサギが関係しているのかも?」

「確かにそれなら納得だけど、卯月を使っているのは東の方に住むインダスだよ。その理屈は通らなくない?」

「それなら関係ないのかな。でも、同じような風習があったからこそ卯月の呼称を用いているのかもよ」

「そんな風習あったかな・・・」

「ふふっ・・・」


僕とカルルはテージアさんをそっちのけで互いの意見をぶつけていく

伝聞師には必ず一人、伝聞師の道中旅を守る「護衛」が存在している

僕の護衛は隣にいるインダスの「カルル・アステラ・ヴァーミリオン」

伝説の伝聞師であるインダスのアリシアとその護衛を務めた魔族のカペラ。その一人息子

そして、僕の大事な友達だ

僕とカルルの共通の趣味は「多種族の文化を知ること」

少しの疑問があればこうして話し合い、答えを出すのが最近の僕らの趣味だ

・・・たまに、熱中しすぎてこういうことを起こすけど


「お二人は仲良しなのですね」

「まあね。エリちゃんと俺は相棒で友達だから」


テージアさんはそんな僕らを見て笑いながら、思ったことを率直に伝えてくれる

少し照れくさいけれど、それもまた・・・いいと思えるほどにこの関係はとても心地がいい


「私は?」

「テージアさんは・・・」

「友達になりたいですね。もう友達でしたっけ?」

「そう言っていただけるのは嬉しいです」

「私もです。では今度からはエリ君とお呼びしましょう。公的な方では先ほどと同じく敬称をつけますが、私的なことだったらフレンドリーに」


まさかテージアさんともこうして仲良くなれるとは思っていなかった

伝聞師になってから、新しい繋がりがどんどん増えていく感じを覚えながら話を続けていく


「では、カルル様はかーくんとお呼びしましょう」

「なんか鳥人ツカナに分類されている鴉族レイブンみたいな呼び方だね・・・」

「レイブンとかーくんにどんな関係が?」

「とある地方では、鴉族のことを「カラス」と呼ぶらしいよ。カラスのかーくんって結構いるらしい」

「なんでしょう。少し可愛いですね」

「そうかなぁ・・・?」


「僕は可愛いと思うけどな、カルルのかーくん」

「エリちゃんまで・・・」


カルルは不服そうに口元をひくつかせながら、僕とテージアさんを交互に見る

しかし僕らの反応は変わらない

僕はカルルの方がしっかりくるからそのままの呼び方だけれども、テージアさんはきっとかーくんのままだろう


「あ、先にこれを渡しておかないとですね。証明書です」

「確かに、受け取りました。遊ぶ前に受け取らなければいけなかったのに、すみません」

「いえ。僕も私的なことの話を広げてしまって・・・」

「まあいいんじゃない。今は伝聞師の仕事中ってわけでもないし、テージアは知らないけれどね」

「私ですか?」

「今は門番の勤務時間でしょ?。でもそろそろお暇しないと。君の相方が半泣きだ」

「あ・・・少し申し訳ないことをしてしまいましたね。私もそろそろ仕事に戻らないと」

「そうした方がいいですね。では、僕らはこれで・・・」


カルルに合図をして、僕らは地上に下降しようとする

それを、テージアさんは引き止めてきた


「かーくん。一ついいですか?」

「何かな?」

「かーくんはインダスと魔族の混血のように思えますが、間違いありませんか?」

「切り込んでいくね。そうだよ。インダスとパンドラっていう予知能力がある魔族の混血さ」

「・・・かーくんほどの魔法使いであれば一蹴は可能だと思いますが、混血。特に魔族の混血をよしとしない派閥はどこの土地にでも存在しています。くれぐれも、気をつけて」

「言われなくても。結構遭遇したことあるんだよね。だから気にしないでよ」


そうは言うけれど、やはり狙われているのは事実だし、それに慣れきっている環境もあまり良くはないだろう

・・・彼の、両方折れている角のことも、それに関係したりするのだろうか


デリ先生は幼少期のカルルのことを知ってはいるようだが、彼自身が僕に話してくれるまで知らない方がいいことだと思う

勝手に知るのは、友達として悪いと思うから


「それなら、いいのですが・・・では、またいつかお会いしましょう」

「はい。じゃあ、また!テージアさん!今度はお茶とかのんびりできたらいいですね!」

「はい。ぜひとも誘ってください。エリ君。かーくん!また会える日を楽しみにしています!」


テージアさんに見送られながら、僕らは地上へと戻っていく

このテージアさんに渡した伝聞証明書は、後に僕らを大きな事件に巻き込むことになる


彼と次に再会する場所は・・・天界法務局

本来ならば地上の者が立ち入ることが許されないその場所で、僕らは伝聞を巡る戦いをすることになる

それはまた、遠くない未来のお話だ・・・

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