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Letter later  -伝聞師と魔法使いの職務記録-  作者: 鳥路
序章:伝聞師見習いと魔法使いの卒業試験
11/21

10:魔法式を作ろう

あれからもう少しで一ヶ月が経過する頃

僕はあの日宿泊した宿屋のお手伝いをしながら一ヶ月、のんびり過ごしていた

もちろんお手伝い以外何もしていなかったわけではない

暇な時は適当な日雇い仕事を探して日銭を稼ぎ、少しずつ「次」に向けた準備を整えていた


道中の路銀は支給されると聞いたが、自分たちが住む場所に対しては支援金が出ないと事前説明の書類に記載があった

その為、僕らは次に自分たちが住むことになる部屋を借りるお金を稼いでおかなければいけなかったのだ


大変だったけど、楽しかったこともあった

ここの店番だって同じ。貴重な体験だ

明日の予定を再度確認しつつ、誰かが来るのをのんびり待つ

誰かが来たら部屋の状況を説明して、それで大丈夫と言ってくれたお客さんにはそのままチェックインに必要な書類を記載してもらう

それ以外は基本的に暇。のんびり座っているだけだ


僕個人としてはこの店番をおじいさんにやってもらいたい

その間に僕が部屋や廊下の掃除をしに行きたい

けれど・・・今日だけはおじいさんがそれを認めてくれなかった


「どうしてだろう・・・」

「エリシア君。店番ありがとうね。そろそろ交代しよう」

「おじいさんこそ、お掃除お疲れさまです。僕はまだ大丈夫ですから、休憩を」

「いいや。時間はしっかりしないと。エリシアくんはもうすぐ伝聞師さんになるんだから、特にね」


諭されるように言われたその一言は、正しいことばかり

けれど、おじいさんはもう高齢だ。あまり無理をさせたくはない

僕が出来ることは、たくさんしたいのだ


「・・・でも」

「それでも。それに、明日は制服を取りに行く日だろう?カルル君にも声をかけて出かける準備を終えておくべきだ。彼は今、庭にいるから・・・作業を切り上げて、明日と明後日に備えるんだ。今日からしっかり休みなさい」

「・・・はい」


おじいさんから背中を押されて、僕はそのまま庭に向かうことになる

庭ではカルルが畑に水やりをしていた


「ふんふーん・・・」


鼻歌交じりに展開した魔法はどうやら雲を作る魔法のようだ

小さな雨雲を畑の上に展開して、その雲が雨を降らせる

・・・改めて思うけど、魔法ってなんでもありだよね

こんな、大きくなれば天気さえ自在に操れるような事もできるのか


いや、魔法というよりそれを使いこなしているカルルこそ「何でもあり」なのかもしれない

制限付きでこれだ。もしもその制限が外れたら

カルルは、一体どうなってしまうのだろうか

知りたいけれど、知ってしまえば「戻れない」感じがするから

制限が取れる日か、彼が「制限がなかった時代の話」をしてくれるのを待つだけにしようと心で決めている


「あ、エリちゃん。おつかれ」

「おつかれ、カルル」

「ああ。見ないで。とんがり帽子外してるから・・・ちゃんとかぶるから」

「別にいいのに・・・」

「魔法使いは魔法を使う時、必ず帽子を被ることが義務付けられているんだ。内緒にね」

「そんな規則あるんだ・・・」

「色々とあるんだよ。魔法使いの世界も」


カルルは帽子をかぶる前に、ある行動をする

朝の準備中によく見る後継なので覚えてしまった


まずは左側の髪をかきあげて、魔族特有の角を露出させる

その角は両方「折られた」形跡があるのだが・・・

書物で齧った程度だから曖昧だけど、魔族で角を折られるという行為は「罪人の象徴」と聞く

罪人の場合、普通なら片方だけを折るそうだ


けれど彼の角は両方綺麗に折られている

なぜそうなっているのか、気にはなる

けれど、角のことは魔族にとって重大なこと。聞くのにはまだ時間がかかるだろう


痛々しささえ覚える角の断面に帽子が当たらないようにしつつ、帽子をかぶり終えた彼はツバ部分に隠れている留め具を角に巻きつける

一応それは魔族用の留め具。種族に合わせて留め具はそれぞれ存在しているそうだ

落ちない理由は魔法とかそういうものが作用しているかと思えば、こういうところはきちんと作られている

カルル曰く「どんな環境でも適応できるように作られている」とのこと

確かに、このテレジアノーツの土地には魔法が使えなくなる土地、大気に魔力が存在していなかったり、精霊族や妖精族が住めないような環境が一定数存在している

留め具はそんな場所でも帽子がとれたりしないような策だそうだ


「どうしたの、エリちゃん。そんなにジロジロ見て。とんがり帽子、気になるの?」

「気になる」

「エリちゃんも被ってみる?俺のだからぶかぶかかもしれないけど」

「いいよ。流石に・・・とんがり帽子は、魔法使いの特注品で、もっと言えば誇りでしょ?僕がかぶっていいものじゃないよ」

「周りはそう言うけど、俺はイマイチわからないんだよね・・・ほら、遠慮せずに」


彼はかぶり終えた帽子の留め具を手際よく外し、自由になった帽子を僕にかぶせてくる


「やっぱりブカブカ・・・」


とんがり帽子の三角部分に顔が入り込んでしまう。これじゃあとんがり帽子を被った魔法使いじゃなくて、とんがり帽子顔のおばけだ


「むすー・・・」

「頭の大きさが違うから仕方ないよ。大人サイズと子供サイズなんだ。気にしないで。エリちゃんにはまだ伸びしろが残っているんだから」

「わかってるけどさ・・・じゃあ、成獣になったらもう一回かぶらせて。その時は多分ぴったりになってるはずだから」

「どうかなぁ・・・エリちゃん。ちっさいからなぁ・・・」

「まだ十二歳だからね。成長期はまだまださ」

「大きくなれるといいね。たくさん食べて、たくさん動けば麒麟族みたいに大きくなれるさ」

「いや、そこまでは大きくならなくていいから」

「だよねー」


カルルにとんがり帽子を回収してもらい、ずれてしまった髪の位置を直す

それから僕はカルルと改めて向き合い、おじいさんの伝言を彼へ伝えた


「カルル。おじいさんからもう休んでいいって。明日も明後日もお仕事なしでいいからってさ」

「そっか。でも俺はもう少しだけ作業をしていくよ」

「さっきから気になってはいたけど、その雨雲、魔法だよね」

「うん。で、ここから魔法式に落とし込もうとしてるところ。見ていく?」

「見ていく!」


彼から手招きされて、隣に立つ

それから彼はゆっくりと杖を構えて、とんがり帽子の先端についた精霊楼を揺らした


「エリちゃんには魔法式のことは少し話しているよね?」

「ううん・・・そう言われてもピンとする出来事が」

「あー・・・わかりやすい表現したもんね。使用者の魔力に依存せず、大気中の魔力を使って魔法を使えるようにする方法のことだよ。靴のこと」

「ああ。それならわかるよ。正式名称は魔法式なんだね」

「うん。それと同じものを今、この畑というかこの雨雲に作用させて・・・水やりを全自動にする仕組みを作ろうとしているんだ」

「なるほど・・・」

「これさえあれば、毎日何度も井戸水を汲む必要はないからね!」


「・・・」

「どうしたの、エリちゃん。気まずそうに・・・」

「じ、実は・・・井戸水汲むのおじいさんは大変だろうと思って、少しずつ井戸の改修をしていたんだ。全自動の水汲み機・・・」

「あの、噂の便利さの割には安く手に入るけど、販売されているのは装置の「組立前」。複雑な上に重い、細かい面倒くさいの三拍子が揃った理解し難い組立作業に耐えきれず、結局、生産会社に膨大な金額を支払って組み立て依頼しないとロクに使えないあの!?」


カルルがいう全自動水汲み機と僕が組み立てたそれは一緒だ

・・・そこまで悪名高いのか、あの装置


「うん。あの全自動水汲み機だよ。故郷で何度も組み立てていたから」

「あれを一人で組み立てたの!?」

「うん。時間は結構あったからね。ちょこちょこ進めて、一昨日完成したんだ」

「凄いね、エリちゃん」

「魔法に比べたら全然だよ」

「いや、それとこれは比べるベクトルが違うから。エリちゃん凄い。超器用」


小さい頃から手先は器用な方だと思っていたが、褒められるほどのものだったとは・・・

顔には出さないが、褒められるのは結構嬉しかったりする


「・・・けど、これ必要性が薄くなっちゃったね。やめよっかな」

「い、いや!水やりが楽になるから!必要だよ!」

「だよね!」


テンションを上げつつ、再び作業に取り掛かっていく

カルルがノリ気になってくれてよかった・・・


「で、具体的には何をするの?」

「まずは畑の四隅に置いた魔石に注目していただきましょう!」

「・・・ああ、なにか置いてあるね」


青い光を放つ石が畑の四隅にきっちり設置されてある


「魔法式を展開する領域の先端に魔法式に組み込む魔法と同系統の魔力を有する魔石・・・今回であれば水属性の魔石を設置し、それを線で繋ぐ。それで囲んだ範囲が魔法の効果適用範囲になるんだ」

「なるほど・・・けど、石がずれたらどうするの?うっかり蹴ったりとか・・・」

「石を式へ組み込むことで、石本体を固定するからその心配はナッシング!魔法を解かない限り、魔石は常に置いた場所へ留まり続けるんだ」

「おお・・・けど、こういうのって難しいんじゃ」

「魔法式の作成は簡単とは言い難いけど、他の魔法に比べたら簡単な部類だよ」


他の魔法に比べたら・・・

既にもう僕からしたら難解の領域なのだが、他はこれ以上に複雑なのだろうか

ふと、これまで見た魔法を思い返してみる

多属性複合魔法に、拘束魔法

飛行魔法、膨大な水を凍らせる氷結魔法に・・・カイちゃん召喚に使った魔法


「・・・難しいのばっかりだよね」

「慣れれば簡単だよ。ファシット・・・初級魔法関係はね」

「才能ありきの話じゃないかな・・・」

「精霊楼のゴリ押しという言葉があってだね・・・」

「精霊さんに負荷をかける真似をしてまで魔法を使えるようにはなりたくないよ」


僕がそう言うと同時に、カルルの精霊楼についた精霊さんが抗議するように暴れまわる


「・・・精霊からも怒られちゃったよ」

「当然。それでカルル。これからどうするの?」

「それから空間に魔法陣を記入していくんだ。結構膨大で書き込まないといけないから、エリちゃん今回ばかりはここで待機ね」


そう言いながら彼は杖を地面に固定した後に、懐から取り出した羽ペンと巨大コンパスを片手に畑の中に立ち入っていく


「ええっと・・・・ふんにゃらほんにゃらくんにゃらぴりかぴりららあれるくらるく、ぽぽいぽいぽいぱいぽいぷー」

「全然簡単そうじゃない式を諳んじながら書かないでよ・・・てかよく暗唱できるね」

「いや、適当」

「適当!?」


コンパスを使って円を描き、羽ペンでその中に文字を記入する

職人的な仕事だと真剣に見ていたら、どうやら当の本人は適当らしい。わけがわからない

失敗したらどうするんだ・・・


「俺さぁ、なんか言いながらじゃないと魔法陣書けないんだよね。うるさいって言われるんだけど、むしろ話しながらのほうが集中できるっていうか」

「凄い癖だね・・・」

「まあね。母さんもこんな感じだったみたい。終始喋ってないと死んじゃう病みたいな。父さんが言ってたよ。遺伝じゃないかな」


アリシアさんってそんな人なんだ・・・

でもまあ、こんなところが遺伝してもなって部分が遺伝してるのは・・・カルル的にはどうなんだろう


「でもまあ、失敗してないんだよね」

「うん。俺に失敗はないよ。未来もそうなっている」

「そういえば、パンドラの能力って未来予知なんだよね」

「うん。まあ、俺はその血が半分だから自由自在ってわけにはいかないんだけど」


彼の父親・・・カペラさんはパンドラという魔族

未来予知の能力を持つ彼の力はカルルにもしっかり遺伝されているらしい

もっとも、半分らしいが・・・


「でも、未来の先読みなんて面白くないよ」

「どうして?」

「見てしまったが最後。その未来は変えられないから」

「制限があるんだ」

「うん。だから、未来への期待を込めて、どうでもいいことにしか能力は使わないようにしている。確実にしくじらないって確信がある時とかね!」


そういいつつ、彼は魔法陣の記入を終えたらしい

喋っていると逆に集中できないような気がするのだが・・・それでも彼はやり遂げたらしい

魔法陣の文字を消さないように畑を出た彼は、僕の隣に立って再び魔法式の解説に戻ってくれる


「おじいさんの声は後で登録する。試験的にエリちゃんの声を登録してみたから、とりあえず・・・「フィフテア・レイニーガーデン」で一言」

「フィ、フィフテア・レイニーガーデン・・・」


彼の言うとおりに呪文を唱えると、畑に雨のように水が降り注ぐ

魔法はしっかり機能しているし、僕でも・・・魔法を使えない者にもきちんと魔法が使用できていた


「どう?」

「凄いね。ところで、フィフテアって・・・」

「中の中ぐらいの魔法かな。本来なら「フォステット」で抑えるつもりだったんだけど、量と広さの関係で「フィフテア」じゃないと成り立たなかったんだ」


「魔法にも難易度があるんだよね」

「うん。下から「ファシット」「セコルド」「サクテリア」「フォステット」「フィフテア」

「シクルド」「セヴォリーア」「エグトヤ」「ノネクテット」「トルリジェータ」・・・ここが基本の十段階。俺が卒業した魔法学校はフィフテアが使えないと卒業できません」


「カイちゃんの召喚魔法って難しい部類だったんだ・・・」

「らしいね。俺としてはほら、カイちゃん呼ばないとお金に困っちゃうから、死ぬ気で覚えたんだよ・・・だから難しいとか実感なくて。むしろ呼ばなきゃ死ぬって感じ」

「あー・・・」


カルルは学生時代、カイちゃんの繭を売ってお金を稼いでいたらしい・・・

だからこそ呼ばなきゃ死ぬ発言なのだろう

お金がないのは、大変だ・・・


「こう、言ったらなんだけど、ツケ、カイちゃんにどうにかしてもらえなかったの?」

「カイちゃん、今子育て中なんだ。繭頂戴ってお願いしたら繭の素にされそうになった」

「カイちゃん幼虫じゃなかったの・・・?」

「カイちゃんは成虫と幼虫のサイクルを繰り返すミラクルカイコカイコだから」

「つまり不死身」

「うん。カイちゃんは長生きしたい。俺はカイコカイコの生産物を売りたいで利害が一致してね。契約したっていうのが俺とカイちゃんの関係かな」


確かに、蚕族は短命だと聞く。特に成虫になってからは・・・

成虫になった蚕族はこの世のものではないぐらい美しい存在になると聞くが、一週間程度しか生きられないらしい

・・・カイちゃんはその運命から抜け出すために、カルルと契約したのか

しかしあの子もなぜ種族の理から抜け出して、長期間生きたいと思うようになったのだろうか

なにか、そういう風に思う出来事があったのだろうか


「・・・少しだけカルルとカイちゃんについて知れた気がする」

「魔法もでしょ」

「うん。ありがとう、カルル。貴重なものを見させてくれて」

「いいのいいの。話し相手になってくれてありがとうね。それじゃあ、そろそろ休憩に行こうか」

「うん」


それから僕らは片付けを終えて休憩に入る

明日、制服を受け取りに行き・・・それから、最終的な準備と、待機場の皆さんに挨拶を

そして、おじいさんにお礼も兼ねて色々と


明日明後日は忙しくなるだろう

今のうちに、しっかり休んでおかなければ

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