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【クラン追放士】、クランに不和を招くと追放!? 〜お前が追い出した奴らに限って最強になってんじゃんどうなってんだよ〜

「【クラン追放士】! お前は、今すぐクランから出て行ってくれ」


 その宣告は、あまりにも唐突だった。

 【クラン追放士】はこれまで、ダンジョン探検クランに大いに貢献してきたはずなのだ。

 にもかかわらず、即刻の脱退命令とはどういうことなのか。


「そんな……理由を、聞かせてくれないか?」


 解雇を告げたクランリーダー、【剣士】のフジノは、短絡的な行動というものと無縁であった。

 【クラン追放士】が追放を提案した際も、いつも対象者には一ヶ月の猶予を与えたものだった。

 今すぐ出て行け、などとフジノが言うのはあまりにも異例だ。


「理由だって? あんたはクランに不和を招くばかりじゃないか!」


「そうだそうだ! 俺の斧で首を刎ねてやる」


 【斥候】にして【癒師】のシミズが怒号をあげ、【盾役】のオノヅカが同調する。

 クランの主要メンバーが集まっての会議は、糾弾会に近づこうとしていた。


「シミズの言う通りだ。お前は追放すべきでない人員を追放し続けた。そのため、クランのみんなに不信感が出ている。最近は足の引っ張り合いまで起こるようだ。これ以上お前を抱えているわけにはいかない」


「そうだそうだ! 俺の斧で首を刎ねてやる」


「……待ってくれ! 私に、追放ミスがあったって言うのか?」


 事由を述べる【剣士】のフジノに対し、【クラン追放士】が待ったをかける。追放すべきでない人員を追放した、というのが聞き捨てならなかったのだ。


「ああ。例えば【鑑定士】のウエダはどうなんだ」


 そのようにフジノが例を挙げる。

 確かに【クラン追放士】は【鑑定士】のウエダを追放した。

 あれは、嵐の夜のことだった……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「えぇ〜!? オイラが追放でヤンスか!?」


 小柄なウエダは、人によっては大げさにも見えるような驚きを見せた。


「ああ。と言ってもすぐ出て行けっていうわけじゃあない。一ヶ月以内に今後を決めてくれればいい」


 それでも、衝撃的な宣告だった。

 ウエダは【鑑定士】として十分な働きをしていた。少なくとも自分ではそう思っていた。


「なんで……オイラの何がいけなかったんでヤンスか? やっぱり、独自の基準で物の価値が判断できると自称するヤツなんて信じられないってことでヤンスか……?」


 ウエダが挙げたのは、【鑑定士】への理解がないクランでよくある追放事由だ。

 しかし【剣士】のフジノはそれを否定した。


「いや、そういうことじゃあないんだ。ちょっと、このアイテムを鑑定してみてくれ」


 そして、ダンジョン換金の優等生と呼ばれる、価格が安定したアイテムを差し出す。

 これが一万円の価値を持つことは誰もが知っている。

 訝しく思いながらも、ウエダは承諾した。


「いくでヤンスよ……【鑑定(オープンザプライス)】!」


 その時である!


 ジリリリリ……


 どこからともなくジングルが流れ出し、空中にデジタル数字が表示される。ただし、ストップウォッチの小数点以下のように、確定せず読み取れない表示だ。

 それが、下から一桁づつ確定していく。


 一!

 十!

 百!

 千!

 万!


「一万円〜! どうでヤンスか!? 正確でヤンスよ!」


 確かにウエダは正しく鑑定することができた。これまでも、非常に正確な鑑定を出していた。

 問題は正確性ではないのだ。


「ウエダ、君の【鑑定】は勿体ぶるように時間がかかるし、その場にいる全員に開示されてしまう。使い勝手がよくないんだ」


「そうだそうだ! 俺の斧で首を刎ねてやる」


 【剣士】フジノが問題点を指摘し、【盾役】オノヅカが同調する。


「オノヅカ、恐ろしいことを言わないでやってくれ。……むろん、正確な鑑定というだけで大きな利点がある。これは確かだ。それでも共にダンジョンに潜るとき、このクランでは君の力を十分に活かしてやれない」


「相性のいいクランが見つかるだろう、と言うのも無責任だろうね。でも……わかってほしい」


 シミズが付け加え、【鑑定士】ウエダは落胆しながらも脱退を受け入れたのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あの件は……長所と短所を吟味し双方納得の上で抜けてもらったはずでは? 追放ミスとは言えない!」


 【クラン追放士】の反論ももっともだ。

 【剣士】フジノはそれを踏まえた上で続ける。


「だが、その後【鑑定士】ウエダはある泡沫クランで頭角を現し、最強にまでなった。これを見ると納得できないと思うメンバーも多いわけだ」


「最強だって……? ウエダが、どうやって?」


 【クラン追放士】の疑問に対し、【剣士】フジノがかいつまんで答える。


「あの後、ウエダのスキルは【なんでも】鑑定できることがわかった。文字通りなんでも、森羅万象だ。その能力を使って自分たちの力量を把握し、ダンジョン内の仕掛けなども看破し、破竹の勢いで攻略を進めた。自分たちの状態を客観的に見ることで、より効率的な訓練を積んでいるそうだ」


「なっ、そんな後出しで強みを出されても困るが」


「だが、このクランでは気づけなかった、あるいは開花させられなかったのは事実だ。長所と短所の吟味とやらが足りなかったんじゃあないか?」


「それだって、早まった判断を後から批難するのなら簡単だって話だ……! 確かに出て行ってから最強になんかなられると良い気はしない、でもそれは事故のようなものだろう」


「ウエダ一人じゃない。【拳闘士】のイワツはどうだ」


 それを聞いて【クラン追放士】は【拳闘士】イワツを追い出した時のことを思い起こした。

 あれは、嵐の夜のことだった……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「俺が追放とはな」


 イワツは困ったように苦笑していた。


「ああ。と言ってもすぐ出て行けっていうわけじゃあない。一ヶ月以内に今後を決めてくれればいい」


 それでも、簡単に受け入れられる宣告ではなかった。

 イワツは【拳闘士】として十分な働きをしていた。少なくとも自分ではそう思っていた。


「理由を聞いてもいいか? それなりに自分に自信はあったんだけどな」


「そうだな。【拳闘士】は普通【身体強化】とかのスキルを持つ……」


 【剣士】フジノが切り出すと、イワツは観念したようにため息をついた。


「バレてたんだな。俺が【身体強化】系を使えないって」


「大方、君のスキルは【威圧】あたりだろう」


「そこまで分かったのか。【威圧】なんて勇ましいもんじゃないさ。【にらみつける】だけだ。弱体化術士にもなれやしない」


 自分を強くするのでなく敵を弱くするというのは、より有用にも見える。ただし、弱体化を戦闘で有効に使うのはずっと難しいのだった。


「そう卑下することはない。君は立派に頼もしく戦っていたさ。ただそのままの戦い方では、遅かれ早かれ身体を悪くするだろう。それはクランのためにもならない。できればダンジョンになんか潜らずに生きていけるといいんだけど、無理だよな」


 暴力を頼みにする者が真っ当に生きるというのは、簡単なことではない。


「心配したフリだけで、自分たちの見えないところで野垂れ死ね、と言っているようなものなのかもね……あんたは恨んでくれたっていい」


 そのように言うフジノとシミズに対し、イワツは笑みを返した。


「いいさ。弱い奴、って追い出されるより、たとえ表面だけでも心配してくれるだけで嬉しいよ」


 そしてイワツは、文句を言うこともなく去って行った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あの件は……長所と短所を吟味し双方納得の上で抜けてもらったはずでは? 追放ミスとは言えない!」


 悲しみの中の脱退というのは、全く珍しいことではない。

 【剣士】フジノはそれを踏まえた上で続ける。


「だが、その後【拳闘士】イワツはある泡沫クランで頭角を現し、最強にまでなった。これを見ると納得できないと思うメンバーも多いわけだ」


「最強だって……? イワツが、どうやって? それに、イワツにとってそれは良いことなのか?」


「イワツはスキル【にらみつける】を育てた。相手を怯ませるどころか、戦意を失わせるまでにだ。今や一流冒険者、ダンジョンボス、機械さえも【にらみつける】ことで倒せるという」


「それだって結果論じゃないのか!? このクランにいたら燻っていた可能性もある。機械をにらみつけて倒すって何?」


 【クラン追放士】の言うことももっともだ。

 フジノは答えた。


「イワツは本を出版した。自叙的冒険小説だな。売れてはいないらしいものの、好ましいと思ったよ。【にらみつける】で倒せる相手が増えるのが楽しい。自分の強さを過小に見積もってしまい、周囲とすれ違って笑いを誘う。血生臭くないのもいいな」


「それが、一体?」


「イワツは淡白で、微笑みのほか感情を表に出さなかった。そんなあいつの内面のこと、あまりにも知らなかったと思うんだ。ちなみに機械を【にらみつける】と機械は脅威度を過大評価してしまうらしい」


「もっとコミュニケーションを取って楽しいクランに、というのが良いこととは限らない。過剰な労働の温床にもなる」


「そうだな。ともかくイワツは去り、このクランではできなかったことをできるようになり、そして最強になった。そして結果論だと言うが、お前の最大限の働きが良い結果を産んでいないというのは追放事由に十分だ」


「そうだそうだ! 俺の斧で首を刎ねてやる」


 ここぞとばかりにオノヅカが同調する。


「ぐっ……だが、結果的に最強になる者を産んだのは、世界にとってプラスじゃないのか?」


「だったらお前も追放されて最強になるんだな」


「そうだそうだ! 俺の斧で首を刎ねてやる」


「ぐぐっ……」


 その時、いつのまにか席を外していた【斥候】にして【癒師】のシミズが戻ってきた。


「ヒデオさんから栗が届いたよ。フジノもオノヅカも食べな」


 差し入れか何かのようだ。そして【クラン追放士】の分はないのだった。


「ヒデオさんも追放だったな」


 確かに【クラン追放士】は【忍者】のヒデオさんを追放した。

 あれは、嵐の夜のことだった……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「拙者が追放でござるか」


 ヒデオさんは、いつものように、動じることがなかった。


「ああ。と言ってもすぐ出て行けっていうわけじゃあない。一ヶ月以内に今後を決めてくれればいい」


「問題ない。里にでも帰るでござる」


「……理由は聞かないんだな」


「拙者のスキルのことでござろう」


 ヒデオさんのスキルは謎に包まれていた。本人も語りたがらず、発動しているところも誰も見たことがなかった。


「会議の途中など、突然全員の意識が途絶えることがあった。不審に思って録画した映像が、これだった」


 プロジェクタで動画を映し出す。そこからは、会議の途中で全員が気を失った理由がはっきりと見て取れた。

 突如どこからともなく忍者軍団が乱入し、メンバー全員をボコボコにしているのだ。


「そう。これが、つまらない展開になると忍者軍団が乱入するという拙者のスキル【サプライズ・ニンジャ】でござる。ボコボコにされた記憶がないのは、そういう忍術でござる」


「当クランとしても、こういうことがあるのは恐ろしい」


「そうだそうだ! 俺の斧で首を刎ねてやる」


「オノヅカは黙ってくれ」


 さすがにヒデオさんのこの追放に不当な点はないと誰もが認め、円満追放となった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あの後のんびりとスローライフを送りつつ、ときどき人助けして慎ましく暮らしているらしいな」


「忍者のいうスローライフってけっこう過酷そう」


「つまらない生活を送ると忍者軍団来ちゃうしな」


 そのようにフジノとシミズが思い出を話していると、【クラン追放士】が割って入った。


「追放で皆が幸せになって、私が良い仕事をした例じゃないか!」


「それで追放ミスがなかったことになるのか?」


「ミスだけを見るのでは、一切追放をしない追放士こそが最も優れていることになるぞ!」


「だからと言って誰も彼も追放という訳にはいかんだろ」


「それは……ん? 待てよ」


 不利になった【クラン追放士】が、ここで天才的な閃きを得た。

 【クラン追放士】は悪い顔をして、フジノたちに言い放った。


「クランリーダーである【剣士】フジノ! 【斥候】にして【癒師】のシミズ! あとオノヅカ! お前たちは追放だ!!」


「何!?」

「どういうことだ!?」

「俺の斧で首を!?」


 クラン幹部の過半数を一人で追放とは、あまりにも常識外れな発想だった。

 このようなことができるはずはない。

 しかし本来はできるはずもないこの所業を、【クラン追放士】としての追放スキルレベルの高さが可能にしてしまった。

 してしまったものは仕方がない。


 そして後日、クランの全員がフジノたちについていき、【クラン追放士】一人が残された旧クランも廃絶した。

 あと新クランは最強になったらしいです。

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最強が複数いるのか…。 俺の斧で首を?!は流石に笑った
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