ロックオン!
わたくし、華園之宮 真珠と申しますの。名前の通り、ご先祖は大名、宮様の血を引く華族の血統、生粋のお姫様育ちでしてよ。幼い時から、外に出た折には、護衛代わりに忍びの血を引く、下足番を従えていましてよ。
☆☆☆☆☆
「ふぉぉお……カッコいい!忍者!しゅごい」
小次郎の戦いっぷりを、後の分析の為、携帯電話で動画を撮影をしておりますと、可愛らしいお声が上がりました。
水仙が護っている少年のお声でしてよ。あら、良い子ですわ、この様な状況に置いて、冷静なその精神、見込みがありそうですの。
とりあえず小次郎と南天の実力は互角、終点につくまでに決着をつけておかないといけません。
「小次郎とやら、ひとつふたつ聞きたいことがある」
戦闘中の彼に質問を投げかけました。無視するか、応じるか……、彼の度合いを見る為です。
「クソ!ババア!なんだ?姫さん……ババア!くたばりやがれぇぇ!」
離れた時を見計らい、懐から飛びクナイを取り出すと、投げる彼。ガッガッガッガッ!床に突き刺さります。
「風魔とか名乗っておったが、確か風魔の里は壊滅してない筈、そなたは生き残りなのか?それかどこぞの飼いか……多々良木、御神山……当家を狙う家は、主にその二系統だがどちらだ?」
少しばかり息を切らせせつつ、質問に答える小次郎。戦う事に集中するあまり、口が少しばかりお軽くなっておりますわね。引き取るならば南天あたりを、彼の師に据えようかしら。
「ハァハァ……、御神山?誰だそれ……それに俺は飼い犬じゃねぇ」
「ああ、ならば一回こっきりの使い捨て、多々良木に雇われたか、して『風魔の小次郎』と誰が呼ぶ?」
「……、ひい爺さんが、その名を名乗っていたんでい!里の復興をずっと夢見て、爺さんも親父も……、俺は金を貯めて!里を起こす!」
あら、チンピラの癖して、中々に高尚な志しを持ってますのね。ならばわたくしが引導を与えましょう……。将来有望な少年も観客におりますもの。
「次は……はなぞののみや駅前、はなぞののみや駅前、終点です」
運転手さんが時を告げてくれましたの。にらみ合う二人。ガタガタと震える、無関係のご婦人の念仏が漏れ聞こえて来ましてよ。
グ!と、わたくしは四角い椅子の上で足に力を込めます。跳躍して南天の側に着地するために。数を数え間合いをはかります。
「ねぇ、ねぇ、おねえさんおねえさん!椅子の上のお姉ちゃんとってもきれい!つよいの?」
「ええ、お強いですよ、我らが命を賭してお守りしている、華園之宮家、惣領、真珠姫様でございます」
「おひめさま!ふぉぉお……」
まあ!恥ずかしい、水仙の言葉に目をキラキラとさせて、わたくしを見てくる少年。
ダン!と上に跳ねました。髪が上にあがり広がる実感。スカートがバサリと、太腿を顕にする様にめくれます、ご心配遊ばすな、下にはちゃんとスパッツを履き込んでおりますから。
わたくしの意外な行動に、一瞬の隙間が生まれます、目を見開きすべての思考、動きをいっとき止めた小次郎。
あら、少しばかり赤面されてるご様子。目を逸らさず、仰ぎ見るのは破廉恥でしてよ!乙女の柔肌を垣間見るとは無礼千番!手打ちにしてくれるわ!
た……ん!と床に降り立ち、体勢を素早く整えます。
「南天!剣を借りるぞよ!」
「はい!姫さま!」
パシッと柄に手をかけ奪うと、小次郎に斬りつけるわたくし。勿論!峰打ちでしてよ。令和の時代に流血騒ぎはいけません。それに急所を叩きつければ、意識不明ぐらいなダメージは与えられますの。
「え!姫さ、ん?戦え?ぐぅおふぁぁあ!あ?」
手薄な時を狙われた彼、その無防備な首元、頸動脈を狙い、全力を込めての一撃、重くめり込むような感覚が、手首を通じ腕に脳内にビリビリと、流れ込んで来ます。
ああ……何たる快感。痺れる瞬間でしてよ。カードを投げつけ、切っ裂くのも良いといえば良いのですが、質感が感じられないのが残念ですの。
どぉ……ダン。その場に小次郎とやらは倒れ、無様な姿をさらけ出しました。
「きゃー!カッコいい、おねえちゃんかっこいい!チャンバラ!忍者すげぇ!ぼく、大きくなったらおねえちゃんみたいになりたい!」
パチパチパチパチ!小さな拍手と無邪気な賛辞が、わたくしに向けられました。オーホホホ、これで将来的に有望な子供の未来の道を、一本敷くことが出来きましたわね。
――、わたくし、華園宮 真珠と申しますの。名前の通り、ご先祖は大名、宮様の血を引く華族の血統、生粋のお姫様育ちでしてよ。幼い時から、外に出た折には、護衛代わりに忍びの血を引く、下足番を従えていましてよ。
ぶしゅぅぅぅ……ゴトン、大きく揺れてバスが止まります。水仙が、この事は他言ならぬと、念書を取り出すと、念仏のご婦人にサインと引き換えに口止め料の小切手を、受け取るように取り引きをしております。
「して!姫さま!こやつの処遇は……」
「南天、そなたに任すゆえ、好きにするがいい」
そう言い残すと、後の始末は運転手さん、南天、水仙に任せ、わたくしは薄桃色の財布を取り出すと、料金箱に運賃をちゃらんちゃらんと入れ、ステップを降りると、目的地に向かうべく外へと出たのですわ。