伍
わたくし、華園宮 真珠と申しますの。名前の通り、ご先祖は大名、宮様の血を引く華族の血統、生粋のお姫様育ちでしてよ。幼い時から、外に出た折には、護衛代わりに忍びの血を引く、下足番を従えていましてよ。
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名をなのれい!と南天の声。間合いをはかるために離れた時、胡乱な輩が言葉を吐きます。
「名乗る名前等!持たぬわ!エビチリババア」
あら、フリーターの忍びかしら……動きを見てから考えましょう、優秀ならば手の内に囲い込みたいもの。彼は、この華園の土地に、入り込んだ手練ですからね。
人材確保は惣領娘として、父上様から与えられた、お務めのひとつですの。非常時ですから、わたくしは、土足のまま、壊した背もたれの上に陣取ります。
車内には、時間帯のせいか乗客は少なく、顔を硬くして見ている小学生位の少年一人、頭を抱えてじっとしている中年女性一人、二人に関係性はない様子。そして華園宮家にもゆかりはありませんわね。
「南天殿!助太刀申し上げまする、我は海老名水仙!分家の娘にて候!」
ポニーテールをしやらんと揺らし、立ち上がる小柄な女性客、短刀を斜に構えながら、少しばかり年上に見える風貌の女が参戦いたしましたわ。
「ふっ!風魔の小次郎と呼ばれし我が、エビチリババアと、ポニテ女子やらに負けると思うておるのか!」
あら、名前を名乗っておりましてよ。お馬鹿さんなのかしら、それともなめてかかっているか、どちらにせよ、力はあるのに抜けの万作なのかと思いますの。
「南天!水仙!そこな少年とご婦人の安全が第一!肝に銘じて戦え!」
わたくしはそう命じます。
「運転手!安全運転と、到着時刻を守る事に専念しろ!」
座席に立ちのまま指示を飛ばします。ミラーに写る彼がコクリと頷き、正面に視線を戻します。御意!南天と水仙が声を揃えて応じました。
「水仙!子供とそこな婦人を護れ!」
「はい!南天さま!」
手近にいた水仙が、少年達の方へと駆けつけます。信号で引っかかったのか、ぶしゅぅぅぅ……ぐん!と停まる車体。その動きに合わせるわたくしたち。
「何を?エビチリババア!獲物が長いからと言って、俺に勝てると思うなよ!さっさとヤっちまって!姫さん頂いて行くっからよぉ!フォォォォ!」
「だあれが!エビチリババアじゃぁぁ!腰は伸びておろうが!節穴!尻の穴まで、スカスカの全開にしておるのかあ?このワッパ!」
あらやらだ……南天ったら子供がいるのに、なんて破廉恥極まりない、下世話な言葉を……。
「覚悟しや!」
「うるせぇ!エビチリクソババア」
キイィン!ガッ!再びぶつかり合う刃物!響く金属音。
「ババアをババアと言って何が悪い!エビチリクソババア!」
「年寄を敬えと、教えを受けておらぬのか?」
「エビチリババアのくせに力がありやがる」
「ハア?取り消せワッパ!そのスカスカな脳みそほじくり返して、ミンチにしてやろうかよ!」
「ドたまカチ割らないと出せへんやろが!」
「おお!そうじゃった!ならばケツの穴から、腸引こずりだして、天井から吊し上げてやろうぞよ!」
はぁぁ……交わされる会話は耳の穢れでしてよ!がたん、と大きく揺れてバスが進みだしましたの!
キイィン!ガッ!キイィン!ガッ!合わさり離れるを繰り返す南天と小次郎。その度に口から吐かれる言葉は、過激になっていきますの。
――、わたくし、華園之宮 真珠と申しますの。名前の通り、ご先祖は大名、宮様の血を引く華族の血統、生粋のお姫様育ちでしてよ。幼い時から、外に出た折には、護衛代わりに忍びの血を引く、下足番を従えていましてよ。
「エビチリインランクソババア!くたばりやがれ!」
「ワッパ!返り討ちにしてやらあ!厩戸の王子の故事にちなみ!尻の穴からこの剣をぶっ刺し、その性根を正してやろうぞぉぉ」




