壱
わたくし、華園之宮 真珠と申しますの。名前の通り、ご先祖は大名、宮様の血を引く華族の血統、生粋のお姫様育ちでしてよ。幼い時から、外に出た折には、護衛代わりに忍びの血を引く、下足番を従えていましてよ。
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現代国語の授業中に、わたくしは、今日のこれから……、放課後の計画を練りますの、何しろこの時間しか、自由な思想に耽る事は出来ませんもの。
わたくしの席は、教室の一番後ろのドア近く。本当は窓際の席が良いのですけれど、何かあった時に、直ぐに外に出れる様にと、この席がわたくしの指定席。小学校の頃から変わりませんわね。
令和の日本において、物騒な事は無いと思うのですが、そういう決まりになっておりますので、たかが席一つに、我を通す訳にもいかず、諦めておりましてよ。
先生の朗読の声が、静かな教室に広がります。教科書の文章を目で追いつつ、隣の席をちろりと見やりました。
生真面目な顔をして授業を受けている、名前は『八咫之誠』代々、我が家に仕える一族の者ですの。先祖は八田一族という、忍びの者だったとか。
わたくしの『下足番』でしてよ!こやつのおかげで、わたくしの学生生活は、気が抜けない世界に成り果てております。
――、どこに行っても『華園之宮 真珠』の名前に、相応しい振る舞いをしなくてはならないのですから。その事に気がついて、幼稚舎を選ぶ時に、規律が厳しい事で有名なミッションスクールを選んだのです。そこは自分の事は、自分でするというのが決まりでしたのよ。
制服のボタン、リボン、そして登園用の丸みのある白い革靴。お着替えは勿論、それの靴紐を結ぶ、全て一人でこなさなくてはなりません。わたくしは取り寄せたそれに挑戦いたしましたの。
結果は………、惨敗でしたわ。
「お姫さま、ボタンを留めて、リボンやヒモを結ぶのに、そんなにおじかんをかけておられると、まいにち、ちこくをいたしますね」
きぃー!小癪な事を思い出しました。そう、紐でしてよ!靴紐、リボン!わたくし、当時、通園用の靴紐や、制服のリボンを、きちんと結ぶ事が出来ませんでした、ボタンは、かろうじて出来きましたけれど。思えば手を付けた事が無かったのです。
「そうだな、真珠や、そのミッションスクールは諦めなさい、」
ちちうえさま、れんしゅういたしますから、じかんをくださいませ、と、目に涙を浮かべての懇願は、見事に一蹴されてしまいましたの。その時の、八咫の得意気な顔は、生涯忘れませんことよ。
それ以降ずっと離れず、わたくしの側仕えとして務めるマコト、凛々しくどこか少年みたいな風貌は、やんごとなき乙女達の胸を焦がすのか、わたくしの周囲ではファンがいるようで、密かに『マコ様』とか呼ばれていますの。一度わたくしも、マコトと呼んだのですが、帰ってきた返事はこれ。
「八咫と……、尊き真珠様に、愛称、名前で呼ばれる身分では御座いません」
「令和の日本でしてよ、確かにわたくしの家は、少々恵まれておりますが、身分制度など前遺跡でしてよ」
そう申し入れましたのに……、頑として聞き入れようと、いたしませんでしたの。堅物で困りましてよ。
―――、わたくし、華園之宮 真珠と申しますの。名前の通り先祖は大名、宮様の血を引く華族の血統。幼い時から、外に出た折には、護衛代わりに忍びの血を引く、下足番を従えていましてよ。
明日はさるお方のパーティーに、父上の名代として出向かなければなりません。今日しか、時が御座いませんの。
先生の声を耳に残しつつ、わたくしはどうやって、八咫を煙に巻くか、策略を組み立てております。今日こそは!今日こそは!
幼い頃からのあこがれの、あのお店に!ひとりで、アフタヌーンティーをと、策を練っておりましてよ。オホホホホ。
今連載中なのですが、脳内整理をしたくて……なので展開並びに世界は、しっちゃかめっちゃかです。という話が書きたかっただけなのです。