「どうです?魔法少女なってみませんか?」 「いやどす」
2801年、人類は人類史上初の滅亡の歴史を刻もうとしていた。
理由は十年前に現れ始めたニーハイ筋肉ヴァンパイアである。ニーハイ筋肉ヴァンパイアとは、ニーハイを履く筋肉質なヴァンパイアだ。ニーハイ筋肉ヴァンパイアは血を分け与えた人間を眷属にして勢力を拡大し続けていた。
2810年、人類は対ニーハイ筋肉ヴァンパイア部隊を編成。ニーハイ筋肉ヴァンパイアの勢力範囲は急速に狭まっていった。
対ニーハイ筋肉ヴァンパイア部隊の隊員は、18歳に満たない女性達であった。彼女らは「魔法」と呼ばれる力を使ってニーハイ筋肉ヴァンパイアを打倒していった。
──人々は畏敬の念を込めて、彼女らを魔法少女と呼ぶようになった。
第1章「夢と希望と魔法少女と。」
長い黒髪をなびかせて、少女が崖に立っていた。俺は薄く目を開けた。朝日のせいで彼女が眩しい。彼女は振り返ってこう言った。
「私ね、魔法少女なの」
視界が白さを増して、そこで意識が途絶えた。
ピッピッピッと電子音が聞こえる。ぼんやりと誰かが自分を覗き込んでいるのがわかった。
「渡辺さん?渡辺さんわかりますか?」
「あ…」
「無理に声を出さなくて大丈夫ですよ。ここは病院です」
どうやら自分は病院にいるらしい。視界がクリアになると、声をかけてきたのは看護師さんだったことがわかった。
「いやぁそれにしても」
しばらく経ってから意識がはっきりとしてきて、そのまま医者の前に連れて行かれた。
「すごいですよ。これ、学会で発表したら大波乱ですよ」
目の前の少し前髪が後退した医者が興奮しながら言う。
「渡辺さん、男なのに魔法適正があるなんて」
「え?」
「どうです?魔法少女なってみませんか?」
「いやどす」
〜完〜
ここは某国政府直轄魔法少女部隊の本部。その隣接する病院に私、渡辺智和はいた。
魔法少女になってみませんか?などと言われたが選択肢などなかったということだ。断った途端にどこからともなく黒服の人達が現れて私を拉致して隣の建物に連れて行った。
「渡辺智和。素性不明。個人が特定できるものは持っていなかった。しかし魔法少女部隊が戦場で発見し、意識が途絶える寸前に名前だけ呟いた」
だだっ広い薄暗い部屋に偉そうな男が一人座っていた。
「ふふ。我々は多くは聞かないよ。男で魔法適正があるというだけで面白い。今後の研究資料になるし、もし男が魔法少女になれるならば戦力が大幅に増強できる」
「いや、あの、怪しいものじゃないんで、その、研究資料とか解剖されるんですか?」
「どうだね、魔法少女。やってみないか?衣食住と高い報酬も約束しよう。口約束が不安なら書面にしてもいい」
私は非常に悩んだ。魔法少女になるべきか、ならないべきか。
多分(適当)数分は悩んだ。そして決める。
「受けます。僕が魔法少女になります」
「よろしい」
こうして世界初男性魔法少女が生まれた、と思っていた時期が私にもありました。
魔法少女になり、ニーハイ筋肉ヴァンパイアと戦うこと決意した私はまた建物内の別の部屋に連れて行かれた。メガネをかけたいかにも秘書みたいなお姉さんに住居などの説明を受ける。そして、
「これが『魔法少女ドライバー』よ。あなたの魔力を戦闘用に出力してくれるわ」
「これ完全に変身ベル…」
「黙りなさい」
魔法少女ドライバーなるゴチャッとした機械類がついたベルトを腰に巻きつける。
「これでポーズを取って変身と叫びなさい」
「え、ポーズ?」
「魂のポーズよ。直感で変身ポーズをとりなさい」
─これは幼き頃の記憶
─これは正義の形
─我は力を求める者
子どもの時に見ていた仮○ライダーの変身ポーズをとる。腰の辺りで左手を握り、右手を左側に高く伸ばす。
「変身ッ!!!!」
《Ready》
《The magic change》
《Complete》
魔法少女ドライバーから謎の音声が出て、私は光の粒子に包まれた。光が散ったときには自分が自分でないような不思議な感覚がした。
「こんなんで変身できんのかよ…ん?」
声に違和感を感じる。心なしかいつもより高い。
自分の腕を見る。白い。手首に赤色のフリフリとした飾りがついている。
黒服の人達が姿見を持ってきた。
見る。
全体的に白色、アクセントに赤が入ったフリフリな衣装を身に着けた女の子がそこにいた。
一回転する。鏡の中の女の子もスカートをふわっとさせながら一回転した。
「女の子、ですね」
「ええ、女の子ね」
黒服とお姉さんが顔を合わせて頷いた。
みなさんごきげんよう。
女の子の将来なりたい職業ナンバーワン、魔法少女です。
「えー、変身しないとダメなんですか」
「しないと死ぬわよ」
破壊されたビルの残骸の上に立って街中で暴れるニーハイ筋肉ヴァンパイアの眷属…元人間の化け物達を見る。人の形をしているものの、異様に肥大した筋肉と浅黒い肌。赤い目は濁っていてどこも見ていない。
「生身で戦うとか…?」
「バカなこと言ってないで変身してくれるかしら」
初戦闘ということで説明のお姉さんがついてきた。ポーズをとって、ハイ!
「変身ッ」
《complete》
俺は、魔法少女になる。
そして決め台詞。
「さぁ、お前の罪を数えろ」
敵は三体。まずは一番近くにいる奴に向けて駆ける。
「オーバードライブ」
《overdrive!!》
変身ベルト…もとい魔法少女ドライバーのスイッチを押し込みながらパワーアップコマンドを唱える。
敵に狙いをつけて誘導弾を撃ち込む。
そして跳躍。
飛び蹴りの形をとり、敵を貫くように蹴りを押し込む。
近づいてきた二体目に対しても同じように誘導弾と蹴りを撃ち込み倒す。そして
「データにないな。新しい魔法少女か」
ニーハイを履いた筋肉質なヴァンパイア、ニーハイ筋肉ヴァンパイアが最後の敵だった。
「ニーハイ筋肉ヴァンパイアだな」
「いかにも。ん、もしや貴様……」
言葉を続けようとするニーハイ筋肉ヴァンパイアの顔面にめり込むような膝蹴りをする。
「契約はどうした!?」
「何のことだかなッ」
腹を殴り脛を蹴る。うずくまるニーハイ筋肉ヴァンパイアに誘導弾を撃ち込んだ。
「貴様ッ…!」
「ふーん。案外弱いもんなんだな、ニーハイ筋肉ヴァンパイアって」
必殺のラ○ダーキック。もちろん敵は爆発四散する(例外あり)。爆発するニーハイ筋肉ヴァンパイアを背に変身を解除した。
〜魔法少女部隊本部〜
薄暗い部屋に二人の男が立っている。
「本部長、よろしかったのですか?あのような怪しい男を魔法少女にしても」
「ふむ。早速戦果をあげてきているしな。それにニーハイ筋肉ヴァンパイアと魔法少女が戦った戦場で倒れていたというのだからね、特別な何かがあるのだろう」
いや、それにしても、と男は続ける。
「ロストした魔法少女『アカネ』を捜索中に見つかった男が魔法少女適正持ちとはね」
第2章「追憶の魔法少女」
俺、渡辺智和は深夜にコンビニからの帰り道を歩いていた。静かな、夜。
ふと背後から威圧感を感じて振り向くとそこにはニーハイ筋肉ヴァンパイアが立っていた。奴は悪魔的な笑みを浮かべて俺の胸を素手で貫いた。
それが人間としての俺の最後の記憶。
目が覚める、と表現すると眠りについていたようになってしまうが、俺は生き返った。
ニーハイ筋肉ヴァンパイアの眷属として蘇ったのだ。
「契約によって貴様は眷属となった。他のニーハイ筋肉ヴァンパイアやその眷属からは攻撃を受けないし攻撃もできない」
目の前にはニーハイ筋肉ヴァンパイアがいて、こう続けた。
「貴様は既にニーハイ筋肉ヴァンパイアの所有物だからな」
笑うニーハイ筋肉ヴァンパイアを見て、何もできなかった。ニーハイ筋肉ヴァンパイアの近くでは理性が奪われてしまい正常な思考ができない。
……
…
「我々はこれより市街地への攻撃を開始する」
俺や、俺と同じ眷属達がニーハイ筋肉ヴァンパイアへ死んだ目でついていく。ニーハイ筋肉ヴァンパイアの眷属は目が赤い。そして筋肉が肥大する。
市街地で見たのは破壊と魔法少女だった。魔法少女は圧倒的な強さで眷属の仲間たちを打ち倒していく。
「魔法少女ぉオオォォォお!!!!!!!!!!!オオォォォ俺がァァァお前を倒す!!!!!」
魔法少女に群がる眷属を吹き飛ばしてニーハイ筋肉ヴァンパイアが魔法少女に対峙する。
俺も例外なく吹き飛ばされて崩落したビルの瓦礫に埋まった。
激しい閃光が複数見えてニーハイ筋肉ヴァンパイアの叫び声が聞こえた。それと同時に他のニーハイ筋肉ヴァンパイアが眷属を連れて逃げていく。
あぁ、俺を置いていかないでくれ……。
第3章「とある魔法少女の記憶」
その人は、いや、人ではないのかもしれないが、とにかくニーハイ筋肉ヴァンパイアの眷属らしき人物を瓦礫の中から見つけたのはニーハイ筋肉ヴァンパイアを倒してすぐだった。他のニーハイ筋肉ヴァンパイアや眷属たちが逃げていくなかで逃げ遅れたのか気を失って倒れていた。一瞬、トドメを刺そうかと考えた。しかし直後に起こった出来事からその考えをやめる。
他のニーハイ筋肉ヴァンパイアや眷属が離れていくにつれて、目の前の眷属は段々と筋肉が萎んで男の姿になったのだ。
「もしかしてニーハイ筋肉ヴァンパイアの眷属は人間だったのか?」
今までにそういった事例は確認されていないはず。だからこそ眷属もニーハイ筋肉ヴァンパイアと同じ化け物として殺してきた。
それが人間だったら?私たち魔法少女がやってきたことは人殺しなのか。
「目を覚ましましたか」
「……あ、あ、殺さないでくれ俺は人間だ人間なんだよ」
変身を解除して立ち尽くしていたら目を覚ましたようだった。
「あなたはニーハイ筋肉ヴァンパイアの眷属ですか?」
「眷属だった。置いていかれた。そしたら理性が戻ってきたんだ」
怯えながら答える男にできるだけ優しく質問を続ける。
「ニーハイ筋肉ヴァンパイアの眷属はみんな元は人間なのですか?」
「あ、あぁ」
返答を聞いて、わかってはいたが自分たちは人殺しだという事実を突きつけられたようで目の前が暗くなった。
魔法少女なんて、ダメだ。
何か別の方法じゃないとダメだ。
男のほうを見る。この人なら魔法少女とニーハイ筋肉ヴァンパイアの間に立てるのではないか。魔力の譲渡は無理だ。なら
「ごめん。私ね、魔法少女なの」
魔法少女に変身して男に近づく。魔力ではなく魔法少女ごと、この男に預けよう。
白い光が私と男を包む。
……
…
光が消える頃、そこに居たのは男だけだった。
第4章「ファイナル☆魔法少女」
外では雪が降っていた。俺こと渡辺智和はまた例の偉そうな人物がいる対魔法少女部隊本部の部屋に呼び出されていた。
「魔法少女になって半年。すばらしい戦果だよ。君を魔法少女にしてよかった」
「はぁ、ありがとうございます」
本題なんだが、と偉そうな人物は話した。
「これまでのデータから見るに、君は奴らからの攻撃を受けない」
「気の所為じゃないですかね」
「いや、違うな」
偉そうな人物が続けた。
「君は何らかの特殊体質だ、それも今更だがね」
冷や汗をかきながら目をそらさないように偉そうな人物を見つめ続ける。
「───契約、という言葉知っているだろう」
「……っ」
「まぁ君を最初に検査したときから気づいていたよ。あんなに色濃くニーハイ筋肉ヴァンパイア因子が検出されてはね」
「……なぜ俺を魔法少女にした」
ふっ、と鼻で笑って男は返した。
「君も知っているだろうが我々は常に戦力不足だ。そして、現状対ニーハイ筋肉ヴァンパイア戦は膠着状態にある」
そんな状態でこんなブレイクスルーを見逃すわけがないだろう?と偉そうな人物は答えた。
「さて、その上で問おう『アカネ』君は魔法少女になるのかね?」
アカネ、それは俺に魔法少女の力を渡して契約を改変した魔法少女の名前だ。
「俺は────」
(続き)ないです。
部活のクリスマス会用に書いた小説ですがプロット段階で挫折したのでお蔵入りしていたのを適当に続きを書いて供養しました。