プロローグ1
初投稿です。よろしくお願いします。
時は23世紀。人類の進歩は著しく、人類は人体を解明し電脳の世界へと至った。
多くの人々は人造人間を一家に一台所有し、人類が担っていた仕事を代替えさせている。
収入は人造人間の仕事に頼り、自分たちは娯楽・芸術などの文化的な活動を盛んに行い、国々は戦争で覇を競うのではなく、名誉を求めてスポーツやクリエイティブに金をかけた。
人々は、この豊かで穏やか生活の延長を望み、地球環境の保全に対して巨額の税金を投入するのと同時に、個人への社会保障を厚くすることによって人口の増加よりも、個人個人の栄達と安寧を優先させる。
人類は、遂に恒久的な平和を手に入れたのだった。
さて、そのような世界でも変わった人間とはいるもので、とあるプログラマーがとんでもない試みを行った。
「学生時代に創った3体のAIを適当保管していたんだけど、なんかゲームを作りたいとか言い出したので好きにさせてました。結果、そのゲームが出来上がったそうなので、親の遺産を全額投入してサーバーを作りました。電気代が大変っぽいので、その電気代が賄えるぐらいの料金で遊べます。是非『センターワールド』に遊びにきてください」
ちなみに、この時代においてAIとは製作者が厳密に管理し、人類に対して不利益をもたらさないようにインプットすることが義務付けられている。思いっきり法律に違反してるっぽいが、不利益どころか新しい試みに繋がっているとして不問とされた。
しかし、ゲームの概要に対する質問への返答がとてもフワフワしていた。
「ファンタジーらしいです」
「核時代の前?世界大戦とかやってた頃の小説の世界観とか参考にしてるみたい」
「自分の分身であるキャラクターとしてその世界で活動するとのこと」
「フィールドは地球と同じぐらいの大きさなんだって」
製作者と思われる男からは、確定的な情報がなく人々は懐疑的な目を向ける。
すると。
「AI達が勝手に作ったので、詳細はほぼ不明です。質問の返事も、質問をAI達に聞いて返事をしています。彼女達的には、開けてびっくりして欲しいので詳細はあんまり言いたくないそうです」
という返事が返ってきた。聞いた人達がビックリである。
AIの手綱を全く握れていない。
色々と話題を呼んだ『センターワールド』。そのオープン初日。
世界中の「よくわからないゲーム」を遊ぶ変わり者達がそのゲームにアクセスしたのだった。
★
「いやはや何とも。さすが事前情報からしてフワフワなゲーム。まさか種族までランダムとはこの俺も見切れなかった」
そう独り言ちるのは、緑色の肌をした少年ぐらいの背丈をした男だ。
バンダナを頭に巻き、腰蓑を身に着けた半裸の状態で顎に手を当ててうんうんと頷いている。
自分の認識では、このようなゲームのように自分の意識をゲーム内のキャラクターに入れて遊ぶタイプのゲームでは自分で種族を選んで遊ぶのがセオリーだ。
しかし、この常識外れのAI達が作ったらしいゲームはそんなセオリーを投げ捨てている。
これには思わず関心してしまった。
森の中の開けた場所で、切り株に座り、”考える人のポーズ”をしながら、あまりにも未知すぎるゲームに関してさらに考察を進めていると、ガサガサと近くの草むらや低木を掻き分けて来る音がした。
姿を現したのは、自分と同じぐらいの背丈で、サラサラの髪の毛の間からぴょこりとウサギっぽい耳の飛び出した獣顔の少年である。頭の上には、プレイヤーの名前が表示されていた。
そこには、”幸之進”と表示されている。
「お、首尾よく合流できましたな。種族がランダムで決まったから、スタート地点すらもランダムで、探すのも一苦労かと思ったが杞憂で助かったな」
「おはよう幸之進。というより本名かよお前」
「個人情報入れるところかなって思ったら、キャラクターの名前入力するところだったのだよ。でも、君の『テンプラ・エクスプロード』よりはマシだと思う」
「日本人っぽさと、激しさが表現できていて良い名前じゃないか!うっかり属性持ちのお前に揶揄されたくはないね!」
「デフォルメされた、ゴブリンに凄まれても全然怖くないな」
「理知的にジト目で喋る獣人の不気味さったらないな」
「獣人ではなく、グラスランナーという種族らしいぞ?」
「ふーん。草むらぐらいしか身長がないからかな?」
「ランナーというぐらいだからな。足も速そうだろう?小学校なら人気者だ」
「なるほど。違いない」
そう言いあって、二人はひとしきり笑った。
その後は、このゲームの考察に移る。
「しかし、何も分からんな。リアルの肉体よりも大分ハイスペックなのは理解できるんだが」
「マジか。俺、背が低いだけで不便そうな感じしかしないんだが」
「凄く遠くまでよく見えるぞ?目を凝らしてみると良く分かる」
「今目を凝らしてるのか?」
「そうだな」
「全然わかんねーよ。クリクリの黒目でボーっとしてるようにしか見えん」
「いやいや。ジト目ではなくなっていると思うぞ。クワッとしてるからな。クワッとな」
「言われてみればそうだな!はっはっは!」
コミカルな動きをしながらそういう幸之進をみて、テンプラは笑った。
笑いながら、自分も目を凝らしてみるがリアルでの視力と同じぐらいにしか感じられない。
ただ、森の中の暗い場所が見やすい程度だ。
試しにジャンプをしてみると、身長の三倍程跳躍できた。唐突だったので、幸之進は少し驚いてテンプラを見ている。
「驚いたぞ。唐突にジャンプするのだからな。しかも高さがなかなかすごい。軽々と私を飛び越えられそうだな」
「おう。なんの覚悟もなしだったからちょっとお股がヒューってなったわ」
「だろうな。ちょっと焦った顔してるもの」
「そういうお前は表情あんまり変わらんな」
「いやいや。これでもクワッとして驚いてるんだぞ。クワッとな」
「その動きやめろ。ツボだわ」
幸之進は、気に入ったのかコミカルな動きをする。テンプラはそれを見て思わず笑ってしまう。
グラスランナーは白目の部分がなく、獣顔であるため表情の変化が非常にわかりにくいようだった。
外からみたら、瞼が下りてジト目になっているか、そうでないか程度しか分からない。
「今全力で眉間にシワを寄せてみている」
「なんか体毛がモソっと動いたな」
「体毛言うな……なんか念じるとステータスみたいなのが見えるな」
「マジか。やってみる」
ステータスを見たい!と念じてみると、空中にステータスの一覧が表示された。
HP:3
MP:6
筋力:3
体力:2
精神力:4
思考力:4
器用さ:6
素早さ:2
第一印象として数字が小さいように感じられた。
それを幸之進へと伝えると、彼もテンプラへと数値を伝える。
「なんというか数値が小さいな。私の方が君より素早いが器用さに欠け、身体能力では多少上回っているようだね」
「そんな感じだな。リアルだと俺のほうが運動できるからなんか悔しいな」
「そう言わないでくれテンプラ。それに、リアルでの体の動かし方の分かっている君のほうが、このゲーム内での肉体の操縦も上手だろう。数値はあくまでも参考に過ぎないのだろうさ」
「そんなモンかね?他に何かないかな?こういうゲームだとスキルあるのが定番なんだけども」
「その定番を、どこかにうっちゃっているのがこのゲームだとおもぶべっ!!」
ボンッという爆発音と共に、幸之進からうめき声が飛び出す。
テンプラは慌てて彼を見ると、既に顔を煤けさせて、倒れている最中だった。
そして、テンプラの背後からガサガサと低木や草を掻き分けながら、何者かが現れた。
「命中!思った通りだ!このゲームはPKの制限がかかってねえ!おまけにちっこい二人組!幸先がいいね」
物騒な事を言いながら、テンプラの前に踊り出たのは、悪い笑みを浮かべた男。
長い耳に、整った顔立ち。銀色の長髪に灰色の布の服。
おそらく種族はエルフ。多くのファンタジーにおいて、魔法に長けており狩猟で生活するとされている種族だ。先ほどの爆発音はなんらかの魔法で、それを幸之進へと放ちここに姿を現したのだ。
エルフの舐め切った視線にテンプラは苛立つ。
しかし、どんな攻撃だったのか見ていないテンプラは迂闊に動けない。
「あらら?逃げねーの?まあいいや。リアルじゃこんなことできねーからよ。暴れさせてもらうぜ?」
彼が一歩踏み込むのと、テンプラの体が浮くのはほぼ同時だった。
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