錯覚
朝ごはんを食べている途中に感じたおにぎりの味。これは一体なんなのか
私は夢を見る。夢と言っても夜に寝ている間に見るものじゃない。起きている時に見るの。
なんて言えばいいのかな。ご飯を食べてるときに違うことをしているような気持ちになる?別のものを見ている?まるで夢の中に居るような気分。今朝もそうだった。
ピピピピピピピピ・・・・・・・
目覚ましの音で目を覚ます。起きた。起きたばかりのはずなのに、一瞬電車からの景色が見えた。
「最近なんなんだろう。今の景色、私の知っている景色じゃない。鉄橋を電車で渡っている感じだったけど……」
「楓~、遅刻するわよ~」
「はーい!っと。今日は朝一番の英語の授業で小テストがあるんだっけ。早めに学校に行って杏子にノート見せて貰わなくちゃ」
今朝の朝ご飯は食パンにベーコンとチーズを載せてトースターで焼いた……ピザもどき?なんていうんだろ。とにかくまぁ、カロリーが高そうなのは分かるやつ。朝はいいんだもん。このあと動く、はずだし。
「いただきま……」
「楓?いただきま?何か入ってた?」
「ううん、なんでもない。大丈夫。いただきます」
まただ。食べようとした瞬間、コンビニのオニギリに見えた。一瞬だけど、味も口の中に広がった。
「焼き鮭かなぁ」
「違うわよ。今日のお弁当はシュウマイ」
「え?あ、シュウマイね。シュウマイ。明日は焼き鮭?」
「別に良いけど。どうしたのさっきから」
「なんでもない。気にしないで」
2階の自室に戻って制服に着替える。しかし、最近のこれはなんなんだろう?起きてるのに夢を見ているような……それにしては現実に近いような……。
「おっと。急いで学校に行かなきゃ」
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「あ!杏子おはよー!いいところで会いましたねぇ。これは運命ですねぇ」
「あんたねぇ。ノートはちゃんと取りなさいよ。それに見せて貰うにしても前日にコピーなりして勉強しなさいよ」
「なんでー?見る!覚える!書く!優勝!いったいどこに勉強の要素があるのよ。ああいうのは記憶テストでしょ?」
「はぁ、そんなので私よりも成績が良かったりするから納得いかないわ。私がノート取ってなかったらどうするつもりなのよ」
「ん?そのときは一緒に撃沈だよ?」
楓はいつもこう。わざとじゃないんだろうけど、私にプレッシャーをかけてくる。たぶん、私がノートを取らなければ本当にテストに失敗するのだろう。そして私の責任にはしないのだろう。だからこそ私は責任を感じてしまうと思う。
「はい。このノートのこの辺が出題範囲。ちゃんと教科書も見なよ?」
「分かってる分かってる。教科書……を貸して!お願い!」
忘れてきた。今朝も変なことがあったから英語の教科書を忘れてきた。杏子にはいつもおんぶに抱っこで悪いなぁと思いつつそれに甘えてしまう自分が少し嫌い。杏子もきっとそう思っている。だから直さなきゃ。って、思ってるんだけど……。うう……。
「よーし、時間だー。筆記用具を置いて後ろから集めてー」
私は後ろに座る楓から答案用紙を受け取る。いつものキラキラした顔をしていない。
「どうしたの?楓。もしかして私のノート、ダメだった?」
「ううん。そうじゃないの。課長が……」
「課長?」
「あ、いや、その……気が……散っちゃってさ。折角ノートも教科書も見せて貰ったのにゴメン」
「まだ結果も帰ってきてないし別に良いけど……。なんか楓がダメってことは私もダメだったってことかな。だったらごめんね」
「いいのいいの!見せて貰ってるのはこっちなんだから!気にしないで」
楓とはよくこんな謝罪合戦をする。でも、楓が、楓の考えていることが分かるから私は怒ることはしない。だって、分かってるのに怒るヒトっているけど、分かってるなら先に言えばいいじゃないって思うでしょ?私はそうなりたくない。
「で?楓、さっきの課長ってなんだったの?」
「課長?ああ、テスト……のっ!?ゲホゲホっ!」
楓はシュウマイを美味しそうに食べながら返答してきた。と思ったら激しくむせかえっている。シュウマイを飲み込んでしまったようだ。
「大丈夫?そんなに急いで食べなくても」
「はぁはぁ……うん、だいじょばないけど大丈夫になった」
ラーメンだった。私の目の前にはラーメンがあった。美味しそうなラーメン。魚介系のつけ麺だ。それでついシュウマイをラーメンみたいに吸い込んでしまった。死ぬかと思ったよ。食事中に謎の変死!?夢に殺される女子高生!みたいなタイトルと思い浮かべてしまったけども、誰にどう説明出来るものでもなくすぐに意識の外に消えていった。
「杏子、今日は部活?」
「そう。OGの鬼コーチが来るから憂鬱なんだけどね。それじゃ」
「鬼コーチかぁ」
私の方は今日バイト。ファミレスで。杏子からはなんであんな大豪邸に住んでてバイトなんかしてるのかって聞かれるけど、自分でお金を稼がないと気持ちよく使えないじゃない、といつも答えている。
「今日も来るのかなぁ」
「誰が?」
「うわっ!びっくりさせないでよ、もう」
「わりわり。自転車停めてしばらく動かなかったから近寄ったらいきなり『今日も来るのか?』って気になるじゃん」
「ああ、ええっと。これは誰が来るとかそういうんじゃなくてね?その……あーもう!説明しにくい!」
「なんか、ごめん?聞いちゃいけなかった系?」
「別にそういうんじゃないんだけど、説明しにくくて。誰かを待ってるとかそういうのじゃなくて……っと、時間、時間!遅刻する!」
バイト先の大学生、良太。さっきの男の子。私よりもバイト歴が長くて色々と教えて貰っている。
「ありがとうございました~」
「楓、そろそろ時間じゃないか。で、今日のヒトは来たの?」
「ん?ああ、今日のヒト。今日のヒトね。来なかった。むしろそっちの方が歓迎。来なくていい」
「もしかしてストーカーとか?」
「あー、ストーカー。なるほどストーカー。姿の見えないストーカー……」
「楓?大丈夫?ヤバいやつがいるなら警察に相談した方がいいぞ?」
バイトも終わってバックヤードに戻って良太とそんな会話をしながら烏龍茶を飲んだときにやつはやってきた。
「にっが!」
「烏龍茶?」
「烏龍茶?んん……あれ?黄色くないし泡もない」
「そりゃ烏龍茶だからな。ビールじゃあるまいし」
日に日にリアルになっている気がする。最初は何となくだったのに。今じゃ味とか空気とかも感じるようになってきた。さっきのはビール?なんか気持ち悪いし顔も熱い。熱でもあってその影響?
次回、相談