育成系ゲームの幕あい対応
『今まで、本当にありがとう』
「……第1部終了のお知らせページ用の原稿、上がってきましたよ」
A4の用紙を2枚手にして、背中合わせに組まれた机の島を横目に見ながら、通路を進んでくる女性が1人。その紙を渡された男性は、まじまじと文面を見つめた。
『今まで、本当にありがとう。
第1部「どんな夢も、見てるだけでは叶わない」編、完結のお知らせです。
第2部までの幕あい期間は、オートプレイモードも選択可能な鍛錬フェイズ。
マニュアルプレイのみだった『魔法修行』が、放っておいても繰り返されます。』
紙と真正面から対峙した男性は、目だけ左右に動かして印刷された文字をなぞり、言った。
「うん。文字数もキッチリだし。このまま載せられるな。……て、2枚目は……なんだ? これ」
「追記ですって。全部のフラグを立てて、隠しも含めた全パラメーターがMAXになるまで育てたユーザー限定で表示させる」
「いるのか」
「ええ」
『形に残るもの。残らないもの。買えるもの。買えないもの。眼に映るもの。目には見えないもの。たくさん、たくさん、もらいました。写真にも日記にもならなくても、全部、命に注がれた。だから、がんばれるし、がんばります。あなたに、また会える日まで。』
「『ありがとう』」
「……開発に回しておきますね。あと、提案ですって」
「なんだ?」
「デイリーレポートが走っている自動課金サーバーを止められないか、と言ってました」
「メインストーリーを配信しないのに、レポートまで止めるのか? それはさすがに……」
「代わりに、一番容量の小さいサーバーの、ウィークリーレポートの配信を正式運用にのせたらどうかって。……第2部の準備を加速させたいみたいですね。レポートは毎回平均で2時間くらいかかってるそうですから」
「まあ聞いてみる。他には?」
「カンヅメするけど、どんな些細なことでも、特別な意味がなくても、気が向いたら声をかけてほしいって」
女性が言いながら、2枚の紙を重ねて机の上でトン、トン、と平らにならす。その両手は、淡々とした声には似ず、とても大切なものを扱う手付きだった。思い出すのは、先の提案をしてきた人物の言葉。
「『良かったこと』のうちの、ほんのちょっとの一欠片だけでも、役に立てたら。そうしたら、きっと、すごくうれしいから。『今まで』も、もちろんだけど、『これから』も、もっと。それでね、役に立つのも立たないのも合わせて、『当たり前』に、なれたらいいなぁ」
女性は男性にお辞儀した後、開発部門が集まっている島へ向けて歩き出した。