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とらわれ~!!

 どうしようか。この扉の先が凄く気になる。さっきの音は一体何なのか。


 「よし・・・」


 俺はその扉の中に入ることにした。音がするのなら確かめた方がいいだろう。一応武器も持っているし。無理なら・・・その時はその時だ。

 まずは扉にかけてある木材をどかす。そして鎖でグルグルにされてあるドアノブ。これも外す。そうしてやっと中に入れる。中には俺が想像していた財宝とかがある訳じゃなかった。


 「何だよこれ・・・」


 俺が見たのは鎖につながれた少女の姿だった。それは両手首に繋がれており、ある程度は自由にできるけど扉までは確実にたどり着けない、そんな長さの手錠を付けれれていた。


 「・・・あなただれ」


 そうしてその少女と目が合う。その少女は白い髪に赤色の瞳だ。ちなみに髪はぼさぼさで目は虚ろだった。そして首には金属の輪が付けられている。


 「・・・ひっ!?」


 少女は何かに驚いたように部屋の隅に飛び移った。何事かと思ったら帽子を深くかぶってうずくまる。


 「ごめんなさいごめんなさい。顔を見られた・・・ごめんなさい・・・」


 その帽子を被った少女を見て思い出す。馬車の時に一緒にいた少女だ。こんなところで何しているんだろう。いや、考えるまでもないか。多分隔離されているんだろう。

 俺はその少女に歩いて行って触れようとした。


 ———ビクッ!


 一瞬ヤバイと思った。攻撃されるのではと。しかし彼女はうずくまっただけでむしろ大人しくなった。意味が分からない。俺にびくびくしているかと思えば大人しくなるし。草原で出会った時とは別人に思えた。

 俺はこのまま居ては彼女に悪い。そう判断して出ていこうとする。


 「・・・今日は教育しないの?」


 ポツリと。神経をとがらせていないと聞こえてこないであろう小さな声で呟く。

 俺は一瞬立ち止まった。しかし俺には何もできない。彼女をここから連れ出してやろうかとも考えたがこんなに厳重に隔離しているのだ。連れ出してはすぐにばれてしまうだろう。そうなったら俺も彼女も危ない。

 俺はそのまま無言でこの部屋を出ていく。そして入ってきた時みたいに鎖をし、木材を立てかけた。そして俺は考える。あんなに強い魔法を使う彼女が何故隔離さえれているのかを。


 「はぁ・・・」


 俺は少女を監禁する趣味を持った領主に世話になろうとしていたのか。その事実を知らなかったとしてもお世話になろうとしていた自分に少し吐き気がする。


 「戻れるかな・・・」


 迷子になってこの道に来たのだ。きちんと帰れるのだろうか。



――――――――――――――――――――――




 あ。ここ見たことのある廊下だな。やっぱり。やっと戻れる・・・。長い廊下を歩き続けて窓を見ると空はオレンジ色に染まってあった。結構長い間散歩してたんだな。俺はそんなことを思いながら足を進める。


 「———勇者が我が領主の物になったのだ。彼女はもう必要あるまい」


 ん?確かこの声は・・・。あぁ、我らが領主のグラード様ではありませんか。何やら誰かと話をしているようだ。勇者って声がしたから俺の話題かな?

 少し耳を傾けることにした。


 「そうですが処刑するのですか?」


 この声は・・・朝お世話になった騎士か。たしかガルドって名前だったよな?


 「当り前だ。我が領の戦力は小さい。だから仕方がなくあの忌々しい魔女を使っておったのだ。だが今は違う。我々は勇者を手に入れたのだ。奴などもう必要ない。むしろこの領地を汚す存在なのだ。これ以上は利用できん。」

 「でも色々洗脳して安全なようにされていたではありませんか。それにあの少女が放つ魔法は強大です。勇者を見つけたのも彼女です。それを手放すのですか」

 「・・・何度も言わせるな。私に逆らうというのか」

 「・・・申し訳ございません」

 「もうよい下がれ。明日の夜までには始末しておけ。奴は魔法を使うことができぬから容易いであろう。」

 「分かりました・・・。失礼します」


 おっと、会話は終わりか。ならさっさと逃げないとな。こっからなら貰った部屋までの道が分かるのですぐに戻ることにする。

 さて。さっきの会話を察するに魔女とは監禁されていたあの少女の事だろう。このままでは処分・・・。殺されるらしい。

 ・・・いや。俺には関係ないか。変に首を出して巻き込まれたくはない。それに今日見て回って分かった。兵が沢山いるのだ。それに俺は一般人に毛が生えた程度。何かできる訳じゃない。


 ———コンコンコンッ


 「どうぞ」

 「夕食をお持ちしました」


 夕食か。今は食べたい気分じゃない。


 「ごめん。いらないや」

 「———かしこまりました。なら後で夜食をご用意させていただきます」

 「いや・・・。それもいらないかな」

 「・・・分かりました。過ぎた真似をしてしまい申し訳ありません」

 「あ、いやいや。そう言う訳じゃなくて。ごめん、グラード様のところに案内してもらってもいい?」

 「・・・?・・・こちらへ」


 俺の表情を見て少し戸惑ったメイドさんはグラードのところまで案内してくれる。


 「おぉ!これはこれは勇者様!こんな夜中にどうしたのかな?」


 そう言って歓迎してくれた領主は夕食の最中だったようだ。少し邪魔をしたかな。


 「すいません。俺、この屋敷を出来ていきます。・・・後これ、お返しします」


 俺は腰に付けていた剣を外して床に置いた。


 「では」


 そのまま俺は出口に向かって歩いて行った。


 「ま、待ってくれ!何で急に出ていくのだ!?何か不備でもあったのか!?か、金か!?女か!?言い分は出来る限り通す!だ、だから——」

 「—―俺はあなたの為の戦力になるつもりはない。俺は道具でもない。俺は勇者だ。だけど強くはない。せいぜい一般人にまさるくらいだ」


 言ってやった。今までこの領主は俺の能力値を知らなかった。だからこんなに良くしてくれた。それは騙しているみたいで悪い。それとさっき聞いた話だと戦力がとか言っていた。俺は強くない。なので恥をかくのは領主だ。それは可愛そうだ。それに・・・。いや、いいか。


 「なっ!?ゆ、勇者が弱いだと・・・」

 「・・・すいません。」


 俺はさっさとこの屋敷を出た。外はもう真っ暗だった。酒場とか、夜の店が明かりを放っている。そういえばお酒とか飲んだことないな。飲んでみようかな。あっと。お金がないんだった。


 「ははは・・・」


 変な笑いが出る。「———俺はあなたの為の戦力になるつもりはない。俺は道具でもない。俺は勇者だ」ついさっきあの領主にぶつけた言葉だ。何でこんなこと言ったんだろうな。勇者・・・か。

 勇者って一体何だろうな。力のない者が何で勇者をやってるんだろうか。・・・笑えてくる。


 「・・・はぁ」


 ギルとエアはどうしてるんだろ。今の時間帯また魚でも捕まえてんのかな。肌寒い夜に裸で川に入ってさ。あいつらと馬鹿なことをして笑っていたいな。そんなことを考える。少し病んでるな俺。

 とりあえず昨日一夜過ごした橋の下に行くか。そう決意した俺は力ない足取りで彼らに会いに行った。


 「お!ジュンじゃねーかよ!」

 「おや。本当だ。お帰りなさいジュン」


 彼らは元気に俺を出迎えてくれた。涙が出そうになった。何故だろうか。無性に安心感が湧いてくる。笑顔で帰る場所があるって言えば何か違う気をもするが。とにかく暖かい。


 「お?どうしたジュン?」

 「何やら表情がおかしいですよ」


 そんなに顔に出てるだろうか。


 「いや、何でもないよ。ただいま」


 俺は悟られないように笑顔で、元気よく言った。


 「うわっ!気持ちわる!なんだよその顔!」

 「ちょっと・・・。それは良くないですよ・・・。うぷぅ」

 「よし分かったお前ら。喧嘩なら買ってやろうじゃねーよ」


 少し元気になった。やっぱり彼らといると落ち着く。しかしその時、あの監禁部屋にいた少女の顔を思い出す。


 「うぷぅ・・!!ぐっ・・・おえっ」

 「お、おい。大丈夫かよ!」

 「ジュンさん!?もしかして屋敷で何かありました!?」


 吐きそうになる俺を彼らは心配してくれる。


 「いや、何もない。大丈夫だ。さっきの自分の笑顔を思い出したら吐きそうになったんだ」

 

 軽いジョークで誤魔化そうとした。・・・そして彼らの表情を見る。


 「ジュン。そういうのはいらん。お前。あの屋敷で何があったんだ」

 「ジュンさん。何かありましたよね。僕らに話してくれませんか」


 彼らは・・・怒っていた。その時気づいた。俺は彼らの親切心を踏みにじってしまったのだ。物凄い罪悪感に苛まれた。目も合わせられなかった。過去にこれだけ俺を心配してくれる友人は居ただろうか。恐らく彼らが始めてた。・・・申し訳ないことをした。

 俺はあの屋敷の事を言おうか迷った。これを言ってしまったら彼らの事だ。多分あの少女を助けにいくだろう。そうなったら?失敗したら?・・・考えたくもない。


 「ごめん・・・。言えないんだ・・・!これは俺の問題なんだ」

 「・・・そうか。なら何も言わない。」

 「えぇ。むしろ追い詰めてしまったようですね。すいません」


 分かっている。答えは出ているんだ。あの少女を助けないといけないって。でも怖いのだ。あの朝であった屈強な騎士。それに沢山配置されていた兵。彼女を助けに行くのを失敗したら?見つかったら?・・・そう。結局は自分が大切なのだ。死にたくない。痛いのは嫌い。でも、脳がささやいているのだ。彼女は絶対助けないといけないと。守らないといけないと。

 ・・・いや。そうじゃない。あの表情は・・・。

 あぁ。女神様何故俺を勇者になんかしたのですか。俺なんかよりもっといい人が。勇者にふさわしい人が居たのではありませんか?


 「ジュン・・・」


 ギルは俺の肩にポンッと手を置いた。


 「凄く追い込まれてるようだから言わせてくれ。自分の信念が正しかったら物事は成功するんだぜ。」


 一体何を言っているのか俺には理解ができなかった。


 「そうだとしたら誰でもとっくに成功している・・・!」


 俺はギルに噛みついていた。いや、今の心境で噛みつかずにはいられなかったのだ。


 「う~ん・・・。その成功するって言うのは結果論の話で・・・。なんていうのかなぁ迷っているのなら悔いの残らないようにするっていうか・・・。まあそんなことだ」


 俺は彼が何を言っているのか理解できなかった。


 「要するに悔いの残らない選択、正しい信念を持ち続けたら幸せになれる・・・即ち成功するって意味ですよね?」

 「おぉ!そういうこった!流石エア!頭がいいなぁ!」


 ・・・俺が今悔いの残らない選択とは何だ?いや、そんなもの考えなくても分かっている。ただ怖いから逃げていた。逃げたら何が残る?考えろ。・・・何も残らない。では戦ったら?立ち向かったら?・・・なるほど。ギルが言っていたことが少しわかったような気がした。


 「お!少し良くなったようだな」


 ギルが俺の表情を見てそんなことを言う。


 「ありがとう。決意したよ。少し遊びに行ってくるね」

 「おう!元気に帰って来いよ!」


 あの少女を助けに行こう。



 

 夜が更け、深夜の今。またギルドカードの能力値が変わる。




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